特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第3章 新たな目標の達成に向けて
第3節 車両の観点

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特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―

第3章 新たな目標の達成に向けて

第3節 車両の観点

人間はエラーを犯すものとの前提の下で,それらのエラーが交通事故に結び付かないように,新技術の活用とともに,不断の技術開発によってその構造,設備,装置等の安全性を高め,各交通機関の社会的機能や特性を考慮しつつ,高い安全水準を常に維持させるための措置を講じ,さらに,必要な検査等を実施し得る体制を充実させるものとする。

1 車両の安全性の確保
(1)安全運転サポート車

ペダルの踏み間違いなど運転操作ミス等に起因する高齢運転者による交通事故が発生していることや,高齢化の進展により運転者の高齢化が今後も加速していくことを踏まえ,高齢運転者が自ら運転をする場合の安全対策として,安全運転サポート車の性能向上・普及促進等の車両安全対策を推進する。

高齢運転者の交通安全対策の一環として,令和元年度補正予算において,65歳以上の高齢者を対象に,安全運転支援装置を搭載した安全運転サポート車(サポカー)の購入等を補助するサポカー補助金を創設した。

具体的には,対歩行者衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い急発進抑制装置を搭載したサポカーの購入に最大10万円,後付けのペダル踏み間違い急発進抑制装置の購入・設置に最大4万円の補助を実施している。なお,この制度は,令和3年度まで事業を継続することとなっている。

サポカーの広報啓発の一環として,高齢運転者等に対して,サポカーの機能や使用方法,サポカー補助金を分かりやすく伝えるため,サポカーのポータルサイトやガイドブックについて,サポカー補助金の対象車種一覧を掲載するなどリニューアルを行うとともに,サポカーの機能を漫画で表現したポスターを作成した。

さらに,令和2年から小学生向けのサポカーポスターコンテストを開催し,自宅や学校などで,子供たちが家族や周りの大人等と一緒にサポカーについて考えていただく機会を設けた。その結果,全国の小学生から374点の応募があり,特に優れた作品20点について表彰式を行うとともに,ウェブサイトに掲載した。

サポカーS(ワイド)(衝突被害軽減ブレーキ(対歩行者),ペダル踏み間違い急発進抑制装置,車線逸脱警報装置及び先進ライトを搭載している車両)の交通事故抑止効果について,平成29年5月から30年12月までの間,普通乗用車及び軽乗用車のうちサポカーS(ワイド)に該当する車両の登録・届出台数10万台当たりの第1当事者人身事故件数は,普通乗用車及び軽乗用車全体の登録・届出台数10万台当たりの第1当事者人身事故件数と比較して41.6%少なくなっている。

サポカーポスターコンテスト金賞受賞作品。低学年の部。高学年の部。低学年の部は、自動車に乗る家族のイラストに「サポカーは楽しい安全うんてん」、高学年の部は、自動車に乗る高齢男女のイラストに「サポカーで安心カバー」と書かれている
登録・届出台数10万台当たり人身事故件数。全体、サポカーSワイド。サポカーSワイドは全体より41.6%減。
分析対象期間:平成29年5月~平成30年12月
分析対象車両:普通乗用車及び軽乗用車
全体 サポカーSワイド
(※1)
①第1当事者人身事故件数 524,281 2,500
②登録・届出台数(※2) 102,962,091 841,202
登録・届出台数10万台
当たり第1当事者
人身事故件数
(①/②×10万)
509.20 297.19

※1 衝突被害軽減ブレーキ(対歩行者),ペダル踏み間違い急発進抑制装置,車線逸脱警報装置及び先進ライトを搭載する車両。一般社団法人日本自動車工業会より提供を受けた型式に該当する車両をサポカーSワイドとして取り扱い,分析を実施。

