特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第3章 新たな目標の達成に向けて
第4節 交通環境の観点

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特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―

第3章 新たな目標の達成に向けて

第4節 交通環境の観点

機能分担された道路網の整備,交通安全施設等の整備,交通管制システムの充実,効果的な交通規制の推進,交通に関する情報の提供の充実,施設の老朽化対策等を図るものとする。また,交通環境の整備に当たっては,人優先の考えの下,人間自身の移動空間と自動車や鉄道等の交通機関との分離を図るなどにより,混合交通に起因する接触の危険を排除する施策を充実させるものとする。特に,道路交通においては,通学路,生活道路,市街地の幹線道路等において,歩道の整備を積極的に実施するなど,人優先の交通安全対策の更なる推進を図ることが重要である。

1 生活道路における人優先の安全・安心な歩行空間の整備
(1)道路政策ビジョン「2040年,道路の景色が変わる」

令和2年6月に社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会の提言として,道路政策ビジョン「2040年,道路の景色が変わる」が取りまとめられた。このビジョンでは「人々の幸せの実現」を道路政策の原点に置き,概ね20年後の日本社会を念頭に,道路政策を通じて実現を目指す将来・社会像と中長期的な政策の方向性が提案されている。

目指すべき社会像の1つに,「日本全国どこにいても,誰もが自由に移動,交流,社会参加できる社会」が掲げられており,その実現のための政策の方向性の1つとして「交通事故ゼロ」がある。具体的には,人と車両が空間をシェアしながらも,安全で快適に移動や滞在ができるユニバーサルデザインの道路の整備により,交通事故のない生活空間の形成を目指す。既に,ライジングボラードによる生活道路への通過交通の進入の制限など,ビジョンの実現に向けた具体的な取組を進めている(特集-第48図)。

特集-第48図 2040年,道路の景色が変わる(抜粋)。安全性や快適性が確保された歩車共存の生活道路。具体イメージが記されている
(2)ゾーン30及び物理的デバイス等による生活道路の安全確保対策

警察では,生活道路における歩行者等の安全な通行を確保することを目的として,平成23年からゾーン30の整備を推進している。ゾーン30とは,区域(ゾーン)を設定して最高速度30km/hの区域規制や路側帯の設置・拡幅等を実施することにより,区域内における速度を規制し,通過交通の抑制・排除を図るものであり,令和2年度末までに全国で4,031か所を整備した。

道路管理者では,規制の効果を高めるため,ハンプや狭さくといった物理的デバイスの設置による生活道路対策を推進している。物理的デバイスは,車両の速度を物理的に低下させることに加え,運転者に対し,その周辺においては,歩行者等の安全確保に一層の注意を払うべきであることを周知する効果も期待されるほか,設置の検討等の過程においては,地域における参加・協働型の交通安全対策の推進等にも資するものである。

このため,警察と道路管理者では,連携を更に強化し,ゾーン30等による低速度規制と物理的デバイス等の適切な組合せによる生活道路の安全確保対策をより一層推進することとしている(特集-第49図,第50図)。

可搬式速度違反自動取締装置を活用した交通指導取締り。路側帯を歩く小中学生と、道路に向けて路側帯に設置した装置で取り締まりを行う警察官
特集-第49図 ゾーン30の整備イメージ。ゾーン入口の対策(区域規制標識の設置、路面表示(法定外)の設置、大型通行禁止規制等の実施)、ゾーン内の対策(最高速度規制の実施、ハンプ等の設置、路側帯の設置・拡幅と中央線の抹消)、ゾーン周辺の対策(信号制御の見直し、右折車線の設置と進行方向別通行区分規制の実施)が記されている
特集-第50図 諸外国のゾーン対策の概要。【イギリス】「20マイルゾーン」、【スペイン】「ゾーン30」又は「ゾーン20」、【ドイツ】「ゾーン30」、【スイス】「ゾーン30」。それぞれの写真
(3)可搬式速度違反自動取締装置を活用した交通指導取締り

警察では,取締り場所の確保が困難な生活道路や警察官の配置が困難な時間帯においても取締りが行えるよう,可搬式速度違反自動取締装置の整備拡充を図っており,令和2年度末において46都道府県警察に99式が整備されている。

また,令和元年6月,「昨今の事故情勢を踏まえた交通安全対策に関する関係閣僚会議」において決定された「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策」を踏まえ,未就学児を中心に子供が日常的に集団で移動する経路の安全確保のための取組として,可搬式速度違反自動取締装置を活用し,子供の通行が多い生活道路等における適切な交通指導取締りを推進している。

