平成15年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第1節 海上交通環境の整備

第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第1節 海上交通環境の整備

1 交通安全施設等の整備

(1)開発保全航路の整備
 社会資本整備重点計画に基づき、平成15年度は東京湾口航路や関門航路等の開発保全航路に指定されている16航路においてしゅんせつ等を行い海上ハイウェイネットワークの構築を推進した。
(2)港湾の整備
 社会資本整備重点計画に基づき、平成15年度は事業費5,033億円(うち国費3,014億円)をもって港湾整備事業を実施し、その一環として海上交通の安全性の向上を図るため、防波堤、航路、泊地等の整備を青森港等55港において、また、沿岸域を航行する小型船舶の緊急避難に対応するため、避難港の整備を下田港等8港において効果的・効率的に行った。
(3)水産基盤の整備
 漁港漁場整備長期計画(平成14~18年度)に基づき、地域水産物供給基盤整備事業、広域漁港整備事業及び漁港漁場機能高度化事業等を実施し、外郭施設等の整備を通じて漁船の安全の確保を図った。
 また、災害時に地域の救援活動等の拠点となる漁港において、周辺の漁港等との連携に配慮しつつ、救援船等に対応できる泊地、耐震性を強化した岸壁、輸送施設等の整備を推進した。
(4)航路標識等の整備
 港湾及び航路の整備の進展、船舶の高速化等により変化する海上交通環境に適応した灯台、灯浮標、船舶通航信号所等の航路標識の整備を実施している。平成15年度末現在で5,600基(光波標識5,426基、電波標識123基、音波標識18基、その他の標識33基)の航路標識を管理しており、15年度は事業費52億円をもって8箇所の新設整備及び既設の航路標識の光力増大等の機能向上、老朽化した航路標識施設、機器の代替更新等624箇所の改良改修を行った。
(5)港湾の耐震性の強化
 社会資本整備重点計画に基づき、平成15年度は青森港等で耐震強化岸壁の整備を行った。また、川崎港等で防災拠点緑地を整備するとともに、千葉港等で避難緑地を整備した。加えて名古屋港等でコンテナターミナル等の耐震強化を行った。
 また、これらを補完する施設として、室蘭港において、災害時に被災地に曳航し、救急・救援活動の拠点となる「浮体式防災基地」を配備した。

