平成13年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通 第1部 道路交通 第2章 道路交通安全施策の現況
第8節 科学技術の振興等
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
1 道路交通の安全に関する研究開発の推進
- (1)内閣府本府の調査研究
- ア
- 交通事故による経済的損失に関する調査研究
国民の交通安全に対する理解を深めるとともに、より効果的な交通安全対策の立案に資するため、道路交通事故の経済的側面に関する各種統計データを収集・分析し、道路交通事故による被害・損失を明らかにする調査研究を行なった。 - イ
- 科学的分析に基づいた交通安全普及啓発活動等の確立のためのパイロット事業
都道府県で行なわれている交通安全普及啓発活動等をより効果的に実施するため、「交通事故の地方特性の科学的分析」、「交通安全普及啓発活動等の効果分析」,「分析結果に基づく交通安全普及啓発活動等の検討」を内容とするパイロット事業を千葉県、高知県及び福岡県で行なった。 - ウ
- 交通弱者及び交通事故被害者の視点に立った交通安全対策の推進に関する調査研究
交通弱者及び交通事故被害者の視点に立った交通安全対策の効率的な推進を図るため、民事判決を素材とする事故事例分析を行なうとともに、弁護士に対するアンケート調査を行なった。 - エ
- 交通需要円滑化対策に関する調査研究
時差通勤通学対策とともに交通需要円滑化の観点から、現在各方面で実施・検討されている対策について、その取組状況を把握し、その効果について分析するとともに、時差通勤通学対策の実施に際しての基礎資料とするための調査研究を行なった。 - (2)警察庁の研究
- ア
- 高度道路交通システム(I.T.S)に関する研究開発の推進
- (a)
- カーナビゲーションの事故実態に関する研究
カーナビゲーションを使用した場合、運転者の脇見等に起因する交通事故について実態調査を行い、カーナビゲーションの安全な使用方法について検討した。 - (b)
- 交通管理の最適化
交通流・量の積極的且つ総合的な管理を行い、交通の安全性・快適性の向上を図るため、交通状況の予測手法、環境に対応した信号制御手法、目的地情報を活用した動的経路誘導手法及び車載装置等への交通情報提供システムの研究開発を推進した。 - (c)
- 安全運転の支援
交通管制システムのインフラ等を利用して、自動車の安全走行支援を行なうとともに歩行者の安全を確保して、交通事故の低減を図るシステムの研究開発を推進した。 - (d)
- 歩行者用信号灯器のL.E.D化
長寿命による安全性の向上、省エネルギー効果等の観点から、歩行者用信号灯器の発光ダイオード(L.E.D:Light Emitting Diode)化について、その視認性を確認するため、実証実験を行なった。 - (e)
- 歩行者等の支援
全国20箇所に整備した歩行者等支援情報通信システム(PICS)について、関係機関等と協力しつつ、更に使いやすいものとするための調査研究を行なった。 - イ
- 交通行動特性等に関する研究の推進
高齢化の進行に対応し、高齢者の交通行動や交通事故実態の多様化に対応した対策の実施を図るために、交通行動とのかかわりが強い誕生年代や居住地域を考慮した高齢者の交通行動を交通事故実態等に基づいて分析した。 - ウ
- 睡眠障害が自動車運転に与える影響に関する研究
日常生活上の問題である睡眠障害は交通事故の原因になるとの報告もあり、道路交通安全上も無視できない問題となっている。そこで、運転免許更新者を対象に、日常生活における睡眠や運転中の眠気等に関するアンケート調査を行なうなど、運転者の睡眠障害の実態や交通事故との関係について調査研究を行なった。 - (3)総務省の研究
- 地域でのI.T.Sの展開を図るため、地方公共団体等の協力を得て、地域交通の効率化、地域情報の発信と産業の活性化、物流の効率化等の地域のニーズに応じた地域I.T.S情報通信システムの調査研究を実施した。
- (4)文部科学省関係の研究等
- ア
- 科学技術に関する経費の調整
各省庁の道路交通の安全に係る科学技術に関する平成14年度の経費について、見積もり方針の調整を行なった。 - イ
- 独立行政法人防災科学技術研究所の研究
冬期における道路交通の確保等に資するため、吹雪、雪崩等の雪氷防災に関する研究を行なった。 - (5)国土交通省関係の研究
- ア
- 国土交通本省の研究
- (a)
- 高度道路交通システムの推進
