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交通事故被害者の支援 第2章 交通事故被害の実態

V.実態把握における課題

 本章では、各種統計および実態調査の結果をもとに、交通事故被害の状況をみてきた。もとより、被害の状況や被害者の実態を、統計や調査によって把握することには問題点や限界がある。

(1) 各種統計による把握
 既存の統計を用いることで、被害の状況などの推移を知ることができる。しかし、統計には暗数の問題が生じる。これは、実際に発生している被害と各種機関が把握している被害との差である。暗数率は性犯罪の場合に、特に高く、通報されるのは被害の1割以下との報告もある。
 暗数の原因には、犯行の隠匿、被害の認識がない、被害者がいない、被害が軽微、被害が公になることを嫌う、当事者間で解決する、仕返しを恐れる、手続きの煩わしさ、などがあるとされる。


(2) 調査票調査による把握
 調査票を用いて被害者の実態やニーズを正確に把握することは、いわゆる世論調査など他の調査に比べ容易ではない。
 まず、調査対象である被害者を選び出すことが難しい。通常の調査にならえば、何らかの名簿から無作為抽出によって調査対象者を選び、被害の有無を質問して「あり」と回答した人を中心に分析することになるが、一般住民を対象とした場合、統計的な分析が可能な数の被害経験者を得ることは難しく、大規模な調査が必要となる。
 そこで、被害経験者を対象とした調査を実施することが考えられる。しかし、そのためには被害者の住所、氏名などの情報が必要となる。刑事司法機関やメディアなど被害者の情報を所持しているところもあるが、通常その利用は難しい。被害者全体についての第一次情報を把握しているのは警察ということになろう9)
 被害者を対象に調査が実施されたとしても、課題は残る。調査に協力してくれる被害者が限られる、事件後に転居している場合があり所在が分からない、思い出したくないことや回答しにくいことを質問することになる、などである。
 調査を依頼されただけで思い出したくないことを再び思い出してしまうという二次的な被害を引き起こしてしまう恐れもある。

9) 調査の分析方法までも含めた課題や限界については、荒木伸怡「被害者ニーズの把握と政策提言」現代のエスプリ336(1995)42〜47頁参照。

(3) 面接調査による把握
 本章では紹介していないが、これまで交通事故被害者に対する面接調査も行われている。被害者の実態やニーズを詳細に把握するには適しているが、調査者と被調査者の間の信頼関係構築が必要であること、面接者の技量に左右されること、調査結果が個別の状況であり一般化しにくいこと、などの問題がある。


(4) 被害者調査を通じて
 わが国における交通被害者の実態を知るために、統計数値や実態調査の結果をもとに、その状況や特徴をみてきた。
 犯罪の被害という社会事象は、何らかの方法で記述したり分析したりすることによって、そのすべてが分かるわけではない。調査の結果も、さまざまな要因が複雑にからみあう問題に対しては、すぐには解を与えてくれない。また、数字で把握することには無機質な印象がぬぐえない。
 今回、紹介した統計数値や調査結果もそうした限界を持ったものである。しかし、調査によって知りたいことのある程度のことが分かり、その結果、課題や対策も見つけられることがある。

 被害者については、これまでその状況や意識が伝えられることは少なかった。しかし、調査によって被害者の置かれている状況や求めがある程度明らかにされ、これを手がかりにして、どのような支援が必要か、あるいはどのような対応が望ましいかということが考えられつつある。
 被害者を支援する取り組みは、今後も進展するであろう。支援が被害者の意識や感情にどのように影響するのか、そして被害者の置かれている状況はどのように変わっていくのか、今後も調査の持つ重要性は高いといえる。


イラスト


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