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交通事故被害者の支援 第4章 交通事故被害者の直面する精神的課題への治療・対応

VI.精神保健福祉関係者への期待と役割

 誰もが自分の夢や希望を持ち、その実現に向けて挑戦する権利、その人らしい生活を営む権利=生活権を持っている。その生活権の基盤となり実現を支えるのが、地域における精神保健福祉活動であると言える。
 前に説明したとおり、どの社会資源でも単一機関だけでニーズに対応し役割を完結することはほとんどの場合不可能であり、常に関係機関との連携を図ることが必要とされている。人の生活は環境との相互作用から成り立っており、その環境は常に変化していることから、サービスの利用者と多彩な社会資源との間を有機的に橋渡しする支援者の存在が大変重要である。
 第3章に詳しく述べられているように、交通事故の被害にあった人は身体的・精神的に大きな衝撃を受け、喪失体験に伴う理不尽さや無力感に直面している。それは自分の周囲はもちろん社会全体への信頼や安心感が損なわれ、その人が本来持っている自己対処能力が低下している状態といえる。
 そのような状態の被害者にとって、精神保健福祉関係者による地域における包括的なかかわりは、なくてはならないものである。被害者の心身の回復と生活の安定とは、車の両輪のようなものだからである。
 交通事故被害者にとって、住み慣れた地域での生活を安心して継続できることは、とても重要なことである。周囲の不確かな噂によって、さらに傷つけられることも多く、被害を受けた側であるにもかかわらず社会的にスティグマ(汚名)を負わされ、さらには住み慣れた地域から転居せざるを得ない状況まで追いつめられることもある。
 喪失体験をきっかけに、うつ症状、ひきこもり状態やアルコールなどの嗜癖問題を抱えるようになった人もいる。それは個人のみの問題にとどまらず家族の機能や子どもの成育にも影響を及ぼしていく。
 交通事故被害者に地域精神保健福祉関係者が働きかけることは、被害によるメンタルヘルスの危機上に、さらなる問題が生じることへの予防的なかかわりでもある。そして、関係者が被害者を支え見守っていく姿勢は、地域全体の態度形成につながることであり、メンタルヘルスの啓発活動であるといえる。
 コミュニティの共助の力を育てていくということも、まさに地域精神保健福祉関係者の役割なのである。
 現在の精神保健福祉では、社会復帰が大きなテーマとなっている。社会復帰施設では、ソーシャルワーカー(精神保健福祉士)をはじめとしたスタッフが、利用者に必要な相談援助を行っている。なかでも「精神障害者地域生活支援センター」は、地域生活密着型の新しい社会資源であり、これからの地域精神保健福祉に大きな期待を背負っている。
 現在、国のプランによって人口に対比した数の整備が進められており、利用者への情報提供や関連機関との連絡調整など総合的な相談援助を行っている。
 従来の精神保健においては、多くの場合疾病や障害を持つ人を対象としてきた。それが「精神保健福祉」とされたのは、心の健康の保持と福祉(=人々の幸福)というのは同義であり、疾病や障害の有無にかかわらず社会に暮らすすべての人に共通する価値である、と改めて捉(とら)えられたからである。
 地域精神保健福祉関係者はその普遍的な価値を守り、自らも社会資源となって、交通事故の被害者となった人の心の健康と地域生活をサポートするものである。


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