2 交通規制及び海上交通に関する情報提供の充実

(1)ふくそう海域における船舶交通安全対策の推進
 船舶交通のふくそうする東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海に海上交通安全法(昭47法115)を適用して11の航路を設定し、航路航行義務等特別の交通ルール等を定めるとともに、航路の航行管制を行い、船舶交通の安全を図っている。また、狭あいな海域に多数の船舶が頻繁に出入りする全国の501港に、港則法(昭23法174)を適用して港内における特別の交通ルール等を定めている。このうち、特に入出港船舶等の多い86港を特定港に指定し、上記規制に加え入出港の届出等の船舶動静を把握するための措置を定めるとともに、港内の航行管制を行うほか、危険物荷役を規制するなど、港内における船舶交通の安全と港内の整頓を図っている。なお、港湾施設整備の進ちょく等に伴う各港における船舶交通の実態の変化に適切に対応するため、港域の拡張、港区及び航路の見直しなど港則法施行令及び同規則の一部改正を行った(平成15年7月1日施行)。
 また、船舶交通のふくそうしている海域の安全性と運航能率の向上を図るために、海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムである海上交通情報機構等を整備し、海上交通センター等が運用を行っている。平成15年7月1日には、伊勢湾海上交通センターの運用を開始した。
 このほか、新たな交通体系の検討や次世代海上交通システム等のソフト施策と、国際幹線航路の整備や中枢・中核国際港湾の整備等のハード施策とを有機的に組み合わせることにより、船舶航行の安全性と海上輸送の効率性を両立させた海上交通環境として海上ハイウェイネットワークを構築するための整備等を行った。特に、船舶自動識別装置(AIS)の設備義務化及び東京湾口航路整備事業の推進を踏まえ、東京湾における新たな交通体系の構築について、ビジュアル操船シミュレーション等を用いた安全性と効率性の観点からの検討、AISを活用した次世代型航行支援システムの整備及び高速航行に必要な技術基準の策定等を推進し、湾内航行のノンストップ化の実現に向け、安全かつ効率的に航行できる海上交通環境の整備を行った。
※シミュレーション
起こり得る状況をさまざまに想定して行う実験(模擬実験)のこと
(2)海図・水路書誌等の整備及び水路通報等の充実
海図、水路書誌等の整備
水路測量、海象観測等を実施し、航海の安全のために不可欠な航海用海図(紙海図及び電子海図)、航海参考用としての海流図、潮流図等の特殊図を刊行しており、特に航海用海図については、補正図等により常に港湾、航路の現状に即した最新の状態を維持するよう努めた。
平成15年度には、大阪湾北東部等の沿岸測量、常滑港及びその付近の港湾測量及び京浜港等の補正測量を実施し、紙海図を新改版したほか、補正図を刊行した。なお、紙海図の改版に併せ、管区海上保安本部が設定している航法の内容又は当該情報の所在に関する情報を記載した。さらに、航海用海図に表現できない航海の安全のために必要な港湾・航路、気象・海象、航路標識等の状況について詳細に記載した水路書誌を新改版するとともに、外国人の運航する船舶の海難防止対策の一環として、英語版海図及び英語版水路誌を刊行した。
また、従来の紙海図と同程度の情報量と精度に加え、画面上に自船等の位置、速力、針路等の航海の安全に必要な情報を表示できる電子海図表示システムに必要な航海用電子海図の最新維持に努めた。
一方、(財)日本水路協会においては、平成15年度は、紙海図の内容を簡略化した航海用電子参考図(ICメモリーカード)9種類の更新版を発行したほか、パソコン用の航海参考図(CD‐ROM)5種類の更新版を発行した。
このほか、離島や沿岸域において火山噴火、地震、津波等の災害が発生した場合における海上からの救難・救助活動を迅速かつ適切に実施するため、海岸線、水深等の自然情報、公共機関所在地等の社会情報及び災害危険地、避難地等の防災情報を網羅した沿岸防災情報図の整備を行った。
水路通報、航行警報等の充実
水路図誌を最新のものに維持するための情報、船舶交通の安全に必要な情報等を掲載した水路通報及び管区水路通報を毎週一回発行し、インターネットでも提供した。平成15年には約2万6千件の情報を水路通報及び管区水路通報として提供したほか、航海用電子海図の更新情報をCD‐ROM化した電子水路通報として発行した。
また、航行の安全のために緊急に周知を必要とするものについては、衛星通信、インターネット等によりNAVAREA XI航行警報、NAVTEX航行警報、日本航行警報、地域航行警報として航行船舶に通報したほか、携帯電話、ファクシミリ、ラジオ、漁業無線局等を通じて情報を提供した。平成15年には約1万2千件の情報を航行警報として提供した。
さらに、我が国周辺海域における海流・海氷等の海況を取りまとめた海洋速報、黒潮等の海流の状況を短期的に予測した海流推測図等を海流通報として提供した。
※NAVAREA XI
大洋を航海する船舶の安全のために緊急に通報する必要のある情報をインマルサット静止衛星を利用した高機能グループ呼び出しによる放送で自動印字式(英語)により提供される航行警報
※NAVTEX
世界的に統一された航行警報で、各国が沿岸地域(距離約300海里内(約600km))において、航行の安全のための緊急を要する情報を自動印字方式により、航行船舶へ提供しているもの
(3)気象情報等の充実
 海上交通に影響を及ぼす自然現象について、的確な実況監視を行い、適時・適切に予報・警報等を発表・伝達して、事故の防止及び被害の軽減に努めるとともに、これらの情報の内容の充実と効果的利用を図るため、第1編第1部第2章第3節7(3)で述べた施策を講じた。また、波浪や高潮の予測モデルの運用及び改善を行うとともに、海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)において最大限有効に利用できるよう海上予報・警報の精度向上及び内容の改善に努めたほか、主に次のことを行った。
船舶に対する気象情報等の提供
(ア)
気象・海象に関する情報の提供
気象庁船舶気象無線通報、気象庁気象無線模写通報、海上保安庁の海岸局による地方海上予報・警報の放送、NHKによるラジオの漁業気象通報等によって、海上の気象実況及び予報・警報や沿岸及び外洋波浪、海面水温、海流、海氷等の実況及び予想に関する情報を提供した。
(イ)
船舶気象通報
沿岸海域を航行する船舶や操業漁船等の安全を図るため、全国各地の主要な岬の灯台等106箇所において局地的な風向、風速、波、うねり等の気象・海象の観測を行い、その現況を無線電話、テレホンサービス又はファクシミリで提供する船舶気象通報業務を行った。平成15年には、全国で約553万件のテレホンサービスの利用があった。
また、平成15年度には千葉地区等14地区において、沿岸域情報提供システムの整備を行い、一般船舶やプレジャーボート等に対しても、気象・海象の情報、船舶交通の安全に必要な情報等を、インターネット、携帯電話等を通じて提供した。
気象・海象に関する知識の普及等
海難防止に関する講習会等に職員を派遣するなど、機会をとらえて気象・海象に関する知識の普及や技術指導を行うとともに、エルニーニョ現象の動向に関する情報を報道機関を通じて周知した。
※エルニーニョ現象
太平洋東部赤道域のペルー沖から日付変更線にかけての広い海域で、海面水温が平年に比べて高い状態が半年から1年半程度継続する現象

3 高齢社会に対応した旅客船ターミナル等の整備

 高齢者、身体障害者等も含めたすべての利用者が旅客船、旅客船ターミナル、係留施設、マリーナ等を安全かつ身体的負担の少ない方法で利用・移動できるよう段差の解消、誘導・警告ブロックの整備等を推進しており、平成15年度は、鳥羽港で船舶乗降時の潮位差による段差の解消を図る浮桟橋を設置する等施設のバリアフリー化を行った。

※バリアフリー

高齢者や身体障害者等が社会生活をしていく上で障壁となるもの(段差など)がない状態

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