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先端技術について

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官民ITS構想・ロードマップ2018

官民ITS構想・ロードマップ(以下「ロードマップ」という)は,ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)・自動運転について我が国の方針を示した,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にて決定された国家戦略文書である。このロードマップは,平成26年に初めて策定されたが,本分野における技術・産業の進展がめざましいことから,最新状況を踏まえた形で毎年改定を重ねており,最新版は平成30年6月に策定された「官民ITS構想・ロードマップ2018」である。

本ロードマップでは,「世界一のITSを構築・維持し,日本・世界に貢献する」ことを一貫して掲げており,図1の通り2030年までに「世界一安全で円滑な」道路交通社会を構築するという目標を設定している。

【図1】目標とする社会と重要目標達成指標。「2020年までに世界最先端のITSを構築」→「2020年以降、自動運転システム化に係るイノベーションに関し、世界の中心となる」→「2030年までに、「世界一安全で円滑な」道路交通社会を構築」するとしたロードマップ

特に,我が国においては,交通事故の削減や,過疎地域等における高齢者等の移動手段の確保,ドライバー不足への対応等が喫緊の課題であることを踏まえ,これらの課題解決に貢献することが期待される自動運転車の市場化・サービス化に係る目標(図2)を,自動運転に係るレベル定義(わが国ではSAEInternationalのJ3016及びその日本語参考訳であるJASO TP18004の定義を採用)(表1)を踏まえつつ設定している。

【図2】自動運転の市場化・サービス実現のシナリオ。〈自家用車〉では、交通事故の削減、交通渋滞の緩和、産業競争力の向上を目指す。〈物流サービス〉では、人口減少時代に対応した物流の革新的効率化を目指す。〈移動サービス〉では、全国各地域で高齢者等が自由に移動できる社会を目指す
【表1】自動運転レベルの定義の概要
レベル 安全運転に係る
監視,対応主体
運転者が一部又は全ての動的運転タスクを実行
レベル0
運転自動化なし
  • 運転者が全ての動的運転タスクを実行
運転者
レベル1
運転支援
  • システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行
運転者
レベル2
部分運転自動化
  • システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行
運転者
自動運転システムが(作動時は)全ての動的運転タスクを実行
レベル3
条件付運転自動化
  • システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行
  • 作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答
システム
(作動継続が困難な場合は運転者)
レベル4
高度運転自動化
  • システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行
システム
レベル5
完全運転自動化
  • システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行
システム

これらの自動運転車の市場化・サービス化のためには,関連する法制度整備と技術開発が重要であり,民間及び関係府省庁が一体となって取り組んでいる。

官民ITS構想・ロードマップ2018の策定後も,ITS・自動運転を巡る技術・産業の動きは急速に進展し続けており,引き続き世界最先端のITSの構築,自動運転に係るイノベーションの世界の中心地となることを目指して,ロードマップのさらなる改定を検討しているところである。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における「自動走行システム」及び「自動運転(システムとサービスの拡張)」

総合科学技術会議(現「総合科学技術・イノベーション会議」)は,社会的に不可欠で,日本の経済・産業競争力にとって重要な課題に対する取組である戦略的イノベーション創造プログラム(SIP,以下「SIP」という。)の10の課題(現在は11課題)の一つとして自動走行システムを選定した。

SIPでは,各課題の取組の推進のために,強力なリーダーシップを発揮するプログラムディレクター(PD)を選任しており,府省庁連携による分野横断的な取組や基礎研究から実用化・事業化までを見据えて一気通貫で研究開発することを特徴としている。

自動走行システムでは,車の自動運転の実現に向けて

・道路交通における安全確保,交通渋滞の削減

・自動走行システムの実現と普及

・高齢者・交通制約者に優しい先進的な公共バスシステムの実現

の3つを大きな目標として,平成26(2014)年度より5か年計画で産学官共同で取り組むべき協調領域を中心とした研究開発に取り組んできた。

平成28(2016)年度からは,「ダイナミックマップ」,「HMI」,「情報セキュリティ」,「歩行者事故低減」及び「次世代都市交通」の5つの技術領域(重要5課題)に重点を置いた研究開発を推進し,平成29(2017)年度からは,実用化・事業化に結び付けるための仕上げとして大規模実証実験を約1年間にわたって実施した。

また,成果の地方展開を見据え,沖縄県における自動運転バス実証実験,中山間地域における道の駅等を拠点とした移動サービスの検討等を行った。

平成30(2018)年度からは新たにSIP第2期がスタートし,「自動運転(システムとサービスの拡張)」が12の課題の一つとして選定された。「自動運転(システムとサービスの拡張)」では,自動運転を実用化し普及拡大していくことにより,

