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第二章 差別(合理的配慮の否定を含む)に関する裁判例及び行政救済機関の仲裁例

II ドイツ

1.概要

(1)障害者雇用と教育をめぐる法の系譜と概観

〜ドイツの障害者雇用をめぐる法体系〜

ドイツでは、2つの大戦後、重度障害者法(Schwerbeschadigtengesetz) によって重度障害者は保護が施され、1979年10月8日の重度障害者法(Schwerbehindertengesetz)によってその役割は引き継がれ、重度障害者のための労働法上の規定は、1986年8月26日の労働、職業、社会における重度障害者の編入の保護のための法律(これも重度障害者法(Schwerbehindertengesetz)と呼ばれる)によって承継されていた。しかし、2001年6月19日に重度障害者法を他の法律(連邦社会扶助法、年金法等)をすべて一つの社会法典(Sozialgesetzbuch)のなかに挿入するという大がかりな法改正を行った。これにより、障害者の雇用をめぐる連邦レベル(国レベル)の規定は、社会法典IX(第9章)のなかに置かれることになった。

重度障害者の不利益取扱い事件(差別事件)において、最も重要な規定も、社会法典の中に置かれている。つまり、社会法典IX 81条2項は次のように規定される。「使用者は重度障害のある従業員に対してその障害を理由として不利益に取り扱ってはならない。個々の場合に、これについては、一般的平等取扱法の規定が適用される。」と規定される。

かつて、旧重度障害者法14条3項1文において、「重度障害者は、使用者に対してその能力と知識を可能な限り完全に活用し、発展しうる雇用を請求しうる」旨の規定が存在した。重度障害者の雇用義務と呼ばれるこれらの義務は、社会法典IX81条4項1文において引き継がれており、同様の規定が定められている。つまり、「重度障害者は、使用者に対してその能力と知識を可能な限り完全に活用し、発展しうる雇用を請求しうる」旨の規定が存在する。但し、「その履行が、使用者に対して期待し得えず、不相当な費用と結びつく場合、国や職業団体による労働保護または職員法上の規定に対立する場合には、1文による請求権は存在しない。」と規定される。かかる雇用請求権を行使する事件が多く存在する。こうした雇用義務をめぐって、訴訟が提起されており、連邦労働裁判所(上告審)における雇用請求権の現在の判例法理について重要とされるものを中心に後に検討する。

このほか、「より短い労働時間が障害の種別と重度を理由として必要である場合には、重度障害者は、パートタイム労働に関する請求権を有する。」と規定され、障害に即した雇用を保障させるため、パートタイムでの雇用を請求する権利を重度障害者は有する。労働時間の短縮や時間外労働の免除をめぐる判例が蓄積しており、これらについても検討していくこととする。

ドイツ法上、上記の差別的取扱いの既定や雇用義務の規定がどの程度の障害の者に適用されるかが問題になっている。障害の概念については、ドイツ法上は、「身体的機能、知的な能力、または、精神的健康が、高い確率で、6ヶ月以上、年齢により典型的な状態から逸脱し、社会生活への参加が阻害されている場合に、障害がある」と定義されている(社会法典IX 2条1項)。障害の程度は、扶養行政の官庁(扶養局、ラント扶養局、扶養医師の検査)によって認定される(同法69条1項1)。障害の存在と障害程度文書で認定される。申請により重度障害の存在、程度、健康上の特徴について証明書が発行される(同法69条5項)。障害程度は、20から100で認定される。重度障害には障害程度は50が必要である。重度障害者にはならなくても、これと同等の者と扱われるとして扱われる場合があるが、それは、<1>少なくとも30の障害程度の場合で、かつ、<2>1.障害の結果職場のポストを得られない場合、または2.ポストを維持し得ない場合である(同法2条3項)。この場合、雇用義務規定(同法81条1項、4項)、差別的取り扱い禁止規定(同法81条2項)を含む第二部の規定は、重度障害者およびこれと同等の者には適用される(同法68条1項)。これにより、重度障害者とこれと同等の者は、少なくとも、制定法上、差別的取扱いから救済されうる。これをこえて、この以下の障害程度の障害者が、これらの規定の適用を受けうるか、特に、差別的取扱いの規定の適用を受けるかが訴訟においても問題になっている(障害の概念をめぐる訴訟)。

(2)一般平等取扱法

(i)2000年11月27日、EUにおいて、雇用と職業における平等の実現のための一般的な枠組みの設定に関する理事会EG2000/78指令が出され、これにより、EU加盟国においては雇用の平等をめぐる原則が定められることとなった。この指令の目的は、加盟国の平等取扱い原則の実現を考慮して、雇用と職業に関する宗教、世界観、障害、年齢、または、性的な指向を理由とした差別の撲滅に関する一般的な枠組みを設定するところにあった(同指令1条)。指令とほぼ同様に、障害を理由とした直接差別、間接差別が禁止されたほか、ハラスメントの禁止規定がおかれている。

(ii)この指令の国内法への置き換えのための措置として、2006年7月7日、連邦参議院で一般平等取扱法が通過し、2006年8月18日同法が施行された。同法1条では、「この法律の目的は、人種、民族に特有な出自、性、宗教、または、世界観、障害、年齢、性的なアイデンティティを理由とする不利益取り扱いは、回避され、または、除去されなければならない」。指令とほぼ同様に、障害を理由とした直接差別、間接差別が禁止されたほか、ハラスメントの禁止規定がおかれた。また、同法15条1項では、補償に関する規定が置かれ、この規定に基づく不利益取扱いの場合の補償が訴訟でも争点となっている。特に、障害者の採用にあたっての不利益取扱いをめぐって訴訟になっている。

(iii)ハラスメントをめぐっても訴訟になっており、特に、障害児の介護者に対する使用者によるハラスメントがドイツ法上も話題となっている。これは、ヨーロッパ裁判所の事件であるが、ヨーロッパ裁判所に先行判決を求めたイギリスのみならず、ドイツ法にも影響を与えうるため、ドイツ国内においても重要な判決と位置づけられている。

(iv)このほか、指令により、ドイツにおいても、平等取扱いを促進し、分析し、観察し、支援することが必要とされ、この任務の達成のため連邦反差別機関が設置された。行政機関としての連邦反差別機関では、情報提供、紛争のあっせん、和解のための手続が予定されている。この機関の詳細については、後述する。

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2.判例

(1)雇用

(i)障害の意義

(判例31)不利益取扱いが禁止される障害の意義が明らかにされた事例

採用差別が不利益取扱いになるとされた事例(2007年4月3日)連邦労働裁判所 9AZR 823/ 06 NZA 2007, S.1098

【事実の概要】

当事者は、労働関係の設定にあたっての障害による不利益取り扱いを理由とした補償の請求権を争っている。原告Xは神経皮膚炎を負っていた。1994年1月31日の決定により、援護局(Versorgungsamt)は、Xについて障害程度40と認めた。しかし、Xは障害のある人間との同等の地位の申立を行っていなかった。1995年から2003年終わりまで、Xは本件で問題になる被告Yとは異なった他の労働関係にあった。その労働契約関係の存続期間中、神経皮膚炎により労働不能の疾病となることはなかった。Xは2003年10月に被告州(Y)の警察で、駐車スペースの監視のための職員として応募した。書類による選考手続と審査には合格した。Xは、州警察の行政局の発案により、医師による検査を受けた。Xは、検査をきっかけとして、障害程度に関する援護局の決定を提出している。神経皮膚炎の発見により、Xが駐車スペースの監視業務には健康上不向きであるということを、ベルリンの警察長官は2004年4月1日の文書によりXに対して通知した。Yの採用官庁は、2004年4月6日の文書により、Xの採用を拒否した。なぜなら、警察医の検査により、Xが駐車スペースの業務には不向きであるからだとした。2004年4月22日、Xの訴訟代理人は、警察長官‐州の行政局‐に対して文書で、正当化されない不利益取扱いを理由として、金銭での補償を主張した。しかし、Yは、この補償を支払わなかった。Xは相当な補償の支払いを労働裁判所において請求した。Xは、40の障害程度をもつ障害を理由として、社会法典IXの意味における障害者ではないが、2000年11月27日の雇用と職業における平等取扱い実現のための一般的な枠組み設定に関するEG 2000/78理事会指令の意味における障害者であるとした。指令は、ドイツ連邦共和国によっては、完全には国内法に置き換えられなかったとする。請求権の根拠には、この指令に拠ることができるとした。Yの医師の主張だけでは、不利益取扱いを正当化する被告州の主張責任ないし立証責任の要請には、十分なものではないとした。前述のように、ドイツ法では、障害者に当たるのは、重度障害者(障害程度最低50)とこれと同等の者(障害程度最低30)に限られている。重度障害者とこれと同等の者とされるか否かは、社会法典IX 68条2項1文によれば、障害者による申立てが必要であり、かつ、連邦雇用アージェントによる認定が必要とされるが、本件では、この申立てを欠くために、これと同等の者とされていない事案であった。そこで、差別的取り扱い禁止規定(同法81条2項)を含む第二部の規定は、重度障害者およびこれと同等の者には適用されると規定され(同法68条1項)、これにより、重度障害者とこれと同等の者は、少なくとも、制定法上、差別的取扱いから救済されうるが、これをこえて、これ以下の障害程度の障害者が、特に、差別的取扱いの規定の適用およびその場合の金銭補償の規定の適用を受けるかが本件において問題になっている。つまり、ドイツ法上同法における重度障害者あるいはこれと同等の者に限られる旨規定されるため、同法による不利益的取扱い禁止の保護やその場合の金銭補償は、重度障害者とこれと同等の者に限られるのか、という点が問題になる。これに対し、ヨーロッパ法では、あらゆる障害程度を対象として差別的取り扱いを禁止している。ドイツ法のように、その保護は、重度障害者とこれと同等の者に限られない。このため、ドイツの連邦労働裁判所が、EU指令に一致した解釈を取るべきかが争われた。同時に、不利益取扱いの場合の証明責任の分配についても争われている。労働裁判所は、Yに対し、利子とならんで12000ユーロの補償の支払いを命じた。被告Yの控訴により、ラント労働裁判所は一審原告の訴えを棄却し、一審原告の上告を認めた。

【判旨】

ラント労働裁判所の判決の破棄差戻し。

「ドイツ連邦共和国は、(…)指令を、国内法に完全には置換えてはいない。このことは、2006年2月23日のヨーロッパ裁判所の判決 (NZA 2006, 553L‐EuZW 2006, 216‐AP Richtlinie 2008/ 78/ EG Nr.2 - Kommission/ Deutschland) もすでに結論づけている。これによれば、障害を理由とした差別に関わる指令に対処するために必要なあらゆる法規定、ないし行政規定を公布していないので、ドイツ連邦共和国は、特に、指令による義務を違反している。
指令2条1項は、共同体法の意味における障害の全ての場合について、障害禁止の基準を含んでいるが、一定の程度を超える重い障害のみを対象とするものではない。」
指令1条は、障害を理由とした差別の撲滅のために一般的な枠組みを作り出すことを目的として掲げているが、障害に関する共同体法上のこの概念は、重度障害(社会法典IX 2条2項:障害程度最低50)のある障害者、もしくは、これと同等の者(障害程度が50未満であるが、社会法典IX2条3項により、少なくとも30には達しており、重度障害と同等に置かれ、職場のポストに関連した理由からその同等な地位を要求しうる障害者)には、制限されない。
「差別の撲滅のために必要とされる保護規定と制裁を、重度障害のあるまたはこれと同等の障害のある従業員に限定するのは、指令2、5、17条による目的に一致するものではない。この制限は、置換え法の保護領域からの単一の障害者のグループの除外であり、指令からは認められない除外に他ならない。ヨーロッパ裁判所は2006年2月23日の判決(NZA 2006, 553L‐EuZW 2006, 216‐AP Richtlinie 2008/ 78/ EG Nr.2 - Kommission/ Deutschland)によって確認される。そうでなければ、不利益取扱いに反する違反は、制裁のないままに置かれることから、社会法典IX旧81条2項2 2号及び3号による金銭補償請求権は、重度障害ではない人間に対して、または、重度障害と同等に扱われていない障害のある従業員に対して、適用されうるものでなければならない。」
「障害のある従業員は、不利益取り扱いが障害を理由としたものであると推定される事実を主張し、社会法典IX旧81条2項2 1号3文により、使用者は、障害にはよらない客観的な諸理由が存在すること、または、ある一定の身体的機能、知的能力、または、精神的健康が、その職務の本質的かつ重要な要請であることの証明責任を負う。」
「訴えによる主張は、これらの諸原則により、障害を理由とした原告の不利益を推定させる。1994年1月31日の決定により、皮膚の疾病により障害程度40と認められた。援護局の決定により、身体障害が、外見上認識しうる身体の可動性に関わる長期にわたる喪失と結論付けられた。この決定を原告は、被告州に対して、採用の手続の枠内で知らせた。原告は、神経皮膚炎を理由として、駐車スペースの監視における空いたポストに採用されることはなかった。州警察行政局の発案によってなされた医師の検査の後、被告州は原告に対しこれを明示的に告知した。これによって、原告は、障害のない比較しうる地位にある者より、有利とはいえない取扱いを採用手続きにおいて受けたことが確認される。被告州は、2004年4月6日の文書によって、応募を拒否するために、2004年3月16日の医師によって前もって行われた医師の検査をもっぱら引き合いに出している。検査に先行して行われた、書類による選考手続、および、それに拠ってなされる採用面接の選考の段階を、原告は合格していた。応募の失敗という不利益と原告の障害との間の因果関係を推定するためには、この場合十分である」。
「より有利ではない取扱いを正当化するのに、州によって主張される職業上の要請が適したものであるかどうか、新たな控訴弁論において、ラント労働裁判所は審査しなければならない。駐車スペースの営業における業務に関する本質的で重要な職業上の要請である、一定の身体的機能が原告に障害を理由として欠如している、と被告州が個々の場合に主張し、場合によっては立証すべき義務がある(社会法典IX旧81条1項2 1号3文)。」

