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交通事故被害者の支援 第7章 交通事故被害者支援の具体例

II.被害者遺族への対応事例から

1.危機介入を中心として

●事故概要:平成○年6月1日、バイクで通勤途中の40代男性が、交差点で左折中の自動車に衝突され、亡くなった。
●家族構成:被害者、妻(Aさん)、長男(高校生)、長女(中学生)

6月1日
  • 事故発生
6月7日
  • 電話相談
    家族の知人という女性から電話が入り、Aさんへの支援を依頼される。
    → 知人を通じて、支援者の存在を伝え、自宅訪問の了承を得る。
6月13日
  • 支援者2名にて遺族宅を訪問する。
    まずはお参りをさせていただき、Aさんからお話をうかがう。Aさんは落ちついている印象。しっかりした様子に見受けられる。
  • Aさんは次のようなことを語った。
    「夫が亡くなったという現実を受け入れられない。葬儀のときのことはよく憶えていない。警察からも説明を受けたはずだが憶えていない。食事はほとんど取っていないし、睡眠も取れない。これからは自分が家族を支えていかなければいけないのに、どうしたらいいのか分からない」

 被害直後には、感覚が麻痺している方が多い。その場合、一見落ち着いてしっかりしているように見えるが、実際には混乱状態で何をどうしたらいいか分からないという状態である。情報提供は繰り返し行い、必要に応じて書面などで連絡を取ることもよい。
 今後、起こってくることをあらかじめ知っておくことで、被害者は心の準備をすることができる。


◇支援者は、Aさんの気持ちに耳を傾け、受け止めながら、さまざまな情報提供を行った。

◇被害後に起こってくる身体症状や心理状態について説明し、起こっても当然であることを伝えた。

 亡くなられた方が家族の中で経済的な支えとなっている場合には、今後の生活について不安な点を確認し、福祉機関での支援が必要な場合は、各機関へと確実につなぐよう配慮する。

――その後1ヵ月は、1週間おきくらいに電話やFAXでサポートを続けた。
  今後、裁判付き添いなどの支援の用意があることを伝える。

 被害直後に、被害者側から支援者側へアクションを起こすのは難しい。支援機関からの積極的な働きかけを行うことで、被害者とつながっていることが大切である。
 支援者に対して信頼感が持てるようになってくると、被害者側から必要なときに連絡を取れるようになる。


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7月15日
  • 面接相談(1回目)
  • 直後は感覚が麻痺していたと思う。少しずつ感覚が戻ってくると辛くなってくる。新聞やTVは見られない。検察庁で事情聴取がある。初めて行くところだし、不安なので一緒に行ってほしい。

 被害者は、警察や検察庁での事情聴取や裁判などの刑事手続に否応なしに巻き込まれていく。初めて経験すること、しかも状況が分からないまま進んでいくことに戸惑う人がほとんどであり、それはごく当然のことである。

 被害者と関係機関との間に支援者が入り、パイプ役として被害者の負担を軽減するような役割をとる。また、傍に付き添うことで「一人ではない」という気持ちを持ってもらえるよう配慮する。
 注意点としては、「被害者の意思を尊重する」ということである。選択肢が生まれたときにはメリット、デメリットなどの情報提供をしたうえで、決定権は本人に委ねる。そして、その決定をサポートする。「尊重された」という経験を重ねていくことで、被害者は徐々に自己コントロール感を取り戻していく。


7月20日
  • 検察庁付き添い支援
  • 事情聴取の際には、しっかりと受け答えをしていたようだったが(同席ができなかったため、担当検事から様子を聞く)、終了後は力が抜けたように、しばらくぼーっと座っていた。

 警察や検察での事情聴取、裁判傍聴などを経験した後は、心身ともに疲れきって集中力がなくなっていることが多い。その後、安全に帰宅できるように、現実感覚を取り戻せるような会話(どうやって帰宅するのかなど)をしてから別れるとよい。


7月25日
  • 面接相談(2回目)
  • 検察庁で調書を作成したときには、自分の気持ちを話すことができた。
  • 裁判で証言をさせてもらえることになった。子どもたちの気持ちを上申書として提出することができた。
8月6日
  • 電話相談
  • 加害者から手紙が届く。まだ開封していない。どう対応したらいいか。
    →担当検察官宛、連絡するようにアドバイス
8月12日
  • 検察庁との連携
  • 遺族用の傍聴席確保、裁判後の説明会についてお願いする。
8月20日
  • 面接相談(3回目)
  • 裁判に行きたくない。事故当時のことや、夫が亡くなったときの様子を思い出して考えてしまう。気持ちが当時に逆戻りしてしまう。裁判で事実を知るのも怖い。
8月24日
  • 裁判付き添い支援(1回目)
  • 加害者が入廷すると、身体をふるわせる。被害事実が語られると顔を覆い泣き声が続く。

