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第二章 差別(合理的配慮の否定を含む)に関する裁判例及び行政救済機関の仲裁例

III フランス

1.概要

(1)雇用・サービス提供

フランスでは、1990年の「障害及び健康状態を理由とする差別を禁止する法律」(1990年7月12日の法律、以下1990年法という)によって、障害を理由とする差別禁止原則が確立された。1990年法が確立した差別禁止原則は、以降、数度の法改正を経て、現在の形の差別禁止規定へと整えられていった。フランスでは、障害を理由とする差別禁止に特化した体系的な法律は存在していない(1990年法は、刑法典や労働法典の規定を修正する形で、障害を理由とする差別禁止原則を導入した)。差別禁止規定は、各分野の法律(刑法典、労働法典、公務員各法、教育法典等)に散在しており、ここに、フランスの差別禁止法の特徴がある。

まず、刑法典では、軽罪(delit)の1つとして差別罪が定められている。刑法典が、差別罪として禁止しているのは、次の行為である:
<1>又はサービスの支給の拒否;
<2>何らかの経済活動の正常な遂行の妨害;
<3>採用拒否、懲戒、解雇;
<4>財又はサービスの支給に条件を付すこと;
<5>募集、研修申請、企業内職業訓練の期間について条件を付すこと;
<6>社会保障法典が定める研修への受入拒否。
障害を理由としてこれらの行為を行った者(自然人の場合)は、最高で3年の拘禁刑及び45,000ユーロの罰金を科せられることとなっている(刑法典225-2条)。

他方、労働法典では、次の行為が禁止されている。すなわち、健康状態や障害を理由とする募集手続や企業での研修・職業訓練からの排除、懲戒、解雇、そして、報酬・利益配分又は株式付与・職業訓練・再就職・配属・職業資格・職階・昇進・異動・契約更新における直接的・間接的な差別的取扱いである。これに違反する措置や行為はすべて、無効とされる(労働法典L.1132-1条)。ただし、障害に関しては、以下にあげる2つの取扱いの差異が認められている。1つめは、労働医が認定した労働不適性に基づく取扱いの差異である。これは、客観的かつ適切で必要なものである限り、差別には当たらない(労働法典L.1133-3条)。2つめは、平等取扱いを促進するために障害者に対してなされる「適切な措置(mesure appropriee)」である。これは、障害者に対する積極的差別(discrimination positive)を認めるものであるが、これも、差別には当たらないとされる(労働法典L.1133-4条)。逆に、「適切な措置」の拒否は、差別に該当するとされており(労働法典L.5213-6条3項)、使用者は、過度の負担が生じる場合を除き、具体的な状況に応じて障害者に資格に対応した雇用又は職業訓練が提供されるよう「適切な措置」を講じなければならないこととなっている(労働法典L.5213-6条1項)。

この他、公務員各法、賃貸借関係の改善を目指す1989年7月6日の法律等においても、障害を理由とする差別が禁止されている。また、建築・住宅法典では、障害者がある場所から排除されることを防止する観点から、「アクセシビリティの保障」が規定されている。

(2)教育分野

教育分野における差別禁止原則を概観するならば、まず、2005年法により、障害の有無にかかわりなく、自宅からもっとも近い学校への登録が行われ、可能な限りそこへの通学が確保されなければならない(インクルーシブな教育環境の創出)とされた点がポイントとなる。HALDEは、さまざまな審議において、国民教育省や視学官に対して障害児の就学を拒否することが差別にあたることを確認し、そのことを学校現場に周知するよう求めている。インクルーシブを実現するために、介助員の制度などもつくられていることから、今後は、その量的拡充と質の向上が課題となってくるだろう。

障害の種類や程度を直接的理由として受け入れを拒否することは差別となるが、現実問題として、たとえば車椅子の生徒のためのスロープが設置できないような建物の構造上の問題や建物自体が歴史的遺産となっているために改修できない場合には、他の学校に通うことになる。あるいは、医療的なケアが必要な場合(リハビリ等)には、全日を普通学校で過ごすのではなく、医療機関等との連携も考慮される。また、法は障害児に対する特別学級(小学校ではCLIS:classe d’integration scolaire、中学校ではUPI:unites pedagogiques d’integration)を否定したわけではないが、子どもがそれぞれ個別の時間割に従って普通学級との間を頻繁に行き来することが保障されることになった。90%を特別学級で過ごす生徒もいれば、半分以上を普通学級で過ごす生徒もいる。しかしいずれにせよ、合理的な説明が求められ、最終的には親が納得し決定しなければ誰も決めることはできない。2005年法が親の最終的な決定権を確認していることは重要な点である。

なお、障害児が普通学級に入ることが多くなってから、子どもたち全体の学力が向上しているとの見解も存在する。フランスの学校教育は知育中心がその特徴とされているが、それゆえにそこに障害児が入ることによって、教員の側により丁寧な教授法が求められ、結果として全体の学習成果も上がってきているのである。さらにこのような環境の中から、相互に学び合う姿勢も育ってきており、人間関係の構築という観点からもインクルーシブ教育に期待が寄せられている。2005年法は国民的な「連帯」をめざしているのであるから、このような相互理解こそ意義ある効果といえる。

また、個人の「能力」をどうとらえるかも大きな論点となる。2005年法は「障害」というカテゴリーで一括して個人をとらえる発想はとらず、「就学個別計画(PPS: projet personnalise de scolarisation)」の作成が求められている。いわば医学的理解から個人差としての子ども理解へ、ということである。ここから、学習体系と個人の状態との関係を問い直す視点が出てくる。つまり、これまでのカリキュラムは子どもの状態から出発してつくられたものではなく、学校側からのものである、という批判の視点である。たとえば「この子のレベルは小学校2年生程度である」といった認識は、発達の経路をその子どもに即する形ではなく一律に規定していく指導論を意味しており、インクルーシブという観点からは適切ではない。つまり、「小学校2年生」という「標準的」段階が先にあるのではなく、個別の状態に応じた環境を整えていことが学校側の義務なのであり、かつそれが分離や拒否につながらないようにするというのが、教育分野に関する2005年法の趣旨である。

(3)救済の仕組み

フランスでは、差別の被害にあった者は、ケースに応じて、<1>刑事訴訟(刑法典違反)、<2>民事訴訟(労働法典・その他の法令違反)、<3>行政訴訟(公務員各法違反)、<4>HALDE(Haute Autorite de Lutte contre les Discriminations et pour l’Egalite:高等差別禁止平等対策機関)への申立等に訴えることができる。<4>のHALDEは、差別事件を扱う権利救済機関として2004年に創設された独立行政機関である 。HALDEの創設によって、差別被害者には、訴訟以外の方法による救済手段が与えられたことになる。HALDEには、申立のあった直接的・間接的差別事件について、調停の斡旋、和解案の提示、勧告等を行う権限が与えられている。HALDEへの申立は、年々、増加しており(2005年:1,410件、2006年:4,058件、2007年:6,222件、2008年:8,705件、2009年:10,545件)、HALDEが差別禁止の分野で果たす役割は、次第に大きくなっている。こうした状況の中で、HALDEの勧告は、差別禁止分野におけるグッド・プラクティスを提示するものとして、非常に高い社会的関心を集めている。

本報告書では、近年増加しつつある裁判例の中から11件、そして、HALDE勧告の中から18件、興味深い事例を選択し、紹介する。内訳は、下記の通りである。

裁判事例(合計11件)
 − 雇用(9件)
 − サービス提供(2件)
勧告(合計18件)
   − 雇用(4件)
   − 教育(5件)
   − サービス提供・その他(9件)
    (財・サービス5件、住宅2件、公的サービス2件)

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2.判例

(1)雇用

(i)資格要件

(判例51)糖尿病に罹患した者の国家警察行政補佐官試験への応募を認めなかった決定が違法とされた事例

(2009年12月30日)リヨン(Lyon)行政裁判所第7部 事件番号:0707482-0802292 判例集未搭載(HALDEホームページより入手)

【事実の概要】

本件は、X(Mlle Chrystelle REDA)が、Y(国)に対し、<1>Xの国家警察内の全ての雇用に対する身体的不適性を確認したデファンス・スュデスト(Defense Sud-Est)地区長官(Prefet)による2007年9月17日付けの決定の無効、<2>同決定に対する損害賠償金として10,000ユーロの支払い、<3>行政訴訟法典L.761-1条 に基づく3,000ユーロの支払いを求めた事案である。なお、Xは、2008年3月17日、HALDEに対する申立も行っている。この申立を受けて、HALDEは、2008年9月29日の勧告(2008-215)で、リヨン(Lyon)行政裁判所に対し、上記決定は1984年1月11日の法律27条Iの意味での差別を構成するとの意見(observations)を提示した。

【判旨】

1983年7月13日の法律5条は、公務員資格を得ることができない場合として、《障害を補う可能性を考慮に入れた上でなお、公務の遂行に必要とされる身体的適性要件を満たさない場合》を挙げている。また、1986年3月14日のデクレ(政令)(no86-442)22条は、《一定の職団に属する公務員が従事する職務の性質上必要とされる場合には、例外的に、当該職団の採用に際し、特別の身体的適性要件を課すことができる》と定めている。これらの規定の適用の結果、身体的適性要件の検討が、採用に際し、各応募者の能力に関して行われることがあるが、適性の評価に際し、疾病の予見し得る進行が適性に及ぼす影響について考慮することが出来るとするならば、同時に、疾病を治癒しうる治療、あるいは、進行を止めうる治療の存在も考慮に入れなければならない。証拠、とりわけ、鑑定人の作成した報告書及びその添付資料によって、Xが罹患したインシュリン治療を必要とする糖尿病は、その応募時において、国家警察第1種行政補佐官(adjoint administratif)の職務の遂行を妨げるものではないことが示された。なお、国家警察第1種行政補佐官の職務は、Xの健康状態と両立しえない尋常でない拘束を前提とするということは主張されていない。また、上記の証拠等より、このタイプの糖尿病は、適切な治療によって、疾病の進行を永続的にブロックすることが可能となっていることも示された。よって、Xのリヨン警察に対する国家警察第1種行政補佐官試験への応募が、職務の遂行に際する身体的適性がないことを理由として認められなかったことは、違法であるとのXの主張には、正当な理由があり、2007年9月17日付けのデファンス・スュデスト地区長官の決定は、無効というべきである。上記決定の違法は、Xに損害賠償請求権を与えるフォートを構成する。Xは、2008年9月29日のHALDE勧告(no2008-215)によって差別とされた本件応募拒否とその理由によって、精神的損害を被ったことを証明しており、その評価額は、10,000ユーロ(利子を含む)とするのが相当である。

【主文】

<1> デファンス・スュデスト地区長官による2007年9月17日付けの決定は、無効とする。
<2> 国は、Xに10,000ユーロの賠償金(利子を含む)支払え。
<3> 1,037.62ユーロの鑑定費用は、国の負担とする。
<4> 国は、行政訴訟法典L.761-1条に基づき、Xに2,000ユーロを支払え。
<5> Xのその余の請求は、棄却する。

【判決のポイント】

<1> 適性の評価に際し、疾病の予見し得る進行が適性に及ぼす影響について考慮することが出来るとするならば、疾病を治癒しうる治療、あるいは、進行を止めうる治療の存在も考慮に入れなければならない。
<2> Xが罹患したインシュリン治療を必要とする糖尿病は、国家警察第1種行政補佐官(adjoint administratif)の職務の遂行を妨げるものではない。
<3> Xのリヨン警察に対する国家警察第1種行政補佐官試験への応募が、職務の遂行に際する身体的適性がないことを理由として認められなかったことは、違法である。

参照条文:公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律(no83-634)
国家公務員の地位に関する1984年1月11日の法律(no84-16)等

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(判例52)身体・スポーツ教育の教員に水難救助資格を要請するデクレに関する事例(組合)

(2008年11月14日)コンセイユ・デタ(行政最高裁判所) 事件番号:311312
出典:les tables du recueil Lebonに掲載(HALDE本部で入手)

【事実の概要】

本件は、国民教育研究総組合連合(Federation des syndicats generaux de l’education nationale et de la recherche)が、2007年9月25日に首相に送付した2004年6月17日のデクレ(no2004-592)の廃止請求に対する無回答による暗黙の決定(decision implicite)(=不受理処分)の無効を求めた事案である。同デクレは、公立又は私立の中等教育機関で身体・スポーツ教育に従事する職員に、水難救助資格・救急法資格を要求するものであった。なお、同デクレの結果、身体・スポーツ教育教員試験への登録を拒否された本人によっても、訴訟が提起されている。それが、次に掲載するルーアン行政裁判所判決(判例53)である。彼は、同時に、HALDEへの申立も行っている。

【判旨】

1983年7月13日の法律5条は、公務員資格を得ることができない場合として、《障害を補う可能性を考慮に入れた上でなお、公務の遂行に必要とされる身体的適性要件を満たさない場合》を挙げている。また、1984年1月11日の法律27条は、《CDAPH(障害者権利自立委員会)により通常の労働環境へ進路指導を受けた応募者は、その障害を理由として、公務員の採用試験や雇用から排除されない。ただし、その障害が、職務遂行能力の評価を行う医師の診断後に、志願した職務と両立しえないとされた場合は、別とする》旨を定めている。さらに、1983年7月13日の法律6条の6は、《障害労働者に平等取扱原則を保障するために、使用者は、障害者の具体的状況におけるニーズに応じて、障害労働者が、その資格に対応した雇用にアクセスし、雇用を維持し、就労し、昇進できるよう、また、ニーズに応じた職業訓練が提供されるよう、適切な措置を講じるものとする。ただし、この措置の実施の結果生じる負担が、使用者が負担する費用の一部又は全部を補償する助成を考慮にいれてなお、均衡を欠く場合は別とする》と定めている。上記規定は、行政庁に対し、各障害者が志願する雇用にアクセスできるよう、一方で、障害が雇用と両立しえない場合でないこと、他方で、その措置が不均衡な負担を生じさせていないことを条件として、特別な規定を置くこと、及び、ケースごとに適切な措置を講じることを課すものである。ただし、これらの規定は、公的サービスの良き機能のために、一定の雇用に関し身体的適性要件を定めることを妨げるものではない。本件デクレは、公立又は私立の中等教育機関で身体・スポーツ教育を担当する職員に対し、採用に先立ち、水難救助資格・救急法資格を取得していることを証明するよう求めるものである。これら2つ資格を要請する目的は、スポーツ活動に内在するリスクに直面した生徒の安全を保障することにあり、これらを要請することは、身体・スポーツ教育の教員の職務の遂行に関わるものである。こうした状況において、廃止請求がなされているデクレに、障害者が適応した方法で雇用にアクセスできるように、行政が講じなければならない障害を補償する手段が規定されていないという事情は、上記デクレを違法とするような障害を理由とする差別禁止原則の無理解を構成しない。国民教育研究総組合連合は、本件デクレの廃止請求を却下する首相の暗黙の決定(=不受理処分)の無効を求める正当な理由を持たない。よって、国民教育研究総組合連合の請求を棄却する。

【主文】

<1> 国民教育研究総組合連合の請求を棄却する。
<2> 本判決は、国民教育研究総組合連合、首相、及び、国民教育大臣に通知される。

【判決のポイント】

<1> 公立又は私立の中等教育機関で身体・スポーツ教育を担当する職員に対し、水難救助資格及び救急法資格を要請する目的は、スポーツ活動に内在するリスクに直面した生徒の安全を保障することにある。
<2> デクレにおいて、障害者の雇用へのアクセスを保障するために行政が講じなければならない障害を補償する手段が規定されていないという事情は、当該デクレを違法とするような障害を理由とする差別禁止原則の無理解を構成しない。
参照条文:1983年7月13日の法律(no83-634)
1984年1月11日の法律(no84-16)
2004年6月17日のデクレ(no2004-592)等

