障害者差別解消法の見直しの検討に関する事業者団体合同ヒアリング(10月23日)議事録

令和2年10月23日(金)
15:00~15:51
中央合同庁舎8号館5階共用会議室A

【議事に使用されている資料については「議事次第」のページにまとめて掲載していますのでご参照ください。】

○内閣府 植草企画官 それでは、順番に御発言をお願いしたいと思います。
 まず、社会福祉法人日本保育協会の川鍋部長よりお願いいたします。

○(福)日本保育協会 川鍋部長 川鍋です。よろしくお願いします。
 時間が限られておりますので、御依頼を受けている事項に沿ってお話ししたいと思います。
 合理的配慮の義務化ということですが、これについて異論はありません。むしろこれは当然のことだと思っています。ただ、問題は、当たり前のことが世の中で現実にそうなっているかというとそうではないので、それをどう根付かせていくのかということだと思います。そのための政策的な柱立てをどうしていくのか、進め方をどうするのかということを思っています。
 それから、保育の関係で申し上げますが、これだけ最初に申し上げさせてください。保育の現場と一言で言っても一様ではありませんで、日本保育協会の他に中央団体が2つありますし、それから、保育の形態からいっても、家庭的保育という形態もあるし、小規模保育という形態もあるし、実施主体からいえば企業主導型保育もありますので、今日、なかなか保育全体の総意という形で申し上げるわけにはいかないので、そこだけは御容赦願いたいと思います。
 その上で、特に子供ですので、保育の場合は、一言で言えば障害児保育という取組を昔からずっとやってきております。なので、その中で培った経験や地域の親御さんのニーズなどを踏まえてやっているということだと思います。
 どんなことに困っているかということでいうと、最近というかしばらく前から多いのは、保育の現場は特に「気になる子」という言われ方をしています。気になる子が最近増えたねと。この気になる子はどういう意味かというと、一言で言うと発達障害のある子。それで、今、自閉症スペクトラムというお子さんがかなり増えてきていて、しかも、高機能の場合はまた別なのですけれども、知的障害があって自閉症という合併ケースがかなり多くて、私も2年間現場でやってきたのですけれども、新しく入所されているお子さんで、2年間全て見ていたら重度の知的障害と自閉症があるということで、非常に多く増えてきているなということが1つあります。
 もう一つ、これは全国的な調査はしていませんが、私の感覚でいくと、例えばある地域に限って言えば、今、少子化で子供は少ないのですけれども、特別支援学校の入学者が増えている。その入学者の中でも非常に多いのがやはり自閉症がある子供です。それでどういうことが起きているかというと、教室が足りないという状況なのです。これは全国な状況かどうか分かりませんが、そういう状況も一方ではある。
 そうすると、合理的配慮をしようとしたときに、子供について言うと、子供がどういう訴えをしていて、それに応えることができるか。要するに、子供のサインが何のサインなのかということをどう受け止めるのか。知的障害の世界では、今、意思決定支援ということが非常に大きな話題になっていて進めようとしていますが、そことの関係でどう考えていくか。これは大事なことだと思います。要するに、分からないことが結構多いのです。この子は何を訴えて何をしてほしいのか。本人も自分で言いたいのだけれどもうまく伝えられないということが現場で起きていることです。そこをこの合理的配慮の中でどう考えるのかということだと思います。
 どのくらい取組が進んでいるかということについて言えば、それぞれの現場がそれぞれ悩みながらやっているというのが実情だと思います。これは調査はしていませんけれども、調査も難しいと思いますが、結構皆さん苦しんでいる。
 一方で、慌てて答えを出さないほうがよいという見方もあって、ネガティブ・ケイパビリティという考えもあるのです。なぜかと言うと、慌てて何か答えを出して解決しようとすると結構失敗するのです。なので、そこは分からないのだけれども耐えていく。答えが出ない事態を耐える力をそう言うらしいのですけれども、精神科領域のお話だということですが、今、それで一緒に支援を、その場にいて寄り添ってやっていくというやり方も現実にあるので、そことの関係でいくと、実際に合理的配慮をどう受け止めて何をどうしていったらいいのかというのが、知的障害の世界では難しいかなと思います。例えば体の機能、身体に障害があって、きちんと伝えられる方は、それはそれでよろしいかなと思うのですけれども、そうではないケースをどう考えていくかということが率直に申し上げて感じた部分です。なので、その方向で障害者差別解消法の見直しをされていくということであれば非常にいいことではないかなと思います。
 以上です。

