平成13年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通 第1部 道路交通 第2章 道路交通安全施策の現況
第7節 損害賠償の適正化と被害者対策の推進

本編目次 | 前ページ| 次ページ

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第2章 道路交通安全施策の現況

1 自動車損害賠償保障制度の充実等

 自動車損害賠償保障制度は、自動車の事故による損害賠償の基本保障を担保する強制保険である自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責保険」という。)、ひき逃げ及び無保険車による事故の被害者に対するてん補を行う政府の自動車損害賠償保障事業(以下「保障事業」という。)、保険料の運用益を活用した被害者救済対策事業及び交通事故防止対策事業(以下「被害者救済対策等」という。)により交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。
 自動車事故件数及び交通事故死傷者数は近年増加傾向にあり、平成8年度から12年度の自賠責保険の支払件数及び支払額は、それぞれ13.5%、7.0%増加している(第1‐33表)。

(1)自動車損害賠償責任保険(共済)の充実
これまで自賠責保険では、保険金支払適正化の観点から、国が保険会社等の保険責任の6割を再保険していたが、規制緩和の観点から政府再保険を廃止し、一方で保険会社等による被害者等に対する情報提供措置の義務付け、紛争処理機関による新たな紛争処理の仕組みの整備など、被害者保護の充実を盛り込んだ自動車損害賠償保障法及び自動車損害賠償責任再保険特別会計法の一部を改正する法律(平成13年法83。以下「改正自賠法」という。)が成立し、平成14年4月1日から施行された。
これにより,保険金の適正な支払の確保や、保険金支払をめぐる紛争処理の迅速且つ適正な解決による被害者保護の増進が図られることとなる。
さらに、自動車損害賠償保障法施行令等の一部を改正する政令(平成13年政419)により、平成14年4月からは介護を要する重度後遺障害者に対する保険金限度額を、常時介護を要する者について3,000万円から4,000万円に、随時介護を要する者については2,590万円から3,000万円に引き上げることとされた。
また、被害者保護の増進、自動車事故の発生の防止が安定的に行われるよう、改正自賠法による自動車事故対策計画に基づき、補助等を行なっていくこととした。

自賠責制度PRリーフレット 新しい自賠責保険制度の仕組み

(2)政府の自動車損害賠償保障事業の充実
自賠責保険による救済を受けられないひき逃げや無保険車による事故の被害者に対しては、政府の保障事業が被害者に損害のてん補を行い、その救済を図っている。
この保障事業は、自賠責保険料に組み込まれた賦課金等を財源としており、損害てん補の限度額は自賠責保険と同一である。平成12年度の保障事業による保障金の支払額は、ひき逃げ3,964件及び無保険655件(計4,619件)に対し、約51億2,000万円(死亡127人、傷害4,492人に対してそれぞれ25億4,000万円及び25億8,000万円)である。
(3)無保険(無共済)車両対策の徹底
自賠責保険は自動車の保有者等が加入を義務付けられている強制保険であるが、特に車検制度がない原動機付自転車において、期限切れによる無保険車両が発生している。
このため、国土交通省において、都道府県ごとに無保険車指導員を配置し、街頭で無保険車両の保有者等へ指導を実施することにより、自賠責保険への加入の徹底を図っている。
また、かけ忘れを防止するため、自賠責保険契約期限経過後、再契約の締結が確認できない原動機付自転車等の所有者に対し、再契約を促す通知書を発送している。
さらに、原動機付自転車等に係る自動車損害賠償責任保険の普及の促進に寄与するため、原動機付自転車等の自動車損害賠償責任保険を郵便局において受託して取り扱うこととし、平成13年10月1日、取扱いを開始した。
(4)任意の自動車保険(自動車共済)の充実等
任意の自動車保険
平成10年7月の保険料率の自由化後、人身傷害補償保険を始め多様な保険商品の開発・導入が進み、補償内容・損害時の対応・保険料水準等について、契約者が自身のニーズにあった保険商品を選択することが可能となっている。
対人賠償保険については、平成12年度に契約された契約金額別構成比が、2,000万円までのもの0.3%、2,000万円を超え5,000万円までのもの1.0%、5,000万円を超え1億円までのもの2.9%、1億円を超えるもの95.8%(うち無制限のもの95.7%)となっており、契約金額の高額化が進んでいる。
なお、平成12年度に自動車保険(任意)の保険金が支払われた死亡事故の賠償額は、平均3,703万円となっている(第1‐34表)。
任意の自動車共済
農業協同組合法(昭和22年法132)に基づき共済事業を行なう農業協同組合1,131組合(平成14年1月1日現在)及び全国共済農業共同組合連合会は、それぞれ任意の自動車共済を実施している。
平成12年度の自動車共済(任意)の引受実績は、約2,882万件(対前年度比0.8%増)である。