【判決のポイント】

<1> 指令2条1項が、共同体法の意味における障害の全ての場合について、障害禁止の基準を含んでいるが、指令1条は、重度障害者とこれと同等の障害者に制限されないと判示した。つまり、「ドイツ連邦共和国は、このように理解される指令を、国内法に完全には置換えてはおらず(いない)」と説示し、不利益取扱い禁止の場合の補償請求権が、重度障害者やこれと同等の者以外の障害者に対しても、適用されうるものでなければならないとした。重度障害者と同等の者とされるか否かは、社会法典IX 68条2項1文によれば、障害者による申立てが必要であり、かつ、連邦雇用アージェントによる認定が必要とされるが、本件では、この申立てを欠くために、これと同等の者とされていない事案であった。本件判旨が、かかる者にも、採用差別の場合の補償請求権がありうることを認めたのである。これとともに、本件判旨は、不利益取扱いの場合の補償請求権に関しては、重度障害者とこれと同等の者に限られないとしたことにより、同法典で保護される「障害者」の範囲を拡張させた、という重大な意味を持つ。
<2> また、本件において、障害者を理由とした採用差別となるかどうか、について、本件判旨は、平等取扱い原則が適用されないことによって侵害があったとする者が、直接差別の存在を推定させる事実を主張する場合には、常に、平等取扱い原則の侵害がないとの被告の証明義務を負わせている。従来の判例では、トリアの専門大学での経理関係の専門職(Controller)の採用にあたり、面接に呼ばれなかったという事件において、連邦労働裁判所は、障害を理由とした不利益取扱いの推定を基礎づけると判断していたが、本判決はこれと同様の判断枠組みを示している。本件では、1994年1月31日の援護局の決定により、皮膚の疾病により障害程度40と認められ、この決定を原告は、被告州に対して採用手続の枠内で知らせていた。被告州は、原告に対し、州警察行政局の依頼によってなされた医師による検査の後、検査結果を理由として採用しないことを明示的にあえて通知した。このため、本件判旨は、他の事情も勘案して、「応募の失敗という不利益と原告の障害との間の因果関係を推定するためには、この場合十分である」としている。これに対し、本件判旨は、被告側の正当化には、身体的機能、知的能力、または、精神的健康が、一定の職業上の要請であることが被告州によって主張・立証する必要があるが、本件ではこれを欠いているため、本件を二審のラント労働裁判所に差し戻している。
<3> その後、この事件の後、社会法典IX 81条2項は、「使用者は重度障害のある従業員に対してその障害を理由として不利益に取り扱ってはならない。個々の場合に、これについては、一般的平等取扱法の規定が適用される」と改正した。一般的平等取扱法1条は、「この法律の目的は、人種、民族に特有な出自、性、宗教、または、世界観、障害、年齢、性的なアイデンティティを理由とする不利益取り扱いは、阻止され、または、除去されなければならない。」と定め、同法15条は「(1)不利益取扱い禁止の違反の場合には、使用者は、これによって生じた損害を賠償する義務を負う。これは、使用者が義務違反を主張しない場合には、適用しない」と定めている。これにより、すべての障害者に対し不利益取扱い禁止の規定が適用されることになる。この結果、EU法の置換えは完了したとされている。

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(判例32)不利益取扱いが禁止される障害の意義が明らかにされた事例

(2008年5月14日判決)デュッセルドルフ・ラント労働裁判所 12 Sa256/08掲載誌なし

【事実の概要】

原告Xは、被告が疾病を理由として解雇を告知したことを理由として、一般的平等取扱法15条2項1文による、少なくとも3万ユーロの額の補償を被告に対して請求している。1969年6月13日生まれのXは、1992年12月1日以来、被告Yのもとで、雇用されている。その平均給与は、税込みで2500ユーロであった。Yは、2000年より、Xに対し、疾病を理由とした欠勤を理由として、毎年20から56日の範囲で賃金継続支払いを給付してきた。2004年以降生じた欠勤は、疾病によるものであった(病名は判決においては非公開とされている)。Xの医師Rは次のような疾病期間に関する情報をXの代理人に対し提供した。「22番、25番、26番、28番、30番の疾病は、『運動器官の変種の疾病』に帰するもので、これらは直接関係する。29番の疾病は、時系列的には再発した疾病であり、脊柱の疾病に続くものである。また、その他に記載された疾病は一過的なものである」と。Xが、2007年にも、1月26日から2月2日まで、および、4月2日から4月30日まで、欠勤した後、Yは、2007年5月15日の文書により、2007年11月30日までの期間を定めて、疾病を理由として労働関係を解約した。2007年6月4日にエッセン労働裁判所で提起された訴えによって、Xは、解雇の無効を主張した。解雇が、一般的平等取扱法を理由とした違法な差別であるという根拠によって、8月には、Xは、一般的平等取扱法15条2項による補償の支払いをさらに求めた。エッセン労働裁判所は、2007年11月8日の判決により、解雇保護の訴えおよび継続雇用の訴えを認容し、補償の支払いの訴えを棄却した。Xは、補償の支払いを求めて、控訴した。

【判旨】

控訴棄却

(理由)「原告本人は、社会法典IX 81条2項2文の請求権の要件を満たしていない。原告は重度障害者ではない。なぜなら、原告は、少なくとも障害程度が50に達しているわけではなく(社会法典IX2項2文)、これと同等の者(社会法典IX2条3項、68条、69条)でもないからである。この点は当事者間に争いがない。」「むろん、連邦労働裁判所は、ヨーロッパ裁判所のマンゴルト判決 (Urt.vom 22.11.2005, C‐144/04, NJW 2005, 3695) において、ヨーロッパ法に一致した解釈が、EG指令2000/78の意味におけるあらゆる類の障害者に適用されなければならず、社会法典IX旧81条2項について、この規定が、現存する重度障害またはこれと同等のものを前提とするものである限り、共同体法違反であり、これによって適用できないことを認めている。当法廷は、これに何か付け加えうるものではない。ドイツの裁判所は、基本法20条3項によれば、法と法律に拘束され、すなわち、裁判所が現行の法律を適用しなければならず、明らかに関連する規範を考慮しなければならない」。たとえ、ドイツの裁判所が、国内法を、当該指令の文言と目的に照らして、可能な限り広く解したとしても、社会法典IX 81条2項は、同法典IX 2条2項および、2条3項、同法典68条2項を合わせ考慮すると、差別禁止の規定がEG指令2000/78の意味におけるあらゆる類の障害者に適用されなければならないというほど広いものではなく、共同体法に即した解釈による一定の人的範囲ほど広いものではない。本件では、被告Yが、事業所ないし経済的な阻害のみを理由として、過去において生じまた将来において危惧される疾病の期間の結果、解雇を告知されたという事実がある。欠勤の一部が、原告の主治医によって、『運動器官の変種の疾病』として、原告によっても脊柱の消耗として呼んでいる基礎疾病によりうるという事情は、こうした事実を変えるものではない。それゆえ、こうした観点の下でも、原告を直接的または間接的にも障害を理由として差別したものではない。長い欠勤期間が一定の疾病に帰せられる場合に、解雇制限法1条2項1文の解雇の必要性をみたす。「いずれにせよ、解雇が、労働者の障害を理由としてではなく、能力ないし行為の欠損によって根拠づけられる場合で、明らかに無効ではない場合には、一般的な解雇制限や特別な解雇制限を考慮しても、損害賠償義務のあるないし補償義務のある不利益ではない。」
「控訴費用は民事訴訟法97条1項により原告の負担となる」。

【判決のポイント】

<1> 原告は、社会法典IX 81条2項2文の請求権の要件を満たしていない。このため、本件は、差別的取扱いを理由としては救済されないとしたものである。
<2> ヨーロッパ法では、あらゆる障害程度を対象として差別的取り扱いを禁止している。これに対し、前述のように、ドイツ法では、重度障害者(障害程度最低50)とこれと同等の者(障害程度最低30)に限られている。連邦労働裁判所の先行判例(駐車切符のポストの前述の事件)が、指令に一致した解釈を取り、不利益取扱いによって救済される障害の範囲を広く取ったのに対し、本件判決は、補償の対象となる障害の概念をドイツ法の文言通りに狭く解し、原告が補償の対象となる障害者ではないとした。
<3> 疾病による欠勤を理由とした解雇が解雇の要件を満たす場合、不利益取扱いにはあたらないとされた。

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(ii)証明責任

(判例33)雇用義務に関する証明責任の分配のルールが示された事例

(2006年8月31日判決) 連邦労働裁判所6 Sa 996/ 05 掲載誌なし

【事実の概要】

当事者は、原告Xに対し障害に応じたポストを割り当てるべき被告アメリカ軍(Y)の義務について争っている。Xは、2000年7月16日より、中断なく労働不能であり疾病にあったが、医師の診断書‐2000年11月8日および2001年5月11日の証明書‐によれば、限定された職務のみなお遂行できる。障害程度100の重度障害のXは、1981年5月1日以来、ラムシュタイン飛行機場で消防士としてフルタイムで雇用されていた。従前の契約上の業務を健康上の理由から行うことができず、健康上の制約に対応したその他の継続雇用の可能性がない、という理由から、2001年11月28日軍によって労働力の提供を拒まれたものの、Xはその労働力の提供を行った。2003年5月の訴えによって、Xは、障害に応じたポストの割り当て(継続雇用)を請求した。連邦労働裁判所は、この判決を破棄し、ラント労働裁判所に破棄した。その余の点では、連邦労働裁判所の判決の事実が考慮される。

【判旨】

主文

<1> 事業所委員会の同意手続きの履行が可能であればその履行後、契約を変更した後、行政職員として(購買)、代替としては、専門的職員(テレコミュニケーション)、ハウジング・マネージメント(助手)、職員(資料管理)、積荷発送、電話交換士/行政職員(オフィス内コミュニケーション)、倉庫職員(資材・商品の決定)、専門的職員(積荷処理)、レジ係り(T3)として、原告を雇用すべきことを被告に対し判決する。
<2> この手続きの費用は被告が負担しなければならない。
<3> 連邦労働裁判所に対する控訴は、被告について許可される。

(理由)「原告の控訴に基づき、控訴を棄却し、その他の点では、2003年7月23日のカイザースラウテルン労働裁判所の判決‐Az : Ca 758/ 03は以下のように変更される。必要な場合には、当事者の労働契約が変更され、事業所の代表の同意、または、それが失敗に帰した場合には、これに対応した仲裁手続きが留保されるもとで、被告は、アルタナティブとして原告を主文に示された地位で雇用する義務を負う。
この請求権は、主位請求が法確定力をもって棄却された後、連邦労働裁判所の判例によって定められた、従前の付帯請求が、主たる申立てになったことから生じ、被告は、障害を考慮しその能力と知識に応じた他のポストで、重度障害のある人間としての原告を雇用すべき義務を負う(社会法典IX 81条1文1号)。原告は、連邦労働裁判所の説示にもとづいて、主張責任に従っている。これによれば、原告は、医師の証明書を提示し、そして、その原告の主張によれば、事前の教育訓練、および、障害を考慮してもなお実現できる、別の雇用の可能性を示した。これに対して、被告は、被告に課された応訴義務を完全な範囲では履行していない。確かに、被告は、2006年6月2日の文書において、2006年6月7日の文書で補充的に、一連のポストをリストして示し、応募者が実現しなければならないポストの前提条件を示し、地域的に限定された雇用機関の場合、つまり、ラムシュタインAB、K、Kの場合、原告代理人の正当な異議申立てに対応する公募を示している。しかし、連邦労働裁判所の判決では、この主張は、十分なものとは評価されない。なぜなら、原告は、ポストに関して使用者の裁量権の範囲を考慮するのみならず、申立てや趣意書における雇用を投入できる場所を考慮して、制限を明示的に示していなかったからである。派遣国である使用者は、ドイツ連邦共和国において、別の場所を運営しているが、その結果、これらすべての場所を考慮しなければならなかった。被告は、それゆえ、場所的に制限のある領域においてのみその主張を準備することは許されず、原告があげた昇進場所のみを詳述するだけではなく、賃金グループP03に対応し、賃金グループC4aに対応するすべての場所をも挙げることは許されたであろう。」「それゆえ、原告の雇用請求権は継続し、被告によってこれを実現されなければならない。原告の控訴がこの限りで認容されるべきものであったのであり、原告に対しては、控訴手続費用の半分を、被告に対しては、控訴手続費用の半分、ならびに、上告手続の費用を負担すべきものである(労働裁判所法64条6項1文、民事訴訟法91条、92条、97条)。」

【判決のポイント】

<1> 重度障害者は、能力と知識を応じた雇用を使用者に対し請求しうるが(社会法典IX 81条4項1 1項)、その際、その証明責任の分担が問題となる。原告障害者が、医師の証明書を提示し、そして、障害を考慮しても実現可能な、別の雇用の可能性を原告が示した場合には、使用者は、他の場所での雇用を含めた従前の職務とは異なった雇用の不可能性を証明しなければならないというものであると本判決によって示された。
<2> 必要な場合には、当事者の労働契約が変更され、事業所の代表の同意、または、それが失敗に帰した場合には、これに対応した仲裁手続きが留保されるもとで、被告は、原告の配置を換えたうえで、雇用する義務を負うとした。

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(iii)差別

(判例34)採用差別が不利益取扱いとされるとされた事例

(2006年9月12日判決)連邦労働裁判所 9AZR 807/ 05 NZA 2007, S. 507

【事実の概要】

公法上の法人の法形態をなしていたトリア専門大学で、採用にあたって、重度障害者に対して障害を理由として不利益な取扱いをなしたという理由から、当事者は、被告州(Y)が補償を支払うべきかどうかを争っている。トリア専門大学は、2003年10月25日および26日の新聞において公募を出した。これによれば、2004年1月1日まで、経理としてのポストを埋めるのが目的であるとされた。公募では特に次のようなことが記載されていた。「経理、コスト算定、業績の算定(…)について、経営学学士を持った人を求む。PCデータ処理知識が前提。大学領域での経験者希望。報酬は、連邦職員労働協約報酬グループIVa/IIIによって支払われる。その特別な意義を理由として、このポジションは、幹部ポストとして示され、大学学長によって直接任命される。」さらに、重度障害者が、相当な能力がある場合には、優先的に雇用されるとトリア専門大学からは指摘されていた。1962年生まれの原告Xは、右の腕が麻痺していた。このため、障害程度100の肢体障害として認められていた。2003年10月26日文書によってこのポストに応募し、その際、自己が障害者であることを指摘した。応募書類には、職歴として、経営学学士を有した大学での商学教員経験を有し、会計、税ないし経済アカデミーで取得した税理・経理の追加的な資格を有していた。さらに、Xは、中規模の会社において、3年半経理職にあった。専門大学は、46人の応募の選択にあたって、経営学学士の有無を考慮していった。この学士を持った20人のみが面接に呼ばれた。専門大学は、Xに対して、2003年12月5日、文書において、Xが応募の対象外である旨を通知した。Xは、面接にも呼ばれなかった。2004年1月1日、大学は、このポストを経営学学士取得者によって埋めた。Xは2004年1月29日文書によって、専門大学に対し、社会法典IX 81条2項2文および3文による補償の支払いを求めた。学長は、2004年2月10日の文書によって支払いを拒んだ。2004年5月11日の労働裁判所への訴えによっては、Xは、経理の税込みの賃金の情報の提供と最低税込みの3ヶ月の賃金相当額の補償を求めた。3148.90ユーロの支払いを求めた。労働裁判所は訴えを棄却し、ラント労働裁判所もXの控訴を棄却した。