○内閣府 植草企画官 どうもありがとうございました。
 続きまして、公益社団法人日本歯科医師会の山本常務理事、お願いいたします。

○(公社)日本歯科医師会 山本常務理事 皆さん、こんにちは。日本歯科医師会の山本でございます。
 私の方から幾つかお話をさせて頂きます。
 まず合理的配慮ということについてですけれども、その義務化について特段反対をするものではございません。ただ、歯科医療機関においては、具体的な場面あるいは状況等に応じて総合的に判断をするということがございますので、もし個別案件として非常に問題のある案件等があった場合には、そういった事案については共有をお願いしたいというところでございます。
 2番目でございますが、障害者の歯科治療ということでございます。
 これについて少し歴史的な背景をお話ししますと、まず、歯科における障害者の治療は、昭和初期から大体20年ぐらいまでは非常に熱意のある先生方によって行われていたというのが実情でございます。
 昭和40年代になりますと、う蝕の洪水と呼ばれるように、虫歯が非常に多くなりました。そういったような時代に、大阪府を始めとした都道府県の歯科医師会の先生方が地域保健活動としてセンター等を設立するという形で広がっております。また、病院歯科あるいは医学部の歯科口腔外科の先生方が積極的に障害者の方を受け入れてきたという点。そして、特に歯学部では小児歯科を中心として行われてきた事情がございます。
 そして、昭和51年になりまして、日本大学の松戸歯学部に特殊診療科が開設されまして、それが他の歯科大学・歯学部の附属病院でこうした診療科が置かれる契機になったと思います。
 現在は5つの歯科大学・歯学部に障害者の歯科学が開設されています。他の大学での教育でございますが、小児歯科あるいは麻酔学の一環として教育が行われているというような実情でございます。
 それから、障害者への歯科口腔保健でございますけれども、「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」というものがございます。この中で障害者の支援施設あるいは障害児の入所施設に対しての定期的な歯科検診の実施について、令和4年に90%の目標が設定されておりますので、それに取り組んでいるところでございます。
 また、障害者の歯科医療に関する相談あるいは協力といった制度でございますが、39の都道府県で設けられております。それから、歯科口腔保健の推進に関する条例が非常に多くの都道府県、市区町村に制定されましたので、そこで障害者に対する対応が次第に盛り込まれてきているというようなところが背景としてございます。
 それから、合理的配慮に対する取組状況でございますけれども、バリアフリーについては全国的に対応していますが、やはり物理的、精神的にも十分であるとはいえないという点がございます。地域の歯科診療所でございますけれども、聴覚障害者あるいは視覚障害者等といった方については身振り手振り、要約の筆記、筆談や図解をするとか、現在であればコンピュータのいわゆる写真のデータ、あるいは口頭による説明で滞りなく順調に歯科診療の提供がなされているというようなところだと思います。
 こちらに2007年の東京都の調査がございますが、障害者に対する歯科診療を実施したのがどれぐらいであるかということでございますが、大体66%ということでございます。他に東京都歯科医師会が会員約8,000名に対して行った調査などを見ましても、やはり大体55~60%の先生方が対応しているというお話でございます。
 ただ、歯科の診療所においては、床下に非常に多くの配管がありますので、どうしてもバリアフリーが設備的に難しいところがあるのも事実でございますし、特に都心のいわゆるビル開業というような形でありますとエレベーター等の問題もありますので、その辺がもし義務化されると少し対応に苦慮するような先生方が現れるのではないかなと思っております。
 それから、人材ということでございます。医師・歯科医師・薬剤師調査というものがございますが、これによりますと、全国の歯科医師数は約10万人でございます。このうち、診療所の歯科医師数が約9万人ということでございまして、病院の歯科医師数は3,000名余り、そして、医育機関の附属病院の歯科医師数は8,500名ということでございますので、大体80~90%が診療所にいるということになります。そして、平均年齢でございますが、50代、60代というところでございます。それから、障害者の歯科を専門に行います障害者歯科学会でございますが、会員数は約5,000名ということでございます。そのうち、いわゆる指導的立場の専門指導医が33名、専門医は149名、専門医療の研修機関は40施設ということで、大学等のセンターといったところで働いている先生方がその数にほぼ一致するのではないかと思います。
 こういうことから、地域の先生方に対する研修がなかなか難しくて、それぞれの地域の病院歯科、あるいは障害者のセンター、都道府県のそういったセンターを通じて連携をしながら実施しているというところでございますが、なかなか難しいので、障害者の歯科に対する研修システムというものは何らかの形が必要ではないかと考えているところでございます。
 以上でございます。

