平成20年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況 平成21年度 交通安全施策に関する計画(概要)
トピック
新交通ビジョン~海上交通の安全確保に向けての新たな展開~

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新交通ビジョン~海上交通の安全確保に向けての新たな展開~

 我が国における海難の発生隻数は、ほぼ横ばいの状態が続いており、海難に伴う死者・行方不明者は減少傾向にあるものの毎年多くの人命が失われている。
 船舶の大型化・高速化の進展、我が国の航法ルールを熟知していない外国籍船舶の増加等により潜在的な海難のリスクが高まっていると考えられる。
 平成19年7月、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とした「海洋基本法」が施行され、効率的かつ安定的な海上輸送の確保並びに海上の安全の確保が国の責務として明記されたことを踏まえ、経済の活性化とより豊かな国民生活の実現に向け、海難のない社会を目指した海上交通安全行政を展開することが求められている。
 さらに平成20年7月、リアルタイムでの船舶の動静把握等を容易にする船舶自動識別装置(AIS)の船舶への搭載義務化が完了し、海上保安庁では我が国沿岸海域におけるAIS陸上局の整備を順次実施し、船舶動静を詳細に把握することで、衝突、乗揚げ等を未然に防止するなど的確な管制・運航支援を行っているところである。
 こうした状況を踏まえ、海上保安庁では海上交通の安全性と効率性を更に向上させ、豊かな国民生活に結びつく、新たな海上交通安全行政の方向性と具体的施策を示す、次世代に向けた「新交通ビジョン」を策定した。
 (国土交通省交通政策審議会海事分科会で審議され、平成20年6月に大臣への答申を得たものである。)

● 新交通ビジョンの重点施策

新交通ビジョンでは、今後5年間に取り組む重点施策を次の6項目としている。

  1. 海難分析・対策立案機能の強化
  2. AISの整備等を踏まえた航行安全対策・効率性の向上
  3. 地域特性に応じたきめ細かな海難防止活動の推進
  4. 特性を活かした安全情報の提供
  5. IT等の最新技術を活用した安全対策の推進
  6. 航路標識の整備・管理のあり方

※AIS(船舶自動識別装置)とは

AISは、船名、大きさ、針路、速力などの航海に関する情報を自動的に送受信する装置で、総トン数300トン未満の旅客船及び総トン数300トン以上の船舶であって国際航海に従事するもの並びに総トン数500トン以上の船舶であって国際航海に従事しないものへの搭載が義務付けられている。

1 海難分析・対策立案機能の強化

 海難調査にあたっては、運輸安全委員会の調査分析等も活用するとともに、海上保安庁の現場機関としての知見を活かした海難分析により、海難減少に取り組んでいくこととしている。
 また海事行政に関わる様々な機関により構成される「関係省庁海難防止連絡会議」を活用し、目標を共有し、関係機関が連携・融合した海難防止施策を展開していくこととしている。

関係省庁と連携した海上保安行政の総合的展開

2 AISの整備等を踏まえた航行安全対策・効率性の向上

(1)ふくそう海域における安全性の向上

 船舶交通がふくそうする狭い水道等において、ひとたび海難が発生すると航路を閉そくする等の大規模海難につながる危険性をはらんでいる。
 海上交通センターにおいてAISなどを活用し、船舶の交通流を整えることにより、海難に繋がる危険な状況の発生を予防するとともに、海域の特性に応じた交通ルールを設定し、危険な状態を惹起させると予想される場合に必要な交通ルールを遵守させるための是正措置や提供する情報等の聴取を義務付けるなど、海上交通センターが講ずる措置の実効性を強化するための制度の充実を図ることとしている。
 また、多くの船舶の動静を効率的に把握する機能を強化するため、運用管制支援システムの導入等のハード面の整備、航路をしょう戒する巡視船艇との情報共有化等の更なる体制強化などに取り組むこととしている。

(2)港内船舶交通の効率化・安全対策の強化

 港内又はその付近海域における、大型船の連続座礁海難の発生、操船不適切を主な要因とする衝突・乗揚げ海難が増加している。
 このため台風等の自然災害時における港内船舶交通の安全対策の強化に取り組んで行くとともに、船舶の動静をリアルタイムに把握できるAISの導入などにより、狭い水路で行き会いが可能となる船舶の範囲を拡大し、安全性を確保しつつ港内船舶交通の効率性の向上に取り組んで行くこととしている。

ふくそう海域における取組み

3 地域特性に応じたきめ細かな海難防止活動の推進

 マリンレジャー中の安全を確保するには、自己責任の意識をいかに高めるかが重要であり、安全教育活動をより効果的・効率的なものとしていくとともに、特にマリンレジャー活動の経験が少ない方々への知識・技能の定着促進や地域における自主的な安全対策の充実・促進のための支援などに重点を置いて取り組んでいくこととしている。
 また、海上での死者・行方不明者の約半数以上は漁船の海難で発生しており、救命胴衣の着用率も低い現状にある。このため、漁業の安全対策に取り組んでいる水産庁や地方公共団体等と十分に連携しながら、地域の特性を十分に踏まえた対策を講じるとともに、漁業協同組合や家族等と共同した安全確保体制の構築・推進に取り組んでいくこととしている。

漁船に対する訪船指導

4 特性を活かした安全情報の提供

 技術の進展に伴い、提供可能となる情報の種類や手法が多様化していく中で、海事関係者等が真に必要とする情報を適切に提供していくために、AISによる航行支援情報の提供、パソコン及び携帯電話のホームページを主体としたMICS(Maritime Information and Communication System;沿岸域情報提供システム)の情報をより充実させ、利用者の利便性と運用の効率性の向上を図る。

5 IT等の最新技術を活用した安全対策の推進

 船舶のAIS画面上に仮想航路標識、気象・海象、推薦航路、航行制限水域、管制状況といった航行の安全に関する様々な情報を、文字だけでなく、操船者に分かりやすくビジュアルな形で、リアルタイムに提供する新たなシステム、ENSS(Electronic Navigation Support System;電子航行支援システム)の構築を図る。また、簡易型AISの普及促進に寄与することとしている。

仮想航路標識を表示したENSSのイメージ

6 航路標識の整備・管理のあり方

 船舶の航海機器等の普及・高度化を踏まえ、既存の航路標識の配置や機能の見直しを行い、船舶交通流を整え、交通秩序の維持・向上を図る。
 また、航路標識の視認性、識別性を向上するため、引き続き航路標識光源のLED(発光ダイオード)化、灯浮標の浮体式灯標化などの高度化整備を進める。
 さらに、航路標識用電源について、太陽光発電などのクリーンエネルギーの活用を推進し、二酸化炭素排出量の削減を図るとともに、地震、台風等の防災対策として航路標識施設の波浪対策、耐震補強等の整備を行い、航路標識の信頼性を向上させる。

太陽光発電を利用した女島灯台

● 目標

以下の施策については、次の目標を揚げ強力に推進していく。

・ふくそう海域における衝突、乗揚げ海難

(目標)衝突・乗揚げ海難のうち施策が対象としている海難(約3割)について、その半減を目指す。

・台風・異常気象下の港内における海難

(目標)安全対策が整った重要港湾における大型船舶の海難をゼロとする。

・プレジャーボート海難

(目標)プレジャーボート海難・プレジャーボートからの海中転落に係る死者・行方不明者数について現状の2割程度減少を目指す。

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