第1‐33表 自賠責保険・自賠責共済の保険金支払件数及び支払額の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐34表 自動車保険(任意)保険金支払死亡事故賠償額の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

2 裁判手続における損害賠償の状況
(1)概況
裁判所において損害賠償問題を解決するための主な手続として、通常訴訟、少額訴訟及び調停がある。
平成9年から13年までに全国の地方裁判所及び簡易裁判所が受理した交通事故による損害賠償請求に関する第一審通常訴訟事件(以下「交通通常訴訟事件」という。)及び調停事件(物的損害のみの損害賠償に関する紛争を除く。以下「交通調停事件」という。)の事件数の推移を見ると、交通通常訴訟事件については、10年から増加傾向にあり、13年も前年より増加した。交通調停事件については、12年に前年より増加したものの、ここ数年は減少傾向にある(第1‐35表)。
(2)交通事故による損害賠償請求に関する事件の処理状況
処理に要した期間
平成12年中に終局した交通通常訴訟事件のうち、地方裁判所では62.3%、簡易裁判所では96.7%が事件を受理してから1年以内に終局している。少額訴訟手続きによる交通事故の損害賠償請求事件(以下「交通少額訴訟事件」という。)については、12年中に終局した事件のうち、95.8%が3月以内に終局している。交通調停事件は、79.8%が6月以内に終局している(第1‐33図)。
終局結果
平成12年中に終局した交通通常訴訟事件及び交通少額訴訟事件のうち、49.8%が和解により、38.3%が判決により終局している。判決で終局した事件のうち、89.1%が請求の一部又は全部が認められている(第1‐34図)。また、12年中に終局した交通調停事件では、55.9%が調停成立により終局している(第1‐35図)。

第1‐35表 交通通常訴訟事件及び交通調停事件の受理件数の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐33図 交通事故による損害賠償請求に関する事件の類型別審理期間の内訳(既済事件)(平成12年)

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐34図 交通通常訴訟事件及び交通少額訴訟事件の終局区分の内訳(平成12年)

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐35図 交通調停事件の終局区分の内訳(平成12年)

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

3 損害賠償の請求についての援助等
(1)地方公共団体の設置する交通事故相談所の活動の強化
地方公共団体が設置する交通事故相談所の活動の強化を図るため、都道府県及び政令指定都市に交通事故相談所の活動に必要な経費の一部を交付している。
平成13年度の国庫交付金は総額3億183万円であり、これによって、全国で358人の専門相談員と弁護士を各相談所に配置し、交通事故被害者等からの相談に応じている(第1‐36表)。
地方公共団体の交通事故相談所における指導・助言が適時・適切になされるよう、初任相談員中央研修会を実施するとともに、複雑・多様化する相談内容に対処するため、交通事故に係る損害賠償の問題を中心に、最新情報を収集・解説して提供するための情報誌の発行及び具体的事例について専門家の指導のもと、相談員が対応方法を研究する事例研究会の開催を内容とする相談員育成事業を実施するなど、交通事故相談員の資質の向上に努め、相談サービスの質の向上による交通事故相談所の充実・強化を図っている。
また、相談事案の適切な解決のため、弁護士による相談機関等との連携・協調の促進を図るよう、交通事故相談所に対し指導している。
さらに、市(区)町村の相談窓口に対する都道府県交通事故相談所の指導の充実、研修の実施などにより、地域における交通事故相談活動の充実を図っている。