○内閣府 植草企画官 どうもありがとうございました。
 続きまして、公益社団法人日本薬剤師会の長津常務理事、お願いいたします。

○(公社)日本薬剤師会 長津常務理事 よろしくお願いいたします。日本薬剤師会の長津でございます。
 まず、合理的配慮そのものに関しましては当然大いに賛成するところでございますが、薬局という構造上の問題、あるいは経済的な問題を含めて考えますと、何から何まで義務ですよということに関しましては、いささか反応が鈍くなると考えてございます。
 そして、薬局で障害者への対応において具体的に困っていることというお尋ねですけれども、こちらに関しましては、正直なところ、さほど感じておりません。薬局というものを御利用頂く中で、例えば視覚障害や聴覚障害のある方に関しまして、薬局というのは薬局機能情報提供制度というものが各都道府県で行われておりまして、そこにおいて、私もつまびらかに47都道府県を見たわけではないのですが、大部分においては視覚障害者または聴覚障害者に対応ができるというチェックボックスが設けられております。そこのチェックを外しているところというのはまずないと考えております。
 さらに、自立支援の医療を提供するという保険薬局に関しましては、あらかじめ構造的な施設設備の基準が設けられておりますので、バリアフリー等の問題が解決できていないと、そもそも自立支援の医療は提供できないということになってございます。
 あとは、今般の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の改正におきましても、そこにおける認定薬局というものが2つできますが、そちらの認定要件に関しましても、障害のある方が御利用頂くことにさほど不自由がないよという設備についても設けられる予定でございますので、その辺も含めて考えて頂きたいと思います。
 また、今後のことであろうと思うのですけれども、医療を提供するに当たりまして、障害と一口に言いましても、その方が薬局を御利用頂く、何かを購入しに来て頂く場合なのか、あるいは障害そのものに対して医療を提供する状況であるのかによっても違うのですが、保険医療を提供する場合は、ある程度公費の法別番号で患者の障害種別の推測はできるわけでございますが、ただ、そうはいっても、それが正確に把握できるわけでもなく、そこの個人情報は非常に繊細で難しいと思うのですが、できれば医療提供施設の間、例えば今、日本歯科医師会さんからお話がございましたし、あるいは、日本医師会さんからもヒアリングがあったと思いますけれども、そのような医療提供施設の間で何かしらもう少し細かく情報が共有できれば、医療を提供するという面におきましては、もっともっと質の高いものが提供できるのかなと考えてございます。
 これは非常に難しい問題だという認識はしておりますけれども、医療人として考えますと、そこのところがもし達成できれば、障害のある方に対しても非常に住みやすい世の中になっていくのではないかと思っております。
 以上でございます。

