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先端技術について

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戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における自動運転に関する取組

自動運転技術は交通事故の低減,交通渋滞の削減,交通制約者や過疎地等での移動手段の確保や物流業界におけるドライバー不足等の社会的課題の解決に貢献するものと期待されている。総合科学技術・イノベーション会議は,社会的に不可欠で,日本の経済・産業競争力にとって重要な課題に対する取組である戦略的イノベーション創造プログラム(SIP,以下「SIP」という。)の課題の一つとして自動運転を選定した。平成26(2014)年度から始まったSIP第1期では,自動運転に必要となる高精度3次元地図情報の統一仕様を業界横断的に策定し,自動車専用道約3万キロの高精度3次元地図を整備するとともに平成31(2019)年3月から商用配信を開始している。

平成30(2018)年度から開始したSIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」においては,自動運転の実用化を高速道路から一般道へ拡張するとともに,自動運転技術を活用した物流・移動サービスの実用化により,すべての人が質の高い生活を送ることができる社会の早期実現を目指して,産学官共同で取り組むべき協調領域を中心に研究開発を推進している。

【図1】 SIP第2期「自動運転」の取組内容。横軸は制限付き→制限無し、縦軸はレベル1→レベル5とし、A「物流/移動サービス」(過疎化対策、ドライバー不足対策、移動の自由)、B「オーナー・カー」(交通事故低減、交通渋滞削減、クルマの価値向上)が、図右上の「究極の自動運転社会」に向けて矢印を向いている

1 高速道路から一般道路への拡張に向けて(東京臨海部実証実験等)

交通環境が複雑な一般道においては,車両に搭載されたセンサー等からの情報のみで自動運転を実現することは困難であり,信号情報や交通規制情報等の交通環境情報を道路インフラなど外部から取得することが有用となる。SIP第2期では,これら交通環境情報を高精度3次元地図情報に紐づけたダイナミックマップの構築と配信に向け取り組んでおり,この社会実装に必要な基盤技術の検証を目的として,東京臨海部の臨海副都心地域,羽田空港地域,羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路において,自動車メーカー等のオープンな参加のもと,公道の実交通環境下におけるインフラ協調型の自動運転システムの実証実験を実施している。臨海副都心地域ではITS無線路側機を整備し,自動運転の実用化に有用な信号情報の提供方法等の技術検証を行い,羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路においては,高速道路への安全で円滑な合流やETCゲートの通過に対する支援を目的として,道路交通インフラの整備を進め,実証実験を実施した。また,羽田空港地域では,レベル4相当の次世代公共交通システムの実現に資する磁気マーカー,公共車両優先システム等のインフラを整備し,混在交通下における自動走行実現,PTPSによる速達性・定時性向上,加減速・正着制御の快適性の確認等に関する実証実験を実施し完了した。

※東京臨海部実証実験:令和元年10月15日内閣府プレスリリース
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20191015jidouunten.html

【図2】実証実験【臨海副都心~羽田地域】。東京臨海地域でオープンに参加者を募り、動的な交通環境情報に関する実証実験を開始。実証内容は、信号情報提供、高速道本線合流支援、公共交通システム(自動運転バス)となっている

さらに羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路において,自動車メーカーやナビメーカー等の有する民間のプローブ情報及び官の情報(落下物情報,事象規制情報等)を用いて,道路の車線レベルでの道路交通情報を生成・配信するために必要な研究開発を実施している。

2 地方部等における移動サービスの実用化に向けて

日本において喫緊の課題である地方における移動手段の確保やドライバー不足対策の課題解決に向け,自動運転技術を活用した物流・移動サービスの長期の実証実験を行い,事業性を検証し,実用化を加速する取組を推進している。

具体的には,中山間地域における人流・物流の確保を目的として,物販をはじめ診療所や行政窓口など,生活に必要なサービスが集積しつつある道の駅等を拠点とした自動運転サービス実証を行い,令和元(2019)年11月から道の駅「かみこあに」(秋田県)において,本格導入を開始した。さらに,令和3(2021)年4月から観光客の利用も見込まれる道の駅「奥永源寺渓流の里」(滋賀県)においても本格導入を開始するなど,事業者や地方自治体,地元協議会等との連携・協働の下,社会実装に向けた取組を推進している。

3 安全性評価環境の構築に向けて

自動運転車の実用化・普及展開に向けては,安全性の確保及びその評価手法の確立が極めて重要である。一方で安全性評価のために,公道において起こる様々な事象をすべて実車で評価するのは困難である上に,その評価工数も膨大である。こうした状況を打開するため,実環境の多様な条件(対象物,気象,交通環境等)を仮想空間において再現できるシミュレーション技術の構築に取り組んでいる。

特に重要な自動運転システムと外界との接点となるカメラ,レーダー,LiDAR等の各種センサーを同時に評価できるシミュレーション評価基盤の構築に向けた技術開発に注力し,実環境と一致性の高いセンサーモデル及び環境モデルが出来つつある。現在,自動車メーカーやサプライヤーと連携し,安全性評価環境に係る他のツールとのインタフェース等の共通化について検討を進めている。今後は,評価のためのユースケースの策定や,東京臨海部実証実験と連携して臨海副都心地域の実証エリアを仮想空間に再現するなど,自動運転の安全性評価環境への統合的な適用を進めていく予定である。