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(判例53)身体・スポーツ教育の教員に水難救助資格を要請するデクレに関する事例(本人)

(2009年7月9日) ルーアン(Rouen)行政裁判所第3部 事件番号:0700940, 0802423 判例集未搭載(HALDE本部で入手)

【事実の概要】

本件は、上記(判例52)事件において、国民教育研究総組合連合が修正を求めたデクレ、すなわち、公立又は私立の中等教育機関で身体・スポーツ教育に従事する職員に、水難救助資格・救急法資格を要求するデクレによって、身体・スポーツ教育教員の外部試験への登録を拒否されたXが提起した訴訟である。Xは、<1>金銭的損害賠償金として20,045ユーロ、慰謝料として10,000ユーロの支払いを国に求めると同時に、<2>差別の解消のために水難救資格に関する2004年6月17日のデクレの修正、<3>1就労日につき10ユーロの罰金強制(astreinte)、<4>Xの身体・スポーツ教育の教員としての採用申請を拒否したルーアン大学区長による2005年5月30日の決定の無効、<5>行政訴訟法典L.761-1条に基づく3,000ユーロの支払いを求めた。Xは、身体・スポーツ科学の修士号を持ち、救急法の資格も有していた。しかし、Xは、その聴覚障害のため、潜水することができず、そのため、水難救助資格を取得することもできなかった。Xは、2005年4月12日の国民教育大臣の決定により、身体・スポーツ教育(EPS)教員の外部試験への登録に先立って水難救助資格を提出する義務の適用除外を拒否された。次いで、Xは、2005年5月30日のルーアン(Rouen)大学区長の決定により、障害労働者の公務での採用に関する1995年8月25日のデクレの枠内でした嘱託公務員としての出願を拒否された。拒否の理由は、身体・スポーツ教育の教員に水難救助資格を課す規制を適用除外とすることは、不可能であるということにあった。Xの申立を受けたHALDEは、2005年9月26日の勧告(no2005-34)で、国民教育大臣及び障害担当閣外大臣に対し、身体・スポーツ教育の教員職を希望する障害者のために、水難救助資格を要請することで生じている差別を解消するための措置を検討すること、及び、水難救助資格に関する2004年6月17日のデクレを修正することを勧告した。さらに、HALDEは、同勧告で、国民教育大臣に対し、ポストの調整のために講ずるべき措置を検討し、Xの出願についても検討するよう推奨した。しかし、国民教育大臣は、この勧告への対応を一切行っていない。

【判旨】

1983年7月13日の法律5条は、公務員資格を得ることができない場合として、《障害を補う可能性を考慮に入れた上でなお、公務の遂行に必要とされる身体的適性要件を満たさない場合》を挙げている。また、1984年1月11日の法律27条には、《CDAPH(障害者権利自立委員会)により通常の労働市場へ方向づけがなされた応募者は、障害を理由として、公務員試験又は公務員としての雇用から排除されない。ただし、障害が、公務の遂行に対する適性を検査する医師の診断によって、職務と両立しないとされた場合は別とする》旨が定められている。さらに、1983年7月13日の法律6条の6には、《障害労働者に平等取扱原則を保障するために、使用者は、障害者の具体的状況におけるニーズに応じて、障害労働者が、その資格に対応した雇用にアクセスし、雇用を維持し、就労し、昇進できるよう、また、ニーズに応じた職業訓練が提供されるよう、適切な措置を講じるものとする。ただし、この措置の実施の結果生じる負担が、使用者が負担する費用の一部又は全部を補償する助成を考慮にいれてなお、均衡を欠く場合は別とする》旨が定められている。他方、2004年6月17日のデクレ1条は、《公立又は私立の中等教育機関で身体・スポーツ教育を担当する職員は、採用に先立ち、水難救助資格・救急法資格を取得していなければならない》旨を定めている。この2004年6月17日のデクレ1条の規定は、水泳に内在するリスクに直面した生徒の安全確保を目的として要請される一般資格を定めるものであるが、これは、障害が当該雇用と両立し、適切な措置が過度の負担を生じさせない場合に、行政当局に対し、各障害者が雇用へアクセスできるよう適切な措置を講じることを免除する性質のものではない。1977年生まれのXは、セーヌ・マリティーム(Seine-Maritime)県のCOTOREP(現在のCDAPH(障害者権利自立委員会))の2002年12月1日の決定によって、障害労働者資格の認定を受けていた。ルーアン大学区長は、2005年5月30日の決定により、Xの身体・スポーツ教育の教員採用試験へのアクセス、そして、障害者を対象とする嘱託による採用へのアクセスを拒否したが、その唯一の理由は、Xが、その障害のために潜水することができないため、採用又は試験への登録に先立ち、水難救助資格を提示することが出来ないことにあった。証拠からは、Xの障害が身体・スポーツ教育の教員としての雇用と両立不可能であること、及び、行政が障害を補償する適切な措置を検討したことは窺えず、この点において、ルーアン大学区長は、過失を犯したといえる。よって、Xは、身体・スポーツ教育の教員として統合される観点から、ルーアン大学区長の決定の無効を求めることにつき理由がある。加えて、Xは、ルーアン大学区長による2005年5月30日の違法な決定に対する損害賠償を主張することにつき理由がある。Xは、身体・スポーツ教育の嘱託公務員のポストに必要な資格を有しており、また、2004年のフランス陸上競技大会で、400メートルの決勝に残ったほどの高い身体能力を持つスポーツマンであった。このように、Xは、身体・スポーツ教育の教員としてのキャリアを追求する大きなチャンスを有していたといえる。他方、行政当局は、Xの障害を補うために必要な適切な措置の検討を行っていない。事前手続では、水泳指導員・救助者が水泳の時間に同席する、あるいは、他の教員と割当時間を交換するといった措置に異議は唱えらなかったことから、仮に必要と考えられる障害を補償するための適切な措置をとったとしても、それは、過度な負担ではなかったことが示されたといえる。したがって、ルーアン大学区長による拒否は、行政に損害賠償責任を負わせるべきフォートを構成するというXの主張には、理由がある。Xは、20,045ユーロの経済的損害を主張するが、証拠より、十分に理由があるとはいえない。本件では、Xの被った精神的損害は、5,000ユーロと評価するのが正当である。この他、本件では、行政裁判法典L.761-1条の適用により、Xが負担した訴訟費用に含まれない費用として、2,000ユーロを国の負担とするのが正当である。

【主文】

<1> ルーアン大学区長の2005年5月30日の決定は、無効とする。
<2> 国は、Xに対し、5,000ユーロを支払え。
<3> 国は、Xに対し、行政訴訟法典L.761-1条の適用により2,000ユーロを支払え。
<4> その余の請求を棄却する。
(注:HALDEの関与に関する判示部分は省略)

【判決のポイント】

<1> 2004年6月17日のデクレ1条は、水泳に内在するリスクに直面した生徒の安全確保を目的として要請される一般資格を定めるものであるが、これは、行政当局に対し、障害者のために適切な措置を講じる義務を免除するものではない。
<2> 本件では、行政が障害を補償する適切な措置を検討したことは窺えず、ルーアン大学区長は、過失を犯したといえる。
<3> Xの身体・スポーツ教育の教員採用試験へのアクセス、及び、障害者を対象とする嘱託による採用へのアクセスを拒否したルーアン大学区長の2005年5月30日の決定は、無効とする。
<4> 国は、Xに対し、慰謝料として5,000ユーロを支払え。
参照条文:1983年7月13日の法律(no83-634)
1984年1月11日の法律(no84-16)
障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する2005年2月11日の法律(no2005-102)等

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(判例54)刑務所長職・刑務官幹部職の採用試験の受験者に進行性の疾病に罹患していないことを求めるアレテが無効とされた事例

(2008年6月6日) コンセイユ・デタ(行政最高裁判所) 事件番号:299943
出典:les tables du recueil Lebonに掲載(HALDE本部で入手)

【事実の概要】

本件は、CGT刑務官組合総連合(Union generale des syndicats penitentiaires CGT)が、コンセイユ・デタ(行政最高裁判所)に対し、刑務所長職(corps de commandement)及び刑務官幹部職(corps d’encadrement et d’application du personnnel de surveillance)の募集要件として身体的適性要件を定める2006年9月26日の法務大臣・公務大臣アレテ(規則)の無効を求めた事案である。同アレテは、「これらの職の採用試験の受験者は、長期疾病休暇の取得の可能性がある進行性の疾病に罹患していないこと」と定める2006年4月14日のデクレ1条を根拠とするものである。

【判旨】

法務大臣が申し立てた不受理理由について:
その規約1条によると、CGT刑務官組合総連合は、公務員の個人的・集団的利益を代表することを目的としている。アレテに基づく決定は、刑務所管理に従事する者の集団的利益に関するものである。よって、CGT刑務官組合総連合は、本件アレテに異議を唱える資格がないとする不受理理由は、却下する。
 本件アレテの正当性について:
公務員の権利と義務を定める1983年7月13日の法律5条は、公務員資格を得ることができない場合として、《障害を補う可能性を考慮に入れた上でなお、公務の遂行に必要とされる身体的適性要件を満たさない場合》を挙げている。さらに、1986年3月14日のデクレ22条は、《一定の公務員が行う職務の性質上必要な場合、当該職団の採用に際し、例外的に、特別の身体的適性要件を課すことができる》と定めている。これらの規定の結果、採用に際して、特別の身体的適性要件の評価が、各応募者の職務遂行能力について実施されうることとなる。ただし、職務遂行のための身体的適性の評価において、疾病の予想される進行が能力に対して有する影響を考慮に入れるのであれば、同時に、疾病の治療の可能性や、疾病の進行を止める治療についても考慮に入れなければならない。そうであるならば、本件アレテ1条4oの規定は、応募者の健康状態や行っている治療に言及することなく、長期疾病休業を取得する可能性のある疾病に罹患した者の刑務官管理職採用試験の受験を禁止するもので、1983年7月13日の法律5条、及び、1986年3月14日のデクレ22条の理解を誤ったものといえる。CGT刑務官組合総連合による2006年9月26日のアレテ1条4 oの規定の無効請求には、理由がある。
 行政裁判法典L.761-1条の適用の結果について:
本件において、行政裁判法典L.761-1条の適用により、国が、CGT刑務官組合総連合が訴訟費用に含まれない費用として請求した3,000ユーロを負担することには、理由がある。

【主文】

<1> 2006年9月26日の法務大臣・公務大臣アレテ1条4oの規定は、無効とする。
<2> 国は、CGT刑務官組合総連合に対し、行政裁判法典L.761-1条の適用により、3,000ユーロを支払え。
<3> 本決定は、CGT刑務官組合総連合、法務大臣、財務・公会計・公務大臣に通知される。また、コピーが、HALDEに送付される。

【判決のポイント】

<1> 職務遂行のための身体的適性の評価において、疾病の予想される進行が能力に対して有する影響を考慮に入れるのであれば、同時に、疾病の治療の可能性や、疾病の進行を止める治療についても考慮に入れなければならない。
<2> 刑務所長職・刑務官幹部職の採用試験の受験者に、長期疾病休暇の取得の可能性がある進行性の疾病に罹患していないことを求める2006年9月26日の法務大臣・公務大臣アレテ1条4oの規定は、無効とする。
参照条文:1983年7月13日の法律
1984年1月11日の法律
1986年3月14日のデクレ等

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(ii)間接差別

(判例55)疾病休暇をとった者に不利な年末調整制度は健康状態を理由とする間接差別となるとした事例

(2007年1月9日) 破毀院社会部 事件番号:05-43962
出典:Bulletin 2007 V No1 p.1

【事実の概要】

本件は、疾病休暇をとった者に不利な結果をもたらす年末調整制度の結果、賃金の追加払いを受けられなかったXが、賃金の追加払いを求めて訴訟を提起した事案である。Y(la societe Sporfabric)の従業員であるXは、2000年6月15日から9月1日まで職業上の疾病を理由として欠勤し、続いて、2002年6月10日から9月15日まで疾病を理由に欠勤した。Yでは、1999年12月23日、労働時間の調整と短縮に関する協定が締結され、同協定によって、1年を単位とする週35時間制へ向けた労働時間の短縮、変動労働時間制、週の調整平均労働時間(la duree hebdomadaire moyenne de la modulation)(すなわち35時間)をベースにした賃金の「ならし(lissage)制度」等が定められていた。Yは、年末に実施される労働時間計算の際に、被用者らが実際に働いた時間ではなく、この週の調整平均労働時間(すなわち35時間)をベースにして、Xの欠勤時間の計算を行った。その結果、欠勤しなかった被用者の労働時間は、38時間の超過となり、時間外労働手当が支払われたのに対し、Xの2000年における労働時間は、29時間のマイナスとなり、Xは、賃金の追加払いを享受することができなかった(2002年については、36時間のマイナス)。そこで、Xは、賃金の追加払いを求めて、労働審判所に訴訟を提起した。控訴院判決は、Xによる賃金の追加払い請求を棄却した。棄却に際し、控訴院判決は、この問題に関する法令・協約がなかったことから、疾病を理由に欠勤したケースに被用者間の平等取扱原則を適用し、欠勤手当の計算を週の調整平均労働時間をベースに行うのと同様に、年末の(賃金調整のための)労働時間計算を週の調整平均労働時間をベースに行うのは、正当であり、理にかなっていると判示した。

【判旨】破棄、差戻し

労働法典L.122-45条、L.212-1-1条、2000年1月19日の法律8条V等(当時)の規定を勘案すると、労使協定又は使用者の一方的決定によって、年末の被用者の賃金調整のために、疾病休暇の日数を計算する方法として、週の調整平均労働時間をベースとする方法を採用することは出来ない。この計算方法は、見かけは中立的だが、被用者の健康状態を理由とする間接差別となる。
 控訴院判決は、上記規定に違反する。以上より、2005年6月7日のポワチエ(Poitiers)控訴院判決を破棄、無効とし、オルレアン(Orleans)控訴院に差し戻す。

【判決のポイント】

<1> 被用者が、年末の時間調整のために、使用者が、疾病休暇日数の計算方法として週の平均調整時間(35時間)をベースとする方法を採用したことは、健康状態を理由とする間接差別を構成する。
<2> この欠勤日数の計算方法は、見かけは中立的だが、(疾病を理由に欠勤した者を不利にすることから)間接差別となる。
参照条文:労働法典L.122-45条、L.212-1-1条、L.212-8-5条(当時)
2000年1月19日の法律8条V

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(iii)適切な措置(合理的便宜)

(判例56)通勤に関連する適切な措置の提供に関する事例

(2009年10月15日) カーン(Caen)行政裁判所第2部 事件番号:0802480 判例集未搭載(HALDE本部で入手)

【事実の概要】

Xは、マンシュ(Manche)県会議長による2008年10月23日の決定を不服として、2008年11月6日、その無効を求める訴訟を提起した。Xは、上記マンシュ県会議長決定によって、人間工学に基づいたシートを装備した自動車(通勤に利用)の費用負担を求める申請を却下されていた。Xは、マンシュ県の国土専門補佐官(adjoint technique territorial)で、CDAPH(障害者権利自立委員会)の2007年10月8日の決定により障害労働者資格の認定を受けていた。マンシュ県は、Xの職場での配置に特別な計らいをし、その労働ポストを調整するために、様々な活動を行っていた。しかし、2008年10月23日の決定により、マンシュ県会議長は、人間工学に基づいたシートを装備した自動車の費用負担を求めるXの申請を却下した。

