第3編 航空交通 第2章 航空交通安全施策の現況
第4節 航空交通環境の整備

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第3編 航空交通

第2章 航空交通安全施策の現況

第4節 航空交通環境の整備

1 増大する航空需要への対応及びサービスの充実
(1)国内空域の抜本的再編

安全かつ効率的な運航を維持しつつこれに対応するため,国内空域の抜本的な再編を行うべく,①管制空域の上下分離,②複数の空港周辺の空域(ターミナル空域)の統合,のために必要となる航空保安システムの整備,飛行経路・空域の再編等を行っている。

(2)首都圏空港・空域における容量拡大

羽田空港においては,令和2年3月29日から新飛行経路の運用を開始し,発着容量を拡大した。また,成田空港においては,高速離脱誘導路の整備等により,令和2年3月29日から空港処理能力を拡大した。また,これに伴う首都圏空域における航空交通の更なる混雑に対応するため,飛行経路・空域の再編等を実施した。

(3)統合管制情報処理システム等の整備

増大する航空需要に対応しつつ,管制業務の継続性・処理能力の向上を図るため,データベースの共通化やシステム構成の単純化,管制支援機能の追加を行うなど,既存システムを統合した新たな管制情報処理システムの整備を進めている。

(4)小型航空機運航環境の整備

低高度空域における小型航空機の安定的な運航の実現を図るため,計器飛行方式による,既存航空路の最低経路高度の引き下げ,最低経路高度の低い新たな航空路の設定及びヘリポートへの進入・出発方式の設定について検討を進める。

また,海上部及び山間部における送電線への接触事故等を未然に防止するため,引き続き運航者に対して物件情報の提供を行う。

(5)航空保安職員教育の充実

更なる航空交通需要の増大に伴う空域の容量拡大や航空保安システムの高度化に的確に対応するため,航空保安職員に対し高度な知識及び技量を確実に修得させることを目的として,航空保安大学校等における基礎研修及び専門研修について,研修効率を上げるための研修カリキュラムの見直し,訓練機材の更新及び国際的に標準化された教育手法への移行を進めている。

(6)新技術や新方式の導入

GPSを利用した航法精度の高い高規格進入方式(RNP AR)について導入を進めており,令和2年度までに34空港において,計70方式を設定した。今後も継続的に設定を行うとともに,世界的に進められている更なる高規格な進入方式の開発の動向を注視,導入を図ることで,航空機の運航効率の向上や悪天候時における就航率の向上等を図っていく。

(7)飛行検査体制の充実

飛行検査機については,老朽化の更新に当たって,将来の新技術の検査に対応可能であり,かつ災害時に必要な物資・職員等の輸送が可能な飛行検査機材の更新作業を進めている。

また,航空機の運航効率の向上や悪天候時における就航率の向上等に資する衛星航法を用いた飛行方式が順次導入予定であり,その検査の実施及び空港被災時における飛行検査体制の拡充を図っている。

(8)電子地形・障害物データ提供の拡充

航空機運航者の利便性や情報品質の向上を図るため,航空機の運航に必要となる空港周辺の地形や障害物等の基礎的情報をデジタルデータとして提供するとともに,対象となる空港の拡大を進めている。

(9)将来の航空交通システムの構築に向けた取組

国際的な相互運用性を確保しつつ,長期的な航空需要の増加や地球環境問題等に対応するとともに,更なる安全性の向上を図るため,ICAOや諸外国とも協調して,将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)の推進を実施している。

(10)大都市圏における拠点空港等の整備

「明日の日本を支える観光ビジョン」における訪日外国人旅行者数を2030年に6,000万人にする目標の達成,我が国の国際競争力の強化の観点から,首都圏空港(東京国際空港(羽田空港),成田国際空港(成田空港))の機能強化は必要不可欠であり,両空港で年間約100万回の発着容量とするための取組を進めているところである。