・交通事故の低減,交通渋滞の削減

・交通制約者のモビリティの確保

・物流・移動サービスのドライバー不足の改善・コスト低減

等の社会的課題の解決に貢献し,すべての人が質の高い生活を送ることができる社会の実現を目指して,産学官共同で取り組むべき共通課題(協調領域)の研究開発を推進している。

【図3】SIP第2期「自動運転」の取組内容。物流/移動サービスでは、過疎化対策、ドライバー不足対策、移動の自由により、社会的課題解消へ。オーナー・カーでは、1.交通事故低減、2.交通渋滞削減、3.クルマの価値向上により、国際連携、経済的発展へ。究極の自動運転社会を目指す

1 高速道路から一般道路への拡張に向けて(東京臨海部実証実験等)

交通環境が複雑な一般道においては,車両が交差し,歩行者や自転車等が往来するため,車両に搭載されたセンサー等からの情報のみでは,自動運転を実現することは難しい状況がある。これらの課題を解決する観点から,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会という機会を活用し,臨海副都心地域,羽田空港地域,羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路において,自動車メーカー等の参加のもと,公道の実交通環境下において技術検証の開始を予定している

ITS無線路側機による信号情報の提供の高度化を目指して自動車メーカー等と自動運転の実現に必要な信号情報の提供方法等について検討を行い,これら信号情報を提供できるITS無線路側機を東京臨海部に整備するなど準備を進めている。実証実験を通じて,信号情報の提供等に必要な基盤技術の検証がなされる見込みである。

また,民間事業者からの要望を踏まえ,ITS無線路側機からの直接の通信以外の手法による信号情報の提供に係る調査研究として,国内外における事例調査や各種課題についての技術的な検討を行っている。

※東京臨海部実証実験:平成30年11月13日内閣府プレスリリース
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20181113_adusrinkai.html

【図4】実証実験【東京臨海副都心~羽田地区】。2019年秋より、2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据え、東京臨海地域でオープンに参加者を募り実証実験を開始。実証内容は、信号情報提供、高速道本線合流支援、公共交通システム(自動運転バス)を予定している

2 地方部等における移動サービスの実用化に向けて

SIP第1期で取り組んできた実証実験での技術検証結果を踏まえ,第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では地方での移動サービスの実用化に向けて,過疎地,地方都市等において,長期の実証実験により物流サービス・移動サービスに対する自動運転の事業性を検証し,実用化を加速する取組を推進している。

具体的には,中山間地域における人流・物流の確保を目的として,物販をはじめ診療所や行政窓口など,生活に必要なサービスが集積しつつある道の駅等を拠点とした自動運転サービスの2020年の社会実装を目指した実証実験を進めており,2018年度は,自動運転車両の走行空間の確保方策の検証や,持続可能なサービスを提供するためのビジネスモデルの構築などのため,長期間(1~2ヶ月程度)の実験を中心に実施し,引き続き社会実装に向けて取り組んでいる。

また,ニュータウンにおいて,高齢者等のモビリティ確保の観点から,公共交通ネットワークへの自動運転サービスの社会実装に向けた実証実験を2018年度に実施し,交通利便性や安全確保、持続可能な運営体制などの課題を整理し,ニュータウンにおける公共交通のあり方の検討を進めている。

さらに,国際的に研究テーマをリードする専門家を交えて,自動走行システムに関わる課題の共有とその解決に向けた取組を議論する国際会議「SIP-adus Workshop」の開催,市民との対話を通じて市民の持つ問題意識や将来ニーズを今後の研究開発に反映することを目的とした「市民ダイアログ」等の社会的受容性醸成のための取組も推進している。

自動運転に係る制度整備

官民ITS構想・ロードマップで設定された自動運転車の市場化・サービス化に係る目標を実現するため,必要となる道路交通に関する法制度の見直し方針である「自動運転に係る制度整備大綱」を平成30年4月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にてとりまとめた。

【図5】自動運転に係る制度整備大綱の概要と現在までの進捗。制度整備大綱に基づいた主な取組事項は、車両の安全確保の考え方、交通ルールの在り方、安全性の一体的な確保(走行環境条件の設定)、責任関係。2019年3月末までの進捗も示している

本大綱に基づき各省庁で検討を進め,以下の進捗があった。

■車両の安全確保の考え方

・自動運転車が満たすべき安全性の要件や安全確保のための方策について,「自動運転車の安全技術ガイドライン」を平成30年9月に策定及び公表した。

・自動運転車等の設計・製造過程から使用過程にわたる安全性を一体的に確保するため,「道路運送車両法の一部を改正する法律案」を平成31年3月8日に閣議決定し,第198回国会に提出した。

■交通ルールの在り方

・自動車の自動運転の技術の実用化に対応した運転者等の義務に関する規定の整備を行う「道路交通法の一部を改正する法律案」を平成31年3月8日に閣議決定し,第198回国会に提出した。また,自動運転と国際条約との関係の整理等に関し,国際連合経済社会理事会の下の欧州経済委員会内陸輸送委員会に置かれた「道路交通安全グローバルフォーラム(WP.1)」における議論に参画した。