【判旨】

1983年7月13日の法律6条の6(2005年法により修正)には、《障害労働者の平等取扱を保障するために、使用者は、具体的状況におけるニーズに応じて、障害労働者が、資格に応じた雇用にアクセスし、それを維持し、雇用に従事し、そこで昇進できるように、あるいは、ニーズに適応した職業訓練を受けられるように、適切な措置(mesures appropriees)を講ずるものとする。ただし、この措置にかかる費用が、使用者が負担する費用の全部又は一部を補償する助成金を考慮に入れてなお、均衡を欠く場合でないことを条件とする》旨を定めている。これは、使用者に、適切な措置を講ずることを課すものであり、それが、Xの雇用を維持するために必要な措置である場合には、障害労働者の労働の場への通勤に関係するものも、ここに含まれる。本件において、マンシュ県は、Xの請求は、Xの健康状態に鑑みて、雇用の維持に必要なものであるということに異議を唱えてはおらず、また、Xに、同じ効果を持つその他の措置を提案することもしていない。加えて、たとえ、マンシュ県が、この措置の費用は均衡を欠くものと考えていたとしても、この費用は、障害者公務参入金庫(FIPHFP)による助成金を受けることができるものである。Xには、2008年10月23日の決定の無効を請求する正当な理由がある。行政訴訟法典L.911-1条は、《裁判所の決定が、必然的に、公法人又は公役務を担う民間組織に、一定の方向で執行措置をとらせる結果となる場合、訴えを提起された裁判所は、その決定により、場合によっては執行期間を伴った措置を命じる》旨を定めている。しかし、本判決は、Xの自宅と職場との間の通勤に関してなされた拒否決定を無効にするものであり、Xの職場や労働ポストに関する執行措置を含むものではない。よって、マンシュ県に対しXの職場及び労働ポストの調整を命じるよう求める請求は棄却する。

【主文】

<1> マンシュ県会議長の2008年10月23日の決定を無効とする。
<2> その他の請求を棄却する。
<3> 本判決は、X及びマンシュ県に通知される。

【判決のポイント】

<1> 使用者に課される適切な措置には、それがXの雇用を維持するために必要な措置である場合、障害労働者の労働の場への通勤に関するものも含まれる。
<2> 人間工学に基づいたシートを装備した自動車の費用負担を求めるXの申請を却下したマンシュ(Manche)県会議長による2008年10月23日の決定は、無効とする。
<3> マンシュ県に対しXの職場及び労働ポストの調整(=適切な措置)を命じるよう求める請求は、棄却する。
参照条文:労働法典L.323-8-6-1条(旧)
公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律(no83-634)
公務障害者参入基金に関するデクレ(no2006-501)等

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(判例57)研修中の適切な措置の提供に関する事例

(2009年9月30日) ナント(Nantes)行政裁判所第3部 事件番号:076871,076996 判例集未搭載(HALDE本部で入手)

【事実の概要】

Xは、本件訴訟において、<1>身体・スポーツ教育教員適性証明書を獲得するための職業資格試験についてXを不合格とした2007年6月11日付けの大学区審査委員会(jury academique)の議決の無効、<2>2年間の研修の終了後にXを解雇することとした国民教育大臣の2007年10月22日の決定の無効、及び、<3>Xの非訟的異議申立(recours gracieux)を却下する2007年10月30日の決定の無効を請求した。Xは、この他に、<4>医師による鑑定、<5>国民教育大臣に対し本判決の日から1カ月以内にXを本採用することを命じること(遅延の場合、1日ごとに150ユーロの罰金を科すこと)、さらには、<6>行政訴訟法典L.761-1条により1,200ユーロを国の負担とすることも求めている。2005年の身体・スポーツ教育教員適性証書(CAPEPS)の外部試験に合格した後、Xは、2005年9月1日以降、身体・スポーツ教育教員研修生として働き始めた。Xは、CAPEPSの職業資格試験で不合格となったため、2006年9月1日以降、2年目の研修を行った。2007年6月11日の会議で、大学区審査委員会は、職業資格試験についてXを不合格とし、国民教育大臣は、2007年10月22日の決定により、2年間の研修の終了をもってXを解雇することとした。社会福祉・家族法典L.114-1条は、次のように定めている:《全ての障害者は、国民共同体全体の連帯への権利を有する。連帯の義務により、障害者には、すべての市民に認められた基本的人権へのアクセス、及び、市民権の完全な行使を保障される。国は、フランス全土における障害者の平等取扱を保障し、また、数カ年行動目標を定める》。また、同法典L.114-1-1条には、次のような定めがある:《障害者は、障害の原因及び性質、年齢、生活様式が何であれ、障害の結果を補償される権利を有する。この補償は、障害者の職業的参入(等)に関するニーズに応えることにその本質がある》。最後に、公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律6条の6は、次のように定めている:《障害労働者の平等取扱を保障するために、使用者は、具体的状況におけるニーズに応じて、障害労働者が、資格に応じた雇用にアクセスし、それを維持し、雇用に従事し、そこで昇進できるように、あるいは、ニーズに適応した職業訓練を受けられるように、適切な措置(mesures appropriees)を講ずるものとする。ただし、この措置にかかる費用が、使用者が負担する費用の全部又は一部を補償する助成金を考慮に入れてなお、均衡を欠く場合でないことを条件とする》。

【判旨】

Xは、2003年5月7日、COTOREP(現在のCDAPH:障害者権利自立委員会)によりカテゴリーBの障害労働者資格を与えられた。これは、Xは、職業を行う上で、中程度の障害を有していることを示している。大学区審査委員会は、Xの障害は、身体・スポーツ教育教員の職務の遂行と両立しうると考え、CAPEPSの筆記・口頭試験を通常の試験時間よりも3分の1長くする好意的な通知を発した。その反面、2年間の研修期間の間に、Xは、その労働ポストについて、障害を補償するような特別な調整(amenagement)を受けることはなかった。
証拠より、Xには、威厳や注意力が欠けている、生徒との距離が大きすぎる、生徒の安全を保障できないという非があった。ナント大学病院センターの2名の一般医による医学的確認により、Xの神経症的側面の後遺症は、確かに軽いが、十分に現存していること、そして、後遺症は、注意力や記憶の障害、活動の減退、情報処理の鈍化、さらに、疲労度の上昇として表れていることが示された。以上の事実は、Xの障害は、CAPEPSの職業資格試験への不合格を正当化するYの趣意書の説明になる。他方、証拠より、COTOREPによるカテゴリーBでの障害者労働者認定にも関わらず、Xの障害は、研修においても、また、Xの働きぶりの評価においても、少しも考慮されていないことが判明した。これは、法の要請に反している。また、2004年1月6日、Xの障害と公務との両立可能性を確認するために、大学区委員会(commission academique)が開かれた際にも、同委員会は、応募者の労働ポストの調整に関する勧告(1990年6月30日のデクレ15条)を発しなかった。確かに、Xは、2007年4月以前に、研修生のポストの調整を願い出てはいないが、Xが、自らの実力を示す状態になかったと主張することには、理由がある。以上より、Xは、実力を証明するための研修を、1983年7月13日の法律6条の6が定める条件において、実現することができなかったということができる。行政訴訟法典L.911-1条は、《裁判所の決定が、必然的に、公法人又は公役務を担う民間組織に、一定の方向で執行措置をとらせる結果となる場合、訴えを提起された裁判所は、その決定により、場合によっては執行期間を伴った措置を命じる》旨を定めている。職業資格試験についてXを不合格とした大学区審査委員会の議決、及び、Xを解雇した国民教育大臣の決定、そして、Xの訴えを却下した決定の無効は、必ずしも、Xが本採用されたという結論を導かない。しかし、これらの無効は、本採用される適性の有無について再度裁定を受けるまで、Xが、障害補償の権利を保障された形で研修を受けられるように、Xを研修資格で復職させるという結論を導きうるものである。よって、国民教育大臣に、本判決の通知後直ちに、2009-2010年の教育年度について、Xを研修資格で復職させるよう命ずることには理由がある。

【主文】

<1> 身体・スポーツ教育教員試験へのXの合格を拒否した2007年6月11日付けの大学区審査委員会の議決、Xを解雇した2007年10月22日の国民教育大臣の決定、及び、Xの非訟的異議申立を却下した決定は、無効とする。
<2> 国民教育大臣に、本判決の通知後直ちに、2009-2010年の教育年度について、Xを研修生資格で復職させることを命ずる。
<3> 国は、行政訴訟法典L.761-1条の適用により、Xに1,200ユーロ支払うこと。

【判決のポイント】

<1> 研修及び働きぶりの評価において、Xの障害が考慮されていないという事実は、法の要請に反する。
<2> Xは、実力を証明するための研修を、1983年7月13日の法律6条の6が定める条件において実現することができなかったといえる。
<3> 本採用される適性の有無について再度裁定を受けるまで、Xが、障害補償の権利を保障された形で研修を受けられるように、国民教育大臣に対し、Xを研修資格で復職させるよう命ずる。
参照条文:公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律(no83-634)
障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する2005年2月11日の法律(no2005-102)
社会福祉・家族法典
1975年6月30日の障害者基本法(no75-534)27条の国民教育大臣の管轄に属する一定のカテゴリーの職員への適用に関する
1998年6月30日のデクレ(no98-543)
身体・スポーツ教育教員の特別な地位に関する1980年8月4日の修正デクレ(no80-634)等

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(iv)解雇

(判例58)解雇順序規制を無視してなされた障害労働者の解雇に関する事例

(2006年10月11日) 破毀院社会部 事件番号:04-47168 判例集:Bulletin 2006 V No302 p.288

【事実の概要】

Xは、1973年4月16日、Y(la societe Metallerie bayeusaine)に雇用され、解雇の直前は、板金工の職に就いていたが、2001年12月11日、経済的理由に基づき解雇された。カーン(Caen)控訴院判決(2004年9月24日)は、Yに対し、解雇順序を規制するルールの不遵守の結果生じた損害についてXに賠償金を支払うよう命じたが、Yは、これを不服として、上告した。
上告理由は、次の通りである:
<1>裁判官は、権限を超えて、当事者の訴訟文書(ecritures)で決められている係争中の文言を修正することはできない。Yは、本件において、ポイントが等しくなった場合、被解雇者の選択は、失業手当の期間と企業での勤続年数とを基準として行ったと主張している。この基準に従うと、Xは、勤続年数が短く、より長い期間失業手当を受け取ることが出来たので、他の被用者に優先して解雇されるべき立場にあったということができる。控訴院は、Yが同順位者の間で行った決定について何らの説明もしていないことを確認しつつ、その決定において、控訴理由を歪曲し、係争中の文言を修正したのであって、新民事訴訟法典4条の規定に違反する。
 <2>適性手続きの保障原則は、司法に対し、一方当事者が提出した訴訟文書を具体的に検討することなく、一方当事者に非があるとする判決を下すことを禁止している。したがって、申立書の内容を考慮することなく、経済的理由に基づく解雇の順序に関するルールの不遵守を理由として、使用者に損害賠償金の支払いを命じた控訴院判決は、欧州人権条約6.1条に違反する。

【判旨】

上告棄却
 解雇順序を決定する全ての基準を考慮に入れるのは、使用者の役目である。控訴院判決は、障害は、再就職を困難にする性質を有するものであり、労働法典L.321-1-1条で示された基準の1つであるにも関わらず、Yは、被用者の障害を考慮に入れていなかったことを指摘している。これを唯一の理由として、控訴院判決は、使用者は、解雇順位に関するルールを遵守しなかったと判断した。上告理由には、十分な根拠がない。よって、上告を棄却する。

【判決のポイント】

<1> 経済的理由に基づく解雇の順番を決定する際、使用者は、労働法典L.321-1-1条の示す基準を考慮に入れなければならない。
参照条文:労働法典L.321-1-1条(旧)
(参考:L.321-1-1条(旧)は、経済的理由による集団解雇を行う場合、使用者は、家族負担(特に、一人親の負担)、勤続年数、再就職を困難にする社会的状況(例えば、障害者や高齢者)、職業資格を考慮に入れた解雇基準を定めなければならない旨を定めている。)

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(判例59)障害を隠して採用された者の解雇が無効とされた事例

(2005年9月21日) 破毀院社会部 事件番号:03-44855
出典:Bulletin 2005 V No262 p.230

【事実の概要】

Xは、Y(l’Association Languedoc aides et services)に雇用され、2000年8月21日から無期労働契約(2カ月の試用期間を含む)で在宅看護(garde a domicile)の職に就いていた。2000年9月28日に健康診断が実施され、労働医は、Xについて、「適性あり。ただし、期間を15日間とし、15日後に再診。労働時間の短縮を伴うXの障害により適応した労働ポストが必要である」という意見を発した。Yは、2000年10月3日の通知によって、Xの健康状態 では任された仕事が出来ないことを理由として、労働契約を終了させることとした。そこで、Xは、これを不服として労働審判所に提訴した。控訴院判決は、労働協約が定める試用期間終了後の破棄は、無効とされる解雇であるとの判断を下した。これを不服として、Yが上告した。
Yは、上告理由で、以下の点を指摘した:
<1>控訴院判決は、労働契約は、Xの詐欺行為を理由とし、無効であるという主張に答えていない。Xは、労働の遂行を妨げるものはないと保証したが、自らの障害を隠していた。また、Xの障害は、従事することとなっていた仕事とは両立しえないものであった。よって、控訴院判決は、理由を欠き、新民事訴訟法典455条に違反する。
<2>控訴院判決は、Xが雇用と両立しない障害を故意に隠していたという事実は、労働契約を無効にする詐欺行為に該当しないか、さらには、応募者の誠実義務違反に該当しないかについて検討していない。よって、民法典1116条の観点から、法的根拠を欠く。

【判旨】

応募者の健康状態に関する情報は、労働法典R.241-48条の適用により、雇用に際する健康診断を担当する医師だけに打ち明けられるものである。使用者が、試用期間を伴って採用した被用者が、医師の診断を受ける前にその職務を開始することを決めている場合、当該使用者は、被用者が使用者に明かしていない健康状態又は障害に関する被用者のいわゆる「詐欺行為」を援用することは出来ない。ところで、本件控訴審判決は、Xに支払われる損害賠償額を賃金の1カ月分に限定するために、Xの勤続年数、破棄の状況、現実の損害を根拠とした。しかし、復職を望まない、無効な解雇の対象とされたXは、予告手当の他に、違法な解雇によって生じる損害に対する賠償金への権利を有するのであって、その額は少なくとも賃金の6カ月分に等しい。この点において、控訴院判決は、労働法典L.122-45条、L.122-14-4条に違反する。Xは、少なくとも6カ月分の賃金に等しい賠償金に対する権限を有する。

【判決のポイント】

<1> 応募者の健康状態に関する情報は、労働法典R.241-48条の適用により、雇用に際する健康診断を担当する医師だけに打ち明けられるものである。
<2> 使用者が、試用期間を伴って採用した被用者が、医師の診断を受ける前にその職務を開始することを決めている場合、当該使用者は、被用者が使用者に明かしていない健康状態や障害に関する被用者のいわゆる「詐欺行為」を援用することはできない。
<3> 復職を望まない、無効な解雇の対象とされた者は、予告手当の他に、少なくとも賃金の6カ月分に等しい損害賠償金に対する権利を有する(労働法典L.122-14-4条)。
参照条文:労働法典L.122-45条、L.122-14-4条、R.241-48(旧)
(参考1:被用者は、採用の前、又は、遅くとも試用期間が終了する前に、労働医による健康診断を受けることとされている。健康診断の目的は、<1>被用者が、他の労働者にとって危険な疾病に罹患していないか確認すること、<2>被用者が、従事する労働ポストに対する適性を医学的に有していることを保証すること、<3>場合によっては、ポストの調整又は他のポストへの配置を提案することにある(旧R.241-48条、現R.4624-10条、R.4624-11条)。)
(参考2:労働法典L.122-14-4条(現L.1235-3条)は、解雇無効の場合に、復職を望まない被用者に支払われるべき損害賠償金の額を定めている規定である。)

