4-4 主要レポートの記述内容と最終見解との関連

 ここでは、韓国の包括的な最初の報告の検討プロセスでやりとりされた主要なレポート、文書について、記述内容のポイントを比較・検討し、国連障害者権利委員会の最終見解に至る意見・情報交換の概略を分析する。なお、障害者権利条約の条項すべてについて整理・検討を行うことは膨大な情報量となるため、ここでは、基本的かつ重要性が高いと思われる6つの条項(第5条、第6条、第9条、第12条、第19条、第24条)について整理・検討を行う。また、図表4-3に太文字で示した文書を整理・分析の対象とする。

(1) 第5条 平等及び無差別

 主要レポート及び文書類の障害者権利条約第5条に関する記述のポイントを図表4-5に整理した。このうち、国家人権委員会とNGO報告書連帯からはそれぞれ2度レポートが提出されているが、いずれも2回目のレポートは最初のレポートの内容の肉付けやデータの更新をしたものであり、趣旨に変更がなかったのでまとめて記載した。

 第5条に関する主な論点として、韓国の「障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律(ARPDA、以下「障害者差別禁止法」と記述する。)」の具体的な施行内容、障害者差別の救済の範囲と実効性、障害のある女性の妊娠中絶の問題が挙げられる。国家人権委員会からのレポートには第5条に関する記述はなく、特に障害のある女性の妊娠中絶については包括的な最初の報告にも記述されていない。これらの論点は、主に市民社会からのパラレルレポートの指摘を踏まえて事前質問事項で取り上げられたものと考えられる。

 事前質問事項への政府回答では、韓国政府はこれら3つの論点についてそれぞれ回答しているが、最終見解では障害のある女性の妊娠中絶を除く2点について懸念が示された。それらの懸念や勧告は、大筋で市民社会からのパラレルレポートの主張に沿った内容となっている。

表4-5 第5条に関する主要レポートなどの記述のポイント(韓国)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告16
2011年
6月
  • 障害者差別禁止法により、様々な領域における障害を理由とした差別を禁止を規定している。
  • 雇用、財・サービスの提供、教育、職業訓練など、様々な分野における差別を禁止している。
  • 障害者差別禁止法に加え、障害者雇用促進及び職業リハビリテーション法、障害者大学特例入学制度で障害者に対する特別な措置を規定している。
  • 国家人権委員会に不服を申し立てるか、裁判を申し立てることによって救済を受けることができる。
  • 国家人権委員会は障害者差別禁止法の違反を修正するために計30回の勧告を実施した。裁判所は差別を是正するための是正命令を出すことができる。
    2008年4月から2010年9月末まで委員会が受け取った障害者差別事例の数は計2,938件であり、そのうち2,035件が処理された。
-
条約実施に関する情報17
(NHRC)
2014年
3月,8月
-
パラレルレポート18
(Korean DPO & NGO Coalition)
2014年
3月,9月
  • 障害者差別禁止法及びその施行法令は、具体的に合理的配慮の範囲と内容を列挙し、最低限のレベルでその提供を命じているのみである。その結果、障害種別、障害の程度、性別、年齢、個人的な状況、経緯などの要素に基づき、当面の平等を達成する手段として、合理的配慮を提供することに限定されている。(6)
  • 差別の是正を担当する指定機関の国家人権委員会は、その独立性、及びその役割を正しく果たしていく上で疑問がある。
  • 裁判所は、条約の理解と認識が足りず、差別に関する申立てについて、消極的な解釈や決定を行った結果の理解、認識が欠如している。
  • 母子保健法第14条1項、施行令第15条2項は、母親又はその配偶者に見つかった優生学上又は遺伝的精神障害、又は身体的な病気に基づく人工中絶を許可している。そのような許可は、障害者のいる家族の子供を産む権利、家族を持つ権利を侵害するだけでなく、障害者そのものの存在を否定するものである。
事前質問事項19 2014年
4月
  • 国家及び地方レベルで、障害者に対する差別的行動、政策、法律を改善し、なくすために取られた方法に関する情報を提示してください。障害者の多様性を考慮した事実上の平等を達成するために取られた積極的な行動について言及してください。(4)
  • 障害者差別禁止法の実施についての情報、また、すべての障害種別に対して同等かつ効果的な法的保護が行われたかを保証する方法についての情報を提示してください。(5)
  • 母子保健法の実施水準について、「女性又はその配偶者が、胎児に高い確率で影響を与える遺伝的障害がある」場合の人工中絶の減少に関する追加的な情報を提示してください。(6)
事前質問事項への政府回答20 2014年
6月
  • 障害者の収入面を助けるために障害者年金制度が2010年7月に導入された。障害介助・支援制度を導入、他に様々な障害者支援プログラムを実施。(15)
  • 特殊教育法により義務教育プログラムを拡大。大学入学の特例プログラムにより多数の障害者が大学に在籍。(16)
    ・障害者雇用割当制度を強化し、障害者の雇用が改善した。(17)
  • 障害者差別禁止法は障害者に対するすべての形の差別を禁止し、障害者に対する差別が禁止されている主な分野において訴訟手続を含み、よって法の下の平等を保護している。(23)
    *21~23は障害者差別禁止法に基づく申立てと国家人権委員会の機能・権限に関する説明
  • 人工中絶は刑法により完全に禁止されているが、母子保健法14条は、強姦や準強姦、近親相姦や母親の健康への著しい危険など、例外的な事例においてのみ認めている。(24)
  • 母親に障害がある場合でも人工中絶を禁止するよう母子保健法を改正した。(25)
  • 違法中絶に関する包括的な計画を2010年2月に制定した。(27)
最終見解21 2014年
10月
  • 2008年の障害者差別禁止法が、効果的に実施されていない事を懸念する。特に、救済を求めようとする申立ての大半がか解決されていない事を懸念する。(11)
  • 締約国が人的資源を拡大し、国家人権委員会の独立を高めることを勧告する。(12)
  • 裁判による救済を保証し、法務部による是正命令の基準を下げるために、障害に基づく差別を受けた被害者の裁判の費用を削減、又は免除することを勧告する。(12)
  • 障害者差別禁止法の効果的な実施の必要性や自らに与えられた差し止め命令権への理解について、裁判官の意識を高めるよう勧告する。(12)

