第2編 海上交通 第2章 海上交通安全施策の現況
第1節 海上交通環境の整備
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第1節 海上交通環境の整備
1 交通安全施設等の整備
(1)開発保全航路の整備,港湾の整備等交通安全施設の整備
船舶航行の安全性向上等のため,平成29年度は東京湾中央航路や関門航路等の開発保全航路において浚渫等を行った。
社会資本整備重点計画に基づき,平成29年度は事業費2,505億円(うち国費2,321億円)をもって港湾整備事業を実施し,その一環として海上交通の安全性の向上を図るため,防波堤,航路,泊地等の整備を行った。また,沿岸域を航行する船舶の緊急避難に対応するため,下田港等5港において避難港の整備を行った。
(2)漁港の整備
漁港漁場整備長期計画に基づき,水産基盤整備事業等を実施し,外郭施設等の整備を通じて漁船の航行・係留の安全の確保を図った。
(3)航路標識等の整備
船舶交通の安全確保及び運航能率の向上を図るため,港湾及び航路の整備の進展や船舶の大型化等海上交通環境の変化に対応した航路標識の整備を実施し,平成29年度末現在で5,251基の航路標識を管理している。
さらに,地震や台風といった自然災害に伴う航路標識の倒壊や消灯等を未然に防止し,災害時でも被災地の海上交通安全を確保するために,航路標識の耐震補強,耐波浪補強及びLED灯器の耐波浪化等による防災対策を推進した。
(4)港湾における大規模震災対策の推進
社会資本整備重点計画等に基づき,大規模地震発生時に,緊急物資,避難者等の輸送を確保するとともに,地域の産業・物流機能の維持,さらには我が国全体の国際輸送,幹線輸送を維持するため,耐震強化岸壁等の整備を推進した。
また,熊本地震の教訓を踏まえ,非常災害時に港湾管理者からの要請に基づき,国が港湾施設の管理を行う制度が平成29年6月に創設された。本制度や港湾BCPを踏まえた防災訓練等の実施による関係機関との連携体制を強化している。
港湾の技術開発についても,耐震対策等の充実強化に向けた調査研究を推進した。
(5)漁港の耐震・耐津波化の推進
災害発生時に救援活動,物資輸送等の拠点となる漁港が,災害発生直後から当該活動の拠点としての機能を発揮できるよう,主要施設の耐震・耐津波化を推進した。
また,水産物の流通拠点となる漁港等において,災害発生後の地域水産業の早期回復のための拠点の確保を目指すため,主要施設の耐震・耐津波化を推進した。
(6)漂流ごみの回収による船舶交通安全の確保
海域環境の保全を図るとともに船舶の安全かつ円滑な航行を確保するため,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海,有明海,八代海の閉鎖性海域(港湾区域,漁港区域を除く。)に配備している海洋環境整備船により,海面に漂流する流木等のごみや船舶等から流出した油の回収を実施した。
(7)港湾施設の老朽化対策の推進
港湾の施設単位毎に作成する維持管理計画により計画的な点検を実施するとともに,港湾単位で作成する予防保全計画に基づいて,老朽化や社会情勢の変化に伴って機能が低下した施設の統廃合やスペックの見直し等を計画的に進め,より効率的なふ頭へ再編するなど,戦略的なストックマネジメントによる老朽化対策を推進した。
2 ふくそう海域等の安全性の確保
(1)一元的な海上交通管制の構築
非常災害発生時において,船舶を迅速かつ円滑に安全な海域に避難させるとともに,平時において,混雑を緩和し,安全かつ効率的な船舶の運航を実現する必要がある。このため,東京湾における海上交通センターと各港内交通管制室を統合の上,これら業務を一元的に実施する体制の構築に取り組み,平成30年1月から東京湾において一元的な海上交通管制の運用を開始した。
(2)ふくそう海域における安全性の確保
船舶交通がふくそうする東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海並びに港内では,海上交通センター等において航行船舶の安全な航行に必要な情報の提供や大型船舶の航路入航間隔の調整を行うとともに,巡視船艇と連携しながら,不適切な航行をする船舶に対する指導等を行った。また,海上交通センター運用管制官の技能等向上のため,研修等の拡充を推進したほか,同センターの機能向上のため,レーダーの高機能化を推進した。
(3)準ふくそう海域における安全性の確保
準ふくそう海域(ふくそう海域を結ぶ東京湾湾口~石廊崎沖~伊勢湾湾口~潮岬沖~室戸岬沖~足摺岬沖の各海域を経て瀬戸内海に至る海域)の安全対策については,海事関係者等の意見聴取及び合意形成に向けた取組の成果を踏まえ,船舶交通量が多く,複雑な進路交差部が生じるため重大海難が発生する蓋然性の高い伊豆大島西岸沖において,船舶交通環境に応じた具体的な整流化方策及び整流化に伴って生じる新たな衝突リスクの軽減策等について定量的な分析,評価を行い,国際海事機関(IMO)での採択を経て,我が国初の推薦航路となる「伊豆大島西岸沖推薦航路」を導入した(平成30年1月1日施行)。
