5-4 主要レポートの記述内容のポイント

 ここでは、スウェーデンの包括的な最初の報告の検討プロセスでやりとりされた主なレポート、文書について、記述内容のポイントを比較・検討し、国連障害者権利委員会の最終見解に至る意見・情報の流れの概略を整理・分析する。ここでは、図表5-2に示したレポート、文書類のうち、太字で示したものを整理・分析の対象とする。また、整理・分析の対象とする条項は、第4章と同じく第5条、第6条、第9条、第12条、第19条、第24条の6条項とする。

(1) 第5条 平等及び無差別

 主要レポート及び文書類の障害者権利第5条に関する記述のポイントを図表5-3に整理した。

 スウェーデンの検討プロセスでは、第5条に関して主に2つの論点でやりとりがあった。スウェーデンの法律における差別禁止の徹底の問題と、差別に関する裁判制度、特に平等オンブズマンの役割の問題である。

 前者については、スウェーデン政府は包括的な最初の報告で差別禁止法を中核とする差別禁止及び合理的配慮の考え方を説明したが、スウェーデン障害連盟のパラレルレポートは、スウェーデンの法律には障害者に対する不平等を引き起こしているものがなお存在し、差別禁止の対象領域の広がりが不十分だと指摘した。事前質問事項ではこれを受けて、スウェーデンの差別禁止法が及ぶ領域や、合理的配慮の理解について確認を求めた。また、スウェーデンの選択議定書に対する国連障害者権利委員会の決議への対応について説明を求めた。事前質問事項への政府回答では、2009年以降に施行された包括的な差別禁止法について説明し、特に雇用・労働分野での合理的配慮を義務化していることを説明した。一方で国連障害者権利委員会の決議については、「政府の立場からすれば、スウェーデンの法律は条約と合致しており、法律の改正は不要である。」と明確に拒否した。これに対し最終見解では、国連障害者権利委員会はスウェーデンの新しい法律が合理的配慮の否定を差別とみなしている点を評価しつつも、障害者権利条約第5条との完全な整合を保証する観点から法案を見直すよう促している。

 差別に関する裁判制度については、スウェーデン障害連盟のパラレルレポートで、平等オンブズマンの支援の対象が限られていることを指摘した。事前質問事項ではこの点についての説明と、差別に関する訴訟などの統計情報の提供が求められた。事前質問事項への政府回答では、差別法に基づく平等オンブズマンの権限が公共・民間の領域を包括していることを説明し、平等オンブズマンの申立て受付、調停、訴訟支援に関する統計データなどが提供された。これに対し、国連障害者権利委員会の最終見解では、この論点については特に言及がなかった。