I.T.S技術を統合して組み込んだスマートウェイの実現に向け、走行支援道路システム(AHS)等の研究開発プロジェクト、システムの共通的な基盤(プラットフォーム)の構築、国際標準化活動の支援を図るとともに、諸外国のI.T.Sに関する具体的な取組及び展開計画等について情報収集・調査等を積極的に推進した。 - (b)
- 走行支援道路システム(AHS)
ドライバーへの前方障害物等の危険警告や車線逸脱防止等の走行支援を行うAHS技術について、民間企業からなるAHS研究組合と共同でのもと、システムの評価手法の整備などの研究開発を推進した。また、ISO/TC204へ国際標準化のための提案を行なった。 - (c)
- 物流の効率化の支援
物流の効率化を図るため、商用車が効率的に運行するために必要とする道路情報等を提供するシステムの研究開発を行なった。 - (d)
- 道路管理の情報化
道路管理の効率化や交通の信頼性確保の観点からの情報化を推進した。地理情報システム(GIS:Geographic Information System)の標準化動向を見極めつつ、道路関係データの形式の統一化、データベースの整備など道路交通全般にわたり共通して道路情報を効率的に利用、提供できる環境整備を推進した。また、特殊車両等の適切な管理を行うため、通行許可申請等の電子化や通行経路・車両諸元の把握などを行うシステムの研究を推進した。 - (e)
- 公共交通の支援
道路・公共交通機関の相互情報提供システムの構築に関する研究開発を推進し、福岡~大分間の高速バス等で実証実験を実施した。 - (f)
- 歩行者等の支援
高齢者、身体障害者等の歩行者等が安心して通行できる安全で快適な道路交通環境の形成を図るため、高齢者や身体障害者等の歩行特性にあわせた情報ニーズの調査研究を行なうとともに、携帯用端末や通信技術、音声等を利用した情報提供装置を用いて高齢者、身体障害者等に経路案内・誘導・注意喚起等の情報提供を行う歩行者I.T.Sの研究開発を推進した。平成13年度は国土技術政策総合研究所及び全国5都市において社会実験を実施し、システムの有効性や、提供すべき情報の内容等についての検証を行なった。 - (g)
- システムの共通的な基盤(プラットフォーム)の構築
I.T.Sを構成するシステム間の互換性を確保するための道路管理者間の通信規約(プロトコル)等の基準類の整備を行い、全体として有機的に連携した統合的なシステムを効率的に構築するための研究開発を推進した。 - (h)
- 国際標準化活動の支援等
I.T.S世界会議等の国際会議や二国間レベルでの情報交換を行うなど、国際的な視野からの取組を推進するとともに、国際標準化機構(ISO)の国際標準化活動に対しても積極的に参加・支援を行い、日本のシステムを国際標準として採用するように提案するとともに、国際標準と整合の図られたものとした。 - イ
- 国土技術政策総合研究所の研究
- (a)
- 高齢者の交通行動等に関する研究の推進
高齢化の進行に伴う交通事故情勢の推移に対応して、高齢者の交通行動に則したきめ細かい対策を講じるため、道路交通社会における高齢者の交通行動等に関する研究を行なった。 - (b)
- 歩行者の行動特性を踏まえた交通安全に関する研究の推進
我が国の交通事故発生形態の特徴である歩行者事故を削減するため、歩行者の行動特性に関する研究及びそれを踏まえた交通安全対策の立案に関する研究を行なった。 - ウ
- 気象庁気象研究所等の研究
道路交通の安全に寄与する気象情報等の精度向上を図るため、気象庁気象研究所を中心に、気象・地象・水象に関する基礎的及び応用的研究を行なっている。これらの研究のうち、主なものは、以下のとおりである。 - (a)
- 地震発生過程の詳細なモデリングによる東海地震発生の推定精度向上に関する研究
3次元数値モデルによる地震発生のシュミレーション、地殻変動データの解析手法の高度化、地震活動評価手法の開発・改良に関する研究を進めた。 - (b)
- 中小規模擾乱のメカニズム解明のための数値モデルの高度化
集中豪雨雪・地形性強風などのメカニズムを解明するために、高分解能数値メソスケールモデル(非静力学モデル)の開発・改良に関する研究を行なった。 - (c)
- 数値モデルによる台風の予測の研究
台風の強度予報や強雨、強風の分布予測の精度を向上するため、高精度台風モデルの開発に関する研究を行なった。 - エ
- 独立行政法人交通安全環境研究所の研究
- (a)
- 正面衝突時の車両相互の特性が乗員障害に及ぼす影響に関する研究
