トピックス
「交通事故で家族を亡くした子供の支援に関するシンポジウム」の開催について

目次]  [前へ]  [次へ

第10次交通安全基本計画(平成28年3月11日中央交通安全対策会議決定)では,「被害者支援」を交通安全対策の柱の一つに掲げ,交通事故被害者とその家族や遺族(以下「交通事故被害者等」という。)への支援を推進することとしている。

警察庁においては,交通事故被害者等が深い悲しみや辛い体験から立ち直り,回復に向けて再び歩み出すことができるような土壌を醸成し,交通事故被害者等の権利・利益の保護を図ることを目的とした「交通事故被害者サポート事業」(以下「サポート事業」という。)を実施している(平成28年4月1日,内閣府から警察庁に業務移管)。サポート事業では,交通事故で家族を亡くした子供の支援に向けて広く情報発信するために,一般の方も聴講が可能な「交通事故で家族を亡くした子供の支援に関するシンポジウム」を開催している。

平成28年度は愛知県において,専門家による基調講演やご遺族の方の講演,子供の頃に交通事故で家族を亡くしたご遺族をパネリストに迎え,パネルディスカッションを実施した。

交通事故で家族を亡くした子供の支援に関するシンポジウム

・仙台育英学園同窓会 会長 瀬戸信男氏による基調講演
・ご遺族による講演

瀬戸氏は,「5.22 あの日のこと忘れておりませんか?」と題して,仙台育英学園の教頭であった平成17年5月22日,飲酒運転の車両により,学校行事に参加中の仙台育英学園高等学校生の尊い命が奪われる交通死傷事故が発生した際に,学校として行った保護者への説明,生徒への対応のほか,その後,生徒を中心とした飲酒運転根絶を訴える街頭署名運動,この事故を契機に制定された宮城県飲酒運転根絶に関する条例(平成19年10月制定),今日まで仙台育英学園生徒に引き継がれている飲酒運転根絶に関する様々な取組等について講演した。

また,当時3歳であった子供を交通事故で亡くしたご遺族は,事故の状況,事故に対する悔しさと自責の念,その後の民事訴訟に係る状況等のほか,そのような中で,家族の変化に気付くことができなかった反省の思いと,その後の子供たちとの信頼関係を取り戻すための日々について講演した。

瀬戸信男氏による基調講演

パネルディスカッション「子供の頃に交通事故で家族を亡くすということ」

コーディネーター:飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会幹事 井上郁美氏
パネリスト: 子供の頃に交通事故で家族を亡くしたご遺族 3名

子供の頃に交通事故で家族を亡くしたご遺族3名の方が,大切な家族を亡くした当時の体験談や辛かったこと,救われた出来事などについて話した。その後,ご遺族3名のお話を踏まえ,井上氏のコーディネートのもと,ディスカッションが行われた。

子供の頃に交通事故で家族を亡くした方のお話(女性)

生まれる前に父を亡くしましたが,祖父母や親戚など様々な方々からご支援をいただいたおかげで小さいころから寂しい思いをすることなく生活をさせていただいたと,ありがたく思っています。父親がいないため,どこにも連れて行けない代わりにと,母の勧めでボーイスカウトに入り,小さいころから貴重な経験をさせてもらいました。また,交通遺児福祉基金やナスバの方々が旅行に連れて行ってくれたことで家族の思い出ができました。母やご支援をしてくださった方々へ本当に感謝しています。

子供の頃に交通事故で家族を亡くした方のお話(女性)

8歳の時,クリスマスイブに父を亡くしました。寒い冬に父のいない生活が始まり,かなり心身ともに疲れ果てていたと思います。中学3年の時,交通遺児育英会に応募し奨学金がもらえることになり,また大学進学に合わせて交通遺児のための寮「心塾」に入ることができました。交通遺児だけで住む寮というのは,自分の心を開放するいい機会でした。中学・高校の頃,周囲の人は私に父親がいないことを知っていたので,「父の日」というワードは禁句でした。心塾ではそのような禁句はなく普通に口にするので,自分が素でいることができました。交通遺児は奨学金を借りやすいですが,将来どのように返済していくかを考えておくことが大切だと思います。給付の奨学金等,さらに手厚い支援があれば,精神面の安心にもつながっていくと思います。

子供の頃に交通事故で家族を亡くした方のお話(女性)

中学2年の時,兄を亡くしました。兄はひき逃げされたことを警察から聞きましたが,その時は怒りや悲しみはなく,ただ悪夢であってほしいと,そればかり考えていました。私の両親は火葬場には行っていません。「自分の子供の骨は拾えない。ごめんね。」と何度も謝っていました。兄を失ってから中学での生活は体験したことのない苦痛に溢れていました。親には相談できず養護の先生を頼りましたが,それをよく思わない先生もいました。励ましの言葉も私を苦しめました。結婚式を挙げた際に夫の家族が兄弟そろって家族写真を撮っている姿を見て,胸が締め付けられるような寂しさを覚えることもありました。家族を失った兄弟が受ける影響は,何気ない日常にも,おめでたい日にも,いつでも迫ってきます。今,結婚し新たに家庭を持って親から離れて暮らしていて,実は,時のたった今が一番辛い状況です。こうした時間差で悲しみと戦わなければいけないということをこの歳になって知りました。

目次]  [前へ]  [次へ