 裁判は被害者にとって大きな負担となるため、その前後のサポート(説明、気持ちを受け止めるなど)は欠かさず行う。裁判傍聴は辛い経験ではあるが、何が起こったのかを知ったり、加害者の言葉を聞いたりする唯一の場である。傍聴し、乗り越えることが気持ちの整理を助ける場合も多い。


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8月25日
  • 電話相談
  • 支援者側から電話する。裁判について話をうかがう。 「裁判は聞いていられなかった。途中で出ていこうかとも思ったが、必死で最後まで聞いた。加害者を許せない。口では反省しているようなことを言っていたが、本当なのだろうか」などと、裁判についての心情を吐露する。
9月20日
  • 面接相談(4回目)
  • 裁判が近づくと気持ちが不安定になる。次回、法廷に立たなくてはいけないが、十分思いを話せるだろうか。
9月25日
  • 裁判付き添い支援(2回目)
  • 意見陳述ではしっかりとした口調で語る。終了後、支援者に対して、「きちんと伝わっただろうか」と不安そうに語る。

 裁判のなかで、被害者が証人尋問や意見陳述をすることによって、司法の場に参加したという実感を持つことができる。上申書という形で自分の気持ちを提出する方法もある。
 証言あるいは意見陳述をした後、ほとんどの被害者は「言いたいことが十分に言えなかった。あれでよかったのか」などと、後悔や不安感を口にする。誰もがそう思うが、しっかりと役割を果たしたと支持をすることが大切である。


9月27日
  • 電話相談
  • 意見陳述について「うまくいかなかったような気がする」と語る。
10月20日
  • 面接相談(5回目)
  • 次回、どんな判決がでるのか。どんな判決でも亡くなった人は帰ってこない。
11月1日
  • 裁判付き添い支援(3回目)
  • 判決を聞く。「命が奪われたのに、こんなに軽い刑なんて」と声を詰まらせる。

 このような付き添い支援に際して、支援者は被害者と適度な距離をおきながら関わることが重要である。
 やりすぎの支援は被害者の依存を助長し、回復の妨げとなる。逆に、距離をとりすぎると、わずかにつながっていた被害者とのつながりを断つことになりかねない。その場に応じて、その人に応じて、きめ細やかな対応が求められる。

 ――その後、面接相談という形で支援を続けている。


2.面接相談を中心として

●事故概要:平成○年3月1日、自転車で通学途中の10代女性(高校生)が、並走していた自動車と接触、転倒し亡くなった。
●家族構成:父親(50代)、母親(Bさん・40代)、被害者、妹(高校生)

7月15日
  • 電話相談
  • 今年3月上旬に高校生の娘が交通事故でなくなった。電話で話すのは辛いので会って話したい。
    → 面接予約する。
7月18日
  • 面接相談(1回目)
  • 最初は言葉にならず、ハンカチを取り出して顔を覆い泣き続けていたが、しばらくそのまま待っていると徐々に話しはじめる。

 面接の初期の場面では、まず相談者が安心して話せるように配慮する。相談者から、「電話をかけるのに勇気がいりました」という声を耳にすることが多い。辛い出来事や気持ちを話すまでには時間がかかることもある。相手のペースに合わせ、無理強いをしないこと。

 不眠や食欲減退などの身体症状により、被害者の日常生活に支障をきたしているようなときには、医療機関を紹介する。薬の力を借りることで、生活のリズムを整えていくことも必要になる。自殺企図や解離症状がある場合は、確実に医療機関につなげることが重要である。

 ――面接終盤には、亡くなった娘の話(学校での生活、母親との関係)を語る場面もあった。
   →まずは2週間に1回のペースで面接相談を行うこととなる。

 面接相談の頻度は、1〜2週間に1度が一般的である。相談者の精神状態や希望を考慮して、次回の面接日を決定する。相談者が徐々に安定していくにしたがって、面接間隔をあけていく。
 面接終結に不安を覚える相談者もいるが、「終結=以後相談できない」ということではなく、困ったときはまた相談できるという保証をすることで、次のステップに移っていくことを助ける。


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7月30日
  • 面接相談(2回目)
  • 前回、初めて自分の気持ちを話すことができた。少し楽になったように思う、といって話し始める。
    「事故現場を通ることはできない」
    「略式起訴になるかもしれない。加害者を許せない」
    「もう一人娘さんがいるからいいじゃない、保険金はおりたの?などといった周囲の言葉に傷つけられる」

