4-3 各主体の検討プロセスへの対応

(1) 韓国政府

 韓国では前述のとおり、障害者権利条約の批准前から障害者政策に関する5か年計画を策定して総合的な障害者政策を推進しており、韓国政府はこの計画に基づく施策の実施とモニタリングを進めている。障害者政策調整委員会をはじめ、障害者政策の立案・実施・評価のプロセスには障害者団体の代表を参加させる仕組みとなっており、近年その参加範囲を拡大させている。

 ただし、今回行った現地調査のインタビューによれば、包括的な最初の報告の検討プロセスにおいては、国連障害者権利委員会の会期前作業部会や建設的対話に向けた韓国政府と障害者団体との協力や意見交換は行われなかった。これについて中央連絡先の担当者は、「初めての審議で不慣れであったため」と説明している。また、国連障害者権利委員会の委員と韓国政府代表団が会期中に非公式に接触することも、誤解を招く恐れがあるという理由で行わなかった7

 国連障害者権利委員会の最終見解の発表後、韓国政府は2014年11月に中央連絡先と各府省関連部局の懇談会を行い、最終見解への対応を協議した。また、政府系シンクタンクである障害者開発院が最終見解に関する自主的な研究を進めており、2015年中に研究結果を発表する予定である。さらに、2015年の障害者政策調整委員会では、最終見解をどのように実施するかについてのロードマップを策定する予定である。なお、最終見解での指摘事項は、パラレルレポートで指摘されていたものとかなり重複しており、一部についてはすでに韓国政府が改善プロセスに着手しているとのことである。8

(2) 国家人権委員会

 国家人権委員会は、2014年3月と同年8月の2回、国連障害者権利委員会にレポートを提出した。前者は国連障害者権利委員会の会期前作業部会に向けて、また後者は国連障害者権利委員会第12会期(韓国の包括的な最初の報告に関する建設的対話と審査)に向けた資料として提出されたものである9

 国家人権委員会の担当者によると、最初のレポートは、2013年10月に国連人権高等弁務官事務所(The Office of the High Commissioner for Human Rights (OHCHR))から独立した仕組みとしての意見提出の要請があり、これを受けて作成・提出したものである。また、2つ目のレポートは事前質問事項に対する政府回答がなされた後に、1つ目のレポートに肉付けする形で作成・提出された。特に1つ目のレポートの作成過程では、国連人権高等弁務官事務所から各条項別に重要な課題などについてフィードバックがあり、国家人権委員会は国連人権高等弁務官事務所と緊密に連絡をとりながらレポートを作成したとのことである。

 国家人権委員会は、韓国が検討対象となった国連障害者権利委員会の各会合(会期前作業部会及び第12会期)にも参加している。

 2014年4月に開催された会期前作業部会では、国連人権高等弁務官事務所の事務局と国家人権委員会の担当者とのやりとりが持たれ、そこで幾つかの項目に関する質疑応答と国連側からの助言があったとのことである。その中には国連障害者権利委員会第12会期の韓国代表団の構成に関する助言もあり、その内容は国家人権委員会から中央連絡先に伝達され、実際の韓国代表団の構成に反映された10。第12会期の韓国代表団の構成を見ると、中央連絡先だけでなく政府各関連各部庁、司法府からもメンバーが参加している他、国会議員や国家人権委員会も独自に参加している(図表4-4)。国家人権委員会の担当者によると、こうした幅広い代表団の構成は、国連側からの助言を踏まえたものである。

 また韓国の審査が行われた国連障害者権利委員会第12会期の際には、韓国担当報告官との非公式な会合があったほか、現地の大使館関係者、参加していた民間団体(障害者団体など)とも話し合う機会があったとのことである11。このように、国連障害者権利委員会の会期中に、国家人権委員会は非公式な場でも様々な意見交換を行っていた。

 これらの取組の結果、国家人権委員会がレポートで提言した内容の相当部分が最終見解に反映されたと担当者は述べている。国家人権委員会は、最終見解の周知とその実施促進のため、政府に対する政策勧告を行うとともに、韓国の次回の統合報告(2019年に提出が求められている。)までに国家人権委員会が行う条約実施管理に関する5か年計画を2015年中に策定する予定である12

