平成26年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第5節 小型船舶等の安全対策の充実
1 小型船舶等の安全対策の推進
(1)小型船舶等向け海上安全情報の提供強化
プレジャーボートや小型船舶等に対して,気象・海象の情報等,船舶交通の安全に必要な情報等をインターネット等で提供する沿岸域情報提供システム(MICS)の運用を行った。また,事前に登録されたメールアドレスに緊急情報等を電子メールで配信するサービスを実施している。
そのほか,マリンレジャー情報提供の窓口としての「海の相談室」及び「マリンレジャー行事相談室」の利用促進を図るとともに,安全に楽しむための情報をホームページ上で提供できるよう情報提供体制の充実・強化を図った。
(2)小型船舶操縦者の遵守事項等の周知・啓発
小型船舶の航行の安全の確保のために,船舶職員及び小型船舶操縦者法において,小型船舶に乗船させるべき者の資格及び小型船舶操縦者の遵守すべき事項等が定められており,試験及び講習等を通じて,小型船舶操縦者として必要な知識及び能力を有していることを確認した上で,操縦免許の付与及び操縦免許証の更新を行い,小型船舶操縦者の資質の確保に努めた。
また,関係機関等と連携し,マリーナ等において,発航前点検が不十分なことによる海難が多く発生していることに重点を置き,安全運航に必要な事項の周知・啓発を行うとともに,違反事項の調査・取締を行うことにより,小型船舶操縦者の安全意識の向上を図った。
(3)ライフジャケット着用率の向上
ライフジャケットの着用が海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者の減少に大きく寄与していることから,ライフジャケット着用推進モデル漁協,同マリーナの指定拡充等によりライフジャケット着用率の向上を図った。また,海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者の半数以上を漁船が占めていることから,漁船の労働環境の改善や海難の未然防止等について知識を有する「安全推進員」を養成し,漁業労働環境の向上等を通じて海難事故の減少を図るとともに,ライフジャケット着用推進のための普及啓発や漁業種類・地域に適したライフジャケットの選定及び着用方法に関する調査等を行った。
また,漁協女性部等によるライフジャケット着用推進員(LGL:ライフガードレディース)の活動支援を実施するなど,漁業関係者自らが主体的にライフジャケット着用推進に取り組むよう働きかけ,ライフジャケット着用率の向上を図った。加えて,ライフジャケットの常時着用のほか,防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保,緊急通報用電話番号「118番」の有効活用を3つの基本とする「自己救命策確保キャンペーン」を新聞,テレビ,ラジオ等の媒体その他のあらゆる手段を通じて,機会あるごとに強力に推進した。
(4)最新航海機器の導入等
事業者,ユーザーに対し「AIS」や「国際VHF等」の活用を促すためのパンフレットを作成し,年末年始の安全総点検等の機会を通じて周知を図った。
特に漁船による海難を防止するため,関係省庁と連携してAISの有用性に関するパンフレットを作成し,4月から8月の小型船舶等の安全キャンペーンを中心に,漁業者に対して周知を図った。
2 プレジャーボート等の安全対策の推進
(1)プレジャーボート等の安全に関する指導等の推進
プレジャーボート等の船舶事故隻数は,全船舶事故隻数に占める割合が最も多く,平成26年は約4割を占めている。24年2月28日の関係省庁海難防止連絡会議において,今後27年までの重点対象事項を「小型船の安全対策の推進」とし,海難防止対策の推進に関する海事関係機関の連携を強化して海難隻数の減少を目指すこととした。また,海上保安庁では,プレジャーボート等の海難防止のためには,マリンレジャー愛好者の安全意識を高揚させることが重要であることから,海難防止講習会や訪船指導の実施等のあらゆる機会を通じて海難防止思想の普及を図るとともに,小型船安全協会等の民間組織や海上安全指導員などのボランティアの活動に対する支援を行い,啓発活動を主体とした海難防止活動を行うほか,衝突,転覆といった死者・行方不明者及び負傷者を伴うことが多い海難については,現場指導を含めた関係機関等と連携した効果的な海難防止活動を推進した。
さらに,海上交通ルールの励行,インターネットや携帯電話等による気象・海象や航行警報等の安全に資する情報の早期入手,その他安全運航のための基本的事項の励行等についても,パンフレット等を活用して広く指導を行った。また,マリンレジャー関係団体との協定締結により,情報提供及び事故防止対策を効果的に行う枠組を構築した。
国土交通省では,小型船舶の検査を実施している日本小型船舶検査機構と連携して,適切な間隔で船舶検査を受検するよう,リーフレット等を活用し,関係者に周知を図った。