【判旨】

一審原告の上告認容

ラント労働裁判所の見解に反して、社会法典IX旧81条2項2文、81条2項1および2 1文により、原告に対する補償義務が被告州に対して存する。「むろん、当法廷は、補償の相当な額については判断するものではない。このためには、ラント労働裁判所の認定が欠けている。」「請求権の基礎としては、社会法典IX旧81条2項2文、81条2項1および2 1文のみが問題になる。これらの規定によれば、当該重度障害のある応募者が、労働契約関係の設定にあたって、障害を理由として不利益を受けた場合には、相当な補償を請求しうる。社会法典IX旧81条2項3文は、補償の支払いのためのさらなる請求権の基礎ではない。単に、重度障害のある応募者が、不利益の受けない選択であったとしても、採用されなかった場合には、上の規定は、補償請求権を最低限3ヶ月の報酬に制限するのみである。」「社会法典IX 82条3文における専門的な適性が原告に欠けているとはいえない。応募者が必要な専門的な適性を有していないかどうかは、埋められるべきポストに存する教育ないし試験の要件をもとに、判断されるべきである。原告が、要求された経営学士として大学の修了をしたのではなく、商学(経営学)として大学の修了をしていたことは、明らかに専門的な適性を欠くとはいえない。(…)トリアでの大学の修了が、トリアでの専門大学修了に対して、埋められるべきポストの前提諸条件を考慮しても、原告に対して、不適切な適性を推定させるというのは、明らかなことでない。被告州は、本質的に、このポストがかなり実務向きであることに引き合いに出していた。必要な実務経験は、大学の勉強においてだけではなく、トリア税ないし経済アカデミー入学中にも、原告によって獲得されていないとは、被告州によっては主張されていない。これに加えて、原告は、応募書類において、原告が中規模の事業所において3年半経理として働いていたことを指摘し、これとともに、原告の追加的な経理の職業上の実務経験を得ていたことを指摘している。このため、これによっては、経理として明らかな専門的な適性の欠如も、実務経験の不十分性も、推定されうるわけではない。」「これらの事実は、障害を理由とした不利益取扱いの推定を基礎づける。」「社会法典IX旧81条2項1 3文によれば、もっぱら障害と関わらない客観的な理由が存する、ということが提示され、争いのある場合には、証明しなければならない。」このことは次のような事実によって十分である。「為されなかった措置(労働のためのアージェントへの通知と面接への招待)が、重度障害のある応募者に対しなんらの機会を認めず、またはより劣悪な機会を認めるのが、客観的に相当なものであることによってである。」「推定された阻害的な事実または客観的な正当化事由のための被告州の詳細な陳述は欠けている。」
「補償の額は、社会法典IX旧81条2項2 2文にしたがい、相当なものでなければならない。これは、違反の種類と重度、重度障害のある応募者への効果によって、定められる。この限りでも、ラント労働裁判所が認定をしなければならない。」

【判決のポイント】

<1> 採用にあたって、重度障害者に対して障害を理由として不利益な取扱いがなされたことが認められている。障害を理由とした不利益取扱い(差別)が認められた判例として、上告審(連邦労働裁判所)による重要な先行判決として、以後の連邦労働裁判所の判決において引用されている。採用における障害者差別の場合に、補償の支払いが認められた。
<2> 採用において、要求された前提条件である学位、および、実務経験について、原告障害者が有していた学位、および、実務経験がこの前提条件に相応したものであることを認定して、不利益取扱いの存在を認めている。
<3> 補償の額は、社会法典IX旧81条2項2 2文にしたがい、相当なものでなければならない。これは、違反の種類と重度、重度障害のある応募者への効果によって、定められるとされた。
<4> なお、旧81条2項は次のように規定されていた。
「使用者は、重度障害者に対して障害を理由に差別してはならない。個々の場合に次のようなことが適用される。
 1.重度障害者が、ある合意または措置のある場合に、特に、労働ないしその他の雇用関係の設定の場合、職業上の昇進の場合、ある命令または解雇の場合に、障害を理由に不利益に取り扱ってはならない。しかし、障害を理由としたことなった取扱いは、ある合意または措置が、重度障害者によってなされる業務の種類を対象とし、かつ、一定の身体的機能、知的な能力または精神的な健康が、この業務にとって本質的及び重要な職業上の要請である限りで、適法である。争いのある場合に、重度障害者が、障害を理由とした不利益取扱いを推定させる事実を主張する場合、障害には関わらない客観的な理由が異なった取り扱いを正当化するということ、または、一定の身体的機能、知的な能力、または精神的健康が、この業務にとっての本質的かつ重要な職業上の要請であるということについて、使用者が証明責任を負う。
 2.労働ないしその他の雇用関係の設定にあたって、1号に規定される不利益取扱い禁止に反する場合には、これによって不利益を受けた障害のある応募者は、金銭での相当な補償を請求しうる。労働ないしその他の雇用関係の設定に関する請求権は存しない。
 3.障害のある応募者が、不利益のない選択の場合でも、採用されなかった場合には、使用者は、3ヶ月分の額で相当な保障を提供する。労働ないしその他の雇用関係が基礎づけられる、正規の労働時間の場合に、1か月に、障害のある応募者に、金銭ないし現物給与で生じたものが、月の報酬とみなされる。
 4. 2号及び3号による2ヶ月以内補償請求権は、応募の拒否後2ヶ月以内に文書で主張しなければならない。」

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(iv)適切な処理

(判例35)原職復帰できない場合に軽減された職務の就労請求権が認められた事例

(2005年10月4日判決) 連邦労働裁判所9AZR 632/ 04, NZA 2006, S. 442.

【事実の概要】

当事者は2001年8月15日から2002年4月までの不就労の部分について、賃金請求権を争っている。1961年生まれの障害程度50の原告Xは、1997年2月17日以来、清掃員としてフルタイムで被告Yの下で雇用されていた。Xは1999年10月16日から2000年11月1日までの膝関節の疾病を理由として労働不能にあった。その際認められた腫瘤を理由として太ももの義足をしていた。Xは、清掃員としてかつての職務を行い得ないため、これに続く期間、環境のための事業所での中央塔での材料の搬入と(地域のごみの収集のための)ゴミコンテナの清掃のための労働に投入された。2001年2月氷上で転んで労働災害を負い、義足の破損により、Xは新たに手術を受けた。このため、2001年6月15日から2001年8月12日まで続いて労働不能にあった。材料の搬入の領域での継続的な就労は適しないとの理由から、Yは2001年8月13日以降のXの職務の継続を拒んだ。Yは2001年8月15日以降賃金をXに対して支払わなかった。Xは労働裁判所で清掃員としての継続雇用を請求し、同時に2001年8月15日以降の賃金を主張した。Xは、障害にもかかわらず、材料の搬入とゴミコンテナの清掃のための労働で投入可能である、という見解であった。Yは健康上の理由からそれが不可能であると主張した。労働裁判所はXの継続雇用請求に関する申立を棄却した。控訴により、一審原告Xは、賃金請求訴訟のみを続けた。ラント労働裁判所は、D医師による専門医の労働医学的な鑑定と証人Gにより、控訴を棄却した。連邦労働裁判所はラント労働裁判所に破棄し差戻している。

【判旨】

「使用者が従前の職務で雇用できないとき、障害者は使用者に対し他の就労の割り当てを請求できる。2001年7月1日効力を発した社会法典IX81条4項1 1項によれば、障害者は、その能力及び知識をできる限り活用し発展しうるよう、障害に応じた就労の請求権を使用者に対して有する。使用者は、労働者に対し労働契約で合意された労働を割り当てる場合にこの請求権を原則的に実現する。重度障害のある労働者は、障害を理由として、これと結びついた職務をなし得ない場合、この喪失は、社会法典IX81条以下のコンセプトにより、就労の請求権の喪失に難なく導かれるわけではない。障害のある労働者は、むしろ、その他の形態の就労の請求権を有し得えて、以前の労働契約がこの就労の可能性を充足しない限りで、これに対応する契約の変更を請求しうる。その他の形態の雇用が問題になる場合に、労働者に雇用が期待しえず、または、不相当に高い費用と結びついている場合には、社会法典81条4項3 に明示的に規定されているように、障害者の雇用について義務を負うものではない。」「障害者は、事業所において任務の変更の可能性が存在する限りで、軽易な労働でのみ雇用されることを請求しうる。このことは社会法典IX 81条4項1 4文から生じる。これによれば、障害のある労働者は、障害に即応した労働組織の形成に関わる請求権を有する。使用者に対して期待し得ない不相当な費用と結びつかない場合にのみ、障害のある労働者は、職場の形成と装備に関して、請求権を有する。」「被告が社会法典IX 81条IVによる義務を充足するときには、資材塔(Wertstoffhof)において、ならびにゴミコンテナの清掃の枠組みの中で、原告の障害に即した雇用が被告には可能だというのは、ありえないことではない。」「使用者は、社会法典IX 81条IVにより、必要な技術的な補助により重度障害者の労働者の職場を装備しなければならない義務を負う。」
ラント労働裁判所は、事実認定をおこなうことなく、軽易な仕事をするためには、粗大ゴミと高価品の搬入のための建物と組織の変更、技術的な補助の投入が必要で、資材塔の完全な再編が行われなければならない、と認定し、原告の継続雇用を否定していたが、「被告の雇用が可能でないこと、特に、職場の再編後労働者がその労働義務を履行しうると認められる場合、いかなる措置が必要かを使用者は主張しなければならない。」これらを認定するために、本件判決を原審に差戻している。

【判決のポイント】

<1> 社会法典IX 81条4項1 1項によれば、能力と知識に応じて完全に活用し発展させ得る雇用を請求しうると規定され、本件判旨は、使用者が従前の職務で雇用できないとき、障害者は使用者に対し他の就労の割り当てを請求できると一般的に説示したものである。障害のある労働者は、その他の形態での雇用を求める請求権を有し、従前の労働契約により、その他の形態での雇用が保障されない場合、これに対応した契約変更に関する請求権を有する。このような判断の重要な枠組みを示している。
<2> これは、旧重度障害者法において示されていた雇用請求権とほぼ同じ枠組みであり、その枠組みが踏襲されている。社会法典IX 81条を含む第二部1章は、これと同等の者を含むこととなっている。
<3> 本件判旨は、場合によっては契約の変更請求が可能であることを判示している。障害者法にかなった装備、労働組織、労働時間を請求しうる(同法典81条4項4文)と規定され、本件判旨の後半部分は、これによれば、障害のある労働者は、障害に即応した労働組織の形成に関わる請求権を有し、使用者に対して期待し得ない不相当な費用と結びつかない場合にのみ、障害のある労働者は、職場の形成と装備に関して、請求権を有すると判断されている。この点について、「いかなる措置が必要かを使用者は主張しなければならない。」と判断し、本件判決を原審に差戻している。

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(判例36)パートタイム労働に関する労働時間の短縮請求の存否をめぐって破棄差戻された事例

(2003年10月14日)連邦労働裁判所AZR 100/ 03 NZA 2004, S. 614

【事実の概要】

当事者は、パートタイム労働に関する原告Xの請求権を争っている。1954年生まれの原告は、1977年以来、被告団体(Y)、およびその継承人で雇用されている。救急業務に従事している。1989年、Xは、被告Yの重度障害者の移動業務に関する課長となり、フルタイムで働いていた。その月収は税込みおよそ5300マルクに及んだ。Xは重度障害者であり、障害程度は80であった。当事者の労働関係については、ドイツ赤十字社、およびその団体、施設等の労働協約(DRK労働協約)が、適用された。その55条において、「減少した就業を理由とした労働契約関係の終了」というタイトルの下に、重度障害者が短縮された労働時間によって雇用され、(…)、使用者にもこれを期待しうる場合には、年金の考慮期間については就労請求権が完全に休止する旨の規定があった。つまり、労働時間が短縮し就業が減少した場合、労働契約関係は休止するという扱いとなり、年金の計算上就労していない扱いとなる旨の規定があったこととなる。
 2000年に、Xはがんに罹患し、それゆえ労働不能となった。労働不能の期間中、被告Yの人事担当役員と何度も面談した。2001年5月には、上の規定にもかかわらず、Xのパートタイム労働のため「就業減少を理由とした年金」と呼ばれる年金を計算した。2001年6月には、5時間まで就業したい旨をXはYに通知した。2001年7月16日から2001年9月15日まで、Xには、段階的に職場復帰する措置が取られることになった。この時期には、Xの労働時間は通常の週労働時間の半分になっていた。2001年9月6日以降は、Yに対して、5時間の労働を提供した。2001年6月1日から9月30日まで、職員を対象とした連邦保険局は、就労減少を理由とした年金について認められた。年金額は1912.75マルクにのぼっていた。決定は2001年6月1日にXに到達した。2001年9月26日の文書によって、YはXに対して、Xを継続して雇用できない旨を告げた。理由は、本件労働協約55条により労働契約関係が休止することをあげた。Yは2001年9月28日文書で反論した。これによれば、労働時間規制上、一日4時間から5時間となっているというものであった。YはXの就労を拒否した。2001年10月に提起された訴えにより、Xは、DRK労働協約の無効を主張した。労働裁判所とラント労働裁判所は訴えを棄却した。上告手続の間、収入減少を理由とした年金の考慮期間が2005年12月31日までに延長された。被告の同意の下に、Xは、上告によって立てられた申請によって、日付けが変更された。Xは、2005年12月31日までのパートタイマーとしての就労を請求している。社会法典81条5項1文では、「より短い労働時間が障害の種別と重度を理由として必要である場合には、重度障害者は、パートタイム労働に関する請求権を有する。」と規定されているが、本件では、当該パートタイム労働に関する労働時間の短縮請求の存否が争われている。

【判旨】

上告破棄差戻し
「この規定によれば、より短い労働時間が障害の種別と重度を理由として必要である場合には、重度障害者は、パートタイム労働に関する請求権を有する。請求権の履行が使用者にとって期待できない場合、または、不相当な費用と結びついている場合、または、国または職業団体による労働者保護規定、あるいは、職員法上の規定と矛盾しない場合(社会法典IX 81条5項3文、4項3文)、規定は、当事者の労働関係に適用される。この規定は、2001年7月1日に効力を発し、重度障害者法14条IVの旧規定と同意義となっている。この規定は、社会法典IX 81条5項1文により、障害の種別と重度を理由として必要な労働時間減少による実際の雇用の個別的な請求権を重度障害者に対して基礎づける。重度障害者法の就労請求権は、法律上の要件がある場合に直接発生する。(…)それゆえ、使用者への請求権の到達により、障害に即して契約上義務づけられた労働時間の短縮へ作用させることを可能にする。重度障害者が短縮された労働時間によって雇用され、(…)、使用者にもこれを期待しうる場合に、年金の考慮期間のために就労請求権が完全に休止する、というDRK協約規定55条1項2文2は、この障害者法上の請求権に矛盾している。この規範は、法律上重度障害者に認めた請求権に抵触する。」「当事者の労働契約関係が年金の考慮期間について休止したかどうかは、当法廷は判断できない」。「その障害の種別と重度からは、基準によれば、4時間へと労働時間が削減される。事実は、最終的な判断をするほど成熟していない。これについて必要な認定を欠いている(民事訴訟法563条III)。」

【判決のポイント】

<1> 短い労働時間が障害の種別と重度を理由として必要である場合には、重度障害者は、パートタイム労働に関する請求権を有する。法律上許容されたパートタイム労働により雇用を提供しうるにもかかわらず、年金計算のため労働契約関係が休止するとの扱いが、法律に違反する扱いであると本判決によって示された。
<2> なお、ドイツの年金は短時間労働のケースでも将来支給されうるが、この制度には全面的収入減少の場合(1日3時間しか働けない人が対象)、部分的収入減少の場合(1日6時間しか働けない場合)とがある。前者が多くのパート勤務の障害者(本件も)や作業所の労働者に関わる。雇用期間中3年間保険料支払いが必要である。20年の待機期間を経過した場合の平均支給額(旧西独側)は637.62ユーロであり(Bundesministerium fur Arbeit und Soziales, Die Rentenbestande in den gesetzlichen Rentenversicherung in der Bundesrepublik Deutschland, 2009, Bonn)、障害者の老後を支えている。