※2 登録・届出台数は,平成29年の年央値の8か月分と平成30年の年央値を加えたもの。

※3 数値は公益社団法人交通事故総合分析センターの集計による。

注 1
「高齢運転者の交通事故防止対策に関する調査研究」報告書(令和2年3月)による。
2
公益財団法人交通事故総合分析センターが保有するデータベースから必要なデータを抽出して分析を実施しているものの,同データベースには,車両がサポカーS(ワイド)に該当するかどうかを示すパラメータが存在しないため,一般社団法人日本自動車工業会を通じて,国内主要乗用車メーカー8社からサポカーS(ワイド)に該当する型式を入手し,当該型式に該当する車両をサポカーS(ワイド)として取り扱った。
なお,必ずしもサポカーS(ワイド)のみに専用の型式が割り振られているわけではないため,「サポカーS(ワイド)に該当する」と整理された型式の中にはサポカーS(ワイド)に該当しない車両も少数ながら含まれている一方,それ以外の型式の中にもサポカーS(ワイド)が一定数含まれていることに留意する必要がある。
特集-第44図 生産台数に占める安全運転サポート機能の整備率
H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 R1
衝突被害軽減ブレーキ 46,627 185,242 652,991 1,797,798 1,742,164 2,480,672 3,146,456 3,399,883 3,705,088
生産台数に占める割合 1.4% 4.3% 15.4% 41.1% 45.4% 66.2% 77.8% 84.6% 93.7%
ペダル踏み間違い急発
進抑制装置
85,073 528,812 1,411,279 1,376,637 1,764,354 2,637,227 3,101,855 3,310,822
生産台数に占める割合 2.0% 12.5% 32.2% 35.9% 47.1% 65.2% 77.1% 83.8%
生産台数 3,304,309 4,265,993 4,234,874 4,377,953 3,838,350 3,744,641 4,042,012 4,020,666 3,952,602
特集-第44図 生産台数に占める安全運転サポート機能の整備率。衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い急発進抑制装置。いずれも年々増加している
トピック
安全運転支援システムの技術(先進安全自動車(ASV))

「先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle,ASV。以下「ASV」という。)」とは,先進技術を利用して,車両単体での運転支援システム,通信利用による運転支援システム等のドライバーの安全運転に資するシステムを搭載した自動車を指す。

国土交通省では,ASVの開発・実用化・普及の促進により,交通事故死傷者数を低減し,世界一安全な道路交通を目指すプロジェクト「先進安全自動車(ASV)推進計画」(以下「ASV推進計画」という。)に平成3(1991)年度から取り組んでいる。ASV推進計画では,有識者,日本国内の四輪・二輪の全メーカー,自動車部品メーカー,自動車関係団体,関係省庁などで構成されるASV推進検討会を開催し,この検討会において先進安全技術の技術要件をまとめたガイドラインの策定やASVの普及方策に関する検討などを行っている。

先進安全自動車(ASV)推進計画。第6期は「自動運転の実現に向けたASVの推進」と題して検討項目を記載している

平成28(2016)年度から始まった第6期ASV推進計画では,自動運転も検討の対象に含め,「自動運転の実現に向けたASVの推進」をテーマに,①自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理,②路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システム等の先進安全技術の技術的要件の検討,③実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及等に取り組んでいる。

(2)ドライブレコーダー・イベントデータレコーダーの活用

ア 交通事故事件捜査等への活用

ドライブレコーダーは,車両に大きな衝撃が加わった前後の映像とともに,位置,加速度,ウィンカー操作ブレーキ操作等を記録する車載カメラ装置で,交通事故の記録や悪質ドライバー対策として活用されているほか,運転者の安全意識の向上やいわゆる「ヒヤリハット」の映像を用いた交通安全教育に活用されている。

警察では,高齢者講習等でドライブレコーダーの映像等を活用しているほか,交通事故事件捜査においても,悪質・危険な運転行為等の特定に活用している。

また,交通事故時に車両挙動のデータや運転者のペダル操作関連のデータ等を記録する車載記録装置であるイベントデータレコーダーから得られる情報についても,交通事故事件捜査において,その役割が重視されている。

【活用事例】

・ 横断歩行者被害の死亡ひき逃げ事件において,現場付近を走行していた車両のドライブレコーダー映像に記録された逃走車両の特徴等から被疑車両を特定し,被疑者を検挙した。

・ 普通乗用自動車同士の重傷交通事故において,当事者車両のドライブレコーダー映像の解析等から,事故発生直前に双方が互いの進路を妨害し合っていた状況を明らかにし,両当事者を危険運転致傷罪(妨害目的運転)で検挙した。

ドライブレコーダーの映像を活用した高齢者講習の実施状況。モニターに映っている道路に赤いペンで指示を出している教員と受講者

イ ドライブレコーダーの普及

あおり運転や交通事故の記録・証拠としてドライブレコーダーの記録映像が活用されるなど,ドライブレコーダーの普及が急激に進んでいるところ,ドライブレコーダー搭載のメリットや使用上の注意点などの具体例をまとめた啓発ビデオを公開(令和2年12月)した。今後も,これらの取組を通じ,引き続き普及啓発を進めていく。