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(2)サービス提供

(i)民間事業体による公共サービス

(判例60)障害者の映画館へのアクセス拒否に関する事例

(2006年6月20日判決) 破毀院刑事部 事件番号:05-85888 判例集未搭載(HALDEホームページより入手)

【事実の概要】

本件は、Y(la societe Hellucha)による障害者への映画の券の販売拒否につき、刑法違反(差別罪)が問われた事案である。ポワチエ(Poitiers)控訴院軽罪部判決(2005年9月1日)は、差別を理由として、Yに10,000ユーロの罰金刑を言い渡した。控訴院判決では、次のような原審の判断が確認・支持された。すなわち、<1>差別罪を犯したことを理由として、Yに10,000ユーロの罰金を命じる、<2>Yは、フランス麻痺患者協会、X1及びX2に対し、損害賠償責任を負う、故に、後者2名にそれぞれ2,000ユーロの慰謝料を支払うこと、そして、フランス麻痺患者協会には、1ユーロから2,000ユーロの間の損害賠償金を支払うこととする判断である。控訴院判決が、原審の判断を支持した理由は、以下の点にある。すなわち、<1>ニオール(Niort)の映画館「レックス(Rex)」では、車椅子の障害者に対する映画の券の販売が拒否されていたことは明らかであり、Yもそれを認めていること、<2>窓口が高い位置にあるため、車椅子に乗った者は入場券を購入することが出来ないこと、及び、越えられない段差が3つあるため、車椅子に乗った者は映写室につながるホールにアクセスすることが出来ないことにつき、Yは異議を唱えていないこと、<3>刑法典225-1条以下によれば、障害を理由とする財・サービスの供給拒否は、罰せられるべき差別を構成すること、<4>刑法典225-3条、その他の法律により定められている免責条項は、本件には適用されないこと、<5>Yは、差別的理由によって行動したのではないこと、あるいは、犯罪を構成する要素(故意)はなかったことを証明することもできたこと、<6>2005年の障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律は、確かに、アクセシビリティの確保が技術的に不可能な場合の適用除外を定めており、また、アクセシビリティの確保に関する条項の実施について、猶予期間を設けているが、本件におけるYの非は、アクセシビリティ確保の工事を実施しなかったことではなく、障害者の映画館へのアクセスを拒否したことにあること、<7>Yは、アクセシビリティの確保が技術的に困難であることを示していないどころか、逆に、Yは、6つの映写室のうち少なくとも3つを障害者にとってアクセス可能なものにすることができると主張しており、また、改修工事とその結果との間には明白な不均衡は存在しないことから、Yは、刑法違反を免れないこと、<8>アクセスの拒否の性格は、Yの文書(特に、2001年12月5日の通知の内容は、Yが、差別的行為を行っていることを認識していたこと、差別行為の終了よりも、顧客の99%を占める非障害者を出口のところで足止めしない、「企業活動に混乱を引き起こしたくない」という意向(volonte)を優先させたことを示している)からも明らかであることである。
 Yは、これを不服として上告した。上告理由では、次の点が指摘された。<1>Yによる障害者に対するアクセス拒否に正当性が認められるとすれば、それは、安全上の理由に基づくものであるところ、控訴院判決は、差別が映画館へのアクセス拒否で構成されること以上に、アクセス拒否が、身体的特徴のみを理由として障害者に対してなされたのか、あるいは、障害者のための安全上の理由によって正当化されないのかについて検討を行っていない、<2>Yは、障害者のために6つ映写室のうち少なくとも3つは改修を行うことが出来たと主張すると同時に、映写室へのアクセスの確保は、映画館の全利用者のために定められている安全義務と両立しなかった旨も主張しているが、控訴院判決は、この点を正当に評価していない、<3>2001年12月5日の通知で、Yは、ニオール市長によるスロープ設置計画に反対せざるを得なかった理由を明らかにし、スロープ設置計画は、既存の11の出口のうち5つの出口を無くしてしまうもので、災害が生じた場合に大きなリスクを生むことを示したが、控訴院判決は、この通知から、「Yは、差別的行為を行っていることを認識しており、差別行為の終了よりも、顧客の99%を占める非障害者を出口で足止めしない、『企業活動に混乱を引き起こしたくない』という意向(volonte)を優先させた」という結論を導き出し、2001年12月5日の通知を歪曲したという点である。

【判旨】

上告棄却
 Yは、フランス麻痺患者協会、X1及びX2からの告訴により、刑法典225-1条に基づき、車椅子の利用者に他の者と等しいサービスを保障することを拒否し、映画館へのアクセスを可能としなかったことにつき、軽罪裁判所に起訴された。この件につき、一審裁判官は、告訴は証明されたと判決を下した。有罪判決を確認・支持するに際し、控訴院判決は、映画館をアクセス可能にする技術的問題は示されていなかったにも関らず、また、市当局から改修の提案がなされていたにも関わらず、Yが、障害者の映画館へのアクセスを拒否したことを重要視し、これは、起訴された軽罪を特徴づけるとして、その決定を正当化した。以上を勘案すると、事実審裁判官による判断の再検討を求める上告理由は、認められない。控訴院判決は、本訴訟において、正当である。

【判決のポイント】

<1> 映画館をアクセス可能にすることに技術的問題がなかったにも関わらず、また、市当局から改修の提案がなされていたにも関わらず、Yが、障害者の映写室へのアクセスを拒否したことは、差別罪を成立させる。

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(ii)公共団体によるサービス

(判例61)食品アレルギーを有する乳幼児の受入れを排除する市営保育園の内部規定を無効とした事例

(2009年3月9日) マルセイユ(Marseille)行政控訴院第5部 事件番号:08MA03041
判例集未搭載(HALDE本部で入手)

【事実の概要】

2005年2月7日付けでマルセイユ(Marseille)市議会が承認した市営保育園の内部規定5-2-7条には、《自治体の保育園では、集団食の調理方法、食品の安全要請を考慮して、特別食は保障されない》旨が定められていた。2006年5月12日、AFIBIAAC(食品アレルギー乳幼児保育園統合家族会:Association familiale pour l’integration des bebes intolerants alimentaires et allergiques en creche)は、特別食が提供されるよう、また、少なくとも、乳幼児が両親の作った弁当を持ってくることができるように、マルセイユ市に対し、上記規定の修正を請求した。しかし、マルセイユ市助役は、2006年8月28日付けの郵便で、マルセイユ市助役は、AFIBIAACの請求を却下した。
 マルセイユ行政裁判所判決(原審)は、AFIBIAACが提出した市営保育園の内部規定の修正請求を却下した助役の決定を無効とする一方で、当該助役に対し、判決の内容に応じて、内部規定を修正するよう命じた。これを受けて、マルセイユ市が、2008年6月24日、マルセイユ行政控訴院に対し控訴した。マルセイユ市が求めたのは、<1>2008年6月5日のマルセイユ行政裁判所判決(no0606455)の無効、<2>AFIBIAACがマルセイユ行政裁判所に提訴した請求の却下、<3>AFIBIAACへの2,000ユーロの支払命令(行政訴訟法典L.761-1条)である。なお、本件では、HALDEが、以下の見解及び情報を行政控訴院に提出している:すなわち、<1>マルセイユ市立保育園の内部規定の差別的規定の無効は、維持されるべきである、<2>2007年11月26日の勧告(no2007-315)によって、HALDE評議会は、市場での入手が可能となったら直ちに、安全な乳幼児用の食事を注文するというマルセイユ市長の約束を確認している、<3>マルセイユ市長は、2009年1月6日の郵便で、HALDEに対し、食品アレルギーを持つ乳幼児の受入れを可能とするために、安全な食事を提供することで、適切な措置を講じたことを通知している。

【判旨】

平等原則は、任意の公的社会的サービスの提供に際し、市町村が、異なる状況に置かれた利用者に対して異なる取扱いをすることを妨げるものではない。マルセイユ市営保育園の内部規定5-2-7条には、《自治体の保育では、集団食の調理方法、食品の安全要請を考慮して、特別食は保障されない》旨が定められている。しかし、この規定は、アレルギーの程度や複合性を考慮に入れることなく、食事時間を理由として、食品アレルギーを持つ乳幼児の保育園への受入れをシステマティックに排除することにつながる。同規定は、平等取扱原則を無視するものであり、乳幼児の健康状態を理由とする差別を構成する。よって、2006年8月28日の決定を無効とした一審裁判官の判断は、正当である。それゆえ、マルセイユ行政裁判所が、2006年8月28日の決定を無効にしたのは誤りであるというマルセイユ市の主張には、理由がない。行政訴訟法典L.761-1条には、《すべての審級において、裁判官は、義務を負う側に訴訟費用(depense)の支払いを、あるいは、それがない場合には、敗者に、訴訟費用に含まれない費用として裁判官が決める額を支払うよう命じる。裁判官は、衡平及び敗者の経済状況を考慮に入れなければならない。裁判官は、上記考慮の結果を理由として、職権で、この支払いの必要はない旨を通告することができる》旨が定められている。この規定により、マルセイユ市が訴訟費用に含まれない費用として請求した金額を本審における敗者ではないAFIBIAACの負担とすることはできない。本件では、AFIBIAACが訴訟費用に含まれない費用として請求した1,196ユーロをマルセイユ市の負担とするのが、適当である。

【主文】

<1> マルセイユ市の控訴を棄却する。
<2> マルセイユ市は、AFIBIAACに対し、行政裁判法典L.761-1条の適用により、1,196ユーロを支払え。
<3> 本判決は、マルセイユ市、AFIBIAAC、及び、HALDEに対して通知される。

【判決のポイント】

<1> 平等原則は、任意の公的社会的サービスの提供に際し、市町村が、異なる状況に置かれた利用者に対して異なる取扱いをすることを妨げるものではない。
<2> マルセイユ市営保育園の内部規定5-2-7条は、アレルギーの程度や複合性を考慮に入れることなく、食事時間を理由として、食品アレルギーを持つ乳幼児の保育園への受入れをシステマティックに排除することにつながる。
<3> マルセイユ市営保育園の内部規定5-2-7条は、平等取扱原則を無視するものであり、乳幼児の健康状態を理由とする差別を構成する。

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3.勧告

(1)雇用

(勧告1)教育カウンセラー主任として働いた全勤続年数の算入を拒否されたことに関する勧告

(2009年12月14日) 事件番号2009-399

【事実の概要】

HALDEは、Xから、2009年3月10日の郵便で、教育カウンセラー主任(conseiller principal d’education)として働いた全勤続年数の算入を拒否されたことにつき、申立を受けた。障害労働者認定を受けていたXは、この拒否は、障害に基づくもので、差別的性格を有すると考えた。Xは、教育カウンセラー主任の資格で、嘱託公務員として採用された。労働契約は、2000年12月8日を開始日とする有期契約で、2003年までに複数回更新された。その後、Xは、2003年11月17日、Y(大学区長)の決定によって本採用された。Xは、2003年12月17日付けの決定により、2003年9月1日に遡って、3級に分類された。(この分類に際し)考慮された勤続年数は、研修の年のみであった。2008年4月3日付けの非訟的異議申立(recours gracieux)によって、Xは、この分類に異議を唱えた。その理由は、勤続年数は、嘱託公務員として働き始めた2000年4月8日からカウントするべきであるという点にあった。しかしながら、当該非訟的異議申し立ては、2008年6月12日付けの郵便により、却下された。その理由は、国の公務における障害労働者の採用に関する1995年8月25日のデクレ8条は、《試験採用された公務員と同じ条件で従前の職務における勤続年数を算入すること》を定めていないことにあった。加えて、Yは、障害労働者の制度を試験採用の公務員の制度に連動させる2005年1月18日のデクレ14条は、Xの分類がなされた時には、適用されえなかったと考えた。Xの分類は、同デクレよりも前であり、それゆえ、上記1995年8月25日のデクレによって規制されると考えたからである。障害者には、公務において、有期契約での採用の道が開かれている。1984年法1月11日の法律27条は、《障害労働者は、本採用の資格のある職団の特別身分規定が定める研修期間に相当する期間、カテゴリーA、B、Cの職に、嘱託公務員として採用されうる》と定めている。そして、この研修期間に相当する期間は、その辞令(nomination)後の公務員としての勤続年数の計算に算入することができるとされていた。障害労働者については、特別規定(1995年8月25日のデクレ8条)が存在し、これによって、研修期間は、勤続年数の決定において算入されるとされていたからである。他方、1951年12月5日のデクレ11-5条では、公務員としての辞令より前の国民教育省の管轄に属する職務全体が、(勤続年数に)算入される旨が定められていた。これらの全規定から、試験採用の教育カウンセラー主任は、非正規職員として働いた全期間を勤続年数として算入されるのに対して、Xのような障害認定を受けた教育カウンセラー主任は、研修期間を除き、非正規職員として働いていた期間は、勤続年数に算入されないこととなっていたことが分かる。この取扱いの差異は、2005年1月18日のデクレによって廃止された。しかし、Xを3級に分類した決定は、2003年12月17日になされており、適用法は、1995年8月25日のデクレであった。そのため、Yは、Xの勤続年数の計算において、研修の年のみを算入した。行政裁判所裁判官は、既に、Xと同様の状況について、以下のような検討を行っている。例えば、ドゥエ(Douai)行政控訴院2007年5月30日判決(no06DA01299)は、2001年に教育カウンセラー主任の職に本採用された障害労働者について、勤続年数の算入を拒否したリール(Lille)大学区長の決定は、当然に誤りであるとの判断を下している(なお、この決定も、1995年8月25日のデクレ8条に基づきなされたものである)。そして、同控訴院判決は、《1984年1月11日の法律27条、及び、1995年8月25日の適用デクレの諸規定は、行政が、1951年12月5日のデクレで定められた条件(特段の定めがない限り、教育カウンセラー主任の職に就く本採用職員全体に適用される)で、嘱託公務員として働いた全期間を算入することを妨げるものではない》とした。

【勧告】

ドゥエ行政控訴院判決、さらには、ナンシー(Nancy)行政控訴院2006年1月9日判決(no02NC00810)、及び、パリ(Paris)行政控訴院2008年4月1日判決(no06PA01912)に従うと、大学区長は、当然に過失を犯したということができ、また、1995年8月25日のデクレは、嘱託公務員としてのXの勤続年数の算入を妨げるものといえる。加えて、この違法な決定(cette decision illegale)(=Xが嘱託公務員として働いた期間を勤続年数に算入することを拒否する決定)は、差別的性格も有している。公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律6条は、《いかなる直接的又は間接的差別も、障害を理由として公務員間でなされてはならない》と定めている。さらに、2008年5月27日の法律2条には、《雇用、労働条件、昇進における障害に基づくすべての直接的又は間接的差別は、禁止される》旨が定められている。Xが嘱託公務員として働いた期間を勤続年数に算入することを拒否する決定は、1951年デクレをXに適用していないという点で、障害を理由とする差別といえる。また、確立した判例が、障害労働者認定を受けた者の全勤続年数を算入しなければならないとしているにも関わらず、行政は、1995年8月25日のデクレ8条の差別的規定を適用し続けた。さらに、Yは、事情を心得たうえで、正当性を認められない決定をしたと言わざるを得ない。というのも、Yは、ドゥエ行政控訴院で譴責処分を受けた決定の張本人であるからである。2009年10月27日の郵便で、リール(Lille)大学区教職員局局長は、HALDEに対し、Xの嘱託公務員としての全勤続年数を算入した上で、Xの分類を見直した旨を通知した。すなわち、Yは、2009年10月27日の決定で、2003年12月17日の決定を撤廃し、Xの全勤続年数を2003年9月1日付けで算入することとした。これにより、Xは、勤続年数が1年8カ月長くなり、4級に分類されることとなった。HALDE評議会は、HALDEの介入によって、好意的な解決策が提供されたことを確認した。しかし、HALDE評議会は、6年にわたってXの全勤続年数の算入が拒否されたことは、1983年7月13日の法律6条で禁止された障害を理由とする差別を成立させると考える。HALDE評議会は、Yによる2003年12月17日の決定は、Xが要求し得る等級に当初から分類されなかったことについて、Xに損害をもたらしたと考える。よって、HALDE評議会は、Yに対し、Xが執拗な拒否の結果被った精神的損害について賠償するよう勧告する。他方、確立した判例の存在にも関わらず、障害認定を受けた公務員が、差別的取扱いの対象とされ続けたことを確認しておく。HALDE評議会は、2006年10月23日の勧告(no2006-228)において、次のように述べた:確かに2005年1月18日のデクレによって1995年8月25日のデクレは修正されたが、《2005年デクレの施行前に採用された障害者のための移行措置は定められておらず、2005年デクレは、Xが被った差別に対し何らの解決策ももたらしていない。差別は、未だ続いている。HALDE評議会は、権限を有する大臣に対し、改正前の枠組みで採用された職員が、2005年デクレで対象とされる者と同じ条件で従前の職務における勤続年数を算入されるよう、何らかの措置をとるよう勧告する》。2008年12月10日の郵便により、アンドレ・サンティニ(Andre SANTINI)公務担当閣外相(当時)は、HALDEに対し、行政裁判例の進展を報告すると同時に、省庁の人事部を対象としてこれをテーマとするセミナーを開催したことを通知した。HALDE評議会は、政府が、国の出先機関に通知するために採用した諸手段は、障害を理由とする差別状況を回避するには、依然として不十分であると考える。結論として、HALDE評議会は、財政・公会計・公務・国政改革大臣に対し、国家公務員に現行法を知らしめるための教育を取り入れるよう勧告する。