注:各文末の数字は、原資料の該当箇所のパラグラフ番号を示す。

(2) 第6条 障害のある女子

 主要レポート及び文書類の障害者権利条約第6条に関する記述のポイントを図表4-6に整理した。

 第6条に関しては、包括的な最初の報告で教育、雇用、妊娠・出産、家庭内暴力・性暴力などに関する取組の状況が記載されているが、国家人権委員会、市民社会が提出したレポートでは、これらに関し多岐にわたる問題が指摘された。事前質問事項では、これらについて個別に情報提供を求めるのではなく、韓国の障害者政策の基本計画にも含まれる女性発展基本法、女性政策基本計画の実施状況及びそれによる状況改善について情報提供を求める内容となっている。

 韓国政府は、事前質問事項への政府回答の中で、女性発展基本法に基づく男女平等発展計画やその他の個別の取組について説明している。しかし、最終見解では韓国の障害者政策に性別の観点が欠如しているとの懸念が示され、障害のある女性に特化した政策方針の創出、各問題点に関する実効ある政策整備の勧告など、かなり厳しい内容が盛り込まれた。その内容は、国家人権委員会や市民社会からのレポートの主張を踏まえたもので、特に国家人権委員会の指摘を反映したものとなっている。

図表4-6 第6条に関する主要レポートなどの記述のポイント(韓国)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
6月
  • 障害のある女性は100万3千人で、障害者全体の41.3%。障害のある女性が障害や性別を理由に差別されないことを法律で規定している。
  • 「障害者政策発展5か年計画」、「女性政策基本計画」などで女性又は障害者関連総合政策を設け、実施している。
  • 障害者雇用促進法では特に障害のある女性の雇用を促進。2010年現在、障害のある女性の経済活動参加率は24.6%と、男性障害者の48.4%の半分。
  • 障害者福祉法は政府に対して、障害のある女性のための基礎学習及び職業教育などの施策を作ることを要求。
  • 2010年には、20か所の女性障害者ハーモニーセンターを指定。
  • 障害者差別禁止法(第33条(2)(3))で出産に関する取組を規定。政府は障害のある女性の出産を支援するために重度障害のある妊婦に4週間ヘルパーを派遣。
  • 家庭内暴力、性暴力については障害者差別禁止法(第33条(4))で取組を規定。カウンセリングなどによる支援を実施。
条約実施に関する情報
(NHRC)
2014年
3月,8月
  • 包括的な最初の報告では、障害のある女性において、障害のある男性よりも教育レベルが低いと述べているが、そのような現象の原因を分析できておらず、障害のある女性の教育レベルを高めるために、普通教育(初等教育及び中等教育)の代わりに社会的教育の機会の向上に集中するだけの提案を示している。
  • 2012年の障害者白書(韓国障害者開発院)は、障害のある女性の教育機会からの排除が、最終的に、就職の困難、就職後の貧困(ワーキングプア)状態及び低賃金に繋がり、障害のある女性の悪循環を作り出していると指摘している。
  • 障害のある女性において、育児支援サービス、妊娠・出産のための専門病院のような産科サービスに対する強い要望があるが、そのような支援を提供する国内の制度は不足している。
パラレルレポート
(Korean DPO & NGO Coalition)
2014年
3月,9月
  • 障害のある女性は、一般的な公共政策、女性政策から排除されているだけでなく、障害者に関する政策においても排除されている。近年、障害のある女性に特化した政策が増えているが、絶対的な質や量はわずかなままである。さらに、それらの特化した政策は、結果的に、障害のある女性のための政策を分離、孤立させ、質を下げる可能性を高める。
