平成26年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況

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第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第3節 船舶の安全な運航の確保

1 船舶の運航管理等の充実

(1)運輸安全マネジメント評価の推進

平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を,26年において248者に対して実施した。


(2)旅客船事業者等に対する指導監督の充実強化

適切な船舶の運航管理の強化や船員の労働環境の整備等を通じた航行の安全を確保するため,全国の地方運輸局等に配置された運航労務監理官は旅客船・貨物船等を対象として,海上運送法(昭24法187),内航海運業法(昭27法151)等に基づく監査を行った。

さらに,大量の輸送需要が発生する年末年始における交通機関の安全性向上を図るため,平成26年12月10日から27年1月10日までの間,「年末年始の輸送等に関する安全総点検」として,海運事業者による自主点検や地方運輸局等による現地確認を行った。この安全総点検では,海運事業者に対し最近の海難等を踏まえた事項を重点的に点検するよう働きかけるとともに,事業者による自主点検の実施率向上を図るため,業界団体を通じた周知等を行った。


(3)安全統括管理者及び運航管理者等に対する研修等の充実

安全統括管理者及び運航管理者に対する研修については,受講者の運航管理に関する知識,意識の向上を図るため,最新の事故事例の分析結果を活用するなどにより,研修水準の向上を図った。また,万一の事故に際しての旅客船乗組員,事業者の対応能力の向上を図るため,旅客船事故対応訓練の充実を図った。


(4)事故再発防止対策の徹底

悪質な法令違反や重大事故等が発生した場合は,運航労務監理官による迅速かつ機動的な監査を実施し,原因の究明,安全管理体制の再構築や運航管理の徹底に向けた法令に基づく関係者の処分や指導,全国における同種事故の再発防止対策等を実施している。

最近の事例を挙げると,平成24年2月7日に阪神港で発生したケミカルタンカーの貨物タンク内で乗組員がガス中毒により死亡した事故では,全国内航タンカー海運組合に対し,毒性を有する貨物を運送する場合の安全対策の徹底について指導したが,同組合では,国土交通省も参加したワーキンググループを設置して,事業者等が講じるべき具体的な安全対策を取りまとめ,25年度中にすべてのケミカルタンカーにおいて必要な対策を講じさせることとした。これを踏まえ,国土交通省では,26年4月以降,各地方運輸局等の担当職員が船舶検査実施等の機会にケミカルタンカー全船を訪船し,安全対策の実施状況の確認,安全対策の説明・指導を進めているところである。

ケミカルタンカー事業者が講じるべき主な安全対策は次のとおりである。

  • 船舶所有者等による訪船指導,遵守事項等の船内掲示
  • 積荷の危険性の周知,検知装置の備付,ガス濃度の計測とその結果の記録
  • 有毒ガス検出時の立入制限,換気等
  • 事故対応に関する教育・訓練,安全対策を取るための余裕ある配船

2 船員の資質の確保

深刻な海難を機に締結された「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)においては,船舶の航行の安全性を担保するための船員の知識・技能に関する国際基準が定められている。同条約に対応し,船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭26法149)に基づく海技士国家試験の際,一定の乗船履歴を求めつつ,最新の航海機器等に対応した知識・技能の確認を行うとともに,5年ごとの海技免状の更新の際,一定の乗船履歴又は講習の受講等を要求することにより,船舶職員の知識・技能の最新化を図っている。また,実践的な訓練を実施するための練習船を整備し,船員教育訓練の充実に努めた。

さらに,船舶の安全な運航を確保し海難事故の未然防止等を図るため,船員法(昭22法100)に基づき,発航前検査の励行,操練の実施,航海当直体制の確保,救命設備及び消火設備の使用方法に関する教育・訓練等について指導を行うとともに,これらの的確な実施を徹底するため,運航労務監理官による監査を行った。


3 船員災害防止対策の推進

第10次船員災害防止基本計画(5か年計画)に基づき,平成26年度船員災害防止実施計画を作成し,安全衛生管理体制の整備とその活動の推進,死傷災害の防止を図るとともに,生活習慣病を中心とした疾病予防対策及び健康増進対策の推進を図るなど,船舶所有者,船員及び国の三者が一体となって船員災害防止対策を強力に推進した。また,船舶所有者等が自主的に船員災害に係るリスクアセスメントとPDCAサイクルという一連の過程を定めて継続的な改善を行うことにより安全衛生水準の継続的かつ段階的な向上を図る「船内労働安全衛生マネジメントシステム」の普及を図った。


4 水先制度による安全の確保

船舶がふくそうする水域等交通の難所とされる水域(全国35カ所)においては,これら水域を航行する船舶に免許を受けた水先人が乗り込んで船舶を導くことにより船舶交通の安全が図られている。当該水先人の業務の的確な実施を確保するため,水先人の免許更新時の講習等を通じた知識・技能の最新化や養成教育の充実等を行うことにより,更なる安全レベルの維持・向上を図っている。


5 外国船舶の監督の推進

船員に求められる訓練,資格証明及び当直基準については,STCW条約等の国際条約で定められているが,我が国近海において,当該条約基準を満たしていない船舶(サブスタンダード船)による海難が少なからず発生していることから,これらの海難を防止し,船舶航行の安全を図るため,関係条約に基づき外国船舶の監督(ポートステートコントロール(PSC))を推進した。さらに,アジア太平洋地域におけるPSCの協力体制に関する覚書(東京MOU)の枠組みに基づき,アジア太平洋域内の加盟国と協力して効果的なPSCを実施し,サブスタンダード船の排除を図った。


6 最新の航海機器の導入等

事業者に対し「AIS」や「国際VHF等」の活用を促すためのパンフレットを作成し,年末年始の安全総点検等の機会を通じて周知を図った。


※ 国際VHF
全世界的に利用されている船舶共通通信システム。


特に漁船による海難を防止するため,関係省庁と連携してAISの有用性に関するパンフレットを作成し,4月から8月の小型船舶等の安全キャンペーンを中心に,漁業者に対して周知を図った。


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