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(判例37)障害のある労働者の時間外労働の義務が否定された事例

(2002年12月3日判決) 連邦労働裁判所 9AZR462/01 NZA 2004, S. 1219

【事実の概要】

原告Xは、障害を理由として待機労働ないし深夜労働の免除を請求している。1944生まれの原告は、1981年6月以来、フルタイム労働でのアシスタント医師として、被告の病院(Y)で雇用されている。被告は、ドイツカリタス団体に帰属している。労働時間につき、ドイツカリタス団体(AVR)の付随文書5において次のように規定される。「1条 (1)従業員の労働時間は、週平均38.5時間にのぼる。週労働時間の平均の計算は、原則的に13週の期間を基礎とする。雇用上の合意によっては、週52時間までの期間を基礎としうる。
従業員の実労働時間は8時間をこえてはならない。それは、上記の期間において一労働日週平均8時間をこえてはならない」。「7条 (1)雇用主の命令により、従業員は、労働時間外で、待機勤務の形でまたは呼び出し労働の形で雇用の提供を提供しなければならない。」1997年5月Xは腰椎の骨折を負った。このため、1997年7月6日から1999年4月15日まで疾病の結果労働不能となった。1998年10月1日、Xは、障害程度50の重度障害者として労働不能となった。1999年4月19日、XはYのもとでの職務を新たに始めた。Xは、深夜の労働の提供ができる状態になかった。なぜなら、彼女が飲む薬は、深夜時間の職務によって飲めるものではなかったからである。Xは、1999年4月25日の文書によって、Yに対して、薬の投薬のため深夜の労働が不可能であると指摘した。従来受け入れていた労働の提供を部分的に放棄した。それ以来彼の労働はYによって受け入れられていなかった。Xは、支払いの訴えによって、1999年11月11日から2000年4月までの時間に対する(例外はYが継続的に賃金を支払った2000年1月10日から2月6日)受領遅滞による賃金を請求した。Xは、8時間5分をこえて、深夜の労働の提供の義務を負わず、これによって、深夜勤務/待機勤務の提供について義務を負うものではない、という見解を主張した。一日の労働時間が7時25分に開始し16時に終わるので、Xは、一日30分休み時間を控除して、8時間5分の労働時間を有している。これについて、報酬が支払われなければならないとした。Yは、待機勤務への参加は旧重度障害者法46条の意味における時間外労働ではないと主張した。Xの労務の提供は、通常労働時間のためにも期待できるものではないとした。労働裁判所は、慰謝料の請求権の訴え、休暇の調整、休暇を自由時間に置き換える償還を認めた。ラント労働裁判所は、Yの控訴を棄却した。上告は一部認容された。その余はラント労働裁判所に差し戻された。

【判旨】

「一日彼女に認められた8時間5分をこえた労働を原告にさせる権限を被告は有しない。これをこえた原告の労働の提供は、社会法典IX 124条によって義務づけられることのない時間外労働である。」「社会法典IX 124条は、同様の規定を有する旧重度障害者法46条のように、なにが時間外労働かと理解するかを、文言上規定していない。従来の労働法上の概念規定によれば、時間外労働とは、法定労働時間を越えた労働を意味する。連邦労働裁判所は、旧重度障害者法46条および3条の枠内では、重度障害者法の意味における時間外労働とは、一労働日8時間の標準的な法定労働時間をこえている労働であると考慮していた。これに対して、労働時間法の発効によって、旧重度障害者法46条の意味における時間外労働とは、重度障害者の契約上義務づけられた労働時間を超えた一日または週の労働時間である、という見解がますます主張されている。これは、特に、労働契約上または労働協約上の労働時間の延長によって基礎づけられる。重度障害者がこのように解さなければ不利益に扱われることになる。なぜなら、使用者は、重度障害者に対して48時間以上の労働を1週の6日に配分して請求する場合、または、8時間以上請求する場合はじめて、通常労働時間の削減にもかかわらず、障害者は、労働契約および労働協約において、法律上の拒否権を請求しうるからである。」「使用者のもとでの免除請求の効力発生によって、この場合、法律上の免除が生じる。社会法典IX 124条によれば、労働者は、要求された時間外労働の義務を負わない。時間外労働の提供を請求することも使用者には禁止される。これは、民法273条1項による給付拒絶権とは異なる法律効果を有する。」「原告の陳述によれば、待機労働や深夜労働のない週5日へ労働義務を制限する請求権も、問題になる。当法廷には、最終的な事実判断は不可能である。これに必要な認定を欠いている。」
「原告の請求権は、社会法典IX 81条4号によっても生じうる。これによれば、障害者は、使用者に対して、障害にかなった労働時間の形成の請求権を有する。」
労働時間が週5時間をこえず深夜労働や待機労働には至らないように、労働時間を形成すべきことをその障害が要求できる。原告にとってはこのことが前提となる。これについては、ラント労働裁判所は、十分な認定を行っていない。1999年9月25日の治療した医師の診断書によっても、十分な判断の基礎を提供するものではない。

【判決のポイント】

<1> 社会法典IX 124条により超過勤務免除請求が認められ、時間外労働義務を負わない。
<2> 社会法典IX 81条4号によれば、障害者は、使用者に対して障害に即した「労働時間の形成」の請求権を有する。事実が明らかではない等の理由から原審へ破棄された。

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(判例38)一日の労働時間の削減が、障害の種別と重度によって必要であるとされた事例

(2002年3月27日判決) フランクフルト労働裁判所 2Ca 5484/01 NZA‐RR 2002, S.573

【事実の概要】

当事者は、週労働時間の短縮に関する請求権を争っている。月6200マルクで被告Yの下で職務に従事していた。扶養局は、1991年1月17日の決定により、原告Xについて、100の障害程度であることを認めた。Xは結婚しており、妻はフルタイムで稼得可能であった。Yは、新しい労働者を1日8時間の労働時間で規則的に採用していた。Yは、広告代理店の広告の印刷前段階、その他の広告の資料を作成していた。2001年6月27日の診断書により、治療に当たった医師が、健康上の理由から1日の4時間ないし5時間への労働時間の短縮が必要であることを証明した。交渉では、YがXの8時間の職務に固執したのに対し、Xは週5日を維持したもとでの労働時間の短縮に努め、子供の世話のために16時後の職務を拒否したため、週の労働時間をめぐる交渉は失敗に帰した。争点は、社会法典81条 5項3文によるパートタイム請求権の存否とこれについての証明責任の分配に関してである。Xは訴えを提起し、Yに対してパートの労働時間の請求をした。Xの訴えを認容した。

【判旨】

原告は、社会法典81条 5項3文により、月曜日から金曜日まで一日5時間への通常労働時間の削減に対する被告の同意の請求権を有する。この請求権には、社会法典81条 4項3文に被告の利益が反するものではない。「1.(…)障害者法上の社会法典81条 5項3文によるパートタイムを請求する権利は、その要件が充足する場合には、この法律から直接生じるものではない。(…)この請求権は、パートタイム労働法8条の一般的なパートタイム請求権と同様、労働契約の当事者によって共同で実現されなければならない。使用者がその同意を拒む場合には、労働者は訴えの方法により、契約の変更を導かなければならない。」 「2.原告によって請求される一日の労働時間の削減が、障害の種別と重度によって、社会法典81条5項3文の意味における必要であるといえる。これは、原告によって提出された2001年6月27日の医師による証明書から、明らかになる。これに相当した利益状況を理由として、社会法典81条5項3文の要件の審査にあたって、労働契約当事者によって争いがあり、労働者から主張される健康上の阻害から、労働者が請求権を導く場合には、妥当する一般的な諸原則が導かれる。これによれば、まず、労働者は、請求権者として、証明をすべきことが課される。これには医師の診断書が用いられる。(…)それが正当性の推定を導く。使用者はその正当性に対する疑いをたてに取るとする場合には、真摯な疑問に対して理由を示す事情を詳細に主張し、場合によっては証明しなければならない。被告はこうした事情を示してはいない。子供の世話をできるように、原告が実際の労働時間を16時に終了したいという事情自体は、医師による判断の正当性に対する真摯な疑いを根拠づけるために、適したものではない。こどもの世話と稼得は、一般には同列のものではありえない」。例えば、赤ん坊が眠り、小さな子が家で遊ぶ間、若干より大きな子供が公園で遊ぶ間、または、子供が宿題を片付ける間、子供をお世話をしなければ、もっぱら大人がいないことになる。こどもの世話を理由とした、労働時間の短縮に関する原告の主張は、自己矛盾とはならず、むしろ正当化される。「3.この請求権に、社会法典81条5項3文の意味における一日の労働時間の短縮を期待されない事情や不相当な費用となる事情と矛盾するものではない」。
 この規定は、パートタイム労働法8条4項1文に比してより狭い制限を理由として、障害のある労働者を優遇することを目的としている。一般的な事業所の事情は、障害者法上十分なものではない。被告は、この意味で、削減の請求に対して、顕著な理由を提示するものではない。被告の主張は、注文の処理が多くの労働者によっても可能ではない、ということに本質的には拠る。注文が一労働日5時間以上要求するものであるとは被告は主張していない。いずれにしても、このことは、弁論手続における検討においては、説得力を持って根拠付けられているわけではない。その他の点では、かかるリスクが、被告によって提案されるモデルの場合に、1週3日、8時間の労働によっては明らかにより大きなものとなる、ということを原告が適切に指摘している。原告によって努められる労働時間制限が、原告がより少ない注文しか処理できないということを結論付けるわけではない。このことが、必要な程度で被告の事業所の利益を侵害するものではない。パートの労働力の利用が欠けるために、原告のポストを二つのパートのポストにわけられる、との被告の反訴において、被告が主張した限りで、被告はこれに固執していない。新しいフルタイムの労働力、また、‐労働時間をシェアしていない‐約8625人、または、9625人のフルタイマーに負担を与えている、というほどの水準で、被告が注文を維持しているというのは、確かめられるものではない。」

【判決のポイント】

<1> 本件ではパートタイム請求権が認められうると示された。
<2> これについて本判決では証明責任の分配についてルールが示された。まず、労働者は、請求権者として、証明をすべきことが課される。これには医師の診断書が用いられる。これに対し、使用者は使用者は真摯な疑問に対して理由を示す事情を詳細に主張し、証明しなければならないとされた。
<3> この点につき注文減少等を理由とした被告の主張・立証が十分ではないとされた。

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(v)解雇

(判例39)雇用義務が認められ、解雇の場合の損害賠償が認められた事例

(1991年7月10日判決) 連邦労働裁判所 5AZR383/ 90, NZA 1992, S. 27.

【事実の概要】

当事者は障害者である原告Xの賃金請求権と損害賠償請求権を争っている。被告Yは、プラスチックからできている窓の外枠を生産し、約100人の労働者を雇用していた。1934年1月27日モロッコ生まれのXは、1972年7月11日より、Yにおいて労働契約に基づいて雇用されていた。1988年1月4日より、Xは、高血圧症などにより、労働不能であり、1989年8月5日まで疾病給付金を受けていた。
1988年1月30日の文書により、一般的地域疾病金庫(AOK)は、Yに対して、Xへの負荷のかからないポストの提供を求めた。1988年7月12日の別の文書により、Xはシフト勤務はできず、5キロまでの対象物のみをあげられると告げた。Xは、シフト勤務のないより負担の軽減された労働の割り当てを、何度もYに対して求めた。1989年8月8日のXの訴訟代理人の文書により、医師の診断書が付加され、そこでは、屋内の場所等での労働に適していることや、機械での仕事、中程度の物から重度の物の引き揚げと運搬と関連のある仕事に適していることが証明されており、夜のシフトはあってはならないものであることが証明された。1989年8月3日に到達した文書によって、Yは、労働契約関係を(1989年12月31日までの解約告知期間)通常解約した。当事者は、1989年9月15日の解雇保護手続において、和解により、労働契約関係の解約されることのない存続が合意された。1989年10月18日の訴えにより、Xは、1989年8月8日から9月30日までの5,171.40マルク(4%の利子)の賃金の支払いを求め、付随的に、損害賠償を求めた。労働裁判所は、Yに対する5,171.40マルク(4%の利子)の賃金の支払うよう判決した。ラント労働裁判所はYの控訴を棄却した。上告審は上告を破棄差戻した。

【判旨】

「1.旧重度障害者法14条2項1、11条2項1によれば、使用者は、重度障害者がその知識と能力を可能な限り完全に活用し、さらに発展しうるように、重度障害者を雇用しなければならない。この規定は、むろん、重度障害者に対し、一定のポストの請求権を与えるものではなく、その性質と希望により雇用される権利はないが、その教育と健康状態にしたがって知識と能力を可能な限り完全に活用し、さらに発展しうるように、事業所の可能な範囲で雇用されうる訴求可能な請求権を現存する労働関係において有する。重度障害者法14条2項から生じる職業上の促進義務の違反は、保護法違反を理由とする民法823条2項による損害賠償請求権を生じさせるのみではない。この規範は、特に、重度障害者に対する高められた私法上の配慮義務をも含んでいる。」
「2.配慮義務の高い義務を、重度障害者法14条3項1文は基礎づける。これによれば、使用者は、可能な限り多く重度障害者がその事業所において継続的な雇用をみつけられるよう、事業所を規制する義務を使用者に義務づける。この規範は、重度障害者のいる存続する労働契約関係において、労働契約関係に基礎づけられる配慮義務の拡張を基礎づけ、重度障害者法14条2項1文のように、重度障害者に対して、訴求可能な請求権を基礎づける(連邦労働裁判所1983年7月14日判決)。この限界点を、重度障害者法14条3項3文によるこの義務が見出す。それは、その履行が不相当なより高い費用と結びつき、それゆえ、期待できない場合であり、その際、その期待可能性に関しては、経済的な観点と同様、事業所の技術的な観点が重要となる場合である」。
「3.原告の主張によれば、被告は、8月および9月において、従業員を新たに雇用し、その従業員は原告によっても履行可能なより軽減された業務を行っている。原告の主張によれば、テープをプラスチックの滑車から除去し、プラスチックの部分を検査するポストが問題になる。原告はその陳述において、証拠を示した。被告は、その主張を争った。原告によって記述されたポストについて、“フォリェ“局における雇用が問題になり、それは、いずれにしても、重さと性質から、輸送を考慮して、原告の従前の職務と比較しうるものであるとする。この採用は、1989年7月および10月に行われた。別のポストは争いのある期間において新たには埋められていないという。これによって、原告は、配慮義務の侵害について、主張責任および証明責任を充たしている。ラント労働裁判所は、当事者の争いのある主張について考慮しないままであった。それゆえ、この争訟は、争いのある問題の解明のために、前審に差し戻されなければならない。控訴審が、新たな審尋により、被告が原告に対してこのポストに提供しなければならないという結果に達するのであれば、原告に対し、この職務に生じる報酬の額での損害賠償が認められるかどうかを審査しなければならない」。