  • 社会構造を考慮すると、障害のある女性及び少女は、性的、家庭内暴力の対象となる可能性がきわめて高い。性的、家庭内暴力を受けた人々のための保護施設など、暴力を受けた後の措置に関して、一般の女性に対する政策に比べて、障害のある女性のための政策は著しく欠如している。
  • 統計的に、障害のある女性は6倍の確率で普通教育を断念、又は、開始していない可能性があり、中等教育以下あるいは中等教育までという、義務教育のみの人の割合が非常に高い。
事前質問事項 2014年
4月
  • 障害者政策発展5か年計画の一部である女性発展基本法及び女性政策基本計画の実施についての情報を提示してください。女性発展基本法及び女性政策基本計画の実施が、労働、教育、健康及び社会保障における状況改善にどのように寄与したかを言及してください。(7)
事前質問事項への政府回答 2014年
6月
  • 韓国政府は女性政策基本計画を、女性発展基本法7条に従い、男女平等発展5か年計画として作成し導入しようとしている。(第3次計画の概要について説明。)(28)
  • 障害のある女性の雇用を強化するために、政府は重度障害のある女性を2010年4月以降に雇用した企業主が月500,000ウォンもの助成金を受ける事ができる、障害雇用助成制度を導入した。(29)
  • 障害や差別によって学習の機会を得られなかった障害のある女性のための教育サービスを障害者福祉法に基づき提供するために、政府は韓国語や基本的な英語、基本的な数学など、基本的な科目に関する授業や各種プログラムを提供する。(30)
最終見解 2014年
10月
  • 障害者に関する立法や政策が性別の観点を含まないことを懸念する。また、障害のある女性に対する家庭内暴力、性的暴力を予防するための十分な手段がないことを懸念する。障害のある女性の生涯学習、妊娠、出産への援助の不足も懸念される。(13)
  • 性別の観点を、障害に関する立法や政策に組み入れ、障害のある女性のために特化した政策を開発することを勧告する。(14)
  • 障害のある女性が、普通教育を修了したかあるいは排除されたかに関係なく、適切な生涯教育を受けることを保証するよう勧告する。(14)
  • 障害のある女性の妊娠、出産における援助を増やすよう勧告する。(14)
  • 障害のある女性に対する暴力の解決のため入所施設の内外で効果的な措置を講ずるよう勧告する。(14)

(3) 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 主要レポート及び文書類の障害者権利条約第9条に関する記述のポイントを図表4-7に整理した。

 第9条には施設、サービス及び情報に関するアクセシビリティの確保が含まれる。包括的な最初の報告ではこれらについての政府や金融機関などの取組が説明されているが、国家人権委員会、市民社会が提出したレポートでは、施設、サービス、情報のアクセシビリティ確保の取組がいずれも不十分で、目標未達になっているとの指摘がなされた。特に、政府が定めたアクセシビリティ基準に問題があるとの指摘がなされている。これらの指摘を受け、事前質問事項ではアクセシビリティ基準に言及しつつ、アクセシビリティ確保の具体的な方策について説明を求めている。

 事前質問事項に対する政府回答では関連する法律、ウェブコンテンツアクセシビリティ指針をはじめとするアクセシビリティ基準について説明がなされた。しかし、最終見解はアクセシビリティ基準や関連法の改訂を求める内容となっており、これは国家人権委員会及び市民社会のレポートの指摘を踏まえた内容だといえる。

