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交通事故被害者の支援 第4章 交通事故被害者の直面する精神的課題への治療・対応

II.被害者の回復とは

 回復ということを考えた場合に、被害者自身も周囲も被害以前の状態に戻ることを期待するかもしれない。しかし、このような大きな出来事を体験して全くもとの状態に戻るということは困難であろう。遺族の中には、回復してしまったら故人を忘れてしまうのではないかという心配さえする人もいる。
 いかなる治療法を用いても事故を忘れるとか、事故についての辛い感情が全くなくなるということは不可能である。回復した状態というのは、そのような事故の記憶や辛い感情は残っていても、通常の日常生活や社会生活を送ることができ、人生に喜びや希望を持っているということであろう。
 ハーマン(1997)は、回復について以下のように述べている。
 「順調な回復という場合には、次にどんな危険がくるか分からない場合から信頼してよい安全感へと、解離された外傷から認知された記憶へと、そしてスティグマ(汚名)を帯びて孤立している状態から社会的結合が取り戻された状態へという方向に向かっての段階的な移行が認められている」(ジュディス・L・ハーマン著、中井久夫訳「心的外傷と回復<増補版>」、p242、1997)
 つまり、被害者の回復は一直線ではなく段階的なものであり、最終的には社会とのつながりを感じられるような状態になっていることであるということを示している。ハーマンは、回復の段階をそれぞれの主要な課題ごとに、次のように分けた。
 第1段階「安全の確保」
 第2段階「想起と服喪・追悼」
 第3段階「通常生活との再結合」
 このハーマンのモデルを参考にして考えると、支援もまた被害者の段階に応じて行うことが必要だといえる。

(1) 第1段階「安全の確保」
 第1段階の「安全の確保」では、被害者が加害者から安全であるということはもちろんであるが、それ以外の生命の危機やひどく不安定な状況がないということも重要である。身体的な受傷に対する治療や自傷行為、自殺未遂、パニック発作など日常生活をおびやかすような精神症状に対する精神科治療、当面の安心できる環境での生活の確保などが必要である。
 特に、1人暮らしで、家で1人でいることがよくないような場合には、家族に連絡するなどの措置も必要である。この時点では、トラウマの減少を目的とした専門的心理的ケアより、カウンセリングマインドを基本にしたより一般的な対応のほうが優先される。安全の確保がきちんと行われていない段階で、トラウマを対象とした専門的な心理療法を行うことはむしろ有害といってよい。


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(2) 第2段階「想起と服喪・追悼」
 第2段階は、トラウマに焦点を当てた治療や介入が必要となる段階である。時間がたつにつれて、混乱した状態から徐々に被害者が落ち着きを取り戻し、日常生活を営むことができるようになる。もちろん、特別な支援の必要もなく、自然に以前のような生活に入っていく被害者もいるが、なかにはPTSDをはじめとするトラウマの後遺症に悩む被害者も出てくる。
 事故の記憶が日中よみがえって怖くなったり、悪夢を見たり、怖くて車に乗れないなどの症状に悩まされる。このような症状はトラウマに特有のものであり、事故の体験に向き合って、記憶やさまざまな否定的な考え方を現実的な形に処理していくことで軽減されていく。
 友人や支援者に事故の体験を話して受け止めてもらうという形で対応できる場合もあるが、日常生活に支障があったり、苦痛が大きい場合には、精神科治療や心理カウンセリングが望ましい。このような過程を経て、精神的なコントロールを取り戻したり機能しなくなっていた日常生活を回復することで、自分の自信を取り戻すことができる。

(3) 第3段階「通常生活との再結合」
 第3段階は、他者や社会とのつながりを回復することである。被害者は事故にあうことで、孤立した感情や社会から切り離されたような感覚を体験している。被害者の感情は被害にあった人でなければ、なかなか分かるものではない。被害者は周りにはどうしても理解してもらえないという、孤独感や孤立感を感じざるを経ない。
 特に、周囲が実際に被害者に配慮がなかったり、二次被害を与えるようであれば不信が強くなる。自分の周囲が危険だという感じや社会制度が被害者に冷たいと感じることから、世界や社会に対する不信感を感じる。
 このような状態のままでは、社会の一員であり社会とつながっている感覚を持つことはできない。自分の生活や自信をある程度取り戻すことによって、被害者はようやく周囲とのつながりを求めるようになる。
 自助グループなどを通して、同じような被害にあった人々と話すことで、お互いの気持ちを理解しあえる人間関係を得ることができる。さらに支援者や友人、家族など自分を理解しようとし、必要な支援を提供し、以前と変わらず接してくれる人などがいると安心できる人間関係の存在を感じることができる。このような少数の信頼できる他者の存在を通して、再び他人や社会とのつながりが回復されていく。
 この段階では、しばしば被害者は自分の事故の体験を他の被害者に役立てたり、支援したり、事故を予防するような活動に参加することがある。回復の最終段階において、被害者は自分の生きる意味を取り戻すようになるが、事故体験そのものを社会に還元することは意味を取り戻すために大きな力となるであろう。


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