車、対車衝突の2台の車の安全性(コンパティビリティ)の試験法を検討するため、車群分析、構造分析、衝突試験について検討を行なった結果、衝突時のコンパティビリティを満たすために車の備えるべき要件が明らかになった。さらに、コンパティビリティを評価するための試験法として適している試験法の組合せについて明らかにした。 - (b)
- 自動車の側面衝突時の乗員保護性能に関する調査
車高の高いSUV等が車高の低い一般乗用車に衝突した場合の乗員傷害を軽減することを目的として、車高の高い自動車が一般の乗用車に側面衝突する実験及び車高の高い自動車を模擬したMDBが一般の乗用車に側面衝突する実験等を行なった。その結果から、車高の高い車両、対小型乗用車の衝突現象と乗員障害に関してのデータが得られ、乗員障害の発生要因検討の資料が得られた。 - (c)
- 危険物を運搬するタンクローリー等の横転防止に関する基準策定のための調査
タンクローリー等の貨物自動車の横転時までの車両の運動特性を調査するため、荷台上に高さを可変として重錘を搭載し、静的な傾斜角試験及び定常円旋回試験、レーンチェンジ試験等の各種の走行試験を行なった。これらにより得られたデータから、横転までの荷重移動やローリング・ヨーイング方向動的応答特性等の運動特性について解析を行なうとともに、ドライバーによる各種の操舵が加わる場合等についての試験方法に関して検討を行なった。 - (d)
- 輸入自動車の審査検査時における灯火器の基準適合性評価に関する調査
夜間走行時の視認性を向上させるためのアダプティブ・フロント・ライティングシステム(AFS)について、シュミレーション計算を行なうことにより、対向車に対する眩惑の観点からその有効性、問題点を検討した。また、この計算を行なうためのパラメータを得る目的で、カーブ走行時のドライバーの視線移動量を測定した。 - オ
- 独立行政法人北海道開発土木研究所の研究
- (a)
- 積雪寒冷地における道路・舗装構造等に関する研究
凍結路面対策として、凍結防止剤等の散布・選定基準の検討及びすべりを抑制する舗装技術、路面の粗面化等維持管理技術の検討を行なった。また、北海道の地域特性に適した高規格幹線道路の構造及び排水性舗装について検討を行なった。 - (b)
- 積雪寒冷地における重大な交通事故の防止に関する研究
積雪寒冷な気象条件に起因する重大な交通事故について、交通事故分析システムにより要因分析及びその対策の検討を行うとともに、視程障害時におけるドライバーの視程変動及び気象・交通情報提供の在り方に関する基礎試験・検討を行なった。また、苛酷な気象条件下における防雪施設の有効性及び雪崩発生危険度評価方法の検討を行なった。 - (c)
- インターネット技術を活用した道路情報システム、冬期道路の安全走行支援システムに関する研究
積雪寒冷地における高度道路情報システムへのXML(Extensible Markup Language)技術の活用について検討を行なった。また、安全走行支援システムにおける積雪寒冷地に適した検知及び情報提供技術の検討を行なった。 - (d)
- 冬期道路における人の挙動に配慮した技術に関する研究
冬期道路におけるバリアフリー等に関する文献・アンケート調査、ドライバーの運転挙動等に関する検討を行なった。
2 道路交通事故原因の総合的な調査研究の充実・強化
道路交通法の交通事故調査分析センターの指定を受けている(財)交通事故総合分析センターは、官民それぞれが実施する交通安全対策をより一層効果的なものとし、安全で快適な交通社会の実現に寄与するため、交通事故と人・道・車に関する各種の分析・調査研究を行なっている。
同センターでは、交通事故、運転者、道路、車両等に関する各種データを統合したデータベースを作成し、幹線道路において事故が多発している地点を抽出するなど、交通安全対策に直結する多角的なマクロ統計分析を行なっている。
さらに、交通事故の原因をより総合的且つ科学的に検討するために、主に茨城県つくば市及び土浦市周辺で、実際の交通事故現場への臨場や医療機関等との連携による事故事例調査(ミクロ調査)を実施している。こうしたミクロ調査は平成13年までに2,700件を超える事故について実施されており、マクロ、ミクロ両面からの総合的な交通事故分析・調査研究が更に進められることが期待されている。
また、平成13年度には、低速域で発生する交通弱者の歩行中の事故防止対策に関する調査研究、高速道路逆走に関する調査研究等各種の調査研究を実施するとともに、第4回研究発表会を開催するなど活発な調査研究活動を展開した。
なお、同センターの調査研究の成果は、それぞれ報告書としてまとめられ公表されるほか、小冊子「イタルダ・インフォメーション」として関係機関・団体に配布され、広く一般に紹介されるなど交通安全意識の高揚に貢献している。