○内閣府 植草企画官 どうもありがとうございました。
 続きまして、公益社団法人日本精神科病院協会の櫻木常務理事、お願いいたします。

○(公社)日本精神科病院協会 櫻木常務理事 日本精神科病院協会の櫻木です。よろしくお願いします。
 まずもって、我々の日本精神科病院協会は、昭和24年に国民の精神保健の向上、精神障害がある人への適切な医療・福祉の提供、更には精神障害者の人権の擁護、社会復帰を図るということを目的に設立されております。
 平成24年4月には公益社団法人に移行しまして、以来、精神保健医療福祉に関する調査研究及び資料の収集、精神保健医療福祉従事者の人材育成、教育研修、精神保健医療福祉に関する普及及び啓発を3つの柱として、現在も積極的に活動を行っているところでございます。
 まず、合理的配慮の義務化についてです。我が国は2007年に障害者権利条約に署名をしたわけですけれども、その第2条に、合理的な配慮に関して、障害者の人権と基本的な自由を確保するための「必要かつ適当な変更及び調整」であって、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義しているところでございます。障害者が困ることをなくしていくために、周囲の人や事業者がすべき無理のない配慮というふうに解釈ができると考えております。さらに、障害に基づく差別には合理的配慮への否定も含まれているというところでございます。
 もちろんこうした合理的配慮に関する内容については、我々としても当然同意いたします。ただし、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」に関する検討について、現在までの経過というのは十分な議論、慎重な検証が行われたかというと、必ずしもそうではなかったのではないかと危惧しているところでございます。
 特に精神障害に関しましては、身体障害、例えば運動器の障害、あるいは感覚器の障害の場合のように、必要とされる「変更及び調整」が必ずしも明確ではない。あるいは個人個人によってどういった配慮をするかというようなことに対して非常にバリエーションがあるというところでございます。
 現在、現場でどういうことが起こっているかということですが、先ほども言いましたように、我々は社会復帰にかなり力を入れているところでありますけれども、病状が安定して退院が可能になった精神障害者の方が地域生活を送る上で、住まいの確保というのは非常に基本的な事柄になってまいります。退院する障害者の方の多くには家族、特に御両親が既に亡くなっておられる、あるいは高齢化されているというケースが多く見られます。こういった方が単身生活を送るということが現実問題として多くなっているわけであります。
 その場合、公的住宅を申し込むケースもあるわけですけれども、そういった単身生活者には制限が加わっているケースが多くございます。例えば、公的住宅というのは基本的には単身者には貸与しない、家族単位で貸与するという対応をしている実態も多いわけであります。それから、複数名の保証人を要求されるケースも多く聞いております。民間のアパートでも同様に保証人の確保が困難なケースも非常に多くございます。一部の自治体では公的保証人の制度が整備されているという地域もございますけれども、これは必ずしも多数にはなっていないということであります。場合によっては、県単位では単一の保証人でよしとしているけれども、市町村レベルになるとまだ複数の保証人が必要であると。そのうち1人は同一の自治体に居住しているという条件がついているというようなことがあって、このことが非常に障壁になっているというケースもあります。
 それから、我々の取組ですけれども、精神障害者の方がそういった形で退院されるといった場合に、我々の会員病院では、地域の中に、例えばグループホームあるいは福祉ホーム、更には自立訓練施設という居住系の施設を立地するという取組を続けているところであります。しかし、残念ながら、それらの決して少なくないケースにおいては、地域住民の反対運動があって計画の中断あるいは変更を余儀なくされています。
 我々もいろいろ調べてみたのですけれども、例えば2019年12月22日に報道された毎日新聞の電子版の記事によりますと、過去5年間、つまり2014年から5年間ですけれども、少なくとも全国21の都府県で68件こういった反対運動によって計画が中断あるいは変更が必要なケースが起こっている。さらに、反対運動が起こったとしても、民間精神病院等のいわゆる施設を運営する事業者に任せきりになっていて、県や自治体が対応を全くしなかったというようなケースが32件あったという報道になっております。
 また、最近の事例でいいますと、2020年10月14日、これはかなり最近のことですけれども、神奈川新聞の電子版では、精神障害者らのグループホームに近隣住民が反対するのは差別に当たるというようなことで、事業者、入院予定の家族が紛争を解決するための相談対応とあっせんを市に申し立てたという横浜市のケースが報道されております。障害者差別解消法では、第14条において国や自治体に障害がある人や関係者から差別に関する相談に応じ、紛争や解決のための必要な体制を整備するということを求めています。横浜市では、これに基づいて条例で具体的な手続が定められているということでこのような経緯に至ったわけでありますけれども、こういった自治体のケースというのは少数でありまして、そういった仕組みができていない自治体の方がむしろ多数であると推測されます。
 我々日本精神科病院協会でも、会員病院からのこういった居住系の立地に関する相談が寄せられるケースが多々あるわけですけれども、それに対して、我々として有効な手立てが持てないのが実情であります。
 現在、精神保健医療福祉の分野では、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築が大きなテーマになっています。障害の有無、あるいは程度に関わらず、その人らしい生活が地域の中で送れるといういわゆる地域共生社会の実現ということで起こっているわけでありますけれども、そういった実情を考えるとまだ道は遠いと考えております。ぜひともこの法律の見直しの中でそういった検討もして頂きたいと考えております。
 以上です。

