トピックス
自動車運送事業者に係る交通事故防止対策

目次]  [前へ]  [次へ

1 睡眠不足に起因する事故の対策強化と運転者教育の充実

自動車運送事業者(バス,タクシー,トラック)は,輸送の安全確保のため,運転者の労務管理を適切に行い,日々の乗務前点呼等において,運転者が安全に運行できる状態であるかどうかを確認しなければならない。しかしながら,自動車運送事業者の運転者の睡眠不足が原因と思われる事故が依然として発生している。

こうした状況を踏まえ,国土交通省では,運転者の睡眠不足に起因する事故を防止し,また,働き方改革を推進する観点から,運転者の睡眠時間の確保についての事業者の意識を高めるため,旅客自動車運送事業運輸規則(昭31運輸省令44)等について平成30年に以下の措置を行った。

○事業者が乗務員を乗務させてはならない事由等の追加

事業者が乗務員を乗務させてはならない事由等として,「睡眠不足」を追加。

○運転者の遵守事項の追加

運転者が遵守すべき事項として,睡眠不足により安全な運転をすることができない等のおそれがあるときは,その旨を事業者に申し出ることを追加。

疲れた様子のバスのイラスト

○点呼の確認事項の追加

事業者が乗務員の乗務前等に行う点呼において,報告を求め,確認を行う事項として,「睡眠不足により安全な運転をすることができないおそれの有無」を追加。

○点呼の記録事項の追加

点呼時の記録事項として,「睡眠不足の状況」を追加。

○指導監督内容の追加

事業者が運転者に対して行う指導及び監督の内容として,「睡眠不足が交通事故を引き起こすおそれがあることを理解させること」を追加。

さらに,事業者が前述の指導及び監督を実施する際に参考となるよう,以下の内容等を,国土交通省が事業者向けに作成している「指導監督マニュアル」に追記し周知している。

※「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」(平成24年3月発行,平成30年6月改訂)

《指導監督マニュアルより》

時計とベッドのイラスト

○睡眠不足による運転は飲酒運転と同等の危険性があるとも言われています。また「睡眠時間が6時間未満の者では7時間の者と比べて居眠り運転の頻度が高い」,「交通事故を起こした運転者で,夜間睡眠時間が6時間未満の場合に追突事故や自損事故の頻度が高い」といった研究結果も示されています。このような例も用いながら,睡眠不足による眠気がヒューマンエラーに基づく事故につながることを理解させましょう。

○毎日同じ時間に睡眠をとるよう心がけ,十分な睡眠(6~7時間の連続した睡眠)をとることが過労防止に有効です。点呼において,前日の睡眠時間を確認しましょう。

○就寝前の飲酒,喫煙,カフェインの摂取やPC・スマートフォンの使用は,睡眠の質を低下させます。「健康づくりのための睡眠指針」などを参考に,質の高い睡眠を心掛けましょう。

以上のような措置を講じ,各事業者において,睡眠不足の状態で運転することの危険性や睡眠の重要性についての指導,労務管理や点呼における睡眠状態の確認が運転者に対して確実に行われることで,運転者の睡眠不足による事故の防止につながるよう努めている。

バス、タクシー、トラックが走っているイラスト

2 自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドラインの策定

事業用自動車の運転者の乗務中の疾病に起因する事故(いわゆる「健康起因事故」)は,特にその疾病の症状が意識障害や運動麻痺等を伴う場合,重大な被害をもたらす可能性が高く,このような健康起因事故を未然に防ぐための対策が求められている。

意識障害や運動麻痺を伴う疾患の主なものとして,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血といった脳血管疾患が挙げられる。国土交通省では,自動車運送事業者における,運転者の脳血管疾患を早期に発見するためのスクリーニング検査(脳健診)の受診等を促進し,同疾患に起因する事故の防止を図るため,「自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドライン」を平成30年に策定した。

同ガイドラインでは,事業者が運転者の脳健診受診に取り組むに当たり知っておくべき内容や,受診前の準備から受診後の対応まで一連の手順を具体的に示している。

《自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドラインの内容》

MRI・MRAの写真
頭部MRI・MRA検査を受ける人の写真
検査結果で脳血流を示したMRAの画像
検査結果で脳を示したMRIの画像

I.脳血管疾患対策の必要性,正しい理解

・脳血管疾患の種類と概要,原因と予防法等について解説。

II.脳血管疾患早期発見のための脳健診の活用

・「頭部MRI・MRA検査」をはじめ,脳健診の検査項目について解説。

・どのような運転者が脳血管疾患のリスクが高く脳健診受診を優先すべきなのか,脳健診の結果,どのような判定がされるのか等,脳健診受診の進め方について解説。

III.脳健診の結果による専門医の受診

・脳健診の判定結果に従って必要となる対応や,想定される治療等について解説。

IV. 脳健診・専門医の受診の結果を踏まえた対応と発症者への対応等

・脳健診・専門医の受診の結果を踏まえ,事業者が取るべき対応について解説。

聴診器を当てているトラックのイラスト

自動車運送事業者において同ガイドラインが活用され,脳健診の受診や治療の必要性についての理解が浸透し,事業者による自主的なスクリーニング検査の導入が拡大するよう,同ガイドラインの周知に今後とも努めていく。

3 自動車運送事業者に対する行政処分等の基準改正

自動車運送事業の運転者は,全職業平均と比較して労働時間が約1~2割長く,いわゆる過労死の認定件数も職種別で最も多い状況であり,長時間労働の是正や過労の防止は重要な課題となっている。このため,平成29年8月に「自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」において取りまとめられた「直ちに取り組む施策」においても,行政処分の強化を行う方針が示された。

このような状況を踏まえ,平成30年7月に過労防止関連違反等に係る行政処分の処分量定の引上げを行うなど,行政処分等の基準について改正した。

行政処分の強化等1。過労防止関連違反に係る行政処分の処分量定に引き上げ(トラック、乗合バス、タクシー)することを示している
行政処分の強化等2。1.行政処分により使用を停止させる車両数の割合を最大5割に引き上げ(トラック)、2.その他(トラック事業者の法令遵守の徹底を図るための措置)を示している

4 ドライバー異常時対応システム

ドライバー異常時対応システムは,運転中の体調急変により,ドライバーが安全運転を継続できなくなった場合に,ドライバーの異常を自動検知し,又は乗員や乗客が非常停止ボタンを押すことにより,緊急措置として,ドライバーに代わり車両を自動的に停止させるシステムである。運転者の異常に起因する人身事故が年間200~300件発生していることを鑑みると,これらの事故を防ぐ効果が期待される。

ドライバー異常時対応システム。異常検知(運転手、乗客がボタンを押す、またはシステムが自動検知)すると、自動制御(減速停止等、ブレーキランプ点灯、乗客へシステム作動を報知、ハザードランプ点滅、周囲に異常が起きていることを報知)することを示している
目次]  [前へ]  [次へ