交通事故被害者の状況

内閣府では、全国の交通事故被害者及びその遺族を対象として、被害の状況、交通事故相談、被害者支援、ボランティア活動等に関するアンケート調査を実施した。調査結果の要旨(一部)は以下のとおりである。

1 被害の現状について
交通事故に遭ってから困ったことの内容を尋ねたところ、精神的苦痛、身体的苦痛のほかに、家事育児の負担、民事紛争処理の負担、経済的負担等に困難を感じている者が多いことが分かった(第1図)。
2 交通事故相談について
交通事故の相談窓口について尋ねたところ、対応の内容については比較的高い評価が得られたが、窓口に到達するまでの過程(どのような窓口がどこにあるのか分かりにくい、場所が遠い、相談したい日が休みである等)について問題を感じている者が多いことが分かった。
3 被害者支援について
希望する支援の内容について尋ねたところ、手続の教示、情報提供、経済的支援、精神的支援等が上位となった。子供の世話や身の回りの世話については、望む者と望まない者が分かれる結果となった(第1表)。
4 ボランティア活動について
交通事故被害者の支援等を行っているボランティア団体について尋ねたところ、「知っている」との回答は約3割にとどまったが、それらのボランティア活動に対して理解を示すとともに(第2図)、自らも機会があれば協力したいとする者が比較的多いことが分かった(第3図)。
調査対象全国の交通事故被害者及びその遺族
調査期間平成13年11月~14年1月
調査方法都道府県及び市町村の交通事故相談所、警察の相談窓口及び自動車事故対策センターを通じて調査票(無記名)を配布し、郵送回収。調査票約5,000部を配布し、1,190人から回答を得た。

交通事故被害者の状2

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

(2)損害賠償請求の援助活動等の強化
警察における交通相談の積極化
交通事故による被害者等の救済に寄与するため、全国の警察本部や警察署に交通相談を担当する係を置き、交通相談活動を行なっている。相談の内容は、示談の進め方、損害賠償請求手続等に関するものが多く、都道府県の交通事故相談所、交通安全活動推進センターの交通相談所等と連携を保ちながら交通事故当事者等からの相談に応じている。
法務省における人権相談活動の強化
法務省は、全国の法務局、地方法務局及びその支局に開設している常設人権相談所並びに市(区)役所、町村役場、デパート、公民館、公会堂等で臨時に開設する特設人権相談所において、人権相談の一環として交通事故に関する相談に応じ、事件の解決のための適切な助言や(財)法律扶助協会への紹介等を行なっている(第1‐37表)。
(財)法律扶助協会による民事法律扶助事業の推進
交通事故の被害者を含め民事紛争の当事者が資力に乏しい場合であっても、民事裁判等において自己の権利を実現することができるよう訴訟の代理人等に要する費用の立替えをするなどの援助を行う制度が民事法律扶助制度であり、(財)法律扶助協会が、国から交付される補助金等によって、民事法律扶助事業を実施している。平成12年度の交通事故関係の援助開始(扶助)決定件数は397件である(第1‐38表)。
(財)日弁連交通事故相談センターによる交通事故相談活動の強化
(財)日弁連交通事故相談センターは、交通事故の損害賠償に関する無料法律相談等のほか、示談あっせん業務を行なっている。
平成12年度の同センターによる交通事故相談活動は、延べ7,962回相談所を開所し、延べ3万1,649件の相談に応じた(第1‐39表)。
(財)交通事故紛争処理センターによる交通事故相談活動の強化
(財)交通事故紛争処理センターは、交通事故に関する紛争について、公平・中立な立場から適正な処理を図ることを目的としており、交通事故に関し、嘱託弁護士による無料法律相談及び和解のあっせん並びに交通事故に関する紛争解決のための審査等の業務を行なっている。
平成12年度は東京本部のほか、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、高松及び福岡の各支部において延べ1万8,123件の相談に応じた。同年度に示談成立した件数は3,644件で、うち審査手続きを経たものは351件であった(第1‐40表)。
なお、平成13年10月にさいたま相談室を、11月に金沢相談室を新たに開設した。
改正自賠法に基づく紛争処理機関
改正自賠法に基づき、自賠責保険の保険金の支払いに関する紛争を解決するための公正中立で専門的な知見を有する紛争処理機関として、平成13年12月に(財)自賠責保険・共済紛争処理機構が設立され、14年4月から業務を開始した。