 遺族の心情や現状はまだまだ社会的に理解されておらず、周囲の言葉により傷つけられることも数多くある。励ますつもりで言った言葉(例えば「頑張って」、「元気を出して」など)でも、被害者にとっては「分かってもらえていない」という感覚を持つことがある。
 また、残念なことに、根拠のない噂話や被害者への中傷がささやかれる場合も多い。

 ――娘(妹)に注意を払うことができない。娘は今までどおり、明るく過ごしているようだ。

 家族のなかでは、皆それぞれが身内を失ったという心の傷を抱えることになる。亡くなった方への思いや感情もそれぞれであり、身内だからといってすべて分かり合えるというわけではない。
 自分自身のこともままならず、ましてや他の人の気持ちは思いやれず、傷つけあってしまうこともありうる。それだけ大きな衝撃なのだといえる。

 そのなかでも、特に幼い子どもや思春期の子供のケアには十分気をつける。子どもは傷つきやすい存在であるにもかかわらず、家族を支えるために気丈にふるまうというケースもしばしば見られる。支援者が家族の誰かとつながり、信頼関係を築いて長期的に支えることで、家族全体を支えることにつなげていく。


8月19日
  • 面接相談(3回目)
  • 1日のうちで気持ちに波があるが、1ヵ月前と比較すると大分落ちついてきたと話す。
  • 気持ちの波は一定していない。新聞やテレビのニュースに触発され、娘のことを思い出して辛くなる。

 回復の流れはなだらかではなく、気持ちの揺れや波があることが通常である。外的な要因(裁判、事件を思いださせるさまざまな出来事)から、引き戻されることも多い。回復を焦ったり、せかすようなことなく、ありのままを受け止めることが大切である。


8月21日
  • 電話相談(2回目)
  • 検察から連絡がないのでこちらから聞いたら「略式起訴、罰金刑」と言われた。示談にしたのがいけなかったのか、と悔やまれる。
  • 何か方法はないのだろうか。一度弁護士さんに相談したい。
    →弁護士会の窓口を紹介する。
9月15日
  • 面接相談(4回目)
  • 「感情的にはずいぶん落ちついたが、罰金刑ということに納得がいかない」と、加害者に対する強い怒りの感情を訴え続ける。
    弁護士に相談した。民事裁判を起こすことはできるが、刑事事件については今からことを起こすのは難しいと言われた。
    早く立ち直りたいという気持ちもあって示談に応じたが、そのせいで罪が軽くなったようで娘に申し訳ない。もう少し相手と闘う姿勢をみせるべきだったろうか。
  • 「担当検事に今の自分の気持ちを伝えた」という話もあり、少しずつ自分の力で動けている様子も見受けられた。

 安心できる場所で、批判されることなく繰り返し気持ちを語ることが、回復のために役立つ。激しい感情(恐怖、悲しみ、怒り、自責感など)、特に怒りの感情を受け止めるのは難しい。それらが当然、起こってくる感情だと認め、支援者の価値観を押しつけない。
 被害者は不合理な自責の感情を持っているが、それを軽減するような応答を心がける。


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10月15日
  • 面接相談(5回目)
  • 気分は大分落ちついたと穏やかな表情で語る。
    罰金刑が決まったら、加害者からのお花が届かなくなった。
    今思うと示談したことが失敗だったと思う。
    無理しないで前向きに頑張っていきたい。
12月15日
  • 面接相談(6回目)
  • 顔色も良く、時折、笑顔も見られる。
  • 食欲や睡眠は元のようになってきている。被害前に出かけていた趣味の集まりに友人が誘ってくれた。参加してみようかという気持ちになり、先日久しぶりに出かけてきた。
  • 地検に調書を見せてほしいと連絡した。真実を知りたいと思う。
    →面接は終結となる。
2月8日
  • 被害者自助グループに参加
  • 「戸惑いはあったが、参加して良かったと思う。初めてお会いする方々だったが、自分の胸の内を正直に話すことができた。皆さんの話しを聞いて、本当に同じ思いだと感じた。命日が近づいてくると思うと不安になるが、来月も自助グループに参加してその気持ちを話したいと思う」と話す。

 事故の日、家族が亡くなった日(命日)が近づくと、気持ちが不安定になるという方が多い。

 ――以後、自助グループへの参加を続けている。

 事件から1年くらい経つと、同じような体験をした人たちと話したいという要望を持つ人も出てくる。そのような人には、自助グループへの加入を勧める。
 加入に当たっては、「他の被害者遺族の話を聞いて余計に辛くなってしまった」というようなことがないように、時期や遺族の状態を見極めて勧めることが望ましいといえる。
 自助グループの中で安心して気持ちを語ることで、孤立感をやわらげることができ、個人での面接相談とはまた違った「回復のための場」となる。被害者支援の中で、自助グループの役割は大きい。


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