・限定地域での無人自動運転移動サービスにおいては,遠隔型自動運転システムを使用した現在の実証実験の枠組みが事業化の際にも利用可能となっている。

■責任関係

・自動車損害賠償保障法において,自動運転システム利用中の事故により生じた損害についても,従来の運行供用者責任を維持することとした。

今後も引き続き検討を進め,自動運転車の導入初期段階である2020年以降2025年頃の,公道において自動運転車と非自動運転車が混在し,かつ自動運転車の割合が少ない,いわゆる「過渡期」を想定した法制度を整備していく。

安全運転支援システムの技術

1 先進安全自動車(ASV)推進計画

「先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle,ASV。以下「ASV」という。)」とは,先進技術を利用して,車両単体での運転支援システム,通信利用による運転支援システム等のドライバーの安全運転に資するシステムを搭載した自動車を指す。

国土交通省では,先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進により,交通事故死傷者数を低減し,世界一安全な道路交通を目指すプロジェクト「先進安全自動車(ASV)推進計画」(以下ASV推進計画)に平成3(1991)年度から取り組んでいる。ASV推進計画では,有識者,日本国内の四輪・二輪の全メーカー,自動車部品メーカー,自動車関係団体,関係省庁などで構成されるASV推進検討会を設置し,この検討会において先進安全技術の技術要件をまとめたガイドラインの策定やASVの普及方策に関する検討などを行っている。

【図6】先進安全自動車(ASV)推進計画。第6期(2016~2020年度)では、「自動運転の実現に向けたASVの推進」を掲げている。主な検討項目は、自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理、路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件の検討、Intelligent Speed Adaptation(ISA)の技術的要件の検討、実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及

平成28(2016)年度から始まった第6期ASV推進計画では自動運転も検討の対象に含め,「自動運転の実現に向けたASVの推進」をテーマに,1自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理,2路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件の検討,3Intelligent Speed Adaptation(ISA)の技術的要件の検討,4実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及,などに取り組んでいる。

※ISA:ISAとは,道路ごとの制限速度に応じて自動で速度制御を行う装置をいう。

2 実用化された代表的なASV技術

実用化された主なASV技術のうち,以下では,「衝突被害軽減ブレーキ」,「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」,「定速走行・車間距離制御装置」,「車線維持支援制御装置」及び「ドライバー異常時対応システム」について簡略に紹介する。

【衝突被害軽減ブレーキ】 【ペダル踏み間違い時加速抑制装置】
前方の障害物との衝突を予測して警報し,衝突被害を軽減するために制動制御する装置。運転者に警報で注意喚起することにより運転者身が操作することを促したり,運転者が警報に気付かない時にブレーキを自動で制御したりする機能を有する。
発進時や低速走行時に,障害物などに対してシフトレバーやアクセルペダルの誤操作によって衝突するおそれがある場合に,急発進や急加速を抑制する装置。
前方障害物衝突被害軽減ブレーキ。前方の障害物との衝突を予測して警報し、衝突被害を軽減するために制動制御する装置
ペダル踏み間違い時加速抑制装置。発進時や低速走行時に、障害物などに対してシフトレバーやアクセルペダルの誤操作によって衝突するおそれがある場合、急発進や急加速を抑制する装置
平成29年新車乗用車装着率は77.8%。
平成29年新車乗用車装着率は65.2%。
【定速走行・車間距離制御装置】 【車線維持支援制御装置】
一定速で走行する機能および車間距離を制御する機能をもった装置。先行車がない場合には設定速度で走行し,先行車がある場合には,車間距離を一定に保って走行したり,先行車に続いて停止したりする機能を有する。
走行車線の中央付近を維持するよう運転者の操作力を制御する装置。車線を逸脱すると警報を発したり,操舵を支援したりすることにより,車線中央付近を走行するようハンドル操作を行い,運転者の負荷を軽減する。
ACC(Adaptive Cruise Control)。一定速で走行する機能および車間距離を制御する機能を持った装置
レーンキープアシスト。走行車線の中央付近を維持するよう操作力を制御する装置
平成29年新車乗用車装着率は22.9%。
平成29年新車乗用車装着率は19.8%。

3 安全運転支援システム普及のための取組

衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全技術は,交通事故の防止や事故時の被害軽減の効果が期待されている。国土交通省では,自動車ユーザーが安全な自動車を選びやすい環境を整えるとともに,自動車メーカーによる安全技術の開発を促進するため,市販車の安全性能を比較・評価し,結果を公表する自動車アセスメントを実施している。平成26年度から対車両の衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置等の予防安全技術の性能評価・公表を行っており,令和元年度は平成30年度から実施した夜間の環境での対歩行者衝突被害軽減ブレーキの性能評価・公表の拡大を行う。

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