【勧告のポイント】

<1> 分類(reclassement)にあたり、障害労働者が嘱託公務員として働いた全期間を勤続年数として算入しないことは、障害を理由とする差別といえる。
参照条文:公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律(no83-624)
国家公務員の地位に関する1984年1月11日の法律(no84-16)
国民教育省の管轄に属する教職員集団の1つにおいて任命された従業員の勤続年数の決定ルールの設定のための公行政規則に関する1951年12月5日のデクレ(no51-1423)
国の公務における障害者の採用に関する1995年8月25日のデクレ(no95-979)
1995年8月25日のデクレを修正する2005年1月18日のデクレ(no2005-38)

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(勧告2)適切な措置を必要とする障害者の採用拒否に関する勧告

(2009年4月27日) 事件番号2009-128

【事実の概要】

Xは、HALDEに対し、2007年4月18日付けの郵便で、Yによる採用拒否に関する申立を行った。Xは、採用拒否は、障害に基づくものであると考えた。Xは、運動機能障害を有しており、2005年2月1日から2010年2月1日の間、COTORE(現CDAPH:障害者権利自立委員会)によって障害労働者認定を受けた。2006年12月、Xは、ANPE(職業紹介機関)の提案に応じて、Yの携帯電話販売員のポストに募集した。Xは、郵便で、採用担当者に対し、障害認定を受けていることを通知し、文字を書くスピードが遅いという軽度の運動機能障害があるが、販売、電話や郵便による顧客の開拓、あるいは、店頭での売込みには問題がない旨をはっきりと述べた。2006年12月から2007年2月にかけて、Xは、一連のテスト、及び、人事部による選抜面接を受けた。2007年3月14日(注:下記では、3月12日となっている)、Xは、採用前の健康診断を受け、その後、労働医から適性証明書を交付された。証明書には、《適性あり、ポストに応じた調整(amenagement)が予定される》と記載された。
 2007年4月10日、Xは、Xの人物適性が、Yが探している人材と厳密には合致しないことを理由とする不採用通知を受け取った。Yは、Xに関する採用手続きの中断を正当化するために、HALDEに対し、次の点を強調した。すなわち、Xは、300人の応募の中で、早い段階で採用候補とされたが、最終的に、《その人物適性や経験が我々の希望とより合致した》約100人の採用候補者に残ることは出来なかったということである。ところで、HALDEが行った応募者の履歴書の比較分析の結果、Xは、販売員としての職務に必要な経験と職業訓練とを証明していたことが明らかになった。他方、雇用された応募者の中には、販売分野における経験や職業訓練が非常に乏しい、あるいは、全くない者がいたことも判明した。例えば、Xは、採用に際し、顧客と接するポストでの経験が4年あること、そのうちの1年間は、電話販売員のポストであったことを証明していた。Xは、また、販売員としてのBEP(職業教育修了証書)、応対サービスの専門バカロレア、そして、《接客》職業訓練修了証書も有していた。加えて、調査によって、Xは、人事部による最終選考リストに残っていたことも確認された。さらに、HALDEの調査の結果、Xが医師の診断を受けた2007年3月12日には、販売員の採用手続きは、終了したことが判明した。実際、採用候補者の書類を検討した結果、彼らは、2007年2月中、あるいは、遅くとも2007年3月5日に契約にサインをしたことが明らかになった。よって、Xが、Y会社の求めに応じて2007年3月12日に受けた医師の診断は、採用プロセスの終了にあたって、雇用に先立ち行われる健康診断であったと見なすのが適当である。なお、労働法典R.4624-11条は、当該健康診断の目的は、<1>《被用者が、医学的にみて、使用者が従事させようとしている労働ポストに対する適性を有していることを確認すること》、及び、<2>《場合によっては、労働ポストの調整や他のポストへの割り当てを提案すること》にあるとしている。その能力や資格の評価は、当然、既になされているものといえる。

【勧告】

本件では、雇用に先立つ健康診断に際し、Xは、《ポストに応じた調整を伴う》販売員の雇用に就く適性を認められた。Yは、医師によるXの適性の承認にも関らず、客観的な正当化要素がないまま、Xの採用手続きを終了させた。HALDEの調査によって、Xの採用拒否は、実際には、労働医が指摘したポストの調整の必要性にあることが判明した。結局、Yは、Xがその資格に応じた雇用につけるよう適切な措置(mesures appropriees)を講じることを拒否したと言える。労働法典L.1132-1条は、何人も、障害を理由として採用手続きから排除されない旨を定めている。同法典L.1133-3条は、労働医が確認した不適性に基づく障害を理由とする取扱いの差異は、それが、客観的かつ適切で、必要なものである限り、差別には当たらないとしている。そして、同法典L.5213-6条は、《障害労働者の平等取扱原則を保障するために、使用者は、具体的ニーズに応じて、障害労働者が、それぞれの資格にふさわしい雇用を獲得もしくは維持し、かつ、その職務を遂行し、もしくは、向上できるようにするために適切な措置を講じるものとする》旨を定めている。以上より、YによるXの採用拒否は、労働法典L.1132-1条、L.1133-3条、L.5213-6条の意味での障害を理由とする差別に該当する。HALDE評議会は、Yに対し、労働法典L.1132-1条、L.1133-3条、L.5213-6条の規定を遵守する義務について、教示する。他方、HALDE評議会は、Yに対し、Xの被った損害を補償するために、Xと和解するよう勧告する。HALDE評議会は、Yに対し、本勧告の通知の日から3カ月以内に、本勧告への対応をHALDEに提示するよう求める。

【勧告のポイント】

YによるXの採用拒否は、適切な措置を講じることを拒否したものといえ、障害を理由とする差別に該当する。
参照条文:労働法典L.1132-1条、L.1133-3条、L.5213-6条

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(勧告3)年齢に関する採用要件を障害者には適用しないとした勧告

(2008年11月3日) 事件番号2008-245

【事実の概要】

HALDEは、2007年7月6日、障害を持つXから、非常勤講師としての採用を拒否されたことにつき申立を受けた。Xは、情報科学の博士課程在籍者(doctorant)で、障害労働者資格の認定を受けていた。2006年、学位論文を終えるために、当時30歳であったXは、指導演習の講師としての任務遂行期間(vacations)を保障するよう大学に申請した。しかし、大学側は、2006年8月21日付けのメールで、Xが28歳の年齢制限を超えていることを理由として、Xを非常勤講師の資格で採用することは出来ない旨を通知した。その拒否を正当化するために、大学側は、高等教育における非常勤職員(vacataires)の採用・雇用条件に関する1987年10月29日のデクレ3条を根拠として提示した。同条は、《非常勤職員は、対象なる年度の9月1日の時点で28歳未満でなければならず、博士号の準備のために登録していなければならない》と定めていた。Xは、この規定を障害者に適用するのは、差別であると考えた。就学期間の延長は、障害の避けならない結果であるにも関わらず、この規定によって、障害者は、高等教育における非常勤での雇用に必要な年齢条件や職業訓練の水準要件を満たすことが出来なくなるからである。2008年6月4日の郵便で、高等教育研究職員局局長は、HALDEに対し、国家公務員の地位に関する1984年1月11日の法律27条によって、公務へのアクセスについて定められている年齢の上限は、障害労働者には適用されない旨が定められていることを提示した。2008年9月12日の郵便で、学長(大学側)は、HALDEに対し、公務へのアクセスについて定められている年齢制限は、上記1984年法27条の適用により、Xに適用することは出来ないという事実を通知によって確認したことを明らかにした。また、学長は、今後、大学内で実施される採用・選抜手続においては、障害者の雇用に関する規定に特別の注意を払うことも明確にした。そして、学長は、HALDEに対し、Xは、現在、大学の付属学校で、教育・研究の臨時担当ポスト(ATER)を得ていることを通知した。これにより、Xは、その学位論文を終えることができ、また、教育・研究職への参入準備において、不利を被ることはなかった。

【勧告】

1984年1月11日の法律27条I(2005年2月11日の法律32条により修正)は、《公務へのアクセスについて定められている年齢の上限は、障害労働者には適用されない》旨を定めている。加えて、27条Iは、現在、障害労働者ではない者について、障害労働者であった際に《受けた治療・ケアの期間の分だけ、年齢制限の引上げを享受できる。ただし、この期間は、5年を超えない》旨を定めている。2005年2月11日の法律より前に作成された、高等教育における非常勤職員の採用・雇用条件に関する1987年10月29日のデクレ3条は、2005年法が導入した上記適用除外を組み込んでおらず、1984年1月11日の法律27条Iに反するものである。したがって、同デクレ3条に基づいて学長が行った決定も、1984年法27条Iに違反し、違法とされる。ところで、Xは、HALDEに対し、Xは法的措置が大学に対して講じられることを望んでいないこと、唯一の希望は、1987年10月29日のデクレで定められている条件が、障害者の特別な状況を考慮に入れることを目的として、修正されることである旨を伝えている。以上より、HALDE評議会は、まず、学長の決定を1984年1月11日の法律27条Iの規定に合致させることを確認する。他方、HALDE評議会は、高等教育・研究大臣に対し、1987年10月29日のデクレを修正し、1984年1月11日の法律27条I、及び、より一般的に、1983年7月13日の法律6条に定められた年齢を理由とする差別の禁止原則と合致させるよう勧告する。最後に、デクレの修正を待つ間、HALDE評議会は、大臣に対し、1984年1月11日の法律27条Iによって、年齢要件は、障害労働者には適用されないことを高等教育機関の責任者に通知するよう勧告する。本勧告の通知から4カ月の期間内に、本勧告の実施状況をHALDEに報告すること。

【勧告のポイント】

<1> 公務へのアクセスについて定められている年齢の上限は、障害労働者には適用されない(1984年1月11日の法律27条I)。
<2> 1987年10月29日のデクレ3条は、1984年1月11日の法律27条I(2005年法により修正)に反する。
<3> 1987年10月29日のデクレ3条に基づく学長の決定は、1984年法27条Iに違反し、違法とされる。
<4> 高等教育・研究大臣に対し、1987年10月29日のデクレを修正し、1984年1月11日の法律27条I、及び、1983年7月13日の法律6条の規定に合致させるよう勧告する。
参照条文:公務員の権利と義務に関する1983年7月13日の法律(no83-634)6条
国家公務員の地位に関する1984年1月11日の法律(no84-16)27条I
 (2005年2月11日の法律(no2005-102)により修正)
高等教育における非常勤職員の採用・雇用条件に関する1987年10月29日のデクレ(no87-889)

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(勧告4)障害を理由とする賃金差別に関する勧告

(2008年11月3日) 事件番号2008-244

【事実の概要】

HALDEは、2007年10月4日、1992年7月15日以降、カテゴリーCの障害労働者認定を受けてきたXから、障害を理由とする差別を疑わせる賃金制度に関する申立を受けた。Xは、2000年6月2日、Yにより整備士として採用された。Xは、全国自動車サービス労働協約に定められた《等級:3−資格:自動車整備士−カテゴリー:肉体労働者》に分類される者である。Xの基本給月額は、1,212ユーロであった。しかし、Xの等級に対応する全国自動車サービス労働協約で定められた最低賃金は、1,319ユーロであった。Xに支払われた賃金を正当化するため、Yは、当該企業で適用される上記労働協約1-20条を引用した。同条には、《最低保障賃金(minimas garantis)は、カテゴリーB又はCに分類された被用者には適用されない。これに当てはまる被用者の賃金は、最低保障賃金の90%を下回ってはならない》旨が定められていた。この規定は、2005年2月11日の法律より前の適用法に由来するものである。実際、同法律が施行された2006年1月1日より前の労働法典L.323-6条の適用によって、使用者は、障害労働者の生産性の減退が明らかな場合、賃金の引き下げを行うことができた。そして、障害労働者の側は、その代償として、AGEFIPH(障害者雇用促進基金管理運営機関)から賃金保障(garantie de ressources)の支払いを受けることとなっていた。しかしながら、労働法典L.323-6条が定めていた賃金減額制度は、2005年2月11日の法律37条によって廃止された。この廃止により、2005年法以降は、改正後のL.323-6条(現L.5213-7条)によって、《障害労働者の賃金は、法令又は労働協約・協定の適用の結果である賃金を下回ることはできない》とされることとなった。そして、障害労働者が重度障害を有している場合には、労働法典L.5213-7条2項及びL.5213-11条の適用によって、使用者は、雇用助成金(AGEFIPHから支払われる)を受け取ることができることとなった。
 ただし、2005年2月11日の法律には、移行措置も設けられている。すなわち、2005年法96条(II)2項によって、《2006年1月1日から2年間、企業は、2006年1月1日以前に雇用した障害労働者(カテゴリーC)について、2005年法施行前のL.323-6条で認められた権利を享受し続けることができる》こととされた。この移行措置により、本件では、Yは、2007年12月31日までは、Xについて賃金減額制度を享受し続けることができたといえる。しかし、2008年1月1日以降は、YはXに対し、少なくとも、労働協約が定める賃金と等しい賃金を支払わなければならず、使用者は、労働法典L.5213-7条及びL.5213-11条が定める雇用助成金を受け取るよう申請しなければならなかったといえる。