○内閣府 植草企画官 ありがとうございました。
 事務方からコメントをさせて頂きます。

○内閣府 衣笠参事官 ありがとうございました。皆様方、いろいろな取組をして頂いているということだと思います。
 補足で念のための御説明もしておきたいと思います。
 資料1「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の概要と見直しの方向性について」の5ページを御覧ください。「「合理的配慮の提供」とは」というところです。皆様方からの御意見の中で、本人からの意思表示が難しいような場合、本人が御自身でも分かっていない可能性もあるし、伝えられないといった場合の対応をどうするのかということや、あとは、そもそも例えば障害があるのかどうかが分からないといった話もあるといったことも伺ったわけですが、法律上の話としましては、「「合理的配慮の提供」とは」の上の四角で書いていますとおり、行政機関等と事業者は、事務・事業を行うに当たり、障害者から何らかの配慮を求められた場合、過重な負担がない範囲で必要かつ合理的な配慮を行うということが求められるということで、何らかの配慮を求める、要は意思の表明があった場合に合理的配慮の義務が課せられる、もしくは努力義務が課せられるという構成になっています。このため、規定としては、意思の表明がないような場合には義務などはかからないとなっております。基本方針の中では、意思の表明が難しいような方もいらっしゃいますので、そういった方には、意思の表明がなかったとしても配慮頂くことが望ましいとされており、運用の話としては、そのような方についてどうしていくかというのは今後の議論の対象になってくるとは思いますが、法律ではそういったことではないということです。
 それから、もう一つ、バリアフリー化の話に言及された方も何名かいらっしゃいますので、そこも申し上げておきたいと思います。6ページなのですが、障害者差別解消法では、合理的配慮を的確に行えるようにする「環境の整備」というものが行政機関、事業者の努力義務となっています。これは合理的配慮とは別にこういう規定がございます。
 この環境の整備とは何かと申しますと、下のところに「「環境の整備」の例」というところがありますが、環境整備は不特定多数の障害者が主な対象ということで、目の前にAさんやBさんという方が実際にいらっしゃるということではなくて、どなたか障害者の方が来られたときに対応できるようにという事前の措置が環境整備であるということです。例えば携帯スロープを必要とするような方がいらっしゃったときに備えて購入しておく、障害者の方でも対応できるように施設をバリアフリー化する、あとは、障害者の方が来たときに対応できるようにマニュアルの整備や研修を実施しておくことが環境整備です。
 一方で、合理的配慮というのは、こういった環境、要はインフラやリソースを元にして、目の前にAさん、Bさんという障害者が来たときに、その個々の障害者、Aさんに応じたもの、もしくはBさんに応じたものを提供するというのが合理的配慮でありまして、個々の場面の個々の障害者を対象としたものとなります。
 例えば、携帯スロープであれば、段差があった場合に、車椅子のAさんが来られたら携帯スロープを架けるということ、施設のバリアフリー化であれば、例としては書いていませんけれども、もし必要だったらスロープを上る車椅子を押すというようなことです。マニュアルであれば、マニュアルに基づいてAさんに合った内容をする、Bさんに合った内容をするということです。下の図に書いていますとおり、環境の整備というものがあって、これを元にした個々の対応が合理的配慮ということです。
 今回、合理的配慮について義務化するかどうかという話であるわけですが、この環境整備を義務化するという話まで出てきているわけではなく、合理的配慮を義務化するとしても、下の環境整備のバリアフリー化等まで義務化されるわけではないということは御承知頂ければと思います。
 ですので、施設の改修、設備の購入等の環境整備は、当然やって頂いたほうがいいので、努力義務ではあるのですけれども、合理的配慮の義務化によって「しなければならない」となるものではありませんので、そこだけ補足の説明をさせて頂きました。
 以上です。