3 海上交通に関する情報提供の充実
(1)航行支援システムを用いた情報提供の実施
船舶自動識別装置(AIS)等を活用して,気象海象等の各種航行安全情報の提供のほか,乗揚げや走錨のおそれのあるAIS搭載船に対する注意喚起等を実施した。
(2) 気象情報等の充実
海上交通に影響を及ぼす自然現象について,的確な実況監視を行い,適時・適切に予報・警報等を発表・伝達して,事故の防止及び被害の軽減に努めるとともに,これらの情報の内容の充実と効果的利用を図るため,第1編第1部第2章第3節7(3)で述べた施策を講じた。また,波浪や高潮の予測モデルの運用及び改善を行うとともに,海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)において最大限有効に利用できるよう海上予報・警報の精度向上及び内容の改善に努めたほか,主に次のことを行った。
ア 船舶に対する気象・海象・火山現象に関する情報の提供
気象庁船舶気象無線通報,気象庁気象無線模写通報,海上保安庁の海岸局によるナブテックス放送,NHKによるラジオの漁業気象通報等によって,海上の気象実況及び予報・警報,火山現象に関する海上警報・予報,沿岸及び外洋波浪,海面水温,海流,海氷等の実況及び予想に関する情報を提供した。
イ 船舶気象通報
沿岸海域を航行する船舶等の安全を図るため,全国の主要な岬の灯台等133か所において局地的な風向,風速等の観測を行い,その現況をテレホンサービス,インターネット及び電子メールで提供した。
(3) 異常気象時における安全対策の強化
台風等特異気象時における海難を防止するため,関係省庁と連携の上,海事関係者等に対し,海難防止講習会や訪船指導等のあらゆる機会を通じて,気象・海象の早期把握,荒天時における早期避難等の安全指導や注意喚起を徹底した。また,天候の急変時における風浪の影響による海難を防止するため,海の安全情報※で竜巻への注意喚起を促す情報等を提供した。
(4) 航海安全情報の充実及び利便性の向上
ア 海図・水路誌等の整備
水路測量,海象観測等を実施し,航海の安全のために不可欠な航海用海図(紙海図及び航海用電子海図)及び航海参考用としての漁具定置箇所一覧図等の特殊図を刊行している。特に航海用電子海図については,画面上に自船の位置,速力,針路等の情報を表示し,警報機能を有する電子海図情報表示システムで利用されることにより,乗揚げ事故等の防止に寄与している。
また,航海用海図に表現できない航海の安全のために必要な港湾・航路,気象・海象,航路標識等の状況について詳細に記載した水路誌を刊行している。さらに,外国人が運航する船舶の海難防止対策の一環として,英語のみで表記した紙海図及び水路誌を刊行しているほか,ふくそう海域における航法の理解を促進するため,法令やそれに対応する地理的位置関係を体系的に表示したマリナーズルーティングガイドを東京湾,伊勢湾,瀬戸内海の3海域について刊行している。
平成29年度は東京湾海上交通管制一元化に係る海上交通安全法等の一部を改正する法律(平28法42)の施行に伴い関係する東京湾の海図へ反映した。
イ 水路通報,航行警報等の充実
船舶が安全な航海を行うために必要な情報や,航海用海図・水路誌等の内容を常に最新に維持するため,平成29年には約2万5,500件の情報を水路通報及び管区水路通報としてインターネット等により提供したほか,航海用電子海図の更新情報を電子水路通報としてインターネット等により提供した。
また,航海中の船舶に対して緊急に周知する必要がある情報については航行警報を発出し,平成29年には約1万6,000件の情報を提供するなど,海上保安庁が運用している通信施設のほか衛星通信,インターネット,ラジオ,漁業無線といった様々な媒体により幅広く情報提供を実施した。
このように水路通報及び航行警報は発出件数が多いことから,これらを視覚的にすばやく把握できるように表示した図をインターネットで提供している。
さらに,我が国周辺海域における海流・海氷等の海況を取りまとめた海洋速報等や黒潮等の海流の状況を短期的に予測した海流推測図等をインターネット等により提供しているほか,潮流シミュレーションにより来島海峡の潮流情報を提供しており,平成29年には約730万件のアクセスがあった。
4 高齢社会に対応した旅客船ターミナルの整備
高齢者,障害者等も含めたすべての利用者が旅客船ターミナル,係留施設等を安全かつ身体的負担の少ない方法で利用・移動できるよう,段差の解消,視覚障害者誘導用ブロックの整備等を推進した。