第2編 海上交通 第2章 海上交通安全施策の現況
第4節 船舶の安全性の確保
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第4節 船舶の安全性の確保
1 船舶の安全基準等の整備
船舶の安全性確保のため,国際海事機関(IMO)において「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)等に基づいて国際的な安全基準が定められるとともに,我が国では船舶安全法(昭8法11)及びその関係省令において関連の構造・設備等の基準を規定している。
SOLAS条約等については船舶のより一層の安全性向上のため,IMOにおいて随時見直しが行われているが,我が国は,世界有数の造船・海運国としてIMOにおける審議に積極的に参画しており,技術革新等に対応した合理的な国際基準の策定に向け,主導的な役割を果たしている。
平成28年度は,水素社会の実現に向けて,液化水素運搬船の安全要件に関する暫定勧告の策定に貢献した。また,平成28年11月に開催されたIMO会合においては,近年旅客フェリーの火災事故が多発していることが指摘され,今後IMOで旅客フェリーの火災安全に関する基準を見直すことになった。我が国も国内の火災事例を踏まえた新しい火災対策を紹介した。
国内においては,コンテナ重量の検証を義務付ける改正SOLAS条約を我が国でも担保するため,平成28年4月に国際海上輸出コンテナの総重量の確定に係る荷送人等に対し,届出・登録を求める国内法令の整備を実施した。また,29年1月には,極海特有の危険性を考慮した極海コード及び液化天然ガス(LNG)等の低引火点燃料を使用する船舶のための国際ガス燃料船コードの義務化等国際的な基準の改正に伴い,国内法令の整備を実施した。このほか,船舶・舶用機器のインターネット化(IoT)やビッグデータ解析等を活用した技術の開発を支援した。
さらに,海事分野における水素の利用促進を図るため,燃料電池船の実用化に向けた安全ガイドラインの策定に関して継続的に取り組んだ。
2 船舶の検査体制の充実
海難事故が発生した場合には,人命及び船舶の損失,海洋への汚染等多大な影響を社会に及ぼすこととなる。このため国土交通省海事局では関係法令に基づき,海事技術専門官が人命及び船舶の安全確保,海洋環境の保全を目的とした検査を実施している。
近年の技術革新,海上輸送の多様化に応じた従来の設計とは異なる船型を有する船舶の増加や,国際的な規制強化に伴い,高度で複雑かつ広範囲にわたる検査が必要となっている。こうした状況に適切に対応していくため,ISO9001に準じた品質管理システムに則り,船舶検査体制の品質の維持向上を図っている。
また,危険物の海上輸送については,IMOで定められる国際的な安全基準に基づき,容器,表示等の運送要件及び船舶の構造,設備等の技術基準について国内規則の整備を図るとともに,危険物運搬船に対して運送前の各種検査や立入検査を実施することにより,安全審査体制の充実を図り,海上輸送における事故防止に万全を期している。
さらに,海上における人命の安全及び海洋環境保護の観点から,船舶及びそれを管理する会社の総合的な安全管理体制を確立するための国際安全管理規則(ISMコード)は,ヒューマンエラーの防止等に極めて有効であるため,同コード上強制化されていない内航船舶に対しても,事業者等が構築した安全管理システムを認証するスキームを運用しており,ヒューマンエラーに起因する海難事故の防止を図っている。
3 外国船舶の監督の推進
船舶の構造・設備等については,SOLAS条約等の国際条約に定められているが,これを遵守しない船舶(サブスタンダード船)が人命の安全や海洋環境等に多大な影響を及ぼす重大事故を引き起こす可能性がある。このようなサブスタンダード船を排除するため,関係条約に基づき外国船舶の監督(PSC)を推進した。さらに,東京MOUの枠組みに基づき,アジア太平洋域内の加盟国と協力して効果的なPSCを実施した。なお,近年の東京MOUにおけるサブスタンダード船の拘留率は年平均4%まで減少した。