○内閣府 植草企画官 私からも1点ほど補足をさせて頂きます。
 日本保育協会様と日本精神科病院協会様から、事例の共有や「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」の検討が必要であるという御意見を頂きましたけれども、我々も、仮に義務化をすることになった場合には、基本方針なりガイドラインなどにおいて、皆様がどのようにやっていったらよいかというのは、なるべく分かりやすいものを示していきたいと思っております。
 その前提として、当然事例の共有もこれまで以上に力を入れていきたいと思いますし、正直、いろいろな事業者の規模によって、どの程度が過重な負担かどうかというのはなかなか明確に言えないところもあるかとは思うのですけれども、こういった程度であれば過重な負担になるといった少しでも分かりやすいものは、なるべくお示しできるようにはしていきたいと考えているところでございます。
 補足までに申し上げました。

3 意見交換

〇内閣府 植草企画官 それでは、残りの時間で意見交換をさせて頂きます。事務局からのコメントに対する御質問でも結構ですし、先ほどのヒアリングは非常に時間が限られておりましたので、まだ言い足りないことがあるという点でも結構でございますので、もし御発言を希望される方がいらっしゃいましたら挙手でお願いしたいと思います。
 それでは、よろしくお願いいたします。

○内閣府 衣笠参事官 もしなければ、こちらから御質問をさせて頂ければと思うのですけれども、例えば日本薬剤師会様は、先ほど薬局の方では特段トラブルもしくは困ったという事例がないようなニュアンスで御発言があったように感じたのですけれども、そういうことでよろしいですか。

○(公社)日本薬剤師会 長津常務理事 先ほども申し上げましたが、障害のある方が薬局で何かを購入するとか、薬局という施設を御利用頂くということに関しての困難事例は、今までさほどないかと思いますが、先ほども私が言いましたように、医療を提供するという意味ではかなり難しいなという場面は多々ございます。それは薬物治療としての話ですので、今回の目的とはちょっと違うかと思いますが、あくまでも医療提供施設として考えると、なかなか解決しがたい問題はあるとは思っています。

○内閣府 衣笠参事官 ありがとうございます。
 そのほか、歯科診療所等では御苦労などがあるのか、そこはいかがでしょうか。

○(公社)日本歯科医師会 山本常務理事 実際問題として、いわゆるヘルプカードとか、そういった自治体が作っているようなカードといったものを持参されて診療を受けるというようなケースはほとんどなく、保険証の中身だけでは確認できない部分がかなりあると思うのです。実際に診療を始めたらちょっと難しいな、精神的なことが多分何かあるのかなと感じる場合がございますので、保険証やそういうものと変わらず意思表示ができるような、何らかのカードのようなものが用意されるとスムーズにいくのかなという気がしますけれども、その辺は個人情報のことがあるのでなかなか難しいのかなと思いますので、少しお教え願えればと思います。