図表4-7 第9条に関する主要レポートなどの記述のポイント(韓国)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
6月
  • 建築基本法、「障害者・高齢者・妊婦の便宜増進の保障に関する法律(以下「便宜増進法」と記述する。)」により要件を規定している。2008年には共同住宅の法的義務への対応率は83.2%に達している。
  • 「第3次便宜増進国家総合5か年計画」で便宜施設の設置率を88%に上昇させ、便宜施設の適合性も高めることを定め、取り組んでいる。
  • 「交通弱者の移動便宜増進法(以下「交通弱者法」と記述する。)」第17条の2に基づいたバリアフリー生活環境認定制度により、2009年現在、計22個の道路及び建築物を認定。
  • 障害者差別禁止法における様々な規定内容を紹介。ATM、インターネットバンキングなどでの金融機関における取組状況を紹介。
  • アクセシビリティに関しても、障害者差別禁止法により、国家人権委員会に申し立てることで救済を受けることができる。
条約実施に関する情報
(NHRC)
2014年
3月,8月
  • 便宜増進法は、公共団体事務所、ターミナル、駅、障害者福祉施設、総合病院を含め、適合設備を設置する義務がある施設を示した。
  • 便宜増進法では、一般人によって利用される施設が所定の面積規模より小さい場合、例外条項の対象となる。
  • 最初の報告では、韓国は、様々な分野で障害者のアクセシビリティを保障すると述べているが、実際には、トイレや指定駐車スペースを含め、日常生活での障害者に対する適合施設の不適切な設備及び管理不足によって起こるアクセシビリティの問題を認めることができていない。
  • 障害者差別禁止法は、古い便宜増進法の下でかつて作成されたアクセシビリティ基準を採用している。そのため、その後に起きた社会的、文化的、技術変化を完全に反映できていない。
パラレルレポート
(Korean DPO & NGO Coalition)
2014年
3月,9月
  • 政府は、2014年までに適合施設の導入率を88%まで引き上げる計画であると言及している。しかし、2013年末、導入率は60.2%にとどまる。
  • 障害者が専用で利用できる移動手段に関して、導入率は、法的要件の60%のみとなっている。
  • 多くのウェブサイトは視覚障害者が利用できないままで、聴覚障害、発達障害のような各障害種別の要求を満たすウェブアクセシビリティは脆弱なままである。
  • スマートフォンアプリに関するアクセシビリティ指針の文書が開発、実施されているが、承認率はまだ公的機関のみに対する評価についてのみであり、その実施は単に勧告のみであり、法的要件ではない。
事前質問事項 2014年
4月
  • 都市及び農村において、物理的環境、交通、情報コミュニケーションの技術及びシステム、また公衆に提供されている施設やサービスを利用するにあたって障害者がそうでない人々と同じ基準でアクセスできることを保証するためにどのような方法(アクセシビリティ基準を含む)を取りましたか?アクセシビリティ基準に従わなかった場合に課される制裁についても示してください。(10)
事前質問事項への政府回答 2014年
6月
  • 便宜増進法についての説明(42)
  • 交通弱者法についての説明(43)
  • 韓国政府は、韓国政府のウェブコンテンツに関するアクセシビリティ指針、及び情報やコミュニケーションに関する多数のアクセシビリティ基準を制定し発表した。(44)
  • 公的機関や企業がウェブサイトのアクセシビリティ提供を怠った場合、それによって被害を受けた障害者は国家人権委員会等に申立てを行い、損害賠償を受けることができる。(44)
  • 政府と地方自治体は自宅の便宜設備に必要な修繕や修理を助成し、障害者の日常生活における便宜促進に活発に取り組んでいる。(45)
最終見解 2014年
10月
  • 障害者が利用可能なバス、タクシーが少ないこと、建物のアクセシビリティ基準の対象が限定されていること、ウェブアクセシビリティが不十分なままであることを懸念する。(17)
  • 障害者がすべての公共交通機関を利用できるよう、公共交通政策を検証評価することを勧告する。
  • アクセシビリティ基準をすべての公的な建物や職場に適用することを勧める。(18)
  • すべての障害者がウェブサイトの情報にその他の人々と平等にアクセスし、障害者がスマートフォンにアクセスできるよう、関連法を改正することを勧告する。(18)

(4) 第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 主要レポート及び文書類の障害者権利条約第12条に関する記述のポイントを図表4-8に整理した。

 韓国では包括的な最初の報告提出後に民法の改正を行い、それまでの禁治産者制度を廃止して新たに後見制度を導入した。しかし、国家人権委員会及び市民社会が提出したレポートでは、新たに導入された後見制度の問題点が指摘された。そこで事前質問事項では、後見制度に関する情報提供、新しい制度がどのように障害者の法的能力を認めているかの説明を韓国政府に求めた。