【判決のポイント】

<1> この事件は、重度障害者法が社会法典IXに挿入される以前の法律にもとづいた重要な事件である。旧重度障害者法14条3項1文は、「重度障害者は、使用者に対してその能力と知識を可能な限り完全に活用し、発展しうる雇用を請求しうる」と規定する。旧重度障害者法14条2項3文によれば、それは、その履行が不相当なより高い費用と結びつき、それゆえ、期待できない場合、上の権利は喪失するとされた。
<2> 旧重度障害者法14条2項による職業上の促進義務の規範は、特に、重度障害者に対する高められた私法上の配慮義務をも含み、損害賠償請求権を有しうる旨を説示している。生命健康に対する配慮義務(民法618条)とは別に、この判決は、配慮義務を根拠として重度障害者の損害賠償の可能性を拡張させたものである。

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(2)教育

(判例40)特別支援学校への指定が平等原則に反しないとされた事例

(1997年10月8日決定) 連邦憲法裁判所 1BvR9/97 NJW 1998, S.131

【事実の概要】

異議申立人Xは、1984年脊髄の損傷とともに生まれた。彼女は、足、膀胱、直腸が麻痺するなどの障害を有しており、車椅子に依存して生きていた。特別支援に関わる鑑定書にしたがって、異議申立人は小学校に受け入れられ、落第することなく学習していった。三週の授業で特別支援授業をえて、授業では民間代替勤務(兵役の代替)が随伴した。1995/1996年に、5年生で、統合的な総合学校(Gesamtschule)に換えた。新たな助言のための鑑定書では、多くの授業の科目において、特に、数学と自然科学においては、十分に授業についていけないという結果となった。これらの授業については、統合的な総合学校における統合的な授業は可能であるとされた。代替としては、身体障害者のための学校における教育があるとされている。特別支援委員会は、従前の学校での特別支援の措置として、平等な授業は可能ではないため、数学の週5時間の個別授業を勧告し、および、他の科目における編入補助としての教育上またはセラピーの補助教員による授業随伴を勧告した。それゆえ、地域行政は、異議申立人に対し、特別支援の必要性を認め、‐両親の希望に反して‐身体障害者のための学校の指定を決めた。その理由は、統合的な総合学校への必要な支援措置が可能ではないからとされた。さらに、異議申し立ての決定では、特別支援学校への指定の即時の執行を命じた。異議申立人によってなされた訴えについては、まだ判断されていない。訴えの効果は強制執行に対する申立ては、上級行政裁判所によって認められなかった。異議申立人がニーダーザクセン州教育法14条2Iの意味における特別支援を要するというものであった。予定される適法な特別支援の指定の即時の執行に対する公的な利益は、統合的な総合学校に対するものよりも優先するとされた。この決定について、異議申立人の最初の憲法異議の申立てが、連邦憲法裁判所第一小法廷によって上級行政裁判所に差し戻された。異議申立人は、特別支援学校への指定により基本法3III2による権利を侵害されていると判断された。上級行政裁判所は、強制執行に対する異議申立人の申立てを改めて認めなかった。異議申立人の申立てにもとづいて、連邦行政裁判所の第一小法廷は、この決定の効果を仮に認めた。地域行政は、身体障害者の学校への指定の即時の執行をしなかった。主位手続における継続の問題について、連邦憲法裁判所の決定において、基本法3条III2の解釈について、判断されうるとされた。異議申立人は、本科設定校(ハウプト・シューレ)の第7学年(日本の学校の中学校1学年に相当)に入学していた。異議申立人は、憲法異議の訴えを提起した。憲法上の争点は、特別支援学校への指定が平等原則(基本法3条3項2)に反するかどうかである。

なお、基本法の3条は以下の通りである。
(1)すべての人は法律の前に平等である。
(2)男性と女性は同権(gleichberechtig)である。国は、女性と男性の同等の権利が現実的に達成されることを促進し、現に存する不利益の除去を目指す。
(3)何人も、その性別、出生、人種、言語、故郷、および、血統、その信条、宗教上または政治上の見解を理由として、不利益を受け、または、優遇されてはならない。何人も障害を理由として不利益を受けてはならない。

【判旨】

憲法異議の申立棄却
「基本法3条3項2は、むろん、従前の3条3項の差別禁止を意識的に継承し、そして、現行の基本法3条3項1に引き続いている。1文と同様、2文が、一定のグループに対する基本法3条1項による一般的な平等原則の保護を強化し、この限りで、障害が不利益を受けた不平等な取扱いに関連する諸点として役立つよりも、より厳格な限界を国家権力に対し設定しようとすることが、明らかである。同様に意識的に、憲法改正の起草者は、しかし、障害のメルクマールをめぐってのみ、従前の基本法3項3項におけるメルクマールを拡大させることを思いとどまっている。これは、基本法3条3項2が、独立した意味をも有していることからも、認められる。明らかに、このことが障害の特別なメルクマールと関連している。」「現在の教育学的な認識では、障害のない児童との障害のある児童の共通の教育及び共通の授業の可能性の一般的な排除は、憲法上正当化はされない。批判的な声にもかかわらず、統合的な教育は、(…)教育学においても、政策的に重要な専門委員会においても、大方、ポジティブに評価されており、特別支援学校における教育と授業に対するより強く実現する価値のある代替案として賛同を得ている。特別支援の必要性を要する児童にとって、特別支援学校(ニーダーザクセン州教育法14条)と並んで、すべての学校(ニーダーザクセン州教育法4条)および、差異化教育をともなった統合学級(ニーダーザクセン州教育法23条IV)において、他の生徒との共通の教育と授業の可能性を作り出してきた。ニーダーザクセン州教育法68条とともに4条によれば、統合授業の方法で、‐必要な場合には特別支援の準備があるもとで(特に、ニーダーザクセン州教育法14条IV2参照)‐支援の必要のある児童の個別的な支援の要請に添いうる場合で、組織的、人的、物的な前提条件が与えられる限りでは、授業は統合的で均等の目的のために行われる。」「その規定のコンセプトによれば、統合的な教育の提供が、均等の目的としても、差異化の目的としても、決断される場合、この統合形態での事実上の発展をここで問題とされた種類の制限的な前提条件によらしめることを、制定者は、憲法上排斥していない。判断領域、ならびに、実際上の実現可能性の留保と財政的な主張可能性の留保は、立法者によるこの規制のコンセプトの形成にも存在する。基本法2条I、6条II1および、3条III2によっては、各々の州に対し、統合的な教育のあらゆる形態を装備する義務はない。決定の自由において、立法者は、教育上、組織的、人的、および、財政的な理由からその実現ができないと思われるかかる統合形態の導入を、思いとどまることができる。その前提は、統合的な教育及び授業の残存する可能性が、障害のある子供と年少者の利益を十分に考慮することである。」「これに対して、異議申立人が主張していることが詳細に証明されず、上級行政裁判所による事実が、事実に反する考慮から、誤っており、または、完全に審査されていない、という考えにいたるわけではない。連邦憲法裁判所は、それゆえ、これらの事実を考慮しなければならない。特に、異議申立決定において、教育官庁は、異議申立人の統合的な授業の利益ないし不利益を争っており、その際、両親の考えと希望を考慮しているが、教育官庁は、異議申立人の特別支援の著しい必要性を衡量して、学校組織としての困難さまた、人的な困難さにより、異議申立人の特別学校の指定を命じることが許される、という同庁の判断にも、異議は申し立てられない。異議申立人の場合には、これによっては、すべての重要な観点が十分考慮されている。それゆえ、主訴手続において取消された特別支援学校の指定は、適法であり、基本法3III2に一致しているという上級行政裁判所の法的な判断は、この規定の誤った解釈によるとは、考えられない。」よって、特別支援学校への指定が平等原則に反しないとされた。

【判決のポイント】

<1> 特別支援学校への指定が平等原則に反しないとされた。
<2> すでに述べたとおり、ドイツでは、特別支援学校(Sonderschule)も各州において存続しており、身体障害者、精神障害者、知的障害者、視覚障害者、聴覚障害者のための(特別支援)学校が各々の障害ごとに存在している。特別支援教育の支援の必要がある場合に、特別支援学校へ教育行政官庁によって指定される。しかし、多くの州において、90年代以来、一般の学校において統合的な授業を実施している。特に、州内で重点校を定めて、重点校では、一般教員以外に特別支援教員を集中的に配置し、統合教育を実施している。州によっては、重点校のほか、総合学校(Gesamtschule)を統合的な総合学校(Integrative Gesamtschule)に改編させ、統合的な授業を実施している。本件で問題になったのも、統合的な総合学校への障害児の編入の可否であり、本件特別支援学校指定が適法かどうかである。

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(判例41)特別支援学校への指定が適法であるとされた事例

(2003年1月14日決定) マンハイム行政裁判所 9S 2268/02 掲載誌なし

【事実の概要】

抗告人Xの行政裁判所に対する異議申し立ては、却下された。争点は、特別支援学校への指定が適法であるどうかである。

 

【判旨】

仮処分命令に対する申し立てられた申請は、却下されうる。「抗告人は、一般の学校が、‐小学校は別として、本科設定校(ハウプト・シューレ)、実習中等高等学校(レアール・シューレ)‐彼にとって正当な学校であるとは主張するものではなかった。予備的申立ての時点では(2001年12月4日)、精神障害者のための学校におり、今日なお在学している。教育監督行政庁がこのような類の特別支援学校在学のための義務が存在すべきことを決定したことを考慮すべきである。教育監督庁は、抗告人が一般の学校の授業ではうまく参加できること、および、それゆえ特別な就学義務が終了しえたであろうことを(バーデンヴュッテンブルク州83条2文)明らかに長期間認めることはしなかった。本科設定校(ハウプト・シューレ)、実習中等高等学校(レアール・シューレ)を別とすれば、教育監督庁が一般的な学校での統合的な学校教育に賛成したとも認められない。最終的には、抗告人が、試験的に個々の授業日に対して一般の学校の授業への参加を教育監督庁から許可された、ということは、あらゆる証拠にもない。このようなことは、2002年4月30日の国家の教育局の一般の学校への文書からも、当該教育局の自閉症についてのカウンターパートナー、T特別支援教員の2002年3月3日の態度決定からも、明らかではない。かかる態度決定において、抗告人がその在学する精神障害のための特別支援学校に帰属させられ、一般の学校への転換が期待に値すると、説明されている。しかし、そこまでの教育監督庁の決定は、これを示すものではない。なぜなら、どのような一般の学校が抗告人を受け入れるべきかがこれまであきらかでなかったからである。」よって、抗告人の行政裁判所に対する異議申し立ては、却下された。

【判決のポイント】

<1> 州法に照らして、教育行政庁が、一般学校への障害のある児童の転換が必要かつ適切であるかどうかを確定する、ということを認めた。
<2> 一般の学校での就学しうるとの特別支援教員による鑑定意見にもかかわらず、本件判旨は、教育監督庁の決定を尊重して、一般の学校で抗告人を受け入れるべきとの判断を示さなかった。

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(判例42)両親の学校に関する選択権は認められていないとされた事例

(2005年4月28日判決) 連邦行政裁判所5 C 20/ 04, NJW2005, S. 3160.

【事実の概要】

原告(障害児の親)Xは、編入補助の枠内での統合補助者の費用の引き受けについて被告教育科学省(Y)の義務について争っている。これは、Xに対して、統合的な授業を行う小学校入学のために必要とされるものであった。行政裁判所は、訴えを棄却した。これに対して、上級行政裁判所は、Yに対して費用を引き受けるよう、義務づけた。Yによる上告は棄却された。

【判旨】

上告棄却
「F小学校入学のための統合補助者の費用の引き受けによって、原告に要求される補助は、連邦社会扶助法40条1項4文、編入手当規則12条1号による相当な学校教育のための措置として必要かつ相当なものである。これは、社会的扶助が人間らしい存在という意味での相当な生活条件に対する請求権を付与するものであって、最善の生活条件を付与するものではない、との上告趣意書の指摘によって、疑問視されるものではない。編入補助措置の必要性は、特別学校ではない小学校入学のための判断による以上、社会的扶助による『最善の生活条件』の生成が実際上義務づけられるという観点が、問題になるわけではない。編入手当は本質的に、障害ある人間の統合に常に向けられている。このため、これは編入を達成するために必要かつ相当なあらゆる措置を包含する。統合補助者の費用の引き受けは、相当な学校教育に対する連邦社会扶助法40条によってありうる可能な補助である。これによって可能な補助は、下位的で補助的な種類のものに限定されない。これは、障害ある人間に対する相当な学校教育へのアクセスのような補助、特に、保護義務の実現のためのアクセスのような補助を包含する。この補助義務により、特別学校の代わりに学校法で認められまた定められた小学校の入学を可能とするのである」。「州法についての控訴審判決における認定によれば、ラインラントファルツ州における学校に関する州法47条IX1によれば、障害を理由に他の学校では支援されえない者、または、十分には支援されえない者は、彼にとって適切な特別支援学校に入学することになる。これについての判断は、ラインラントファルツ州学校法47条IX2によれば、教育官庁が行う。障害のある子がかかる判断がないために特別支援学校に入学し得ない場合には、ラインラントファルツ州学校法50条2項および3項により、その学校地域の小学校または本科設定校(ハウプト・シューレ)に入学する。または、両親の選択により、公的な本科設定校(ハウプト・シューレ)、実習中等高等学校(レアール・シューレ)、普通中等高等学校(ギムナジウム)、統合的な統合制学校(ゲザムト・シューレ)、ないし、補習高等専門学校のための学校規則1条IIないしIXの詳細な規定により、その他の学校に入学する。それゆえ、この学校法上の選択権は、特別支援学校と一般学校との間の選択に関係しているのではない。この限りでは、州法はむしろ、両親の聴聞のみを予定している(ラインラントファルツ州学校法47条IX2)。」「上告の見解とは反対に、原告が補助を期待する「相当性」も、連邦社会扶助法3条2項3による過多な費用の負担という観点から、疑問符をつけられるものではない。行政上級裁判所は、適切にも、当法廷の判例を指摘し、これによれば、連邦社会扶助法3条2項による被補助者の選択権ないし期待権、これにしたがい、この規定の3文によるこの権利の制限は、費用需要に関する代替案の存否を前提としている。しかし、この代替案はこの場合欠けている。なぜなら、原告は、小学校を指定されていた限りでは、特別学校に入学しえたのではないからである。このような状況の下では、その都度の過分の費用にもかかわらず、両親の権利によりこどもの統合的な学校教育を選択し、また、教育科学省による聴聞の枠内でこれについて言及しうることが、原告の両親に対し憲法により、帰属しているか、また、どの程度帰属しているかに拠りうる。
 本件手続きによる原告と教育科学省との間の法的な訴訟においては、行政裁判所は、学校の指定に関する州法上の規定からは、被告の参加権や実質的な法的地位を読み取れないと判断した。学校指定の効果としてありうべき給付義務を考慮すると、編入手当が帰属する社会扶助諸機関について、関与権が認められうるかどうかという問題は、原告への編入手当をめぐる本件訴訟では問題にはならない。統合的な学校教育の費用は、州や教育機関によって担われない場合には、社会扶助諸機関がこの義務を負担することが問題になる限りでは、特別学校以外で、障害児の統合教育の増大により、教育行政の領域からの社会的扶助の地域の機関に、費用負担が移転することが帰結される、と原審が指摘していた」。これにより、市が統合補助者の費用を上の編入手当により引き受けると解される。

【判決のポイント】

<1> ドイツでは、特別学校と呼ばれる特別支援教育の学校が障害児には用意されるが、この時点では、州法上の規定上、両親の参加権は読み取れず、特別支援学校を入学すべきかどうかの判断は、教育官庁が行うと判断された。
<2> 本件では、現行社会法典XII 40条(旧連邦社会扶助法40条)では、「連邦労働社会省は、連邦財政省との同意を経て、連邦参議院の同意の下に命令を通じて、28条の通常給付額の内容、測定、構造、ならびに、その進展に関して、授権する」と規定され、本条の授権に基づき、市が統合補助者の費用を上の編入手当により引き受けると解した。

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(判例43)距離の近い小学校への入学拒否が違法ではないとされた事例

(2009年5月15日判決) コブレンツ上級行政裁判所 2A 10036/ 09 BeckRS 2009, 34196.