【勧告】

労働協約は、法が定めるよりも有利にのみ適用されるという原則(労働法典L.2251-1条)は、労働法の基本原則である。全国自動車サービス労働協約1-20条の規定は、2005年法の施行以降、労働法典L.5213-7条の規定よりも不利となった。よって、本件において、これが適用されるのは、2007年12月31日までということになる。それゆえ、Yが、2008年1月1日以降も、Xに支払われる賃金額を正当化するために、労使協約1-20条を参照したのは、誤りであったといえる。労働法典L.1132-1条は、被用者は、障害を理由として、賃金において差別的取扱いの対象とされてはならない旨を定めている。HALDEは、Xは、労働法典L.1132-1条に鑑み、健康状態・障害を理由とした差別の犠牲者であると考える。2008年10月7日の郵便により、Yは、HALDEに対して、Xに月額1,321ユーロの賃金(週35時間をベースとする)を支払うこと、及び、当該措置を2008年1月1日に遡って適用することを通知した。これを受けて、HALDE評議会は、Yの約束を確認すると同時に、Yに対し、この賃金修正の実施を報告するよう要請する。他方、HALDE評議会は、全国自動車産業会議(Conseil National des Professions de l’Automobile)に対し、全国自動車サービス労働協約を労働法典L.5213-7条の規定に合致させるよう、同協約の全署名者と交渉を行うよう勧告する。HALDE評議会は、全国自動車産業会議に対し、4カ月以内に、この勧告への対応の結果をHALDEに提示するよう要求する。HALDE評議会は、また、全国自動車産業会議に対し、速やかに、全国自動車サービス労使協約がカバーする使用者に対し、障害労働者の賃金に関する適用条文(労働法典L.5213-7条)を知らしめるよう勧告する。HALDE評議会は、全国自動車産業会議に対し、2カ月以内に、この勧告への対応の結果をHALDEに提示するよう要求する。

【勧告のポイント】

<1> Xは、健康状態・障害を理由とした賃金差別の犠牲者であるといえる。
<2> 全国自動車者会議に対し、全国自動車サービス労働協約を労働法典L.5213-7条の規定(=2005年法により改正)に合致させるよう、同協約の全署名者と交渉を行うよう勧告する。
参照条文:労働法典L.1132-1条、L.2251-1条、L.5213-7条、L.5213-11条
障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する2005年2月11日の法律(no2005-102)96条

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(2)教育

(勧告5)自閉症児の普通学級への受け入れ拒否に関する勧告

(2008年7月7日)

【事実の概要】

統合教育を実践している公立幼稚園に2006年7月より在籍していた自閉症児に対して、県特殊教育委員会は、小学校への就学にあたり障害児学級(CLIS)に入るよう指導した。これに対し保護者がその決定の無効を求めて訴訟を起こした。裁判所(TCI:tribunal du contentieux de l’incapacite)は、その児童が成長するに十分な環境がすでにできていると判断し、県特殊教育委員会によるCLISへの措置を無効とし、普通学級での学習を求めた保護者の訴えを認めた。しかし、行政管理統括上の機能を果たし初等教育を実質的に管理する国民教育視学官(市町村単位の教育人事・教育課程行政を中心に国の教育施策を実施する責任者)は、その児童の普通学級への登録を拒否した。

【勧告】

HALDE(高等差別禁止平等対策機関)は、このような登録の拒否は、障害のある子ども・青年はその住所に最も近い普通学校に学籍登録すると規定した教育法典(第112-1条)および差別を禁止した刑法典(第432-7条)に反しており、障害児への教育権を尊重しないものとして、障害を理由とした差別であると判断し、国民教育視学官に対し法の尊重を勧告した。同時に、障害のある子ども・青年の教育への権利および就学の権利を尊重しないことは差別であることについて再確認するよう勧告した。

【勧告のポイント】

<1> 障害の種類や程度等にかかわりなく、2005年法は自宅から最も近い学校に学籍登録することを権利として認めているが、具体的には普通学級への登録によって権利保障される。
<2> 普通学級での学習のためには、障害児が過ごすための環境を整えることがもっとも大切なことであり、その条件があるかぎり、受け入れを拒否することは差別となる。

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(勧告6)私立学校における自閉症児受け入れ拒否に関する勧告

(2007年3月26日)

【事実の概要】

自閉症と診断された生徒が、全日ではないが2002年より私立学校に通っていたが、校長は、2006年度の新学期からはこの生徒の受け入れはできないと保護者に伝えた。

【勧告】

HALDEは、このような受け入れ拒否は教育法典に反し、障害を理由とする差別であると判断し、校長に対し法の遵守を伝えるとともに、2007年度より学校教育計画として、障害児の受け入れを保障する措置を明確にし、教員をはじめ学校関係者全体に対して障害児受け入れについて関心を高めるよう勧告した。その一方で、国民教育省に、私立学校の校長に対して2005年法による障害児の受け入れ義務、とくに教育法典第112-1条の適用に関し注意を促すよう勧告した。

【勧告のポイント】

<1> 2005年法で確認された教育への権利は、普通学級での就学を最優先にして生徒の能力や必要に適合した学習を保障することであり、それは私立学校においても適用される。
<2> 学校全体の力を向上されるために、教員が障害児の受け入れおよび教育にかかわる特別な教育を受けられるような研修等の体制づくりが求められる。
<3> この事例からは事情がわからないが、先の事例と合わせ、学校生活補助員(AVS :auxiliaires de vie scolaire、教員の資格はもっていない)による学校内での介助の有無も問題となる。

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(勧告7)職業教育課程履修(高校)への障害者受け入れ拒否に関する勧告

(2008年10月20日)

【事実の概要】

障害労働者として認定を受けた者が、現在もっている資格よりも高い職業資格(旅行業関係)を取得するための課程履修(高校)を希望したが、高校側は、移動が緩慢となり長時間の直立姿勢ができないというその障害を理由に受け入れを拒否した。この拒否の根拠は、研修や訓練の条件として、またその後職業に就いたときにも多くの移動や直立姿勢が求められるため、課程履修の希望を受け入れることはできないというものであった。

【勧告】

HALDEは、この件を差別であると判断し、和解を勧告した。その理由は、校長は、研修や訓練の遂行においてであろうと雇用においてであろうと、個人の能力(適・不適)について推定・判断する権限をもっていないからであり、そのような推定に基づく不適格性は医学的見地の対象とはならないからである。なお、障害者の雇用へのアクセスを可能とするための措置は雇用者側の責任に帰される問題である。

【勧告のポイント】

<1> 障害者の「能力」が職業訓練や就職後の環境に適しているかどうかについて、学校は判断する権限をもっていない。
<2> その障害の特徴が特定の職の遂行を困難とするであろうから学校での課程履修を拒否する、といった能力推定に基づく判断は差別となる。
<3> その障害と雇用との関係については、企業の側の問題であり、学校はそこまで踏み込むことはできない。
<4> 2005年法に基づき、学校には、障害に応じた教育条件の整備の責任がある。たとえば、学校は障害に配慮した教育方法等を準備しなければならない。

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(勧告8)障害児の通学のための公共交通機関の利用に関する勧告

(2007年7月2日)

【事実の概要】

障害のために通学に困難を抱えている子どもの保護者から、公共交通機関の利用に関して討議の申し出があった。

【勧告】

障害児の通学に関する公共交通機関の利用に関して、2005年法が障害児と他の生徒との間の機会の平等を保障していることを重視し、HALDEは、交通編成に関する規則を修正するよう県公共交通機関の労使混合組合に勧告し、また、学校に通う障害児の移動や障害の程度による公共交通機関の利用に関する費用は当該県の負担であることを確認した。

【勧告のポイント】

<1> 障害児と他の生徒との間の平等は、通学およびその費用の面においても保障されなければならない。
<2> 自宅からもっとも近い学校に学校籍登録され、そこに通うことが望ましいのであるが、その条件が整っていない場合には他の学校への通学となる。その場合には、合理的な理由が学校側から説明されなければならない。
<3> 家庭は、障害を理由として他の学校に通う場合の交通費の負担はしない。障害の程度によって公共交通機関が利用できない場合にはタクシー等の利用もありうるが、費用はその生徒の自宅住所のある県が負担する。

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(勧告9)障害への配慮による試験時間延長に伴う休憩時間の調整に関する勧告

(2006年10月9日、2006年12月11日)

【事実の概要】

聴覚障害の学生が大学院修士課程の期末試験を受け不合格となった。試験の実施に当たっては、その障害への配慮から試験時間の延長が認められていた。しかし、他の受験者が2時間の昼休みが取れたところを、この学生には時間延長の影響でそれが20分しか保障されなかったため、試験不合格の理由は、このように短い昼休みしか保障されなかったことにあるとの訴えがあった。同様に、他の学生から、身体障害への配慮で30分試験時間が延長されたため、2時間の休憩が1時間半となったことが不合格の原因であるという訴えもあった。

【勧告】

その不合格の理由が休憩時間の短縮という事実に帰されるべきものではないこと、また障害学生の受験時間の延長は認められるが、休憩時間については少なくなることを確認しつつ、HALDEは、国民教育省に対して十分な休憩時間を確保するよう勧告した。ただし、2時間の休憩が1時間半となったケースにおいては、それ自体がすぐに差別となるとは認めず、個別ケースごとに検討する必要を確認した。なお、2005年法は、試験時間についてはその調整(延長)措置を予定しているとしても、休憩時間についての特別の措置を含むものではないが、2003年6月25日付け通達では障害学生に対して適切な昼食時間(少なくとも1時間)を確保するために、各試験の間には十分な休憩時間が設けられている必要があるとされていることを確認した。

【勧告のポイント】

<1> 障害のある者の受験に関して、試験時間の延長などの調整措置を取らなければならない。
<2> 試験時間を延長した場合、その分が大幅に休憩時間に食い込んでしまう(休憩時間を短くしてしまう)ことがないようにしなければならない。
<3> 試験時間が午前・午後にわたる場合などには、全体を調整して適切な休憩時間を確保しなければならない。

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(3)サービス提供・その他

(勧告10)視覚障害者の銀行口座開設に際し、銀行が受任者を要請したことに関する勧告

(2007年11月13日) 事件番号2007-296

【事実の概要】

本件は、視覚障害を有する申立人Xが、小切手口座の開設に際し、2つの銀行で直面した困難に関する事案である。Xは、2006年10月23日の郵便で、HALDEに対して申立を行った。2005年12月、Xが、2つの銀行で小切手口座開設のための手続きを開始したところ、右2つの銀行は、視覚障害者の口座は、公証人が作成した委任状によって指名される受任者の署名があって初めて開設される旨の説明を行った。これは、事実上、Xに追加費用を課すものであった。銀行1は、特例により、《自署が可能な場合には、私署委任状で足りる》旨を定めていた。しかし、私署委任状の場合にも、Xには追加費用が課せられるという点において、Xの不利益には変わりがない。他方、銀行2は、《自署の使用を希望する視覚障害者については、窓口で十分に顔を知られており、免責同意書に署名していることを条件として、口座を開設できる》旨の規定を置いていた。Xは、受任者を置くことを希望しなかったため、これら2つの銀行で口座を開設することを断念した。HALDEの調査によって、一般の顧客が銀行口座を開設する際の手続きには、いかなる費用もかからないことが判明した。HALDEは、これらの銀行が要請している手続きが、(障害者のための)合理的調整(amenagement raisonnable)であるのか否かを判断するために、司法省及びフランス銀行連盟(Federation Bancaire Francaise)に聴取を行った。これを受けて、司法省民事部は、HALDEに対し、口座契約を(障害者のために)適応させること(adaptation)を奨励していることを通知した。また、フランス銀行連盟は、HALDEに対し、《より重い手続きが定められているのは、視覚障害者を保護する観点からであり、差別ではない》と通知した。加えて、同連盟は、銀行側は《障害者の銀行サービスへのアクセスを容易にする》意志があることも強調した。

【勧告】

HALDE評議会は、(銀行に対し、)銀行と視覚障害を持つ顧客との間で締結される口座契約を適応させる(adapter)よう勧告する。HALDE評議会は、銀行に対し、視覚障害者が、自らの銀行口座の管理を安全かつ容易に行えるよう適切な措置(dispositifs appropries)を講じるよう勧告する。HALDE評議会は、視覚障害者の口座管理に係るあらゆる行為を可能とするために、例えば、点字による口座開設契約の準備、インタラクティブかつ音声識別可能な電子システムの設置、さらには、点字及び合成音声によるオーディオ・ガイドシステムを備えたATMの設置を奨励する。本勧告は、フランス銀行連盟、フランス銀行協会(Association Francaise des Banque)、及び、フランス銀行に通知される。フランス銀行連盟、フランス銀行協会は、6カ月以内に、本勧告の実施状況をHALDEに報告することを要請する。

【勧告のポイント】

<1> 財やサービスの提供に際し、障害を基準として特別な要請を課すことは出来ない(刑法典225-1条、225-2条4o)
<2> 視覚障害者が口座を開設するにあたり、銀行が受任者を要請することは、差別となる。
<3> 銀行に対し、視覚障害者が、自らの銀行口座の管理を安全かつ容易に行えるよう適切な措置を講じるよう勧告する。
参照条文:刑法典225-1条、225-2条4o

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(勧告11)航空会社による障害者の搭乗拒否に関する勧告

(2007年11月13日) 事件番号2007-298

【事実の概要】

本件は、航空会社による障害者の搭乗拒否に関する事案である。Xは、2005年7月6日の郵便で、2005年4月25日、マルセイユからダカールへ向かう途中、マドリッドでのトランジットの際になされた搭乗拒否に関し、HALDEに対して申立を行った。Xは、旅行会社でチケットを購入した際、当該旅行会社に、自らの障害と車椅子で旅行する旨を伝えていた。2005年2月28日、Xは、旅行会社から郵便を受け取った。他方、航空会社は、旅行中の車椅子の利用に関するXの要求を確認した。2005年4月25日、Xは、マルセイユからマドリッドへの旅を問題なく終えた。その後、マドリッドでダカール行き飛行機へ乗換えようとしていたところ、Xは、機長が、単独旅行の障害者であることを理由にXの搭乗を拒否していることを伝えられた。航空会社は、その際、Xに対し、マルセイユへ引き返すことを提案した。そこで、Xは、同日、同航空会社で、マルセイユへ引き返すこととなった。その際、Xは、マドリッド−マルセイユ間のフライトを何らの支援なく1人で行った。HALDEが送付した質問状に対し、航空会社は、次のように答えた:《顧客の身体障害は、IATA(国際航空運送協会)が確立した支援コードで掲載されることとなっている。予約券に記載されていたXのニーズは、WCHSであった。これは、このコードで予約をした乗客は、エアターミナルと航空機との間の移動に際し支援が必要であること、搭乗中の行為は自分で出来ることを示すコードである》。ところで、航空会社は、Xがマドリッドに到着した際に、そのスタッフが、Xには四肢麻痺があり、自分自身で搭乗することはできないことを確認したと主張した。こうしたケースでは、航空会社は、《3時間以上のきついフライトの場合、乗客は、その負担で支援者を用意することが必要である》と説明することとなっている。そこで、航空会社は、我々は現行規則に従って正しく行動したのであって、Xを搭乗させなかった決定は、《差別ではなく、乗客の安全に配慮したものであった》と考えた。他方、Xは、HALDEに対し、その障害の医学的科学的性質を明らかにする2つの健康診断書を提出した。診断書1は、2007年6月8日付けで主治医によって作成されたもので、主治医は、Xは筋疾患(myopathe)であるとした。診断書2は、専門医によって作成されたもので、専門医は、XはタイプIIIの脊髄筋委縮症(amyotrophie spinale)であるとした。これらによって、Xは、上肢及び下肢の運動機能が損傷を受けていることが確認された。

【勧告】

Xは、旅行会社によって正規に発行されたチケットを有していた。しかしながら、チケットには、搭乗中の行為は自分でできること、及び、必要な支援は航空機とエアターミナルとの間の移動に限られることを示すWCHSのコードが付されていた。他方、Xは、(搭乗拒否と)同じ日に、同じ航空会社において、1人で、何らの支援もなく、マルセイユ−マドリッド間のフライトを行っている。加えて、マルセイユでは、Xの単独旅行能力に関する条件は出されていなかった。確かに、飛行中の安全確保のために、(障害者の)搭乗拒否が正当とされることはあるが、その場合にも、マルセイユでダカールへの乗継便へのXの搭乗を受け入れた航空会社は、その旅のスタート時点であるマルセイユで、搭乗拒否の可能性をXに通知しておくべきであったといえる。加えて、証拠は、マドリッドにおいて、この問題を人間的に解決するための努力がなされていないことを示している。そうである以上、コードを誤った旅行会社の責任、又は、搭乗拒否をした、もしくは、少なくともマルセイユでマドリッドでの搭乗問題を通知しなかった航空会社の責任は、明らかに、追及されるべきものである。そこで、HALDE評議会は、旅行会社及び航空会社に、Xが被った損害の賠償を検討するために、Xと和解する(se rapprocher)よう勧告する。他方、HALDE評議会は、航空会社に対し、空の旅に際する障害者の権利に関する2006年7月5日の規約が定める諸規定の実施のために検討されている諸手段について弁明するよう要請する。HALDE評議会は、被申立人に対し、本勧告の通知後3カ月以内に、勧告の実施状況を報告するよう要請する。