 韓国政府は事前質問事項への政府回答の中で後見制度の内容、目的、効果などについて説明しているが、その直後に国家人権委員会が国連障害者権利委員会に提出したレポートでは、後見制度の下でも障害者の資格や雇用を制限する規定が多くの法律に含まれていることが指摘された。

 国連障害者権利委員会の最終見解では、後見制度はむしろ後見人による代理意思決定を助長するものとして制度そのものへの懸念が示され、制度の見直しが勧告された。これは、国家人権委員会及び市民社会のレポートの主張、特にNGO報告書連帯のパラレルレポートでの問題点の指摘を踏まえたものと考えられる。

図表4-8 第12条に関する主要レポートなどの記述のポイント(韓国)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
6月
  • 障害者差別禁止法などにより、障害者に対する差別を禁止。障害に基づいて権利能力を制限する国内法は存在せず、彼らの相続権や財産の所有権は彼らが持つ障害とは関係なく保証される。
  • 「禁治産者のすべての法律行為は取り消すことができる」(民法第13条)とした現行制度を改善した成年後見制度とする予定である。
  • 障害者差別禁止法において、該当領域において障害者が非障害者と同等な法的能力を享有することを定めている(第15条)。
  • 保健福祉部は障害者便宜施設の法律に関連する公務員教育課程を開設、公的機関を対象に障害者差別禁止法に関する教育を提供。
  • 国家人権委員会は、国民の理解の向上や同じような差別の再発の防止のために、マスメディアや事例集を活用した取組を行う。
条約実施に関する情報
(NHRC)
2014年
3月
  • 障害者の自己決定権を保証する環境を創造するために、民法を改正して無能力者(禁治産者)制度を廃止し、代わりに後見制度を採用し、2013年7月1日に施行した。しかし、この制度の実施のための詳細な手続規則は確立されておらず、関連組織は準備されていない。
パラレルレポート
(Korean DPO & NGO Coalition)
2014年
3月,9月
  • 成年後見制度では、疾病、障害、老齢による精神的な制約のため、永続的に課題を管理できないと認められた者に関して、財産及び個人の状況(病院や施設への入退所などの決定)に関する問題について、後見人によって代理で意思決定することができる。
  • 限定後見制度(限られた範囲の行為について代理意思決定を許可されている)及び特別後見制度(特定の行為について代理意思決定を許可されている)は、主として、障害に基づき法的能力を制限する代理意思決定制度でもある。これらの制度は、明らかに条約第12条に違反している。第12条は、障害者の完全な法的能力を認め、支援された意思決定制度の実施を要求している。
事前質問事項 2014年
4月
  • 民法の改正及び2013年7月に導入された後見制度についての情報を提示してください。この新たな制度が意思決定及び法的能力の行使をどのように置き換えたかについての情報を提示してください。また、それが障害のない人々と同じ基準に基づく障害者の法的能力をどのように認めているかを示してください。(12)
事前質問事項への政府回答 2014年
6月
  • 成年後見制度は、障害者の残存能力を可能な限り最大限尊重し、彼らが保護者の援助とともに自身で決定できるようにするよう、障害者の法的能力の制限を最小限にすることを目的とする。これに関して、障害者個人の決意を尊重する成年後見制度は、一律に障害者の法的能力を制限する既存の無能力者(禁治産者)、及び制限行為能力者(準禁治産者)制度とは異なる。(49)
  • 成年後見制度の目的についての説明(50)
  • 新たな成年後見制度は精神障害のある人の自己決定を尊重するため、彼らの意見が傾聴されることを求めている。これらは、韓国の民法が精神障害者の残存能力や個人の意思を尊重し、代理意思決定を支援された意思決定に置き換えたことを示している。(51)
政府報告に関する意見 (NHRC) 2014年
8月
  • いまだに290以上の法律には、後見制度の下で、それを理由に、一定の資格や雇用を否定する、雇用や関連資格を一方的に制限あるいは不適格とする様々な条項が含まれている。これは、後見制度の立法趣旨を損なう問題である。
最終見解 2014年
10月
  • 新たな後見制度が、タスク管理が永続的にできないとされた人々について後見人が財産や個人的問題に関して決定できるとしていることを懸念する。(21)
  • このような制度が、条約第12条の規定に違反し、支援された意思決定の代わりに代理意思決定を助長し続けてしまうことに注目する。(21)
  • 締約国が個人の権利、個人の自立、意思、選好を尊重し、条約第12条及び一般的意見第1号に完全に合致した支援された意思決定へ、代理意思決定から移行するよう勧告する。(22)
  • 障害者やその代表団体と協議し協力して、公務員や裁判官、ソーシャルワーカーを含むすべての関係者に対し、障害者の法的能力の認識及び支援された意思決定の仕組みについて訓練を提供するよう勧告する。(22)