【事実の概要】

2002年生まれの、ダウン症の原告X(女性)は、住所地Sにおける小学校への指定を争っている。3歳よりSにおいて3年間地域の幼稚園にいた。両親の希望にしたがって、重点校/小学校における適切な統合的な措置と差異化学習の提供によって、彼女を支援することが可能であるとしていた。2008年5月20日の決定により、監督・サービス局(Y)は、Xに対し、2008年/2009年の一年のためにA小学校を指定した。重点校である当学校では、統合教育(Integrative Schulung)のための物的、場所的、人的な前提条件が与えられているとした。これに対して、2008年6月5日の文書によって、Xは、異議を申立て、一般学校であるS小学校を彼女に指定するように、主張した。学校長が彼女の受け入れに準備ができているとXは主張していた。外部の特別支援教育はそこでは、現存する支援の必要性を充たしうる。その社会的な統合教育は、20キロ離れた重点校の入学よりも、一層よく住所地での教育により、可能となるとXは主張した。同局は、2008年6月19日の決定により、異議申し立てを却下した。原則的に、必要な特別支援教育は、特別支援学校、または重点校において行われるとした。後者は、2001年/2002年以来、導入され、特別支援教員および専門教員による追加的な人的な装備が与えられる。重点校としてのA学校は、S小学校よりも、よりよい統合教育のための前提条件があることをYは指摘した。2008年6月26日の訴えにより、S小学校のクラスは、16人または17人の子供がおり、これとは反対に、AにおけるA学校では一クラスごとに約26人ないし30人の子供がおり、さらに、被告Yが、過去の比較しうる場合には、地域の小学校での学校入学を認めていたとXは主張した。Xは、2008年5月20日の被告の指定決定を破棄すべきこと、および、2008年8月4日に始まった2008年/2009年以降W小学校(H学校)への指定を義務づけることを申し立てた。行政裁判所は2008年11月27日の判決において訴えを棄却した。Xは控訴した。

【判旨】

「原告女性の控訴は適法であるが、認容されない。行政裁判所が適切に認めたように、原告は故郷Sでの小学校への指定請求権はない。むしろ、2008年/2009年に原告をA小学校の重点校に指定すべきとの、2008年5月20日の被告の決定において(…)なされた判断には、法的には異議を申し立てられない。」「2004年3月30日の学校法3条5項1文によれば、障害のある児童は、学校の提供および教育機会の提供を、原則的に、自立して、ラント法の2条3項の意味におけるバリアフリーで、障害のある人間の同権のために、障害のない児童と一緒に利用しうるようにすべきである。それは、このために、物的、場所的、人的ないし、組織的な諸条件が形づくられる場合に、である。教育官庁による認定により特別支援の必要性がある児童のグループのために、学校法59条4項1文は、特別支援学校入学、または、学校法59条3項5文により、その他の学校への入学を予定する。最後にあげた可能性を学校規則29条1項1文は生じさせ、これによれば、教育官庁による認定により特別支援の必要性がある児童は、学校法59条4項により、小学校で統合的に(Integrativ)支援されうる。ここでは、その他の学校法59条4項1文の意味における「その他の学校」入学を考慮している。いずれの学校に当該児童が具体的に入学すべきかという決定を、学校法59条4項2文により、両親への聴聞の後、教育官庁が行う。この限りでも、学校法3条5項で述べられる、物的、場所的、人的及び組織的な可能性の留保が妥当する」。「かかる重点学校は、(…)市および県において、段階的に、各々の住所に依存して、管轄の学校として用意される。」「特別支援学校の代わりに、障害のない児童と一緒に、その他の学校に入学する学校法59条4項1文によって現存する可能性が考慮される。むろん、学校法59条4項2文により、具体的に入学すべき学校についての最終的な決定は、教育官庁にある。それゆえ、原則的に、当該児童または両親の選択権はない。」「AにおけるA学校は、追加的な人的な装備を提供している。それは、各々の子供の特別支援の必要を測ったうえで、基本的なオファーとして、週27時間特別支援の教員、ならびに、25時間教員ならびに、これをこえて、14.7時間特別支援の教員と12時間の専門的な教員にまで達する。これらの追加的な基本的なオファー、および、追加的な児童に関連した特別支援学校の教員および専門教員を週の授業時間に指定することは、上述の重点コンセプトに沿うものである。」「この限りで、この特化された、この者にのみ提供される特別支援は、難なく、Sにおける地域の小学校でも提供されうる、との原告の上記のものと結びついた指摘は、誤っている。なぜなら、重点教育にもとづいてのみこの範囲で与えられる追加的な特別支援教員と専門教員が、特別支援教育の支援の必要性のある多くの子供に対する個別的な特別支援授業を提供するからである。これらの追加的な授業は、これに対応した教員を当該児童がさまざまな地域の一般学校で個々に求めなければならない場合には、明らかに制限的な形態でのみ、可能である。それゆえ、被告が、現存する専門的教員を重点校に集中することによって、支援の必要のある児童の持続的な扶養の達成に努める場合には、これは適切なものである。」「故郷の地Sから20キロ離れていることを理由として、AにおけるA学校入学が原告に対し期待し得ない。原告が、ほとんど3年間Sにおける地域の幼稚園に行くという両親個人の決定にもとづいて、BにおけるH統合型アクティビティーセンターに入った、という事実がこれをすでに証明している。このため、幼稚園に行くために、過去において通常比較しうる遠距離を拒否した。それゆえ、住居地での社会的なコンタクトをつくり、そして、それを維持することに、Aにおける学校入学により将来的には成功する、という考えは、正当化される。」

【判決のポイント】

<1> ドイツでは、通常の小学校とは別に、教育官庁による認定により特別支援の必要性がある児童のために、州学校法により、特別支援学校入学、または、統合のための授業を行える小学校を予定している。後者は、統合教育も実施可能な一般学校であり、州が重点校として指定された学校である。しかし、どの学校に入るかは、教育官庁が決めることとなっている。このため、両親の意思と一致した学校に入学が許されないことがある。
<2> いずれの学校に当該児童が具体的に入学すべきかという決定を、両親への聴聞の後、教育官庁が行うと判断している。
<3> 本件では、距離の近い小学校への入学を望んだ障害児が、距離の遠い重点校への入学を指定された教育官庁の決定を不服とした争われた訴訟である。被告が、現存する専門的教員を重点校に集中することによって、支援の必要のある児童の持続的な扶養の達成に努める場合には、これは適切なものであるとの理由から、この不服が認められなかった例である。

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(判例44)居住地での一般学校入学が認められた事例

(1997年8月26日決定) マクテブルク上級行政裁判所 B2 S 297‐97, NVwZ 1999, S. 898.

【事実の概要】

抗告人Xは、1990年11月25日生まれで、出生以来、後発的な不全麻痺にもとづいて障害があった。1歳以降医師の治療やセラピーによる治療にあった。満1歳になった後、抗告人は、当時の住所地のAの保育園に入園し、1994年秋以降Hにおける一般の幼稚園に入園した。その際、障害のない子によっても受け入れられ、友達を作ることもでき、統合も成功していた。歩行の補装具によって自立して歩くことができたが、整形学的につくられた自転車にもかかわらず移動は約30メートルに制限されていた。これと並んで車椅子などが利用されていた。1997年8月1日に、抗告人Xは就学義務を負うようになった。その両親、‐抗告人X‐は、1996年8月1日に、1997年/1998年のHでの通常の小学校への受け入れについてXの就学可能性を認めるよう、小学校に管轄の教育局に申し立てた。小学校は、この申立てを拒否し、1997年4月28日の決定によって、Xに対してMにおける身体障害児のための特別支援学校を指定した。その理由として、Hにおける小学校は車椅子では通行不可能であり、バリアフリーの装備をするには、コストがかかりすぎることをあげた。特別支援教育のための鑑定書によって必要なお世話は、治療教育者や教育者により、身体障害児との接触の経験から、同校では、行い得ない。統合教育のための人的、物的、及び場所的前提条件は充足されないと主張した。双方の決定に対して、抗告人Xは、適式に異議申し立てをした。抗告人は、行政裁判所に訴えを提起し、H市内の小学校での教育に関する仮処分命令を申し立てた。その目的は、Xを1997年の学期の初めに小学校に仮に入学させる小学校の義務を命じさせることにあった。行政裁判所はこれを認めなかった。これについて命令請求権の根拠がないという理由にもとづいていた。上級行政裁判所は、Xの抗告に対して、Xの異議申し立てを許可し(却下せず)、Xによる申立ての変更後、異議申立てを認めた。本決定により、Hで仮にXを教育するよう、小学校に対し義務づけた。1997年4月28日の異議申し立て決定に対する訴えの強制執行力のある効果が生じた。その理由は次のようなものである。

【判旨】

当法廷は、本件仮処分手続きとの関係で、基本法3条3項2、および、ザクセンアンハルト州教育法3条3項、同法39条にもとづき、特別支援教育がその他の学校(一般の学校)においては行われえないか、という問題に対して否定的な解答を与えるべきかどうかについて、判断するものではない。特に、一般の学校において、実際の前提条件が現在では作り出しえない等の場合には、一般学校において特別支援教育が行いうると理解すべきかまでは、判断しない。一般学校入学に肯定的な見解は、1996年9月24日の特別支援に関する規則2条3項に根拠を置くものであるように思われる。なぜなら、特別支援の必要性のある児童は、特別支援の人的、物的、場所的な前提条件が保障されている場合には、一般学校に入学しうることが、上の規則において規定されている。
その際、憲法、および、ザクセンアンハルト1条3項は、身体障害児の統合達成という処理を当然としている。他方で、当法廷は、コストが共通の福利に調和して形成しうる限りでのみ、教育上統合の試みは実現可能であると考える。「この手続きにおいて出された鑑定書は、統合教育に一致して賛成している。特別支援のための鑑定書によって出された専門家の態度決定は、支援措置の必要性が、もともとの評価よりも小さいものになっているということがありえないこともないという様相を呈している。このため、Mにおける特別支援学校への指定がただちに執行するという、特別な公的な利益は、主たる事件の対象のための法的手段が明らかに成功しない、ということによっては、根拠づけられない。どのように事件の対象が決定されるかは、むしろ明らかではない。それゆえ、行政裁判所規則80条2項4号と関連してなされるべき利益衡量を、当法廷はしなければならない。今M特別支援学校に行かなければならず、後に統合的な学校へ入学するのを可能にするという場合、どのような不利益がXに生じるか、ならびに、これと比較して、さらに、Xがいま統合的な教育を受けうる場合で、後に特別支援学校に入学しなければならない場合、どのような不利益が生じるかを利益衡量しなければならない」。後のよその地域での一般学校教育を受けるよりも、現在居住地での一般学校教育を受ける利益のほうが高いと考えられ、その結果、本件仮処分決定では、現在、一般学校に入学すべきものと結論付けられた。

【判決のポイント】

<1> 憲法、および、ザクセンアンハルト1条3項は、身体障害児の統合達成を当然とし、州法上も、身体障害児の一般学校への統合の一般的な可能性を示唆している。
<2> 利益衡量から、児童が現在特別支援学校に行くべきか、それとも、後に特別支援学校へ行くべきかを決しなければならないとしている。現在特別支援学校に行かなければならず、後に統合的な学校へ入学するのを可能にするという場合、どのような不利益が児童に生じるか、ならびに、これと比較して、児童がいま統合的な教育を受けうる場合で、後に特別支援学校に入学しなければならない場合、どのような不利益が生じるかを利益衡量しなければならないとするのである。後のよその地域での一般学校教育を受けるよりも、いま居住地での一般学校教育を受ける利益のほうが高いと考えられ、本件仮処分決定では、現在、一般学校に入学すべきものと結論付けられた。

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(判例45)障害児に対する統合のための補助者 (Integrationshelfer) に関する請求権はないとされた事例

(2004年11月10日決定) カッセル行政裁判所 ‐7TG 1413‐04 NVwZ‐ RR, 2005, S. 189.