トピック
未就学児を中心に子供が日常的に集団で移動する経路の安全確保

平成31年4月に東京都豊島区において高齢者が運転する暴走した乗用車により親子2人が死亡,10人が重軽傷を負った交通死亡事故,令和元年5月に滋賀県大津市の交差点において直進車と右折車が衝突し,巻き添えで散歩中の保育園児2人が死亡,14人が重軽傷を負った交通死亡事故が発生したことを受けて,元年5月21日に,第1回「昨今の事故情勢を踏まえた交通安全対策に関する関係閣僚会議」が開催された。また,同日付で,交通安全対策本部長(交通安全対策を担当する内閣府特命担当大臣)決定に基づき,関係省庁の局長級を構成員とするワーキングチームを設置し,対策を検討し,同年6月18日に,第2回関係閣僚会議において,「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策」を決定した。

この決定の中では,「緊急に取り組む対策として,子供を交通事故の被害から守るため,未就学児を中心に子供が日常的に集団で移動する経路等の安全確保を早急に進める。」こととされた。

緊急対策の主な進捗状況は,以下のとおりである。

〇 子供の安全な通行を確保するための道路交通安全環境の整備の推進

・ 緊急安全点検等の結果を踏まえ,道路管理者により全国約2万8千箇所において対策を実施することを決定。令和2年度未時点で約8割(約2万3千箇所)について対策を完了した。

・ 緊急安全点検の結果に基づき,警察において対策を実施する箇所は約7,400箇所となっており,ゾーン30の整備等の面的な対策を含めて,信号機の新設・LED化,横断歩道の新設・塗り直し等の交通安全施設等の整備等を実施した。令和3年3月末時点で,約7,200箇所について対策を完了した。

〇 地域ぐるみで子供を見守るための対策等

・ 小学校や幼稚園周りの交通安全対策を行う「スクール・ゾーン」に準じ,保育所周りの「キッズ・ゾーン」を創設した。

・ 保育所外等での活動において,子供が集団で移動する際の安全確保を図るため,いわゆる「キッズ・ガード」の配置に係る支援を位置づけ,令和2年度予算以降,必要経費を計上している。

・ 可搬式速度違反自動取締装置の整備を推進し,令和2年度末現在,46都道府県警察に99式が整備されたところ,令和3年度においても,引き続き,同装置の整備拡充を図ることとしている。

・ 可搬式速度違反自動取締装置を活用した取締りやゾーン30入口での交通安全指導など,子供の通行が多い生活道路等における交通指導取締りを行い,子供の交通安全の確保に取り組んでいる。

なお,令和2年中,可搬式速度違反自動取締装置を活用した取締り状況は,運用回数7,864回(前年比+2,898回)(うち通学路3,691回(前年比+910回))である。

トピック
特色ある地域の交通安全対策
1 愛知県豊田市「ゾーン30/キッズゾーンの双方合わせての設定」

園児の通園や散歩時等の安全を確保するため,こども園と連携を図り,園児が散歩や登降園で通る経路を確認の上,路面表示によるドライバーへの注意喚起等をするため,令和2年3月に越戸こども園に隣接する市道約400mをキッズゾーンとして設定した。

また,同日,豊田市,豊田警察署及び自治区で調整の上,キッズゾーンを含む猿投台地区(青木町・平戸橋町・越戸町・荒井町)に最高速度30キロの区域規制(ゾーン30)を設定した。ゾーン30と併せてキッズゾーンを設定することで,より高い実効性が期待できる。

キッズゾーン,ゾーン30の区域図。地図上にゾーン30の区域があり、その中にキッズゾーンがある
キッズゾーン。緑地の四角に「キッズゾーン」の白線で舗装されている
2 千葉県船橋市「ビッグデータを活用した交通安全・交通円滑化対策」

交通ビッグデータ(ETC2.0プローブデータ等)を活用し,客観データに基づく現状把握や要因分析を実施した上で,対策エリア及び箇所を選定し,効率的かつ効果的な対策立案を行い,市内の交通安全,交通円滑化の状況を可視化することで,真に求められる交通渋滞,交通事故対策を講じるものである。

具体的には,学識者,警察,道路管理者で構成される「船橋市交通ビッグデータ見える化協議会」の下,各機関や個別検討(対策部会)が協働する枠組みである。対策部会については,交通安全対策部会及び交通円滑化対策部会が設置されており,前者は交通事故・急ブレーキ箇所等,後者は交通量・旅行速度等を基に,対策地域を特定の上,現地踏査を行って対策立案を行うこととしている。