(5) 第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 主要レポート及び文書類の障害者権利条約第19条に関する記述のポイントを図表4-9に整理した。

 第19条に関しては、障害者の居住場所の脱施設化と活動支援サービスの充実が主な論点となった。特に、脱施設化の取組については国家人権委員会、NGO報告書連帯のレポートはともに政策、環境、情報の全体的な不足を指摘している。特に活動支援サービスについては、利用資格の制限や利用者の経済的負担増が問題として指摘された。これらの指摘を踏まえて、事前質問事項では脱施設化については政府の戦略についての説明、また活動支援サービスについてはその拡大に向けた具体的方策に関する情報を韓国政府に求めた。

 事前質問事項への政府回答の中で韓国政府は、各論点に関する考え方や取組内容を説明し、特に活動支援プログラムの対象となる障害等級の条件を段階的に廃止する考えを示した。しかし、国連障害者権利委員会の最終見解では、韓国政府の取組は効率性を欠き、政策が不足しているとの懸念が示された。さらに最終見解は、活動支援サービスの著しい増加や費用負担のあり方の見直しなどについてかなり踏み込んだ勧告を行っている。これらの内容は、おおむね国家人権委員会及びNGO報告書連帯のレポートの指摘を踏まえたものとなっている。

図表4-9 第19条に関する主要レポートなどの記述のポイント(韓国)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
6月
  • 障害者福祉法は障害者の自立を増進するために、様々な支援対策を政府の義務として規定している。第53条、第54条、第55条では、障害者自立生活センターや提供サービスなどの内容を規定している。
  • 2010年現在、全国で158か所の障害者自立生活センターが活動し、政府は支援の規模を拡大していく予定。
  • 2010年には約3万人の重度障害者が政府が提供する活動支援サービスを利用している。
  • 政府は大規模化した入所施設が障害者の生活の質や自立した生活を阻害すると判断し、入所施設の規模を縮小する政策を進めている。
  • 脱施設を望んでいる施設入所障害者を支援するプログラムなどの支援策を紹介。
条約実施に関する情報
(NHRC)
2014年
3月,8月
  • 施設に居住する障害者は、自立に関する情報を得ることが難しく、自立のための初期費用、施設を離れた後の居住場所の不足など、様々な問題がある。
  • 障害者・高齢者等の住宅弱者支援に関する法律(住宅弱者支援法)では、築30年間の賃貸期間の賃貸住宅団地に、住宅弱者のための住宅を含める必要があるとしている。その一方、長期の年間賃貸住宅、政府所有の賃貸住宅、公的な賃貸住宅は、要件から除外されている。
  • 障害者の活動支援に関する法律(障害者活動支援法)施行令は、障害者の応募資格を1級と2級に制限している。また、彼らは自分自身で生活支援を選択、利用、管理できず、提供されるサービスがかなり制限されているということも、問題として強調されてきた。
  • 2011年の調査によれば、生活支援が必要な障害者の29%だけが、そのようなサービスを受けている。加えて、27.8%の障害者が、「誰も付き添いがいないため、(家の)外に行くことが困難だ」と回答している。これは、生活支援の不足が障害者の社会活動を制限する可能性があることを示している。
パラレルレポート
(Korean DPO & NGO Coalition)
2014年
3月,9月
  • 住宅、医療的なニーズ、安定した収入、職業紹介を支援する政策の欠如のため、多くの障害者は選択肢として自立した生活を考えておらず、その他の人は自身の望みに反して、考えることを断念している。特に、心理社会的及び発達障害のある人の特性を考慮した地域社会での包容政策は、ほぼ存在しない。
  • 請求レベルでの個人援助サービスの申請数が増加し続け、また、障害者の家族の経済的負担が増加し続けているが、政府は、割り当てた総予算のうち、2011年に300億ウォン、2012年に800億ウォンを廃止した。
事前質問事項 2014年
4月
  • 障害者の脱施設化のための短期的及び長期的な戦略についての新たな情報を提示してください。(20)
  • 締約国において、障害者のニーズに基づいて、すべての障害程度に対する支援を保証する個人援助サービスを拡大するためにどのような方法がとられているかについての明確な情報を提示してください。(21)
事前質問事項への政府回答 2014年
6月
  • 脱施設化は、障害者を入所施設に本人の意思に反して収容するのではなく、彼らが地域社会に統合されることを助けることを目的としている。(86)
  • 2005年以降、自立生活センターにおける技術トレーニングなどのサービスを提供している。(87)
  • 障害者の脱施設化を支援する一環として、政府は自立生活センターの数を現在の56から75まで、5年間で増加させる。(89)
  • 入所施設において障害者に提供される就労活動や職業リハビリプログラムは、脱施設化の概念に沿って職業リハビリテーション施設に任せる傾向が見られる。(90)
  • 2011年11月に活動支援プログラムが導入され、既存の個人援助サービスの範囲が訪問入浴サービスや訪問看護サービスを含めるよう拡張された。(91)
  • 政府は活動支援プログラムの対象となる障害等級の最低基準点を2015年から段階的に撤去することを計画している。(92)
  • 保健福祉部によって提供される活動支援サービスに加えて、幾つかの地域自治体は独自の追加援助プログラムを提供している。(94)
最終見解 2014年
10月
  • 障害者施設、入所施設の増加が示すとおり、脱施設化の戦略が効率性を欠き、必要な支援サービスを備えた地域社会に障害者を包容するための政策が不足していることを懸念する。
  • 締約国が脱施設化の効率的な戦略を開発し、地域社会での支援サービスを相当程度増やすことを促す。
  • 個人援助サービスの支払い金額を障害等級ではなく障害者個人の特質や状況、ニーズに基づいて判断し、また家族の収入ではなく障害者自身の収入で判断するよう勧告する。