具体的には,羽田空港において,令和2年3月29日から新飛行経路の運用を開始し,国際線の発着容量を年間約4万回拡大しているところであり,引き続き,騒音対策・安全対策や,地域への丁寧な情報提供を行う。成田空港においては,高速離脱誘導路の整備等により,令和2年3月29日から空港処理能力を年間約4万回拡大したところである。また,更なる機能強化として,平成30年3月の国,千葉県,周辺市町,空港会社からなる四者協議会の合意に基づき,B滑走路延伸・C滑走路新設及び夜間飛行制限の緩和により,年間発着容量を50万回に拡大する取組を進めていくこととしている。そのほか,福岡空港については,滑走路処理能力の向上を図るため,滑走路増設事業を実施している。那覇空港等においては,空港の利便性向上を図るため,CIQ施設等を含めたターミナル地域の機能強化,エプロン,誘導路等の整備を実施している。また,航空機の安全運航を確保するため,老朽化が進んでいる施設について戦略的維持管理を踏まえた空港の老朽化対策を実施するとともに,地震災害時における空港機能の確保等を図るため,空港の耐震化を着実に推進している。加えて,航空旅客ターミナル施設においては,旅客の安全確保のため,高齢者,障害者等の安全利用に配慮した段差の解消等のバリアフリー化を引続き実施し,総合的・一般的な環境整備を実現するなどの観点からユニバーサルデザイン化を進めている。

2 航空交通の安全確保等のための施設整備の推進
(1)データリンク通信の利用拡大

音声通信により発生する管制官及びパイロットの「言い間違い」や「聞き間違い」によるヒューマンエラーの防止等を図るため,現在洋上空域や地上(出発前)で活用されているデータリンク通信の航空路空域への導入の準備を進めている。

(2)航空路監視機能の高度化

航空路空域における更なる安全の確保を図るため,関東/南東北エリア,中部/近畿/瀬戸内エリア,南北海道/北東北エリアに加え,令和2年度には周防灘エリアに高精度な新型監視装置である航空路WAMの設置を進めている。

(3)航空保安システムの災害対策の強化

大規模災害発生時に航空保安業務を継続して実施できる体制を確保するとともに,危機管理能力の更なる向上を図るため,統合管制情報処理システムの整備に合わせた適切な危機管理体制の構築を進めている。

3 空港の安全対策等の推進
(1)滑走路誤進入対策の推進

ヒューマンエラーに起因する滑走路誤進入を防止するため,管制指示に対するパイロットの復唱のルール化等の対策を講じるとともに,滑走路誤進入事案に関する安全情報の共有を促進することにより,管制官とパイロットのコミュニケーションの齟齬の防止を行っている。また,滑走路占有状態を管制官やパイロットへ視覚的に表示・伝達する滑走路状態表示灯システム(RWSL)の整備等を推進している。

(2)空港の維持管理の着実な実施

滑走路等の諸施設が常に良好な状態で機能するよう,定期的な点検等により劣化・損傷の程度や原因を把握し,老朽化の進んでいる施設について効率的かつ効果的な更新・改良を実施している。

(3)空港における災害対策の強化

ア 災害時の空港機能の確保

災害時に航空輸送上重要な空港等の機能を維持するためには,空港内施設のみならずライフライン施設や道路・鉄道等の交通施設の機能維持が必要となることから,各施設の関係者と協議して,平成26年度の「南海トラフ地震等広域的災害を想定した空港施設の災害対策のあり方 とりまとめ」を踏まえた,地震・津波に対応する避難計画・早期復旧計画を策定し,計画に基づき避難訓練等の取組や関係機関との協力体制構築等の取組を推進している。

加えて,平成30年9月の台風第21号や令和元年9月の令和元年房総半島台風等の影響により,空港機能や空港アクセスに支障が生じたことから,未経験レベルの大規模な自然災害やそれに伴うアクセス機能の喪失等外部からのリスクが発生した場合においても,我が国の航空ネットワークを維持し続けることができるよう,全国の空港において事業継続計画「A2-BCP」を策定し,これに基づき,空港関係者やアクセス事業者と連携し,災害時の対応を行うとともに,訓練の実施等による対応計画の実効性の強化に努めている。

イ 空港施設の耐震性の向上

航空ネットワークの拠点となる空港等について,地震被災時における緊急物資輸送拠点としての機能確保,航空ネットワークの維持や背後圏経済活動の継続性確保,さらには運航中の航空機の安全確保を図るため,必要となる基本施設等の耐震対策の向上を進めている。

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