【事実の概要】

抗告人Xは、B市におけるC学校在学期間、授業にともなう個別的な補助を付与されるべきことを求めている。1990年11月19日生まれのXは、自閉症の後遺障害をもっており、運動障害や知的障害を有していた。G郡の国の教育局(Y)等は、1998年5月19日の決定により、Xには、身体障害者にとっての特別支援の必要性があり、学習補助者に関する全体計画、および、身体障害者のための学校基準にしたがった授業を必要としていた。1998年8月1日以来、Xは、C学校の学習補助者と身体障害者のための局をたずねた。ユストゥス・リービッヒ大学の医学研究所の2000年12月19日の鑑定書では、Xの教育は、個別的な補助によって行われうることを確認した。2001年2月14日の文書によって、Xの法定代理人は、訴訟参加人の社会局において、授業中の随伴者のコストの引き受けを申請した。訴訟参加人の社会局は、2001年3月13日の決定により、この申請を認めなかった。Xは異議申立てを行った。

【判旨】

「確かに、その身体的、社会的、および、感情的、ならびに、認識上の発展について特別支援教育による補助を学校において必要とする、こどもと年少者は、特別支援教育の請求権を有する(ヘッセン州教育法49条)。特別支援の促進請求権は、ヘッセンの州法のさらに詳細な基準によって具体化され、ヘッセン州教育法55条の授権の基礎にもとづいて命令される1998年12月22日の特別支援教育規則によって具体化される。この規則14条1項は、授業が児童の障害に特有の必要性に即すべきというように、その都度の基準による授業を特別支援学校において形成しなければならない。授業時間の割り振りによる授業の枠をこえて、児童および生徒は、追加的な支援措置の中で配慮され、これは、授業に随伴してあるいは授業を補充して行われる。そのなかで、小さなグループや個々に向けられた特別支援教育による支援が、認定される特別支援教育による支援の必要性にしたがって行われる。」「特別支援教育の促進に関する規則は、必要な場合には、追加的な授業に随伴する支援を予定しており、これは小グループまたは個別の措置として行われうる。授業中統合補助者(Integrationshelfer)によって授業での要請を一般に認識させる状態に障害者を置くために、特別支援教育の支援に関する規則が、個別の補助に関する請求権の基礎とするのを可能にするものではない」。さらに、本規則21条4項1によれば、特別支援学校でのクラス単位、グループ、個別授業として、授業が付与されるが、この規定からは、かかる請求権は生じない。「これは特に次のような理由からいえる。特別支援教育に関する命令の25条とともに、‐特別支援教育に関する14条および21条の体系的な関連が示すように‐、個別授業が、時間的に限定的な支援措置としてのみ可能である結果、学校在学の全期間中の個別的な補助措置を意味する統合のための補助者が、特別支援教育の措置には数えられないということになる」。

【判決のポイント】

障害児に対する授業のための補助者について、州法上、請求権はないとされた。

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(判例46)過大な費用を理由とする視覚障害者への学校の装備拒否が差別的取り扱いにはあたらないとされた事例

(2004年7月22日) 判決連邦社会裁判所 B3 KR 13‐03 R 掲載誌なし

【事実の概要】

原告Xは、訴訟参加人(視覚障害者の生徒)の親および、ラント・ヴォールファート団体(州)ビュルツブルク・ホーエンツォーレルン、被告(Y)は、ドイツ職員疾病保険である。1976年生まれの訴訟参加人は、出生以来、目が見えず、痙性の麻痺がある。9年生(日本の中学3年)までは視覚障害学校におり、その後、複数の一般学校に入学した。1997年夏には実習中等高等学校(レアール・シューレ)から普通中等高等学校(ギムナジウム)に移った。2000年6月にはアビトゥーア(大学入学資格試験)を受けた。2000年/2001年冬学期からは大学で心理学を勉強している。家と学校では、民間代替勤務者によって支援されている。1993年夏視覚障害学校から一般学校に転換した。その実習高等学校(レアール・シューレ)10学年(日本で言う高校1年)の間、訴訟参加人は、視覚障害者のためのノートブックのPC(Braillex Compact)、テキスト認識システム(Readmaster 2 Private)、ハードウエア、ソフトウエア、ならびに、テキスト出力装置(BrailleX 2 D‐ Screen)の補助を申請した。その根拠として、実習高等学校(レアール・シューレ)の10学年の高い学習のレベル、普通中等高等学校(ギムナジム)での11学年から13学年のこれに続く学年の多くの科目には、十分なものではないと説明した。Notex40とBraillex Compactの交換は、必要なことであるとした。ブライユ点字は、通常の黒い文字に転換され、出力されうるし、モニターに教員用にも読みうるものでなければならないとした。現存の装備では無理である。数学の課題がより長く、広範なものになってきており、45行のブライユ点字をこえている。このため、80行のテキスト出力の装備が必要であるとした。10学年が始まったとき、上記の申請をしたが、訴訟参加人は、装備を得て、訴訟参加人には、編入補助の枠内で専門的でない程度で与えられた。これに対し、Yは社会法典V 33条による給付義務を否定した。その理由は、ここでの要請の実現は、一般的な基本的需要を超えたものであるとした。それゆえ、76,529.35マルクの額での費用の出費を拒否した。Xは、Yに対して、73,529.35マルク(37,594.06ユーロ)の出費(このほか利子)を求めた。その理由は、通有しているPC3,000マルクの費用は、出費不能であるからであるとした。被告Yが疾病保険によって訴訟参加人の装備のためこれらの装置が義務付けられるとXは主張し、これらは、レアールシューレの10学年、また、ギムナジウムの上級学年の学校教育での参加の確保のため、必要なことであると主張した。1993年に装備された装置では、上級の学年での学校のレベルには、信頼可能なスムーズな学習は不可能であるとした。これに対し、被告Yは、経済的な理由から、これに反対した。従来の装置は、上級の学年のレベルでも利用可能であるとした。社会裁判所は、被告Yに対し、73,529.35マルク(37,594.06ユーロ)の額での費用の出費、1997年3月1日以降利子を含めて66,800.75マルク(34,154.68ユーロ)の額で、1998年8月1日以降6,728.60マルク(3,440.28ユーロ)の額で支払うべきことを判決した。ラント社会裁判所は、被告の控訴を棄却した。被告は上告した。

【判旨】

上告認容
「被告の上告は適法である。原審は、訴えを不適法に認容した。被告は、費用の出費について義務づけられるものではない。」「一般的な就学義務または特別な就学義務の枠内での生徒の教育上の一般的知識の伝達(バーデンヴュルテンブルク州教育法83条)が問題になるときに、教育能力(Schulfahigkeit)は、社会法典V 33条(および社会法典IX31条1項3文)の意味における日常生活の一般的な基本的な需要としてみられる。州の立法者は、日常生活に関わる基本的知識の獲得、日常生活のために必要な知識と能力の獲得を、各州で生活するすべての生徒の義務とともに、学校入学のために命じている。そして、その立法者は、この基本的知識が今後最長10年(主たる学校の修了の達成に向けられた就学義務の期間)伝達され学習可能であることを考慮している。疾病保険が、障害者に対し医学的なリハビリテーションの方法で日常の克服のために必要な能力を伝達することを保障しなければならない場合には、視覚障害者は、むろん、国の側から教育に対する最低限としてみられる程度を獲得し、彼にこの限りで課される市民の義務を充足しうるための、前提条件をつくりださなければならない。これをこえた教育の目的はもはや促進されなければならないものではない。これはむしろ、本件の原告のように、その他の給付機関の任務である。その他の給付機関は、一般的な就学義務の枠内での補助と並んで、さらなる学校入学のための補助や、また、大学入学を含めた相当な職業教育のための補助をも(連邦社会扶助法40条1項4文および5文)、むろん、収入と財産の期待しうる投入のもとで(連邦社会扶助法28条1項)、視覚障害者のための編入補助(Eingliederungshilfe) の方法で、保障しなければならない。就学義務の修了をこえてさらに学校に入学しまたは、後の職業に随伴して再教育を受ける者は(二つ目の教育の方向、夜間学校、市民学校)、国家の強制なしに自らの決定によってこれは行う。保障すべき者は、‐個々の場合に非常にさまざまな特徴がある‐個々の教育の需要に対処し、むろん、その需要に対してはさまざまな方法で国によっても対応する。すべての人間として原則的に均等な、日常生活の当該一般的で基本的な必要性として格付けされるものではない。法律上の疾病保険は、そこまで広範な就学義務の生成と保障にまで義務を負うわけではない。この社会法典V 33条の解釈は、基本法3条3項2文による障害のある人間の不利益取扱の憲法上の禁止に反するものではない。当法廷が、他の関連ですでに判断したように、この憲法上規範からは、広範な補助の扶養の請求権は生じない。むろん、不利益取扱いの禁止は、同時に、客観法的な国家への付託と結びついており、障害のある人間の同権的な参加に影響を与えうる。このことは、社会法典IXの発効後も存続する社会国家の命題形成のための付託は、特に具体的な給付請求権を基礎づけるものではなく、これとともに個人の一定の補助扶養のための訴求可能な主観的権利を基礎づけるものではない。基本法3条3項2文による基本法の客観的な適用領域ないし保護領域は、障害が不利益を受ける不平等にとっての結節点に役立つものではないというところよりも狭い限界を国家権力がこの限りで設定する、一定のグループに対する基本法3条1項による一般的な平等原則による保護を、一層強化するものである。むろん、基本法3条3項2文の意味における障害と関連した不利益取扱いは、その障害を理由として障害者の状況を悪化させる規制や措置についてのみありうる。公的な権力による発達能力ないし活動能力の排除が、障害と関連した支援の措置によって十分補完されていない場合には、公的な権力による発達能力ないし活動能力の排除のある場合に、不利益取り扱いもむしろ存する。訴訟参加人は、公的な権力によってではなく、健康な者が有する一定の発達能力ないし活動能力の障害自体により、排除される。障害者の不利益取扱の禁止は、法律上の疾病保険における疾病者の厚遇を指摘したもとで、積極的な給付請求権に転換されて利用されることは許されない。疾病のある保険者の社会保障は、法律上の疾病保険の本来的で優先されるべき任務であるのに対して、医学的なリハビリテーションは、後に他の給付期間と並んで形成される。社会保障の分岐されたシステムにおいて、さまざまな人的なグループに対して異なって各々の社会的給付を形成されるべき客観的な理由が存する。このために、さらに、疾病者の無制限な給付請求権を不適切に指摘することは、障害者に対しても無制限な給付請求権を認め、特に、法律上の疾病保険を義務付け、障害の補完に応じた各々の需要をこれに対応した補助手段によって充たすためには、適切ではない。
 はじめから被告には給付義務が付与されないという理由から、訴えが棄却されなければならないことから、被告のさらなる異議に対しては(古いPCの装備可能性;新たなPCの装備の限定的な利用可能性)にはもはや論じない。」

【判決のポイント】

<1> 法律上の疾病保険は、広範な就学義務の生成と保障まで義務を負うわけではない。
<2> 基本法3条3項2文の意味における障害と関連した不利益取扱いは、積極的な給付請求権に転換することはないという判断が示された。
<3> よって、原告の求める措置は、基本法からは導かれないとした。

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(判例47)読字障害者への試験にあたって時間延長に関する配慮が認められるべきであるとされた事例

(2008年7月10日決定)リューネブルク上級行政裁判所 2 ME 309/ 08, NVwZ‐ RR 2009 S.69

【事実の概要】

抗告人Xは不利益を調整する仮処分による救済を申し立てた。この場合、読字障害により、試験について解答時間の延長の請求権の可否等が争われている。

【判旨】

抗告人は、読字障害であると主張し、このことには、子供の精神科ないし年少精神科Cの2008年3月25日の専門医の鑑定書の提出ならびに、2007年3月26日のDの判断によって、民事訴訟法294条1項の意味において、信憑性があるといえる。「仮処分の請求権は、不利益調整の付与に関して主張される。なぜなら、仮処分の手続きにおいてありうべき必要な略式の審査の後、当法廷は、これは、高い蓋然性ともって抗告人の側に不利益の調整の請求権が存在するという見解に達しているからであり、審査権を基礎付ける基本法3条1項による機会の平等から帰結される。」「読字障害(Legastheniker)は、神経生物学的な(neurobiologisch)脳機能障害である。十分な知能がある場合、およびそうでなければ神経学的な見解では、読解の意味における脆弱性を意味する。これにより、アルファベットの変換による、部分的には、順序の転換による作文の困難さも必然的なものとなる」。読字障害の場合に、読む早さが遅くなるという速度の低下、認識された結果の手書きでの表現力の低下、これによって、自らの知識の技術的な表現能力を欠くことに顕著に現れる機能の低下がありうる。「その身体的機能、知的な能力または精神的な健康が、その年齢に典型的な状態を逸脱して確実に6ヶ月より長く、そして、社会での生活への参加が阻害されている場合、読字障害は、このため、社会法典IX2条の意味の定義における障害、基本法3条3項2の意味における障害でありうる。この場合、継続的な審査不能の意味におけるテストで検査されうる業績・成績の低下となるのではなく、自らの知識の表現の能力の低下を導く。このような表現能力の低下は、原則的には、テストとの手続きにおける調整可能な措置によって補完されなければならない。」「複数の上級裁判所が、読字障害にさいなまれる試験について作文する時間の延長の請求権を認めている。抗告人に間近に迫る課程の枠内において、秘書または弁護士、ないし、公証人補助者のための教育の場合とはいささか異なって、純粋な技術的な読解能力や作文作業が、テストによって明らかにされるべき有力な専門能力の範囲外にあり、抗告人の読字障害から帰結されるその能力の技術的な実現にあたっての困難さを、教育課程の領域でも解答時間の延長によって補完することが当法廷によって当然とされている。」読字障害に依拠する生徒にとっては、教育の課程で原則的に彼が成長するかどうか、他の教育方法が彼にとって適切であるかどうかという問題が提起されうる。認定される読字障害では、他の教育の低下や、適性、能力の低下を考慮せず、不利益の調整をこえて、進級という説得力のある判断が付与され、または、テストに合格と表明されるほど成績を修正することは、行き過ぎである。成績を上方修正することは、適切であるとはいえない。これは、当法廷の見解では、その都度のテストされる科目ごとに、なされるべき不利益の調整が異なっているということを要求する。読解能力と作文能力が重要なのではない科目では、特に、数学や自然科学では、認められる読字障害が、ノートをとることへのごく僅少で顕著ではない影響のみが一般的には有しうる。当法廷は、抗告人の障害をめぐっては、仮処分命令の発布のみを数学を除く自然科学の科目に制限して、必要であるとみている。当法廷は、繰り返されている判例の判断に続いて、読字障害の考慮について、第二次国家試験における試験時間の延長についての判断にあたって、その都度の試験の10%の範囲内での延長をのみ、必要かつ相当であるとみており、抗告人によって要求される25%の範囲での延長ではない。

【判決のポイント】

<1> 読字障害は、このため、社会法典IX2条の意味の定義における障害にあたるとしている。これによれば、その身体的健康、知的能力または精神的健康が、ある程度の蓋然性をもって、6ヶ月より長く、その年齢の典型的な常態から逸脱し、それゆえ、共同体における生活の面での参加が阻害される場合に、人間に障害があるという意味における障害であるとしている。
<2> 本件では、試験時間の延長についての判断にあたって、数学以外の自然科学の試験の10%の範囲内での延長をのみ、必要かつ相当と判断している。継続的なテスト不能の意味における、テストによって明らかにされるべき能力の低下をもたらすものではなく、その自らの知識の表現の能力の低下となるだけである。表現能力のこのような低下が、原則的に、テストの手続きにおいて十分な措置によって補完されなければならない。この結果、読字障害にさいなまれる試験について解答時間の延長の請求権が認められている。
<3> 進級、または、テストでの合格の表明は行き過ぎであり、成績の上方修正も、適切であるとはいえないと示された。

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(判例48)個別授業を保障しない扱いが不利益取扱いの禁止には反しないとされた事例

(2002年6月28日判決) ポツダム行政裁判所 12K 3575/ 01, LKV 2003, S. 194.