【勧告のポイント】

<1> 飛行中の安全確保のために、障害者の搭乗拒否が正当とされることはあるが、その場合にも、旅のスタート地点で、搭乗拒否の可能性を通知しておかなければならない。
<2> 搭乗拒否を人間的に解決する努力もなされていない本件では、(顧客のニーズに関する)コードを誤った旅行会社の責任、及び、搭乗拒否をした、もしくは、少なくともマルセイユでマドリッドでの搭乗問題を通知しなかった航空会社の責任が、追及されるべきである。
参照条文:刑法典225-1条、225-2条
空の旅に際する障害者の権利に関する2006年7月5日の規約(reglement)
(CE no1107/2006)

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(勧告12)介助犬を連れていることを理由とするレストランへの入店拒否に関する勧告

(2007年6月18日) 事件番号2007-161

【事実の概要】

本件は、娘が介助犬を連れていることを理由としてなされたレストランへの入店拒否に関する事案である。車椅子に乗る娘を持つXらが、2006年8月30日の郵便で、HALDEに対して申立を行った。2005年2月11日の法律54条は、《交通機関、公共の場所へのアクセス、及び、職業・教育活動を可能にする場所へのアクセスは、障害者手帳の所持者を支援する盲導犬又は介助犬にも認められる。盲導犬又は介助犬の存在によって、障害者が希望するサービスや給付にアクセスする際に、追加的請求がなされてはならない》旨を定めている。他方、社会福祉・家族法典R.241-22条は、《障害者手帳の所持者を支援する盲導犬又は介助犬の公共の場への入場禁止は、第3級違警罪(contravention)について定められている罰金を科せられる》旨を定めている。

【勧告】

HALDE評議会は、レストランの経営陣に対し、盲導犬又は介助犬にアクセスを認めなければならない義務について警告する。これは、2005年2月11日の法律54条、及び、社会福祉・家族法典R.241-22条から導かれる義務である。他方、HALDE評議会は、レストラン・チェーン人事担当者の決定(全国各地の支配人、幹部チーム、地方支店長、法務・品質責任チームに対し、障害者を支援する盲導犬又は介助犬のレストランへのアクセスに関する忠告通知を出すという決定)を確認する。加えて、HALDE評議会は、レストランの経営陣に対し、従業員の教育及び関心喚起のために適切な措置(dispositifs appropries)を講じるよう勧告し、とりわけ、障害を理由とする民間サービスへのアクセス拒否を禁止する差別禁止に関する諸規定が従業員に通知されるよう、特別な措置(mesures specifique)を講じるよう要求する。HALDE評議会は、レストランの経営者に対し、本勧告の通知から2ヶ月以内に、本勧告の実施状況を報告するよう要請する。
参照条文:2005年2月11日の法律54条
社会福祉・家族法典R.241-22条

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(勧告13)知的障害者に対する航空会社による航空券の予約拒否に関する勧告

(2007年5月24日) 事件番号2007-131

【事実の概要】

HALDEは、2006年7月22日の郵便で、ダウン症を罹患したX(personne handicapee trisomique)からの申立を受けた。Xは、1人で旅行することが出来ない知的障害者であることを理由に、航空会社からチケットの予約を拒否されていた。Xは、飛行機での旅を禁忌としない旨の健康診断書を持っていた。しかし、航空会社は、医師の許可があったとしても、Xのスペインまでの旅行を可能とするためには、支援者が必要であったと主張した。さらに、航空会社は、HALDEに対し、知的障害者に課される支援条件は、IATA(国際航空運送協会)決議700、及び、2006年規約(CE no1107/2006)にその根拠があるとした。IATA7決議700は、障害を持つ又は可動性の減退した乗客とは、身体的又は精神的機能障害を理由として、搭乗に際し、飛行中及び地上において、他の乗客には与えられない個別の配慮又は支援を必要とする者と定義している。さらに、2007年7月に施行された欧州規約は、その4-2条において、《航空会社は、障害者又は可動性の減退した者に、必要な支援を提供し得る支援者の同行を要求することができる》と定めている。最後に、航空会社は、HALDEに対し、支援は、同行者の責任で行われるものであり、航空会社の責任には属さないと表明した。

【勧告】

HALDEは、IATAのルールは、障害者の搭乗を禁止するものではないことを指摘する。航空会社は、欧州規約4-2条を援用するが、《航空会社もしくはその代理店、又は、旅行会社は、障害や可動性の減退を理由として、本規約が適用される空港を離発着する飛行機のチケットの予約を拒否することは出来ない》旨が定める3条は参照していない。加えて、4-2条が定める差別禁止原則の適用除外は、第1段落1項aに列挙された条件でのみ可能とされている(第1段落1項a:《安全確保のための適用除外は、国際法、EU法又は国内法で定められる、もしくは、関係航空会社の証明書を発行した当局によって設けられる》)。航空会社によるチケットの予約拒否は、安全上の理由により、正当と見なされる可能性はあるが、その場合の理由は、具体的に検証されなければならない。すなわち、安全上の理由は、障害者及び可動性の減退した者に対する民間サービスの供給拒否を正当化するために、一般的抽象的に使用することはできない。本件では、航空会社は、具体的な検証を行っておらず、抽象的な評価を行ったに過ぎない。実際、Xは、航空会社から、医師の診断書によって旅行が禁忌とされていないこと、及び、単独で旅行できることの証明を要請されていない。他方、航空会社は、チケットの購入に際し、XにINCAD(incapacitated passengers handling advice)(国際的に定められた申請書)を交付することが出来た。交付していれば、航空会社は、Xに関する必要な医学的事項が書き込まれた申請書の送付を受け、それに基づいて、フライトに対する合意を与えることも、与えないことも出来たはずである。最後に、航空会社の《可動性の減退した乗客及び知的障害を持つ乗客の取扱いに関するマーケティング戦略》には、次のような定めがあった:すなわち、乗客は、《飛行機の中を移動すること、安全のための指示を理解・実施すること、1人でベルトを着脱すること、1人で酸素マスクを使えること、1人で食事ができること、あるいは、さらに、支援なく1人でトイレを使えること》が出来なければならない。しかし、航空会社は、Xが、これらの条件全てを満たしているかどうかの確認を行わなかった。以上より、航空会社は、Xについて、IATA又は欧州規約の定めるルールを正しく適用していないといえる。よって、航空会社が援用した安全上の理由は、正当とは見なされず、Xに対する拒否は、障害を理由とする差別に該当する。HALDE評議会は、航空会社に対し、Xの被った損害に対する賠償を行うよう勧告する。HALDE評議会は、調査により、障害者の受入れや障害者の状況の取扱いに関し従業員による不適切な行為(deficit)が繰り返しあったことが確認されたことを斟酌して、航空会社に対し、従業員の教育や関心喚起のために適切な措置(dispositifs appropries)を実施するよう勧告する。また、特に、障害を理由とする民間サービスへのアクセス拒否を禁止する差別禁止に関する諸規定が従業員に知らしめる特別な措置(mesures specifique)を講じるよう要求する。HALDE評価委は、航空会社に対し、2006年7月5日の規則3条及び4条の適用に関し実施しようとしている諸手段をHALDE評議会に通知するよう要求する。被申立人たる航空会社は、3カ月以内に本勧告の実施状況を報告しなければならない。

【勧告のポイント】

<1> 航空会社によるチケットの予約拒否は、安全上の理由により正当と見なされる可能性はあるが、その理由は具体的に検証されなければならず、安全上の理由が、障害者に対する民間サービスの供給拒否を正当化するために、一般的抽象的に使用されてはならない。
<2> 本件では、安全上の理由によりXに対するチケット予約の拒否が正当化されるかの具体的検証が行われておらず、航空会社が援用した安全上の理由は正当とは言えず、Xに対するチケットの予約拒否は、障害を理由とする差別となる。
参照条文:空の旅に際する障害者の権利に関する2006年7月5日の規約(reglement)
(CE no1107/2006)3条、4条

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(勧告14)障害を理由とする自動車保険への加入拒否に関する勧告

(2006年7月3日) 事件番号2006-161

【事実の概要】

本件は、障害を理由とする自動車保険への加入拒否に関する事案である。Xは、2006年1月20日の郵便で、HALDEに対し、保険契約の仲介を行う銀行によってなされた障害を理由とする自動車保険への加入拒否に関する申立を行った。Xは、5歳のときから麻痺があり、車椅子で移動していた。Xは、保険契約の仲介を行っていた銀行に対し、自動車保険及び住宅保険への加入を求めた。その目的は当銀行における複数の口座と契約を1つにまとめることにあった。銀行のファイナンシャル・カウンセラーが作成した基本合意(accord de principe)への対応として、Xは、元の保険会社との契約を解除した。なお、銀行は、Xの障害を知らないわけではなかった。住宅に関するリスクをカバーする契約1が、2005年10月28日、Xと銀行との間で締結された。そして、自動車関連のリスクをカバーする契約2が、2005年12月27日、署名された。しかしながら、自動車保険契約に署名した当日、Xは、銀行のカウンセラーから電話で、以下のことを告げられた。すなわち、障害を理由としてXの自動車保険への加入を認めることは出来なかったこと、ついては、保険契約の原本を返却して欲しいということである。銀行のカウンセラーが援用した理由は、特約の中にあった条項である。同条項は、《身体障害がないことを届出ること》と定め、(身体障害者の契約からの)排除を明示していた。HALDEは、2006年4月11日、銀行に対し、事前手続のための郵便を送付した。この郵便に対する返答が、2006年5月2日、3日になされた。銀行が提出した情報の検討の結果、Xは、障害のみを理由として保険契約から排除されたことが判明した。

【勧告】

刑法典225-1条は、《障害を理由として人々の間で行われる区別は、差別となる》旨を定めている。この規定により、保険契約へのアクセスを拒否するために、障害を基準とすることは出来ない。よって、Xと銀行との間で署名された自動車保険契約の中にある問題の条項は、刑法典225-1条及び225-2条1oに違反するものとして分析されるべきものである。また、これら規定の適用の結果、当該条項は、差別に該当すると見なされなければならない。銀行が代理した保険会社は、契約の特約の中に、問題の条項を残し続けたという過失を認めている。また、この問題の条項は、実際には、何らかの障害を狙ったものではなく、自動車の改修を狙ったものであった点で、いっそう、誤ったものであった。2006年4月28日の郵便により、保険会社は、HALDEに対し、この条項を削除したことを通知した。これにより、2006年1月6日以降、契約の応募者に課せられる義務は、リスクを高める可能性のある自動車の技術的改修の通知のみとなった。しかしながら、HALDE評議会は、本件において、銀行によるXの保険加入拒否は、刑法典225-1条及び225-2条1oの適用により、差別に該当すると考える。HALDE評議会は、2006年1月6日以降、契約内の違法な条項は保険会社によって削除されたことを確認する。HALDE評議会は、調査により、障害者の受入れや障害者の状況の取扱いに関し従業員による不適切な行為(deficit)が繰り返しあったことが確認されたことを斟酌して、被申立人(銀行及び保険会社)に対し、従業員の教育や関心喚起のために適切な措置(dispositifs appropries)を実施するよう、勧告する。また、とりわけ、障害を理由として保険加入を拒否する行為を禁止する差別禁止に関する諸規定を従業員に知らしめる特別な措置(mesures specifique)を講じるよう要求する。被申立人は、3カ月の期間内に、本勧告の実施状況を報告しなければならない。最後に、HALDE評議会は、自動車保険の保険料の決定において、障害や健康状態を考慮することについて、保険機関(organismes d’assurance)とともに検討を深めるよう(被申立人に)要求する。HALDEの平等促進部が、本勧告の実行に責任を負う。

【勧告のポイント】

<1> 保険契約へのアクセスを拒否するために、障害を基準とすることは出来ない(刑法典225-1条)。
<2> 契約の特約に定められた《身体障害がないことを届出ること》という条項は、刑法典225-1条及び225-2条1oに違反し、また、差別に該当する。
<3> 銀行によるXの保険加入拒否は、差別に該当する(刑法典225-1条及び225-2条1o)。
<4> 被申立人(銀行及び保険会社)に対し、従業員の教育や関心喚起のために適切な措置(dispositifs appropries)を実施するよう、勧告する。
<5> 被申立人(銀行及び保険会社)に対し、障害を理由として保険加入を拒否する行為を禁止する差別禁止に関する諸規定を従業員に知らしめる特別な措置(mesures specifique)を講じるよう要求する。
<6> 被申立人(銀行及び保険会社)に対し、自動車保険の保険料の決定において、障害や健康状態を考慮することについて、保険機関(organismes d’assurance)とともに検討を深めるよう要求する。
参照条文:刑法典225-1条、225-2条1o

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(勧告15)障害者へのアクセシビリティの保障の観点から倉庫の改修を求めた勧告

(2008年7月7日) 事件番号2008-171

【事実の概要】

Xは、パリ地域圏にある住居地の7号棟(no7)に住んでいた。Xには、小児麻痺の後遺症があり、外出の際には、電動車椅子を使用していた。Xのアパートは狭く、とりわけ、玄関ホールが狭かったために、住宅の中に車椅子を入れることは不可能であった。そのため、Xは、同じ階の近隣住人や訪問客の通行を邪魔とならないように、その車椅子を建物の1階にある倉庫に置いていた。2006年8月3日の郵便で、Xは、Y(管理組合)から《車椅子を除け、管理人に鍵を返却するよう》求める通知を受け取った。Yは、この措置を、倉庫の目的によって正当化した。すなわち、Xが車椅子を置いていた場所は、《共同所有者の所有物の倉庫ではなく》、共有物の維持用品の倉庫であると主張したのである。これに対し、Xは、この場所は、共同所有者全員が共有する自転車置き場であり、Xは、当然に、そこに車椅子を置くことができると反論した。そこで、Yは、2006年10月19日の郵便で、同じ路地の3号棟(no3)にある自転車・ベビーカー置き場の存在を強調し、Xに対し、ここに車椅子を置くことを認めるとした。HALDEによる聴取において、Yは、7号棟にXの車椅子を置くことを禁じたことを正当化できなかった。しかし、YがHALDEに提出した組合規約とXの住居がある不動産全体の見取り図から、Xの住居が含まれる建物には、以下の共有部分があること判明した:
 a)1階に、地下室のある管理人の住居
 b)各パートの1階に、自転車置き場、ベビーカー置き場
 c)地下に、共有部、及び、変圧器置き場
 2007年12月20日、問題の場所の実際の目的を確認するために、HALDE職員による現場検証が、Xとアパートの管理人の立会いのもと実施された。この現場検証によって、7号棟の倉庫には、メンテナンス用品や多くの雑多な物が置かれていることが判明した。現場検証は、続いて、3号棟でも行われた。これにより、3号棟の自転車・ベビーカー置き場は、Xの住居のある建物の入り口から30メートルのところにあること、その形状は7号棟と同じであること、バイクや原付が無造作に置かれ、二輪車の部品が散らばり、炭化水素の強い臭いがすることが判明した。

