5-3 各主体の検討プロセスへの対応

(1) スウェーデン政府

 スウェーデン政府は2011年2月に包括的な最初の報告を国連障害者権利委員会に提出した。その後、2013年9月にジュネーブの同国常駐代表を通じて事前質問事項と国連障害者権利委員会への招待を受け取った。事前質問事項への政府回答は2013年12月18日に提出したが、事前質問事項の質問数が多く、当初指定された期限には間に合わなかったため、期限の延長を国連障害者権利委員会に申し出たとのことである。なお、担当者によるとスウェーデン政府は事前質問事項への回答文書の中で質問事項以外のことに関する情報も提供したが、それらは最終見解には反映されなかった30

 建設的対話を含む審査が行われた2014年4月の国連障害者権利委員会第11会期には、スウェーデン政府は各省庁のメンバー17名で構成する代表団で臨んだ。この大規模な代表団については、国連障害者権利委員会の最終見解でも評価された31。会期中、代表団と国連障害者権利委員会との非公式な会合はなく、また、オブザーバーとして参加していたNGOとの会合も行わなかった32

 なお、スウェーデンでは2014年9月に実施された総選挙の結果、政権が交代した。このため、国連障害者権利委員会の最終見解への対応は新たに発足したロベーン政権が引き継ぐこととなった。新政権は最終見解への対応に積極的な姿勢を見せており、国連障害者権利委員会が勧告した差別禁止法の改正にも取り組むことを表明している33

(2) 社会参加庁(旧ハンディサム)

 社会参加庁は、スウェーデン政府の組織の1つで、障害政策全般のモニタリングを行っている。具体的には、障害政策に関係する22の組織から情報を収集し、また統計局から統計を入手して、障害政策に関する年次報告書を作成している。この年次報告書の情報は、社会省が包括的な最初の報告を作成する際に重要な情報源となった34

 しかし、社会参加庁は社会省の指示により活動する組織であり、独自に主体性を持って活動する組織ではない35。そのため、包括的な最初の報告の作成プロセスにも社会参加庁は主体的には関与しておらず、また、国連障害者権利委員会に独自のレポートや情報を提出することもしていない。国連障害者権利委員会各会期にも社会参加庁は参加していない。

(3) 市民社会(スウェーデン障害連盟、Equally Unique

 包括的な最初の報告が提出された後、スウェーデンの市民社会からは多くのパラレルレポートが国連障害者権利委員会に提出された。中でも中核障害者団体の1つであるスウェーデン障害連盟は、3つのレポートを提出し、活発な活動を展開した。

 スウェーデン障害連盟は、2011年2月に詳細なパラレルレポート(レポートタイトルでは「オルタナティブレポート」)を提出したほか、事前質問事項の検討前に「質問事項の提案」、そして事前質問事項の発表後に「事前質問事項への回答」を提出した。「事前質問事項への回答」は、スウェーデン障害連盟がその作成のための会合を開き、連盟の会員組織からの意見を集めて作成したものである36

 また、スウェーデン障害連盟は、国連障害者権利委員会の事前質問事項の検討、建設的対話にも関わった。事前質問事項の検討が行われた国連障害者権利委員会第10会期には、もう1つの中核障害者団体であるEqually Uniqueのメンバーと共に国連障害者権利委員会を訪れ、委員会メンバーと非公式会合を持った。また、第11会期の建設的対話の前にもEqually Uniqueと共に、非公式に国連障害者権利委員会のメンバーと会合を持ち、情報提供を行った。しかし、会期中にスウェーデン政府代表団との会合や接触はなかった37

 こうした取組の成果について、スウェーデン障害連盟の担当者は、最終見解に主張がどこまで反映されたかは明らかではないが、少なくとも主張した一部の問題は最終見解に反映された、と述べている。 38

 スウェーデン障害連盟は、スウェーデンの障害者権利条約国内実施について様々な問題点を指摘しており、今後も積極的に活動していく計画である。また、最終見解発表後の環境変化として、政権交代によるスウェーデン政府との関係の変化が挙げられる。2014年10月に発足した新政権は、前政権に比べ市民社会との関係構築に積極的であり、スウェーデン障害連盟は政府の特別障害委員会への参加や最終見解のスウェーデン語翻訳への協力など、政府との協力の機会も持つようになっている39


29 社会省Lars Nilsson氏インタビュー
30 社会省Lars Nilsson氏インタビュー
31 スウェーデンの包括的な最初の報告に関する最終見解(文献14)、paragraph3
32 Questionnaireへの社会省Lars Nilsson氏からの回答文書
33 スウェーデン障害連盟 Mia Ahlgren氏インタビュー
34 社会参加庁 Ola Blke氏インタビュー
35 社会参加庁 Ola Blke氏インタビュー
36 スウェーデン障害連盟 Mia Ahlgren氏インタビュー
37 スウェーデン障害連盟 Mia Ahlgren氏インタビュー
38 スウェーデン障害連盟 Mia Ahlgren氏インタビュー
39 スウェーデン障害連盟 Mia Ahlgren氏インタビュー

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