【事実の概要】

11歳の原告Xは、1997年/1998年の後期半期来認定された補助の必要性にもとづいて、S村における教育補助のための支援学校で学んでいる。学習の成果が十分ではないことを理由として、第一学年を繰り返している。4月にXは、教育に関する補助を、訴訟参加人である郡の少年局に請求した。訴訟参加人郡は、1999年6月8日の決定により、管轄がないことを理由として、この申立てを却下した。2000年2月、Xは、訴訟参加人社会局において、個別の補助者を認めるべき申立てを行ったが、社会局はこの申立てを少年局及び被告(国の学校局、Y)に回付した。被告国は、2000年2月23日の文書によって、学校の機関として、または、社会的扶助ないし少年に対する扶助の機関として、訴訟参加人郡の管轄を指摘した。郡は、訴訟参加人の少年局での個別ケースの補助者の形での編入扶助の承認の申立てを却下し、国に管轄があることを再び指摘した。異議申立ての手続きも却下された。仮処分手続きでは、Xと訴訟参加人は、Xに対しては複数の訴訟参加人によって8週の間個別の補助者が保障されるという、和解に達した。2000年5月以降の学校領域での個別的補助の承認の申立てをYに対する新たな申立てに対し、被告国(Y)は、2000年7月19日の文書によって回答している。このなかで、訴訟参加人の少年局がこれに管轄を有していることを指摘している。なぜなら、個別ケースの補助者は、州によって認められた教員またはその他の社会教育的な人員、ブランデンブルク州法67条、68条1項の意味における「その他の人員」には位置づけられないからであるとした。さらに、国は、教育の領域での支援学校で提供される特別支援教育のための補助を超えたXの支援が保障されないと指摘した。Xは、この点について、法的な拘束力のある決定の公布を求めた。かかる決定の公布をYは、2000年12月22日の文書によって認めなかった。なぜなら、国は、これに対応した行政行為に管轄がないことを理由として公布できないからであるとした。2001年10月12日の決定により、被告Yは、H支援学校における第三学年での受け入れを命じ、児童支援と個別ケースの補助者を勧告した。Xは、訴えを提起し、個別ケースの補助の形式での編入扶助の承認に関する国の申立て拒否は、違法であると主張した。

【主文】

訴え棄却
(理由)「訴えには理由がない。原告に対して、申立てられた個別ケースに関連した人員の承認に関わる、被告の不作為は、適法であり、これにより原告の権利を侵害するものではない(行政法規則113条5項)。原告は個別ケースに関連した人員の承認に関する請求権を有しない。」「授業における個別の補助の請求権は、州法では明示的には規範化されていない。学校で職務を行う人員の投入と法的な地位は、ブランデンブルク州法67条以下に規定されている。これによれば、学校では、教員とその他の人員がその職務を行う。「教員」とは、学校で独立して授業を付与する者である(ブランデンブルク州法67条I1)。原告の必要性に一致した個別の補助が、この規定の意味における授業ではない。「その他の学校教員」には、授業を独立して授業を行うことがない学校で職務を行う者が入る(ブランデンブルク州法68条1項)。これには特に、その他の教員が入る。その他の学校教員の形態のみがブランデンブルク州法68条2項1によりブランデンブルク州と雇用関係に立つ結果、その同意のみが被告から要求されうる。ブランデンブルク州法68条1項2によれば、授業における知識と技能の伝達を教育上支援するために、精神障害者、身体障害者、視覚障害者、聴覚障害者のための特別支援学校での授業における任務、ブランデンブルク州法29条2項および3項によるこれに即応した共通の授業における任務が認められる。原告によって要求される補助人員は、この規定の意味におけるその他の教員ではない。」「原告は、ブランデンブルク州法29条1項に基づいて、直接、個別補助に関する請求権は有しない。この規範においては、特別支援に関する生徒の権利が定められている。補助請求権の種類や範囲は定められている。この請求権の詳細な定めは、立法者及び規則制定者が、学校法および特別支援教育規則において行なったものである。共同の授業に関する規定(ブランデンブルク州法29条1項)が妥当し、支援学校の差別化したシステムが作られ(同法30条5項)、特別支援機関ないし助言機関(同法29条9項)、教育に関する人員、その他の教員(同法67条、68条)、ならびに、学校での心理学的な助言(同法133条)が用意されている。この提供をこえた、授業中の個別ケースに関連した支援の請求権は、原告には認められていない。」「このような個別の児童に関する需要を満足させるのは、学校の任務ではなく、これによって、被告の任務ではない。このような任務は、裁判所の見解によれば、学校にはなく、これとともに、州、児童扶助、年少者扶助または社会的扶助その他の補助機関にはない。児童扶助ないし年少者扶助は、若い人間を個々の発展ないし社会での発展のなかで支援し、これに参加し、不利益を回避又は削減することを目的としている(社会法典VIII 1条3項)。このために、認められるべき精神的障害のある場合に、相当な学校形成の達成のための補助が予定されている(連邦社会扶助法40条1項4号、47条、編入扶助規則12条、社会法典VIII35条a1項)。これには、個別的な補助の動員も入る。さらに、社会的扶助の法において予定される障害者に対する編入補助は、差し迫った障害を予防すること、または、既存の障害又はその影響を除去または、緩和すること、障害者を社会に編入することを任務としている(連邦社会扶助法39条3項)。これは、相当な学校教育についての補助として、認められている(連邦社会扶助法40条1項4号)。当法廷のこのような限界付けは、本件で判断されるべきケースにおいて、教育科学省、年少者省、スポーツ省、社会労働省、女性省の「特別支援教育の支援需要」とともに、必要な児童の追加的な補助の需要の限界付けに関する社会局、年少局、教育行政局に対する共同勧告(gemeinsame Empfehlung)に対応するものである。」「最終的には、原告に対しては、基本法3条3項2に基づいて、個別的な支援の請求権は認められない。原初的な主観的な給付請求権は、障害を理由とした不利益取扱い禁止によっても認められない。」

【判決のポイント】

州法上、個別授業を保障しなかったとしても不利益取扱いの禁止には反しない。

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(3)サービス提供

(判例49)不利益取扱いが禁止される障害の意義が明らかにされた事例

(2006年7月11日)ヨーロッパ裁判所 C‐13 05, NZA2006, S.839

【事実の概要】

原告Xは、介護業務に特化した被告事業所において勤務していた。2003年10月14日以来、職業的な業務への復帰が期待できない状況にあった。先行判決を求めた裁判所は、Xが負った疾病に対する記載はしていなかった。2004年5月28日、被告は、Xに対し理由を述べることなく解雇を通知したが、当時に、Xは解雇の違法性を主張し、その補償を求めた。2004年6月29日、Xは、訴えを提起し、その解雇が無効であると主張した。その理由として、8週の労働の中断を理由として不平等に取り扱ったものであり、差別であるとした。先行判決を求めた裁判所は、スペインでの判例を挙げて、これによれば、解雇は違法であるが、無効とはならないと判断した。疾病と障害との間では、客観的な関係はないとした。マドリッド社会裁判所33部は、先行判決をヨーロッパ裁判所に求めた。

【判旨】

ヨーロッパ裁判所は、いくつかの指導原理から明らかな判断を示した。
「44 本指令1条における障害の概念を用いることによって、立法者は、しかし、疾病とは異なる言葉を意識的に選択した。そのため、双方の概念は明らかなものであり、全く異なり、同列にされるものではない。45 EG 指令2000/78の立法の趣意書17番によれば、次のように記載されている。障害のある人間の職場での要請を計算に入れた措置を考慮することは、障害を理由とした差別の撲滅にあたって重要な役割を果たす。共同体法の立法者が職場の装備に関する措置を障害に沿って付与する意味は、職業生活での参加が長期間に制限される場合を立法者は考えたということを示している。それゆえ、これによって障害という概念に包摂される制限は、それが長期にわたることが確実なものでなければならない。」
「47 これらの前述の考慮から明らかになるのは、使用者によってもっぱら疾病を理由として解雇された者が、EG 指令2000/78によって、障害を理由とした差別の撲滅のためにつくられた一般的な枠組みによっては、包摂されない、ということである。」
「50  EG 指令2000/78 5条によれば、平等取扱い原則の適用の障害のある人間への適用を保障するために、相当な予防措置をしなければならない。この規定によれば、このことが意味するのは、使用者が、障害のある人間について雇用へのアクセス、職業の実施、および職業上の昇進を可能にするために、適切で具体的な場合に必要な措置をとるべきことである。しかし、これらの措置は、使用者に対し、不相当に負担する場合は、この限りではない。」
「52 そうであっても、最初の問題に対して回答しなければならないのは、次のようなことである。
使用者によってもっぱら疾病を理由として解雇された者は、EG 指令2000/78によって、障害を理由とした差別の撲滅のためにつくられた一般的な枠組みによって包摂されない。当該人が、その職場の本質的な機能の実現にとって専門知識がなく、有能でなく、有益ではないということによって、障害のある人間のための相当な予防措置をとる義務を考慮しても、障害を理由とした解雇が正当化されない。このことに、障害を理由とした差別禁止は、EG 指令2000/78 2条1項および3条1項cによれば、矛盾するものではない。」
「57 したがって、(…)ある者がEG 指令2000/78によって差別されることが禁止されるという、障害と並んだ別の理由として、疾病がみなされることはない。」

【判決のポイント】

<1> 障害と疾病は、異なる概念であることを示したものであり、「障害という概念に包摂される制限は、それが長期にわたることが確実なものでなければならない。」と障害の概念を定義した判決として知られる。以後の判決においても、障害の概念、および、障害と疾病の概念の差異を明らかにした判決として、繰り返し引用されている重要な判決である。
<2> また、特に、この判決において重要なのは、使用者によってもっぱら疾病を理由として解雇された者が、EG 指令2000/78によって、障害を理由として差別の撲滅のためにつくられた一般的な枠組みによっては、包摂されない、ということを示したことにある。これは、EG条約の他の条項を見ても、同様の結論が導けると判断されている。これにより、疾病と障害とが明確に区別されたことになり、後者について、ヨーロッパ法上、差別が特に禁止されたということが示されている。
<3> ちなみに、EUにおいて、ヨーロッパ裁判所に先行判決を求めることができる場合とは、国内法が指令等ヨーロッパ法と抵触するおそれがある場合である。厳密に言えば、国内裁判所である事実審は、国内法が指令等ヨーロッパ法に抵触しているかどうかについて、ヨーロッパ裁判所に先行判決を求めることができる。国内裁判所の上告審は、国内法が指令等ヨーロッパ法に抵触しているかどうかについて、ヨーロッパ裁判所に先行判決を求めることが義務とされる。これにより、EU法が統一的に解釈・運用されることが志向されている。

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(判例50)障害児の介護を理由とした女性労働者に対する直接差別、ハラスメントが違法とされた事例

(2008年7月17日)ヨーロッパ裁判所 C‐ 303/ 06 NZA2008, S.973

【事実の概要】

コールマンは、2001年1月より、法律事務所の秘書として以前の使用者の下で雇用されていた。息子は喉頭開口術と気管支軟化症等を負っていた。息子の状態では、専門的で特別な介護を必要としていた。息子に必要な介護は、本質的には、Xによってなされていた。2005年3月4日、彼女は、合意解約に同意したが、これによって、かつての使用者との契約が終了した。2005年8月30日に、ロンドン南雇用審判所に訴えを提起した。この訴えは、障害児の主な介護者が、社会的違背な解約を強制されたという事実と、他の労働者と比べてより有利ではない扱いを受けたという事実によるものである。彼女は、息子の障害と関係のある不利益な取扱いを理由として、差別を受けたということを主張するために、EG2000/78指令の置き換えのための国内法の規定に依拠しうるかどうかを、裁判所はヨーロッパ裁判所に先行判決を求めた。コールマンは、産前産後の休暇から復帰したが、以前の職場に復帰することを使用者によって拒まれた。障害のない子の両親は、こうした事情のもとでは以前の職場に復帰することが許されていた。使用者は、障害児のいない他の労働者と同様のフレキシブルな労働時間と同一の労働条件を保持させることも拒んだ。自分の子の世話のため職場から離脱するときには、コールマンは怠惰だと称されていたのに対し、障害のない子を持つ両親には職場から離脱する可能性が認められていた。劣悪な扱いに対する公の異議申し立ては、適切なものとは扱われず、異議申立の撤回を強制された。本人との関係でもその子との関係でも不相当で、傷つけるような発言も存在した。他の労働者が、障害のない子の面倒を見るために、仕事を離れ、または、一定の柔軟性を要求せざるを得ない場合には、そのような発言はなかった。この健康状態との関係での問題を理由として時折、コールマンが遅れて来ると、新たにまた遅れてくる場合には解雇だといわれた。同じ理由で遅刻する障害のない子をもつ他の労働者に対しては、このような脅迫的な発言がなされることはなかった。ロンドン南雇用審判所は、係属した訴訟では、共同体法の解釈にしたがって問題が提起されているので、この手続を中止し、ヨーロッパ裁判所に先行判決を求めることを決定した。

【判旨】

「48 コールマン、リトアニアとスウェーデンの政府ならびに委員会が主張するように、予備手続にある原告の状態での労働者が、その子の障害を理由として、比較しうる状況の下で、他の労働者が経験し経験したまたは経験し得るであろうものより、より有利でない取扱いを経験した場合、本指令2条2にある直接差別の禁止を引き合いに出せないならば、本指令の目的と実際上の有効性が脅かされるであろう。それは、むろん、労働者自身が障害のない場合でもある。」
「51 ある労働者が、コールマンが予備手続において問題になっているような状況下で、障害を理由として直接に差別されることが認められる場合には、自身が障害がある者にその適用を制限しているという指令の解釈は、実際上の有効性の大部分を失い、指令が保障すべき保護を軽減するであろう」。
「56 (・・・) EG 2000/78指令、特に、1条、2条1項、2項aは、それにもかかわらず(Nach alledem)、直接差別で予定される禁止が本人に障害がある者に制限されないと、解されうると回答しなければならない。本人には障害がない労働者が、使用者によって、他の労働者が経験し経験したまたは経験し得るであろうものより、より有利でない取扱いを経験し、かつ、労働者の不利益な取扱いが、要介護の介護給付を本質的に提供したその子の障害を理由として行われたことが証明された場合には、かかる行為は、EG 2000/78指令2条2aにおける直接差別の禁止に違反する」。
「58 同様の理由から、EG 2000/78指令2条3項によるハラスメントは、この条項の1項の意味における差別の形態として、みられるので、本指令、および、特に、1条および2条1項、3項は、この判決の34から51においてすでに示したように、これらの条項が、同様の理由から、自身が障害のある者に対するハラスメントを禁止することに制限しない、というように、解釈されなければならない」。
「59 本人に障害のない労働者に対するハラスメントを意味する、期待されない行為が、本質的に必要な介護給付を提供すべきその子の障害との関係をもつことが証明されれば、このような行為は、EG 2000/78指令に根拠づけられる平等取扱い原則に違反し、特に、本指令2条3によるハラスメント禁止に違反する。」

【判決のポイント】

<1> EU指令では、直接差別、間接差別、および、ハラスメントが禁止されており、国内用での置き換えが必要とされる。この事件では、障害を理由とした差別に、障害児を持つ親に対する差別が含みうることを示したものである。自身が障害がある者にその適用を制限するのでは、指令の実際上の有効性を失なう、ということが考慮されている。子の障害を理由として行われたことが証明された場合には、かかる行為は、EG 2000/78指令2条2aにおける直接差別の禁止に違反することになる。
<2> ハラスメントを禁じる条項が、自身が障害のある者に対するハラスメントを禁止することに、制限しない、というように、解釈されなければならないことになる。障害児を持つ親に対するハラスメントも認められた画期的な判決であると思われる。

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