【勧告】

現場検証により、7号棟の倉庫には、雑多な物が置かれていることが判明した。加えて、3号棟の倉庫は、安全衛生の面でも、アクセシビリティの面でも、Xの車椅子置き場として十分に保障された場ではないことが判明した。他方、Xの障害(外出中はもっぱら車椅子で移動、短い距離は松葉杖で移動)を考慮すると、Xに、3号棟からの30メートルの道のりを歩かせるのは、酷であると思われる。Xは、自費で引越しをするか、あるいは、車椅子を改修しなければならないことになる。結論として、現場検証により、Xが車椅子を7号棟の倉庫に置くことを拒否することは、正当化されないこと、障害を持つXが3号棟の自転車・ベビーカー置き場にアクセスし、これを利用することを保障する条件は整っていないことが明らかとなった。ところで、HALDEによる指示を受けた住宅の共同所有者は、2008年4月9日の会合で、7号棟の倉庫の改修工事を行い、Xが、そこに電動車椅子を置くと同時に、その充電もできるようにすることを決定した。建築・住居法典L.111-7条(2005年2月11日の法律41条Iによって修正)は、住居用建物の設計、並びに、内部・外部の施設は、障害者がアクセス可能であるようにしなければならない旨を定めている。この義務は、新築の場合だけでなく、既存の建物やその一部を改修する場合にも関係する。そして、2006年5月17日のデクレ(no2006-555)は、この義務は、特に、内外の共有通路、駐車場、住居、エレベーター、共有部分、そして、その設備に及ぶと定めている。建物が、障害者にとってアクセス可能なものであると見なされるためには、障害を持つ住人又は訪問者が、可能な限り自分自身で、移動し、場所や設備にアクセスでき、設備を利用でき、自分のいる場所が分かり、意思疎通を図ることができる必要がある。障害者のアクセス条件は、他の者と同じであるか、あるいは、他の者と同等の質が保障されていなければならない。こうした条件の中で、HALDE評議会は、HALDE会長に対し、Yの以下の約束を確認することを推奨する。すなわち、7号棟の倉庫を2005年2月11日の法律及び同法の適用デクレが定めるアクセシビリティ保障義務に合致したものにするという約束である。そして、Yに対しては、本勧告の通知から1カ月の期間内に、実際に実現された改修をHALDEに報告するよう要請する。

【勧告のポイント】

<1> Xが、その車椅子を7号棟の倉庫に置くことを拒否することは、正当化されない。
<2> Yは、7号棟の倉庫を2005年2月11日の法律及び同法の適用デクレが定めるアクセシビリティ保障義務に合致したものにしなければならない。
参照条文:障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する2005年2月11日の法律(no2005-102)
大衆を受け入れる施設、大衆に開かれた施設、住宅用建造物のアクセシビリティに関する2006年5月17日のデクレ(no2006-555)

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(勧告16)障害児を扶養する者への社会住宅の優先的割当に関する勧告

(2006年6月19日) 事件番号2006-150

【事実の概要】

HALDEは、2005年5月19日、自らの健康状態と娘の障害を理由として社会住宅の割当を希望するXから、オート・ガロンヌ(Haute-Garonne)県の社会住宅賃貸機構で直面している困難に関し、申立を受けた。Xは、健康上の問題を抱えており、また、麻痺患者で、移動に際し車椅子を利用している娘を扶養していた。Xらは、トゥールーズ(Toulouse)から離れた郊外に2人で住んでいたが、治療のために、トゥールーズの中心街まで来ることがたびたびあった。2003年以降、Xは、トゥールーズにある5つの社会住宅機構、及び、トゥールーズ市長に対し、社会住宅への入居申請を行った。その際、トゥールーズの中心街に近い、タイプ4の1戸建て、又は、1階にあるタイプ3のアパートを賃貸したい旨の希望を出した。HALDEの調査により、Xに住宅の提案がなされたのは、約3年間で3回しかないことが判明した。うち2回は、2003年にOPACによりなされたものであるが、提案された不動産は、Xらの希望した地域にあるものではなかった。また、最後の1回は、2005年11月に県のHLM(公団住宅)公社による提案であったが、同公社により提案された不動産は、トゥールーズ近郊にある3階のアパートであった。これは、Xの障害及び娘の障害とは適合しないものであった。HALDEの調査により、住宅のローテーションは稀であること、不安定な状態に置かれた申請者が多いことから、Xの要求を満たすのは困難であることが明らかとなった。また、社会住宅機構の中には、その保有する賃貸用住宅の中に、Xの希望に合致した住宅を持たない組織もあった。トゥールーズでは、1階にあるタイプ3のアパートは非常に少なく、わずかにあるアパートは、Xの所得以下の低所得世帯に割り当てられていた。さらに、アパートの中には、割当対象者(attributaires relevant d’un contingent)用のアパートもあった(建築・住居法典L.441-1条、R.441-5条)。ところが、こうしたアパートで空きが出たときは、割当枠を有する機構だけが、選択した応募者を割当委員会(commission d’attribution)に推薦できることとなっている。

【勧告】

以上の調査の結果、HALDE評議会は、Xによる社会住宅への入居申請は、刑法典225-1条及びL.225-2条1oを無視して、Xの健康状態及び娘の障害を理由として却下されたものではないことを確認する。しかしながら、HALDE評議会は、Xの健康上の問題と娘の障害が、申請に際して優先されるべき基準とみなされなかったこと、及び、障害の状況が、社会住宅の割当審査の段階で優先事由として考慮されなかったことを確認した。こうした状況は、適用デクレが欠如していることによって、建築・住居法典L.441-1条が機能していないことに起因する。HALDE評議会は、雇用・社会的結束・住宅省に対し、速やかに適用デクレを公布し、とりわけ、障害の状態に置かれた者や障害者を扶養する者に有利となるよう、社会住宅の割当において優先されるべき基準を定めることを勧告する。HALDE評議会は、HALDE会長に対し、こうした優先基準が、県レベルの住宅政策、及び、社会住宅管理運営機構との協定の検討に際し考慮されるように、オート・ガロンヌ県議会及び県知事に働きかけるよう要請する。HALDE評議会は、HALDE会長に対し、社会住宅管理運営機構に、次のような建築・住居法典R.441-4条の規定を知らしめるよう要請する。R.441-4条には、《障害者の居住用として建築又は改修された住宅は、障害者に割り当てるか、又は、応募者がいない場合には、応募を正当化する状態にある高齢者、もしくは、こうした者と住んでいる世帯に割り当てる》ことが定められている。また、HALDE評議会は、割当枠を有する機構に対し、住宅の割当において、この規定を適用するよう要請する。HALDE評議会は、HALDE会長に対し、オート・ガロンヌ県知事に、改修された住宅及びそこに住んでいる者のリスト、さらに、住宅の割当を待っている障害者のリストを提出するよう要求することを推奨する。HALDEは、オート・ガロンヌ県知事に対し、本勧告の通知から3ヶ月以内にこれらの情報をHALDE会長に提出するよう要請する。

【勧告のポイント】

<1> Xによる社会住宅への入居申請は、Xの健康状態及び娘の障害を理由として却下されたものではない。
<2> 社会住宅への入居申請及び割当審査において、障害が優先されるべき基準と見なされなかったのは、建築・住居法典L.441-1条の適用デクレが欠如していることに原因がある。
<3> 雇用・社会的結束・住宅省に対し、障害者や障害者を扶養する者に有利となるよう、社会住宅の割当において優先されるべき基準を定めることを勧告する。
参照条文:刑法典225-1条、225-2条1o
建築・住居法典L.441-1条
障害者又は障害者を扶養する家族への社会住宅の優先的割当を目指す2001年12月21日の法律(no2001-1247)

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(勧告17)食品アレルギーを持つ乳幼児の受入れを排除する市営保育園の内部規定に関する勧告

(2009年1月26日) 事件番号2009-23

【事実の概要】

本件は、食品アレルギーを有する乳幼児の受入れを排除する市営保育園の内部規定を承認した市議会の議決の無効を求める非営利組織による訴えにつき、HALDEが、行政裁判所から意見(observations)を求められた事案である。市営保育園の内部規定は、市議会により可決されたもので、《自治体の保育園では、集団食の調理方法、食品の安全要請を考慮して、特別食は保障されない》旨を定めていた。2006年10月23日の勧告(no2006-227)によって、HALDE評議会は、既に、市議会が可決した保育園の内部規定に対する態度を明らかにしている。すなわち、HALDE評議会は、同勧告で、《市が可決した内部規定の条項は、食品アレルギーを持つ乳幼児の保育園への受入れを食事時間を理由に排除する規定であり、健康状態を理由とする差別となる》との判断を示している。加えて、HALDE評議会は、児童の健康状態に基づく保育園への入園拒否は、1989年11月20日の児童権利条約3条の規定、並びに、公衆衛生法典R.2324-17条、R.2324-28条、及び、R.2324-29条に反するものであると判断している。

【勧告】

食品アレルギーを持つ乳幼児は、お弁当を持参させることで受け入れが可能となること、また、安全な食事は、公共団体によって提供されうるものであることを強調すべきである。内部規定は、食品アレルギーを有する乳幼児の保育園への受入れを食事時間を理由に排除する結果を導くが、これは、正当な理由がなく、均衡を欠き、健康状態を理由とする差別であると見なされるべきである。結論として、HALDE評議会は、保育園の内部規定の差別的条項を無効とすべきであると考える。また、HALDE評議会は、市に対し、保育園の内部規定の差別的条項を廃止し、保育園において、食品アレルギーを持つ乳幼児に平等取扱原則の遵守が保障されるよう、適切な措置(mesures appropriees)を講じるよう勧告する。なお、HALDE評議会は、2007年11月26日の勧告(no2007-315)によって、市場での入手が可能となったら直ちに、安全な乳児用の食事を注文するという市長の約束を確認している。また、2008年4月7日の勧告(no2008-67)によって、保育園の内部規定の条項の差別的性格を確認し、行政裁判所に対し、その旨の意見を提示した。判決により、行政裁判所は、市に対し、市立保育園の内部規定を修正するよう命じた。 これに対し、マルセイユ(Marseille)市長は、控訴を行った。HALDE評議会は、行政控訴院への控訴手続きの中で、意見(observations)を述べることを決定する。なお、2009年1月6日の郵便で、マルセイユ市長は、HALDEに対し、勧告の実施状況報告の枠内で、食品アレルギーを持つ乳幼児の受入れを可能にするために、安全な食事を提供することで、適切な措置を講じたことを通知している。

【勧告のポイント】

<1> 食品アレルギーを有する乳幼児の受入れを排除する市営保育園の内部規定は、健康状態と理由とする差別に該当し、無効とすべきである。
<2> 市に対し、食品アレルギーを有する乳幼児の受入れを排除する保育園の内部規定の差別的条項を廃止するよう勧告する。
<3> 市に対し、食品アレルギーを持つ乳幼児に平等取扱原則の遵守が保障されるよう、適切な措置(mesures appropriees)を講じるよう勧告する。
参照条文:1989年11月20日の児童権利条約3条
公衆衛生法典R.2324-17条、R.2324-28条、R.2324-29条

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(勧告18)検事正による婚姻に対する異議は障害に基づく差別であるとした勧告

(2006年6月5日) 事件番号2006-128

【事実の概要】

HALDEは、2005年11月29日の郵便で、フランス麻痺患者協会(APE)から、リヨン(Lyon)検事正が行った婚姻に対する異議に関する申立を受けた。異議の対象となったのは、39歳のアルジェリア国籍の難民申請者Aと、障害率80%の脳性麻痺(IMC)を持つ45歳のBとの間の結婚であった。Aらは、婚姻に対する異議は、障害と国籍の2つの基準に基づく差別であると主張した。AとBの結婚の申請は、2003年12月28日、リヨン市長に提出された。Bの障害は、非進行性の運動機能障害で、知的障害はなかったが、リヨン市長は、検事正に照会し、検事正が調査を行った。そして、2004年1月9日、民法典175-1条に基づく婚姻に対する異議が、執行官(huissier)によって通告された。なお、民法典175-1条には、《検察官は、結婚の無効を要求し得るケースについて異議を申し立てることができる》ことが定められている。民法典146条には、《同意がなければ、婚姻は行われない》旨が定められている。他方、民法典175-2条には、《結婚に、146条により無効とされる可能性があると推認される重大な証拠がある場合、戸籍課の公務員は、検事正に審理を付託することができる。戸籍課の公務員は、それを本人らに通知する。検事正は、付託から15日以内に、婚姻を進めるか、これに異議を申し立てるかしなければならない》と定められている。2006年3月9日、HALDEからの郵便を受け取ったリヨン検察民事部は、この婚姻に対する異議は、合意の瑕疵(vice)を示す重大な証拠(民法典175-2条)に基づいてなされたものであること、本件婚姻は、民法典146条により無効とされる可能性があると推認される結婚であることを主張した。なお、リヨン検察民事部が依拠した重大な証拠は、<1>婚姻とは無関係の目的(=滞在資格の交付)、及び、<2>将来の夫婦の一方の(障害による)法的無能力の2つであった。婚姻に対する異議は、次のような文言でなされた:《Aのフランスでの地位の正規化が、婚姻の目的であるように思われる。調査の結果、及び、本件証拠は、将来の夫(A)は、滞在資格の交付という婚姻以外の結果を専ら期待して、婚姻の希望を有していることを示している》。これらの点は、婚姻の効果の1つを認めたことをもって、婚姻の目的の自白があったとするものであるが、Aによって、異議が申し立てられた。その最たる理由は、Aの婚姻の意図は、真の愛情に基づくものであることにあった。加えて、Aが出入国管理上、違法状態になったのは短期間であり、これのみで、婚姻に対する異議を正当化することはできず、また、これのみを、合意の欠如を示す重大な証拠とすることも出来ないものであった。2003年11月20日の憲法院判決(no2003-484DC)も、次のように述べている:《婚姻の自由の尊重は、1789年人権宣言2条及び4条で保護された個人の自由を構成するものであり、外国人の不法滞在が、本人の婚姻の障害となることを禁じている》。検察官が示した合意の瑕疵の2つめの証拠は、《Bは、重度の知的障害こそ有していないが、結婚の誓いの影響力を測ることができない障害を有しており、将来の夫による影響を受けるがままとなるリスクがある》というものであった。婚姻への異議は、次のような文言でなされた。《Bが利用している支援サービスで得た情報によると、Bの知的能力は制限されている》。ところで、Bの両親によって同時に提出された後見申請が、《Bは、市民生活上の行為において、支援や監督を必要としていないことが、全証拠から確認された》ことを理由として却下されたことが判明している。加えて、申立に添えられた医師の診断書から、Bには、《発声において重大な運動障害があるが、それに伴う知的障害はない》ことが判明している。また、Bには発声に困難が確認されるにすぎないのに、(検察官の)調書は、Bには意識障害があると結論付け、それを知的障害としたことは明らかである。これらの連続する意味の横滑りは、Bに対する差別的取扱いを証明するのに十分である。Bは、身体的外見のみによって、知的障害者とされたといえる。

【勧告】

これらの全要素を勘案すると、検事正による婚姻に対する異議を、国籍を理由とする差別にあたると性格づけることは難しい。しかし、逆に、Bが主張した障害に基づく差別は、明らかであると思われる。この差別は、典型的な差別意図に基づくものではないが、身体障害及びその結果としての外見を知的障害及び法的無能力と同視するという偏見に基づいた、一連の連続する推定の結果生じたものといえる。HALDE評議会は、HALDE会長に対し、以下のことを行うよう勧める:司法大臣に対し、検察官に通達を出し、身体障害は、婚姻に対する異議を正当化しえないことを知らしめるよう要求すること。

【勧告のポイント】

<1> 検事正による婚姻に対する異議は、障害に基づく差別である。
<2> 身体障害は、婚姻に対する異議を正当化しえない。
参照条文:民法典146条、175-1条、175-2条

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