○内閣府 衣笠参事官 先ほど申し上げたとおり、法律上の話としては意思の表明があった場合というのが要件になっています。あとは実態として、何か支援が必要であると推測されるのであれば御配慮頂くという話で、そのときに先方から特に何も言いたくないとか、もしくは反応がないのであれば、やれることはあまりないとも感じますが、最終的には個別のどのような状況なのかに依存すると思います。

○内閣府 植草企画官 他に何かございますでしょうか。素朴な疑問でも結構です。
 日本保育協会様、どうぞ。

○(福)日本保育協会 川鍋部長 先ほどの合理的なというのは、法律上の話はよく理解できました。確認なのですけれども、この合理的配慮は障害者本人からの意思表示のみですよね。

○内閣府 植草企画官 基本的にはそういう立て付けです。

○(福)日本保育協会 川鍋部長 だから、例えば障害者の保護者あるいは後見人などからの申出は関係ないというか、それは対象としていないということですか。

○内閣府 衣笠参事官 その点は、本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含むという解釈、運用でさせて頂いています。

○(福)日本保育協会 川鍋部長 法律の話というのは分かったのですが、そうすると、現場で言うと、現実問題として過重な負担を常に求められます。なので、義務化されたとしたときに、結局、これを根拠にして保護者なり家族なりから要求がかなり来るわけです。そうすると、それは何ら変わらないというか、むしろ義務になったのだからやってくださいということに多分なるということだと思いますが、そうなるのであれば、これは内閣府ではなく各施策担当の官庁になるのだろうと思うのですが、やはりそれをやれるだけの環境整備や体制整備をできるような手当をして頂かないと、今でさえかなりそういう要求がある中で、放課後児童デイサービス事業所があんなに増えているのもそうなのですけれども、やはりかなり要求が出てきていますので、そこをちょっと考えたほうがいいかなという気がしました。

○内閣府 植草企画官 仰ることは重々理解しております。
 一点、あくまで法的な立て付けとしての面から申し上げますと、今、努力義務であるものが義務化されたからといって、やらなければならない内容が格上げされるわけではないですよということでございまして、ただ、恐らく川鍋部長は、それは御承知の上で、義務化したからやるべきだというか、親御さんたちの要求が多くなるということだと思うのです。その辺りは、合理的配慮を提供するときにも、基本的には建設的対話をしてください、お互いに対話をして落としどころを決めていきましょうといった発想になっておりまして、そうした観点も含めまして、過重な負担がない限りにおいてということになっております。ですから、基本的には対話の中で見つけて頂くということをやって頂ければと思っております。
 一方で、どこまでが過重な負担なのかとか、対話といってもなかなか難しいというお話もあり、義務化されるとやはり要求が多くなって、相談の数は増えてくるのだろうと我々も予想しておりますので、相談体制についてはきちんと調査もしながら、皆さんが気軽に相談できるような体制をつくっていきたいと思っております。

○(福)日本保育協会 川鍋部長 分かりました。ありがとうございます。
 もう一つ申し上げたいのは、児童虐待が増えているのです。どういうことかというと、要するに、保護者へのアプローチをいつの段階で取るかということが非常に難しくなっているということなのです。だから、そこがどうなのかということです。それは児童相談所も介して、要対協(要保護児童地域対策協議会)も介してやっているのが現実ですけれども、自分がいたところでも半分は疑いを含めて虐待を受けている子供たちが来ているので、虐待の種類によっても違うわけです。ネグレクトの場合もあるし、ひどいときは性的虐待の場合もあるわけで、そうすると、親との家族支援をどうするかということも実は考えながらやるのですけども、その点とこの合理的配慮のことも考えていくと、非常に難しい場面が幾つもあって、これはしばらく会わない方がよいという場合もあるし、むしろ少し引き離していくケースも結構あるのです。一方でいろいろ求められているというところもあるので、現場では非常に難しい場面があるということです。