【図3】仮想空間における安全性評価環境の構築。実験評価では、Public RoadとProving Ground上でCamera、Radar、LiDARを使用。バーチャル評価では、SILS/MILS、HILS、VILS上で実現象と一致性の高いセンサモデルを使用

その他にも,自動運転の普及に伴い,通信でやり取りされる情報量が増加するにつれ,重要となる情報セキュリティ対策技術についても,市場に投入された後も継続的に外部からの攻撃を検知できる侵入検知システムの性能評価に関する技術開発に取り組んでいる。

4 国際連携の推進と社会的受容性の醸成に向けて

自動運転分野における日本のプレゼンス向上に向け,国際的に研究テーマをリードできる人材の育成を見据え,自動運転に関わる情報や課題の共有とその解決に向けた取組を議論する国際会議「SIP-adus Workshop」を毎年開催し,国際的な共同研究の連携と標準化活動を推進している。

また,社会的受容性の醸成に向けて,自動運転の認知度の向上と正しい理解を得ることを目的として,双方向性を確保した市民参加型イベントの実施や,Webを通して自動運転の正しい理解を促す情報コンテンツの作成・情報発信を推進している。

自動運転に係る制度整備

官民ITS構想・ロードマップで設定された自動運転の市場化・サービス化に係る目標実現のために必要となる制度の見直し方針である「自動運転に係る制度整備大綱」を平成30年4月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にてとりまとめた。

【図4】自動運転に係る制度整備大綱の概要と現在までの主な進捗。制度整備大綱に基づいた主な取組事項として、1.安全性の一体的な確保、2.車両の安全確保の考え方、3.交通ルールの在り方、4.責任関係。主な進捗状況として、【改正道路法 等】、【改正道路運送車両法 等】、【改正道路交通法 等】、【自動車損害賠償保障法】、【刑事責任】が記されている

本大綱に基づき各省庁で検討を進め,以下の進捗があった。

■安全性の一体的な確保,車両の安全確保の考え方

・自動運転車の運行を補助する施設(磁気マーカ等)を道路付属物と位置付ける「道路法等の一部を改正する法律」が令和2年11月から施行された。また施行に合わせ,自動運行補助施設(路面施設)の技術基準等が策定された。

・自動運転車等の設計・製造過程から使用過程にわたる安全性を一体的に確保するため,「道路運送車両法の一部を改正する法律」が令和2年4月から施行された。また,同法を踏まえ,自動運転車の安全性能やその作動状態の記録項目等を定めた安全基準が策定された。

■交通ルールの在り方

・自動車の自動運転の技術の実用化に対応した運転者等の義務に関する規定の整備等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」が令和2年4月から施行された。

・自動運転と国際条約との関係の整理等に関し,国際連合経済社会理事会の下の欧州経済委員会内陸輸送委員会に置かれた「道路交通安全グローバルフォーラム(WP.1)」における議論に引き続き参画した。

・限定地域での無人自動運転移動サービスにおいては,現在の実証実験の枠組みが事業化の際にも利用可能とされている。この点,自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準を定めた「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」が令和2年9月に改訂され,許可に係る手続が合理化された。

■責任関係

・自動車損害賠償保障法において,自動運転システム利用中の事故により生じた損害についても,従来の運行供用者責任を維持することとされた。

・刑事責任については,関係主体に期待される役割や義務を踏まえ検討することとされた。

今後も引き続き検討を進め,例えば自動運転車の導入初期段階の,公道において自動運転車と非自動運転車が混在し,かつ自動運転車の割合が少ない,いわゆる「過渡期」における制度のあり方を検討していく。

安全運転支援システムの技術

「先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle,ASV。以下「ASV」という。)」とは,先進技術を利用して,車両単体での運転支援システム,通信利用による運転支援システム等のドライバーの安全運転に資するシステムを搭載した自動車を指す。

国土交通省では,ASVの開発・実用化・普及の促進により,交通事故死傷者数を低減し,世界一安全な道路交通を目指すプロジェクト「先進安全自動車(ASV)推進計画」(以下ASV推進計画)に平成3(1991)年度から取り組んでいる。ASV推進計画では,有識者,日本国内の四輪・二輪の全メーカー,自動車部品メーカー,自動車関係団体,関係省庁などで構成されるASV推進検討会を開催し,この検討会において先進安全技術の技術要件をまとめたガイドラインの策定やASVの普及方策に関する検討などを行っている。

【図5】先進安全自動車(ASV)推進計画。第6期(2016~2020年度)では、「自動運転の実現に向けたASVの推進」を掲げている。主な検討項目は、自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理、路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件の検討、Intelligent Speed Adaptation(ISA)の技術的要件の検討、隊列走行や限定地域における無人自動運転移動サービスの実現に必要な技術的要件と課題、実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及

平成28(2016)年度から始まった第6期ASV推進計画では自動運転も検討の対象に含め,「自動運転の実現に向けたASVの推進」をテーマに,①自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理,②路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システム等の先進安全技術の技術的要件の検討,③実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及等に取り組んだ。

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