第1‐36表 都道府県、政令指定都市の交通事故相談所の相談件数の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐37表 人権相談件数及び交通事故関係相談件数の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐38表 民事法律扶助(交通事故関係)事件数の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐39表 (財)日弁連交通事故相談センターの活動状況の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1‐40表 (財)交通事故紛争処理センターの活動状況の推移

(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

4 交通事故被害者対策の充実強化
(1)自動車事故被害者等に対する援助措置の充実
自動車事故対策センター
自動車事故対策センターは、被害者の救済を図るため、次に掲げる業務等を行なった。
(a)
介護料の支給
従来、自動車事故により植物状態になり、常時介護を要する被害者にのみに支給していた介護料の支給対象を見直し、平成13年7月からは常時又は随時介護を要する被害者にも拡大して支給している。また、在宅介護者に対し短期入院費用を一部助成している。
(b)
重度後遺障害者療護施設の運営等
重度後遺障害者に対し専門的な治療及び養護を行う療護センター(千葉、東北、岡山)の運営に加え、平成13年7月に中部療護センターが開業した。また、中部療護センターにおいて短期入院を実施した。
(c)
貸付業務の実施
自動車事故により死亡した者の遺族又は重度の後遺障害が残った者の子弟である義務教育終了前の児童等に対する生活資金の無利子貸付業務等の被害者に対する貸付業務を行なった。
交通遺児等に対する援助
(財)交通遺児育成基金は、交通事故によって一家の働き手を失った交通遺児に対し、交通遺児家庭の生活基盤を安定させ、交通遺児の健やかな育成に資するため、交通遺児に支払われた損害賠償金から拠出された資金を運用した資金に、国の補助金と民間の援助団体の援助を加え、これを遺児が満19歳に達するまで、年金方式で育成給付金を支給する、交通遺児育成基金事業を実施した。
なお、平成12年度末現在における加入遺児総数は1,539人となっている。
(2)交通事故被害者等の心情に配慮した対策の推進
交通事故被害者等に対する情報提供の実施
交通事故被害者等にとって、事故の捜査状況、加害者の処分状況等は自らの問題として重大な関心事であることから、ひき逃げ事件、交通死亡事故等の被害者・遺族に対して、事故の概要、捜査状況等についての被害者連絡を適時、適切に実施するとともに、「交通事故被害者の手引」の配布や各種相談活動によって、被害者等にとって必要な情報の提供に努めている。さらに、加害者に対し意見の聴取等を行う期日、加害者に対する行政処分結果等について被害者等からの問い合わせがあった場合には適切に教示するなど、被害者等の心情に配慮した行政処分制度の運用に努めた。
検察庁においては、事件処理結果等を通知する被害者等通知制度を実施するとともに、各種の相談等に対応する被害者支援員を配置しているほか、不起訴記録を被害者等に開示するに当たって弾力的な運用を図るなどの施策を適正に運用した。
交通事故被害者等を講師とする講習の推進
平成12年4月から北海道、富山県、京都府では、交通事故により死亡した者の遺族を停止処分者講習に講師として招き、自らの体験に基づくありのままの心情を直接訴えてもらい、受講者に交通事故の惨状を認識させることを実施した。
交通事故被害者の手記等の作成
交通事故の被害者や遺族から寄せられた手記をとりまとめ、手記集やビデオを作成し、交通安全推進団体並びに学校教育関係者、病院、公共交通機関等に配布し、また、処分者講習等や違反者講習等において活用するなど交通事故の悲惨さを遺族等の声を通じて紹介した。

第8節 科学技術の振興等

本編目次 | 前ページ| 次ページ