表4-4 国連障害者権利委員会第12会期の韓国政府代表団名簿
番号 所属及び職位 氏名 備考
1 駐ジュネーブ代表部 大使 チェ・ソギョン 団長
2 保健福祉部 障害者政策局長 ユン・ヒョンドク 副団長
3 保健福祉部 障害者権益支援課長 カン・インチョル
4 保健福祉部 障害者サービス課長 ハン・サンギュン
5 保健福祉部 精神健康政策課長 イ・チュンギュ
6 保健福祉部 障害者政策課事務官 チェ・スンヒョン
7 保健福祉部 障害者権益支援課事務官 キム・ウンニョン
8 保健福祉部 障害者自立基盤課事務官  イム・アラム
9 保健福祉部 障害者権益支援課主務官 チョン・ヨンベ
10 保健福祉部 児童権利課主務官 イ・ビョンヒ
11 教育部 特殊教育政策課研究官 ノ・ソンオク
12 外交部 人権社会課事務官 ラ・ヨンウン
13 法務部 人権政策課法務官 アン・スヨン
14 法務部 人権政策課事務官 チャ・ユジン
15 文化体育観光部 国語政策課研究官 カン・ミヨン
16 雇用労働部 障害者雇用課長 イ・サンヒ
17 女性家族部 権益支援課長 チェ・チャンヘン
18 国土交通部 交通安全福祉課長 オ・ギホン
19 国土交通部 交通安全福祉課事務官 クァク・イクホン
20 選挙管理委員会 選挙1課書記官 イム・ビョンチョル
21 最高裁判所判事 イ・スジン 司法府
22 最高裁判所判事 ユ・ジェミン 司法府
23 障害者開発院 権益増進研究部長 チェ・スンチョル
24 障害者開発院 国際協力研究員 シン・ドンギュン
25 同時通訳者 ウ・ジュヒョン
26 同日通訳者 パク・キヒョン

(注)政府代表団とは別に、国家人権委員会からチャン・ミョンスク常任委員、イ・ボラム障害差別課調査官の2名、さらに国会議員が1名参加。

(3) 市民社会

 韓国の市民社会では、条約批准後に主な障害者団体が組織していた「国連障害者権利条約モニタリング連帯(以下、「モニタリング連帯」と記述する。)」を母体として、パラレルレポートの作成や国連障害者権利委員会会期でのロビー活動などを目的とする「国連障害者権利条約NGO報告書連帯(以下、「NGO報告書連帯」と記述する。)」が新たに結成され、27団体が参加した。

 NGO報告書連帯は前述のとおり、パラレルレポートを事前質問事項作成直前の2014年3月7日と、審査直前の9月12日の2回、国連障害者権利委員会に提出している。またNGO報告書連帯の関係者によると、韓国の審査が行われた国連障害者権利委員会第12会期では、韓国の審査が行われた9月17日の昼休みにプライベート国別ブリーフィングが行われ、NGO報告書連帯が参加し(韓国政府関係者は不参加)、韓国の状況に対する意見交換が行われた13。また、NGO報告書連帯のメンバーは会期中、国連障害者権利委員会の各委員と接触し、情報提供や説明を行った。一方、韓国政府代表団との意見交換や情報提供は行わなかった14

 こうした取組の結果、NGO報告書連帯がパラレルレポートに記載した提言の70~80%が国連障害者権利委員会の最終見解に反映されたとNGO報告書連帯の関係者は述べている15

 なお、国連障害者権利委員会の最終見解が2014年10月3日にとりまとめられたことにより、NGO報告書連帯は当初目的としていた活動が終了し、2015年1月に解散した。改めてモニタリング連帯が活動を再開することとなったが、NGO報告書連帯に比べ参加団体数が大幅に減少したため、今後の体制拡充が課題となっている。


7 保健福祉部 キム・ウンニョン氏、チェ・スンチョル氏インタビュー
8 保健福祉部 キム・ウンニョン氏、チェ・スンチョル氏インタビュー
9 国家人権委員会 チョン・ホギュン氏、キム・ウォンヨン氏インタビュー
10 国家人権委員会 チョン・ホギュン氏、キム・ウォンヨン氏インタビュー
11 国家人権委員会 チョン・ホギュン氏、キム・ウォンヨン氏インタビュー
12 国家人権委員会 チョン・ホギュン氏、キム・ウォンヨン氏インタビュー
13 第12会期では、市民社会のブリーフィングは、非公式な会合で行われていた。
14 障害者権利条約モニタリング連帯 イ・ソック氏ほかインタビュー
15 障害者権利条約モニタリング連帯 イ・ソック氏ほかインタビュー

前のページへ次のページへ