第1編 陸上交通 第2部 鉄道交通 第1章 鉄道交通事故の動向
※鉄道交通安全対策の今後の方向性 第10次交通安全基本計画より
第1編 陸上交通
第2部 鉄道交通 第1章 鉄道交通事故の動向
鉄道交通安全対策の今後の方向性
第10次交通安全基本計画より
1 基本的な考え方
人や物を大量に,高速に,かつ,定時に輸送できる鉄道は,年間230億人が利用する国民生活に欠くことのできない交通手段であり,国民が安心して利用できる,一層安全な鉄道輸送を目指し,重大な列車事故やホームでの事故への対策等,各種の安全対策を総合的に推進していく必要がある。
2 鉄道交通の安全についての目標
(1)鉄道事故の状況
鉄道の運転事故は,長期的には減少傾向にあるが,近年は横ばいの傾向にあり,平成23年からは800件程度で推移し,27年は742件であった。
また,平成27年の死者数は273人であり,負傷者数は397人であった。
なお,平成17年には乗客106人が死亡したJR西日本福知山線列車脱線事故,及び乗客5人が死亡したJR東日本羽越線列車脱線事故が発生したが,18年から27年までの間は乗客の死亡事故が発生しなかった。
(2)交通安全基本計画における目標
- <1> 乗客の死者数ゼロを目指す。
- <2> 運転事故全体の死者数減少を目指す。
3 鉄道交通の安全についての対策
(1)視点
鉄道の運転事故は長期的には減少傾向にあり,これまでの交通安全基本計画に基づく施策には一定の効果が認められる。しかしながら,一たび列車の衝突や脱線等が発生すれば,多数の死傷者を生じるおそれがあることから,一層安全な鉄道輸送を目指し,重大な列車事故の未然防止を図るため,総合的な視点から施策を推進する。
また,ホームでの接触事故等の人身障害事故と踏切障害事故を合わせると運転事故全体の約9割を占めており,近年,その死者数はほぼ横ばいであることから,利用者等の関係する事故を防止するため,効果的な対策を講ずる。
(2)講じようとする主な施策 【重点施策及び新規施策】
- 鉄道施設等の安全性の向上
- 鉄道交通の安全に関する知識の普及
- 保安監査の実施
- 運輸安全マネジメント評価の実施
<1> 鉄道交通環境の整備
鉄道交通の安全を確保するためには,鉄道施設,運転保安設備等について常に高い信頼性を保持し,システム全体としての安全性を確保する必要がある。このため,運転保安設備の整備等の安全対策の推進を図る。
<2> 鉄道交通の安全に関する知識の普及
鉄道利用者にホームにおける「ながら歩き」の危険性の周知や酔客に対する事故防止のための注意喚起を行うプラットホーム事故0(ゼロ)運動等において広報活動を積極的に行い,鉄道の安全に関する正しい知識を浸透させる。
また,これらの機会を捉え,駅ホーム及び踏切道における非常押ボタン等の安全設備について分かりやすい表示の整備や非常押ボタンの操作等の緊急措置の周知徹底を図る。
<3> 鉄道の安全な運行の確保
重大な列車事故を未然に防止するため,鉄道事業者への保安監査等を実施し,適切な指導を行うとともに,万一大規模な事故等が発生した場合には,迅速かつ的確に対応する。さらに,運転士の資質の保持,事故情報及び安全上のトラブル情報の共有・活用,気象情報等の充実を図る。
また、鉄道事業者の安全管理体制の構築・改善状況を国が確認する運輸安全マネジメント評価を行う。運輸安全マネジメント評価にて,事業者によるコンプライアンスを徹底・遵守する意識付けの取組を的確に確認する。
<4> 鉄道車両の安全性の確保
発生した事故や科学技術の進歩を踏まえつつ,適時,適切に鉄道車両の構造・装置に関する保安上の技術基準を見直す。
<5> 救助・救急活動の充実
鉄道の重大事故等の発生に対して,避難誘導,救助・救急活動を迅速かつ的確に行うため,主要駅における防災訓練の充実や鉄道事業者と消防機関,医療機関その他の関係機関との連携・協力体制の強化を図る。
また,鉄道職員に対する,自動体外式除細動器(AED)の使用も含めた心肺蘇生法等の応急手当の普及啓発活動を推進する。
<6> 被害者支援の推進
公共交通事故による被害者等への支援の確保を図るため,平成24年4月に,国土交通省に公共交通事故被害者支援室を設置,公共交通事故の被害者等への支援の取組を着実に進めていく。
<7> 鉄道事故等の原因究明と再発防止
鉄道事故及び鉄道事故の兆候(鉄道重大インシデント)の原因究明を迅速かつ的確に行うため,調査を担当する職員への専門的な研修を充実させ,調査技術の向上を図るとともに,各種調査用機器の活用により分析能力の向上に努める。
また,事故等調査結果等に基づき,必要な施策又は措置の実施を求め,鉄道交通の安全に寄与する。
<8> 研究開発及び調査研究の充実
交通安全環境研究所及び鉄道総合技術研究所において、鉄道の安全性向上に関する研究開発及び調査研究を推進する。