ETC2.0プローブデータより算出した急減速挙動発生率。全道路、私道のみ
2 高齢者等の移動手段の確保・充実
(1)地域公共交通計画の策定

高齢者の運転免許の返納の増加等を踏まえ,令和2年11月に施行された地域公共交通活性化再生法等の一部改正法(令2法36)により,高齢者を始めとする地域住民の移動手段の確保に向け,地域における移動ニーズに対し,きめ細かに対応できる立場にある地方公共団体が中心となって,地域公共交通のマスタープラン(地域公共交通計画)を策定し,既存の公共交通サービスの改善を図るとともに,過疎地などにおいては,自家用有償旅客運送,スクールバス,福祉輸送等の地域の輸送資源を最大限活用する取組を推進する。

福祉輸送。マイクロバスの写真
コミュニティバス。コミュニティバスの写真
(2)MaaSの推進

MaaS(マース:Mobility as a Service)はスマホアプリ又はWebサービスにより,地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して,複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり,新たな移動手段(AIオンデマンド交通,シェアサイクル等)や関連サービス(医療・福祉等)も組み合わせることが可能なサービスである。MaaSは既存の公共交通の利便性の向上や,地域における移動手段の確保・充実に資するものであり,その普及により,高齢者等が自らの運転だけに頼らず,ストレスなく快適に移動できる環境が整備されることが期待できる。

このような状況を踏まえ,国土交通省と経済産業省では,新たなモビリティサービスの社会実装を通じた移動課題の解決及び地域の活性化に挑戦する地域や企業を応援する「スマートモビリティチャレンジ」を推進している。令和元年度には28(新モビリティサービス推進事業:19地域,パイロット地域分析事業:13地域),令和2年度には50(日本版MaaS推進・支援事業:36地域,地域新MaaS創出推進事業:16地域)の先駆的な取組に支援を行い,MaaSを始めとする新たなモビリティサービスの早期の全国普及を図っているところである。

今後もこのような取組を進めることで,高齢者等が公共交通を利用してストレスなく快適に移動できる環境を整備し,自らの運転だけに頼らずに暮らせる社会の実現に努めていく。

(3)ラストマイル自動運転等
 ~無人自動運転サービスの実現・普及に向けた取組~

ア これまでの実証事業の進捗状況

ラストマイル自動走行は,運転手不足を解消するとともに,高齢者等の安全,かつ,円滑な移動に資するものとして,地方部等において自治体や地域交通事業者,地域住民からの期待が大きいことから,平成28(2016)年より実証事業を開始した。

これまで,福井県永平寺町及び沖縄県北谷町において,長期の移動サービス実証を通じて技術開発や事業性,社会受容性評価を実施し,このうち,令和2(2020)年12月には,永平寺町において国内で初めて遠隔監視室にいる1人の遠隔運転手が,車両外から,通信技術を用いて3台の無人自動走行車両を同時に走行させる遠隔型自動運転システムによる試験運行を開始した。その後,更なる車両の高度化等を進め,令和3(2021)年3月に,国内で初めて,遠隔型自動運転システムについて自動運行装置(レベル3)としての認可を受け,当該システムによる無人自動運転移動サービスを開始した。それに伴い,安全確保のために車内に乗車していた保安要員を外した運用とすることとした。また,北谷町においても,同月に海岸線走路(町有地)において1人の遠隔運転手が2台の無人自動運転車両を運行する形でサービスを開始した。

また,平成29(2017)年より実証実験を開始した道の駅等を拠点とした自動運転サービスでは,令和元(2019)年11月に本格導入した道の駅「かみこあに」(秋田県)に続き,令和3(2021)年4月から道の駅「奥永源寺渓流の里」(滋賀県)においても本格導入を開始した。

さらに,中型自動運転バスによる自動運転移動サービスの実現に向けて,多様な走行環境を有する5つの地域において実証実験を実施し,事業化に向け,技術やサービスの検証を行った。

1人の遠隔運転手が3台の無人自動運転車両を運行(永平寺町)。
遠隔監視・操作室(永平寺町)。

イ 無人自動運転サービスの社会実装に向けた今後のプロジェクト

上記のとおり,これまでラストマイル自動走行の実証事業に取り組んできているが,限定的な技術,サービス,地域にとどまり,本格的な自動運転サービスの展開に向けては更なる取組が必要である。そのような中で,自動走行ビジネス検討会においては,成長戦略等における「2022年度目途での鉄道廃線跡等における遠隔監視のみの自動運転移動サービスが開始」や,「2025年度を目途に40カ所以上に自動運転サービスが広がる可能性」などの目標の達成に向けて,次期プロジェクトの検討を実施した。次期プロジェクトにおいては,「遠隔監視のみ(レベル4)で自動運転サービスの実現」など4つのテーマについて,取り組んでいく(特集-第51図)。