また,水上オートバイによる船舶事故の発生状況を踏まえ,関係法規等の遵守について,リーフレットを活用し,<1>全国の各地方運輸局等の職員による水上オートバイを対象とした周知指導活動や全国の海上保安庁,警察等と連携したマリーナ等関係各所に対するパトロール・指導啓発活動,<2>水上オートバイの操縦免許の取得時及び免許証更新時における小型船舶操縦者に対する関係法規の遵守及び海難防止のための意識の高揚啓発,<3>水上オートバイの販売時及びゲレンデ利用時における小型船舶操縦者及び関係者に対する安全啓発等について,関係機関・団体と一層の連携を図りながら実施した。
警察では,港内その他の船舶交通の多い水域,遊泳客の多い海水浴場,マリンレジャースポーツの利用が盛んな水域等に重点を置いて,警察用船舶により安全指導を行うとともに,警察用航空機との連携によるパトロールや関係団体との協力,連携を図り,マリンレジャー提供業者に対する安全対策の指導,マリンレジャー利用者等の安全意識の啓発活動等を通じて,水上安全の確保を図った。
(2)「ミニボート(長さ3m未満,機関出力1.5kW未満で,検査・免許が不要なボート)」の安全対策の実施
ミニボートの安全安心な利用を推進するため,転覆等のトラブルの原因の分析と対策案の検討等を踏まえたガイドラインに基づき,ユーザーへの安全周知活動を図るとともに,関係団体等に働きかけ,安全講習会の開催を推進した。
(3)河川等における事故防止対策の推進
平成24年12月に,運輸安全委員会から「第十一天竜丸転覆事故調査報告書」が公表されたことを受け,国土交通省では川下り船の安全対策検討委員会を開催し,25年4月に,運航管理の充実,船頭の操船技量と経験の充実,危険個所情報の把握,救命胴衣の着用徹底等を内容とする「川下り船の安全対策ガイドライン」を策定した。
これを踏まえ,川下り船のシーズンを迎えるゴールデンウィーク前から夏期休暇期間中にかけて,警察等の協力を得て,全国の川下り船事業者等に対する訪船指導により,「川下り船の安全対策ガイドライン」に基づく安全運航に関する指導を実施した。
3 ボートパーク,フィッシャリーナ等の整備
(1)「プレジャーボートの適正管理及び利用環境改善のための総合的対策に関する推進計画」の策定
国土交通省と水産庁は,10年間で放置艇を解消することを目標として,港湾・河川・漁港等の管理者,マリン関係団体,プレジャーボート利用者等が連携して取り組むべき施策を総合的にとりまとめた「プレジャーボートの適正管理及び利用環境改善のための総合的対策に関する推進計画」を平成25年5月に策定した。
(2)ボートパーク等の整備
放置艇問題を解消し,港湾の秩序ある利用を図るために,必要最低限の施設を備えた簡易な係留・保管施設であるボートパークに,プレジャーボート等の収容が図られるよう取り組んだ。
(3)フィッシャリーナ等の整備
漁港においては,防波堤や航路泊地等の整備を通じ,漁船等の安全の確保を図るとともに,漁船やプレジャーボート等の秩序ある漁港の利用を図るため,周辺水域の管理者と連携し,プレジャーボート等を分離収容するための新たな静穏水域の確保や,既存の静穏水域を活用した収容施設等の整備を図った。
(4)係留・保管能力の向上と放置艇に対する規制措置
放置艇問題の解消に向け,ボートパーク等の整備による係留・保管能力の向上と併せて,港湾法(昭25法218)・漁港漁場整備法(昭25法137)に基づく船舶の放置等を禁止する区域の指定等,公共水域の性格や地域の実情などに応じた適切な規制措置の実施を推進した。
4 漁船等の安全対策の推進
漁船等の安全に関する指導等の推進
漁船の船舶事故隻数は,全船舶事故隻数に占める割合が多く,平成26年は全体の約3割を占めている。また,船舶事故による死者・行方不明者数のうち約4割を漁船の乗組員が占めている。これら漁船の事故原因をみると,見張り不十分や操船不適切といった人為的要因によるものが全体の約7割を占めている。
海上保安庁では,漁船の海難を防止するため,関係省庁と連携の下,地域ごとにきめ細かく海難防止講習会や訪船指導等を実施し,安全意識の高揚・啓発を図るとともに,出漁前の船体や機関等の点検,見張りの励行,インターネットや携帯電話等による気象・海象情報や航行警報等の的確な把握などの安全運航に関する留意事項,海事関係法令の遵守等について指導及び簡易型AIS搭載の普及促進等を行った。
国土交通省でも,関係省庁と連携してAISの有用性に関するパンフレットを作成し,4月から8月の小型船舶等の安全キャンペーンを中心に,漁業者に対して周知を図った。
また,水産庁では,漁船の海難や海中転落事故に対する安全対策の強化を図るため,漁船の労働環境の改善や海難の未然防止等について知識を有する「安全推進員」を養成し,漁業労働環境の向上等を通じて海難事故の減少を図るとともに,ライフジャケット着用推進のための普及啓発や漁船へのAISの普及促進を行うなど,所要の施策を講じた。