○内閣府 衣笠参事官 虐待の話なのですけれども、障害を理由とする不当な差別的取扱いとは何かなどとも関係してくるとも考えております。その点については、障害者権利条約の上の差別という解釈は、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的に自由を認識し共有しまたは行使することを害し、または妨げる目的または効果を有するものと、他の者との平等を基礎としてという概念でありまして、例えば性的被害、虐待みたいなものや暴行などとは若干違うニュアンスのものであるので、そこは個別事案で、もしかしたら重なるものもあるかもしれませんが、少し性質の違うものと扱ってもよいのではと思っております。

○(公社)日本薬剤師会 長津常務理事 日本薬剤師会の長津です。
 ちょっと私の予習が足りなかったのかなとも思うのですが、そもそも障害者の概念というか、我々、一般的にこう考えますと、例えば足の悪い方は、この人は足が悪いなと我々は分かります。視覚障害のある方は、話しているうちにかなり視覚障害があるということも分かりますが、例えば聴覚障害のある方は、実は気付かなかったり、我々、話をしていても、何となく話が通じにくいなというところで、御本人の方が聴覚障害があることを我々に明らかにしたくないという場合も多々ございます。
 一方、ここは精神科の先生と意見が一致するところだと思うのですが、本当に重度な障害がある方というのは、まずお一人で我々のようなところに訪れてくることはない。必ず介助者が一緒なのですが、そこまで重度でない方に関しては、お一人でいらっしゃると、そこは我々も気付かない。その気付かないレベルの障害のある方が、1対1で相手をしなくてはならないので、実は我々も一番配慮が必要なのかもしれない。
 ですから、私は障害がありますよと明らかにしてくれる方ばかりではないですから、そういったところにどうやって我々が対応していけば、それこそ合理的配慮はどうやってそういう方に対しても配慮をしていけるのかということも我々も考えなくてはならないところですが、障害の重度軽度と障害の種類等によって様々な対応のケースが考えられてくると思いますので、掘り下げていくとかなり根は深いところかなと思いますが、いずれにしましても、我々、個人のアクションとして、先ほど御説明頂いた合理的配慮として、やれるべきことというのは本来皆さんやっていらっしゃるところなのかもしれない。それに対して、環境の整備というところが実はまだ達成できていないのが現代の日本なのかもしれない。その辺のすり合わせというか、我々がどうしていくべきなのかということもそちらの方から明らかにして頂けると、ある程度の目標ができるかなと思います。
 ですから、障害者とくくっても、これは幅が広過ぎるかなという印象を今受けていますので、もし何かお知恵があったら持ち帰りたいのですが、どうでしょうか。

○内閣府 衣笠参事官 仰るとおり、御本人から表明がしにくい場合とか、その際にどうするかということは一つ大きな論点ですし、意思の表明自体、自分のプライバシー又はこれに類するものをわざわざ開示するという話にもつながるわけですので、それもどうもやりにくいというか、意に沿わない場合もあると聞いております。
 ですので、あくまで意思の表明がある場合に限らず、共生社会づくりのためには配慮すべきところは法律の義務がなくても取組を進める方が望ましいのは事実であります。今の政府全体の基本方針の中でもそういった点は言及されておりますので、法律を少し広げた部分として、そうしたところをいかに推進するかといったことは今後更に議論していくべき部分と思います。
 本日は、差別解消法の見直しということで、法律上努力義務を義務化することが中心的なテーマだったので、先ほど意思の表明があった場合ということを申し上げたわけですが、共生社会づくりの観点からは、仰るようなことはもっともだと考えています。

○内閣府 植草企画官 今、長津様の仰ったことは、我々もこの場ではなくても同じような話は結構耳にすることがございます。先ほど参事官の方から説明がありましたとおり、基本方針では必ずしも意思の表明がない場合でも対話を働きかけるとありますけれども、そういった姿勢で事業者の皆様に取り組んで頂けるというのは我々も非常に有り難いことだと思っていますし、事業者の皆様の参考になるように事例の蓄積はやはり大事なのだろうなと思っておりますので、その辺は我々も自治体も巻き込んで、うまく事例を蓄積して、皆様に共有できるような仕組みづくりを考えていきたいと思っております。
 では、本日はどうもありがとうございました。

4 閉会(省略)