特集-第51図 無人自動運転サービス社会実装に向けた次期プロジェクトのテーマ。〈テーマ1〉遠隔監視のみ(レベル4)で自動運転サービスの実現、〈テーマ2〉さらに、対象エリア、車両を拡大するとともに、事業性を向上するための取組、〈テーマ3〉高速道路における隊列走行を含む高性能トラックの実用化に向けた取組、〈テーマ4〉混在空間レベルでレベル4を展開するためのインフラ協調や車車間・歩車間の連携などの取組

ウ 無人自動運転サービスの実証実験実施者の協調による取組の推進

全国各地で無人自動運転サービスの実証実験が実施されているところであるが,自動走行ビジネス検討会では,実証実験の実施者が,安全,かつ,円滑に無人自動運転サービスの実証実験に取り組み,事業化を目指すことができるよう,日本版セーフティレポートのあり方やセーフティアセスメントに係る考え方など,実証実験の実施者に留意していただきたい事項などを令和3(2021)年3月に取りまとめ,今後,令和3年度中にセーフティアセスメントに係るガイドラインの策定に向け取り組んでいく。

エ 安全性評価の取組

自動運転車両の安全性評価手法の確立に向けて,これまで取り組んできた高速道の32シナリオに係るデータベースの整備及びクライテリアの検討に加え,一般道での展開に向けたデータ収集手法等の検討を実施した。今後,一般道における安全性評価基盤の構築に取り組んでいく。

トピック
道路交通安全に係る世界の状況
1 世界の道路交通安全対策について

世界保健機関(WHO)の報告※1によると,近年の交通事故死者数は年間135万人,負傷者数は年間5,000万人となっている。そのうち9割の犠牲者が中低所得国で占めており,5~29歳の若年層においては主要な死因となっている。世界的にみて交通事故死傷者数が多いことから,国際的にも対策が進められているところである。

最近の道路交通安全に係る世界的な動向としては,道路交通安全大臣会合が令和2(2020)年にスウェーデンで開催されており,ストックホルム宣言が採択されている。ストックホルム宣言では国連加盟国に対して,令和2(2020)年から12(2030)年までに交通事故死者数を50%減とすることに貢献することや,特に歩行者,自転車利用者や公共交通機関利用者といった交通弱者を含む全ての道路利用者に向けて交通事故死者数及び重傷者数を減少させる目標を立てることを求めている。

また,令和2(2020)年8月,国連総会決議にて「第2期道路交通安全のための行動の10年」(Second Decade of Action for Road Safety)を宣言し,上記ストックホルム宣言の承認,令和3(2021)年から12(2030)年までに交通事故死者数及び負傷者数を最低でも50%減とすること等を盛り込んでいる。

2 各国の道路交通安全に係る計画について

WHOの報告によると140ヶ国が道路交通に係る計画を有しており,そのうちの109ヶ国が交通事故死者数を減少させることを目標においた計画を有している。

特に,スウェーデンについてはビジョン・ゼロという考えを採用している。ビジョン・ゼロは交通事故死者及び重傷者ゼロであること及び交通システムに係る設計,機能,利用が交通事故死者及び重傷者ゼロを実現するための基準に順応していることを指す長期目標であり,交通の安全に対する責任を,個々の交通システムの利用者とシステム設計者(自動車業界,立法者,インフラ所有者等)で共有する手法である。交通システムの利用者が何らかの理由で規則に従わない場合,又は人身事故が発生した場合に上記のシステム設計者は,交通事故死者及び重傷者の発生を防ぐ更なる対策を講じる必要がある。

表 主な国の道路交通安全計画の名称と計画期間中の目標
国名 道路交通安全に係る計画 主な目標
ノルウェー National Transport Plan 2018-2029
  • 令和12(2030)年までに交通事故死者数と重傷者数を計350人以下に削減
スウェーデン Renewed Commitment to Vision Zero9
  • 令和2(2020)年までに平成19(2007)年の水準から交通事故死者数を半減
  • 令和2(2020)年までに平成19(2007)年の水準から交通事故重傷者数を4分の1に削減
オランダ Road Safety Strategic Plan 2008-2020
  • 令和2(2020)年までに交通事故死者数を500人以下に削減
  • 令和2(2020)年までに交通事故負傷者数を10,600人以下に削減

国際道路交通事故データベース(IRTAD)発行の「Road Safety Annual Report 2020」等から内閣府作成

※1 World Health Organization Global Status Report On Road Safety 2018

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