(6) 第24条 教育

 主要レポート及び文書類の障害者権利条約第19条に関する記述のポイントを図表4-10に整理した。

 第24条について、包括的な最初の報告では「障害者等に対する特殊教育法(以下、「特殊教育法」と記述する。)に基づく取組を中心に、かなり詳細な取組状況の説明がなされている。これに対し、検討プロセスでは主に包容教育の推進、高等教育・生涯教育へのアクセス、教師などの訓練が主な論点となった。

 国家人権委員会のレポート、NGO報告書連帯のパラレルレポートでは、学校施設の未整備や合理的配慮の不足によって実質的に障害者が十分な包容教育を受けられない問題点が指摘された。これらを踏まえて、事前質問事項では、締約国の努力を考慮しつつ、包容教育に対する政府の理解と具体的な方策について情報提供を求めている。

 事前質問事項への回答で韓国政府は、包容教育には普通学級でのものと特殊学級でのものがあること、障害者の大学進学を支援する制度、学校での合理的配慮や支援サービス提供などについて説明した。

 最終見解では、障害者権利委員会は、韓国の包容教育の取組は認めつつ、それらが十分な結果を得られていないことに懸念を表明している。また最終見解では、包容教育政策の効果に関する調査の実施と、学校での合理的配慮の多角的な提供、教師などの訓練の強化などを勧告している。このように、第24条の最終見解は、政策や制度そのものの見直しを求めた第6条、第9条、第12条の最終見解とは異なるスタンスをとっている。