(3)緊急通報システム(HELP)の活用の推進

緊急車両の現場到着時間を短縮し,負傷者の早期救出及び交通事故処理の迅速化を図る緊急通報システム(HELP)は平成12年に運用を開始しており,同システムを活用している緊急通報サービスを行う事業者は,交通事故等の緊急事態発生の通報を受信し,その発生場所等を管轄する警察又は消防に連絡している(特集-第45図,第47図)。

特集-第45図 HELPNETの仕組みと流れ。HELPNET搭載車両は、(1)事故発生・急病により、自動通報/専用ボタン/カーナビで(2)通報を行う。(3)通報受付、(4)通報接続、(5)現場急行につなげる

なお,平成30年4月からは,交通事故等の緊急事態発生の通報に併せて,消防本部に対し死亡重症確率を送信することの本格運用を開始,令和元年11月から警察本部への死亡重症確率の送信を開始している(特集-第46図)。

特集-第46図 救急自動通報システム(D-Call Net)。D-Call Net搭載車両は、事故を検知すると、緊急通報データをHELPNETに通知し、消防本部経由で基地病院からドクターヘリの出動につなげる
特集-第47図 警察・消防への連絡件数の推移
(件数) 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年 令和2年
警察への連絡件数 925 1,004 1,256 1,912 3,103
警察への連絡件数 307 318 399 639 1,014

注 株式会社日本緊急通報サービス資料による。

(4)車両の安全対策及び技術の進展に向けた取組

第11次計画における重点分野に係る車両安全対策,事故実態,技術の進展及び社会環境の変化を踏まえた今後の車両安全対策などについて検討することを目的とした「交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会技術安全ワーキンググループ」が令和2年10月に設置された。同ワーキンググループの審議結果を踏まえ,子供・高齢者の安全対策,歩行者・自転車乗員の安全対策,大型車が絡む重大事故対策,自動運転など新技術への対応を中心に車両の安全対策を推進する。

トピック
官民ITS構想・ロードマップ

官民ITS構想・ロードマップは,ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)・自動運転について我が国の方針を示した,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にて決定された国家戦略である。本ロードマップは,平成26年に初めて策定されて以降,本分野における技術・産業の進展が目覚ましいことから,最新状況を踏まえて毎年改定を重ねており,最新版は令和2年7月に策定された「官民ITS構想・ロードマップ2020」である。

本ロードマップ2020では,「世界一のITSを構築・維持し,日本・世界に貢献する」ことを一貫して掲げており,図1のとおり令和12(2030)年までに「世界一安全で円滑な」道路交通社会を構築するという目標を設定している。

【図1】目標とする社会と重要目標達成指標。「2020年までに世界最先端のITSを構築」→「2020年以降、自動運転システム化に係るイノベーションに関し、世界の中心となる」→「2030年までに、「世界一安全で円滑な」道路交通社会を構築」するとしたロードマップ

特に,我が国においては,交通事故の削減に加え,過疎地等における高齢者等の移動手段の確保と少子化に伴うドライバー不足への対応等,多くの社会課題があることを踏まえ,これらの課題解決に貢献することが期待される自動運転の市場化・サービス化に係る目標(図2)を,運転自動化のレベル定義(SAE InternationalのJ3016及びその日本語参考訳であるJASO TP18004の定義を採用)(表1)を踏まえつつ設定している。

【図2】自動運転の市場化・サービス実現のシナリオ。〈自家用車〉では、交通事故の削減、交通渋滞の緩和、産業競争力の向上を目指す。〈物流サービス〉では、人口減少時代に対応した物流の革新的効率化を目指す。〈移動サービス〉では、全国各地域で高齢者等が自由に移動できる社会を目指す
【表1】自動運転レベルの定義の概要
レベル 操縦の主体
運転者が一部又は全ての動的運転タスクを実行
レベル0
  • 運転者が全ての動的運転タスクを実行
運転者
レベル1
  • システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行
運転者
レベル2
  • システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行
運転者
自動運転システムが(作動時は)全ての動的運転タスクを実行
レベル3
  • システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行
  • 作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答
システム
(作動継続が困難な場合は運転者)
レベル4
  • システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行
システム
レベル5
  • システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行
システム

これらの自動運転の市場化・サービス化を実現するためには,関連する技術開発と制度整備が重要であり,民間及び関係府省庁が一体となって取り組んでいる。

官民ITS構想・ロードマップ2020の策定後も,ITS・自動運転を巡る技術・産業の動きは急速に進展し続けており,引き続き世界最先端のITSの構築,自動運転に係るイノベーションの世界の中心地となることを目指して,取組を進めているところである。

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