図表4-10 第24条に関する主要レポートなどの記述のポイント(韓国)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
6月
  • 教育基本法と特殊教育法などによる規定を説明。特殊教育法(第11条)に基づき、2005年から特殊教育支援センターを設置し、運営している。
  • 特殊教育法に基づき、特殊教育対象者を選抜し(第15条、第16条)、普通学校の普通学級・特殊学級、特殊学校などに配置して教育を提供している。2010年現在、特殊教育対象学生は計79,711人。
  • 特殊教育法(第3条(1))に基づく、障害児童に対する教育の状況を紹介。
  • 特殊教育法(第21条)に基いた障害のある生徒のための統合教育計画の実施と、この計画に基づく特殊学級の増設状況を紹介。
  • 特殊教育法(第22条)(第25条)に基づき、特殊教育対象者個人の能力開発のための個別化教育と巡回教育を実施。
  • 1995年から障害者大学入試特例入学制度を実施、この制度によって2010年に大学に入学した障害のある学生は88校、656人。2010年現在、大学に在学中の障害のある学生は計173校、5,716人。各大学が障害学生支援センターを設置し支援するよう、政府は予算を補助。
  • 特殊教育法(第33条、第34条)は学齢期を過ぎた障害者のために、生涯教育を保証している。政府は、2008年に「障害成人生涯教育支援計画」、2010年に「障害成人生涯教育活性化法」を策定した。
  • 教育基本法(第17条2項(1)(4))による男女平等に関する規定の紹介。特殊教育対象学生の男女の比率を紹介(男65.1%、女34.9%)。
  • 一般教育教員向けに特殊教育講座を開設し、60時間以上を履修するよう定め、2009年からは、養成課程にも特殊教育講座を義務的に開設。2010年現在、教員数定員遵守率は76.5%。
条約実施に関する情報
(NHRC)
2014年
3月,8月
  • 大学における障害学生支援センターの現状(2010年10月)では、242校の調査対象の大学うち、111校、約46%には、支援センターや類似の組織がないことが示されている。
  • 特殊学級及び特殊学校における障害者の便宜施設の設置に関する統計では、そのような設備の割合は、特殊学級のある初等・中等学校の78.6%に比べて、特殊学校では93.8%と、比較的高いことが示されていた。障害のある生徒にとって、包容教育を受けることが難しいことを示している。
  • 障害種別、障害の程度を考慮して、障害のある生徒に、合理的配慮を提供する必要がある。そのため、政府は、合理的配慮の条項について、教育の包容環境において、学級、試験で障害特性を考慮した合理的配慮の条項、学校内の施設へのアクセシビリティの強化、学級などの学校内の教育活動への参加の支援、大学での障害学生支援センターの導入のように、障害のある生徒の教育的なニーズを満たすよう、継続的に、管理、監督しなければならない。
パラレルレポート
(Korean DPO & NGO Coalition)
2014年
3月,9月
  • 障害者の教育に関する政策は。分離教育政策と包容教育政策の両方を含んでいる。包容学級、特殊学級の導入を通じたそのような「包容教育」であっても、学級は、形式的なレベルでの包容を提供するのみで、初等、中等、高等学校の56.7%、特殊教育に該当する生徒の18.4%だけである。2013年時点で、中等、高等学校に、平均5.9人の生徒が特殊学級におり、著しく少ないわずか1.1人のみの生徒が普通学級にいる。
  • 様々な配慮が確保されないため、視覚・聴覚障害、脳損傷のある生徒が、包容教育を断念し、特殊学校に入学、転校するケースが多くある。
  • 普通教育の教員と特殊教育の教員のための訓練が別々に行われている。これは、すべての教員が、障害種別や程度に応じた異なる特性の生徒を理解し、対応する訓練を受けているわけではないことを意味している。
事前質問事項 2014年
4月
  • 特殊教育専門家の増加や、一般学校における特殊教育学級の増設のための締約国の努力を考慮した上で、包容教育制度という概念がどのように理解されているか、また、この概念を実行に移すために何かとられた方法があるか否かについて示してください。また、教育、特に、大学教育や生涯教育に対する障害者(障害のある女性を含む)のアクセスを改善するためにとられた方法に関する情報を提示してください。(25)
事前質問事項への政府回答 2014年
6月
  • 障害のある生徒に提供される包容教育は、主に以下の2つの種類で構成されている。(1)全日、普通学級で障害のない生徒と一緒に教育を受ける。(2)又は、特殊学級で本人の障害種別や程度に合わせた定時制の特別授業を受け、残りの時間は普通学級に参加する。
  • 障害者に対して高等教育を受ける機会を拡大する観点から、政府は1995年から障害者大学特例入学制度を実施してきた。
  • 政府は、学校に、障害のある生徒に対して合理的配慮を提供することを求め、学校での利便性のため、設備及び支援サービスを増やす努力をしてきた。
最終見解 2014年
10月
  • 包容教育政策が存在するにもかかわらず、障害のある生徒が普通学校から特殊学校に戻っていることを懸念する。
  • 普通学校に在籍する障害のある生徒が、障害に関するニーズに合った教育を受けることができない、とした報告を懸念する。
  • 締約国が以下を行うよう勧告する。
    包容教育政策の効果の調査を実施する。
    学校やその他の教育施設で、包容教育及び合理的配慮を提供できる取組を促進する。
    普通学校の教師や教育管理者も含めた教育人員の訓練を強化する。

16 韓国の包括的な最初の報告(文献1)
17 国家人権委員会レポート(文献3、6)
18 NGO報告書連帯パラレルレポート(文献2、7)
19 韓国の包括的な最初の報告に関する事前質問事項(文献4)
20 事前質問事項への韓国政府回答(文献5)
21 韓国の包括的な最初の報告に関する最終見解(文献8)

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