図表5-3 第5条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スウェーデン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
2月
  • 差別禁止法が差別からの保護を規定する。
  • 労働生活の領域における差別禁止では、雇用主が・・・例えば障害に関することを理由に差別してはならないと規定している。
  • 労働生活の領域において、合理的配慮の実施も求められる。
  • 教育機関は、教育を受ける、又は申し込む児童、生徒、学生に対し差別をしてはならない。
-
  • 平等オンブズマンは、法律の遵守を監督し、差別を受けたと思われる個人に代わり訴訟を起こす権利がある。
  • スウェーデン検察局には、障害者のために・・・アクセシビリティを改善させるための行動計画がある。
  • スウェーデン国家裁判行政管理局は、2008年~2010年の裁判所アクセシビリティに関する行動計画を策定した。
パラレルレポート
(Swedish Disability Federation)
2011年
4月
  • 障害を根拠に人々を差別する法律が依然として存在する。(34)
  • 労働の分野では、法の下での不平等を引き起こしている法律が数多く存在する。(38)
  • スウェーデンは権利が関わるあらゆる分野を確実に差別の禁止対象とするため、差別に関する法律を見直さなくてはならない。(43)
-
  • 各個人が裁判所で調停や訴訟を起こす際には、平等オンブズマンがそれを支援することができる。ただし、平等オンブズマンがこれを実施できるのは、差別法と育児休業法に関する事案のみである。(46)
事前質問事項 2013年
9月
  • 差別禁止法は、条約に含まれるすべての分野・地域に及ぶのかについて情報を提供してください。(8)
  • 条約のスウェーデン語への翻訳、そしてその訳の使用が影響して、条約上の様々な権利の理解において、障害者の差別からの保護を減らしてしまうようなことに繋がらないことを保証するために、スウェーデンはどのような措置をとったのでしょうか。(9)
  • 条約に定められている合理的配慮の概念は、雇用や職における平等な処遇に関して・・・スウェーデンの立法において統一的に理解されていますか。(10)
  • 条約の選択議定書に基づき、委員会によって採択された決議を実施する上で用いられている手順を説明してください。
  • 締約国による条約の違反が確認された、通知No. 3/2011, H.M.対スウェーデン事案で公表された見解を実施する上で用いられた措置を示して下さい。(13)
  • 平等オンブズマンなどの機関に、障害者差別に取り組む上でどのような範囲、権限が委ねられているのか説明してください。(11)
  • 裁判制度や司法制度における差別に関する訴訟・判決に関する統計情報を提供してください。
  • これらの情報を裁判の結果に関する統計データで補足し、これらがどのように集計されたかを示して下さい。(12)
事前質問事項への政府回答 2013年
12月
  • 2009年以降、包括的差別法が施行され、・・・この法律は社会の実質的すべての分野を受け入れるよう、障害に基づく差別に対する幅広い保護を提供している。(32)
  • 公表の前に、外務省の国際法・人権・条約法局はスウェーデン語版が提供されていないすべての合意をスウェーデン語に訳す義務がある。
  • 障害者権利条約の翻訳に関しては、障害問題に関する政府の専門担当部局であるハンディサムが翻訳の草案を提出し、それを政府の各省庁が処理する。(36)
  • 差別法は、職業生活で、雇用者が合理的な支援や適応措置をとることを義務化する規定を含んでいる。(37)
  • しかし、雇用者は、非合理的であるとされる支援や適応措置をとる必要はない。合理的であるか否かは事例ごとに判断される。(38)
  • 政府の立場としては、スウェーデンの法律は条約と合致しており、法律の改正は不要である。(52)
  • 政府は委員会の勧告を翻訳し、見解や翻訳された文書は、原告と障害者団体の代表者の双方に送付した。障害者団体には口頭でも説明した。委員会の見解や勧告はさらに、政府の人権ウェブサイトにおいて、障害者が利用可能な形式で参照できる。(53)
  • 平等オンブズマンは、性別、・・・障害、性的指向、年齢などによる差別が、公的生活のどの分野においても起こらないことを保証するよう努める任務をもつ。(43) ・平等オンブズマンは、差別にあった個人のために申立てを行うことができる。差別法は、公的及び民間の分野をを扱っている。(45)
  • 2012年に、オンブズマンは485件に及ぶ、障害に基づいた差別に関する申立てを受けた。(46)
  • 2009 年1月1日時点で、オンブズマンは20件において調停に至った。(47)
  • 障害に基づく差別の事案11件において、訴訟手続を開始している(48)
  • 裁判所に提訴した1つの事案で、裁判所は原告が差別を受けたと判断した。(49)
事前質問事項への回答
Swedish Disability Federation
2014年
2月
  • ヨーロッパ人権条約に関する法律は、CRPDの大部分と関連する差別禁止条項を含んでいる。しかし、幾つかの面ではヨーロッパ人権条約の保護はCRPDの権利よりも手薄である。(8)
  • SDFは翻訳の欠陥を指摘しているが、その翻訳の確認作業に招待されていない。(9)
-
  • 平等オンブズマンが告発できるのは、差別禁止法と育児休業法で扱われる事例のみである。(11)
  • 平等オンブズマンは前例のない事例のみを告発すると決めている。これは、多くの人々が平等オンブズマンの支援を受けられないことを意味する。(11)
最終見解 2014年
4月
  • 合理的配慮の否定を差別として区分する新しい法律の採択に注目する。(4)
  • 合理的配慮の否定が差別として区分される差別に関する新しい法案が、従業員10名以下の組織を免除していることについて懸念する。(9)
  • 締約国が、条約第5条の条項に完全に一致させることを目的として提案した法律の草案を検証すること、合理的配慮が、・・・社会のすべての領域で提供されるように、すべての適切な手段をとることを促す。(10)

(2) 第6条 障害のある女子

 主要レポート及び文書類での障害者権利条約第6条に関する記述のポイントを図表5-4に整理した。

 スウェーデン政府は、包括的な最初の報告の中で第6条に関して差別禁止法の規定、各政策領域での特別な措置、女性に対する暴力撲滅のための行動計画などについて説明した。しかしスウェーデン障害連盟のパラレルレポートでは、障害者に関する政府の調査や分析にジェンダーの視点が欠けており、障害のある女性の問題が把握できていないことを指摘した。これを受けて事前質問事項では、障害のある女性の立法や政策導入への参加、障害者統計での把握について情報提供を求めた。

 事前質問事項への政府回答ではスウェーデンの障害政策の基本原理や公式統計の考え方が説明されているが、具体的な対応の説明はなされなかった。これに対し最終見解では、国連障害者権利委員会はスウェーデンの障害者統計、政策、行動計画にジェンダーの視点が含まれていないとして懸念を表明し、ジェンダーの視点の法律・政策などへの浸透と、具体的な対策をとることを勧告した。

第6条については、スウェーデン政府の取組が遅れていた結果、事前質問事項への政府回答も十分な内容が記述されていなかったため、前述のパラレルレポートの指摘に沿った最終見解になったと考えられる。

図表5-4 第6条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スウェーデン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
2月
  • 障害のある助成の権利を保証するため、差別禁止法に性別及び障害による差別の禁止が含まれる。平等オンブズマンがこの法律の遵守を監督する。
  • 政府は、労働政策の枠組み、保険医療サービス、暴力撲滅の取組の中で、障害のある女性のための特別な措置について決定した。
  • 2007年に政府は、女性に対する男性の暴力・・・を撲滅するため、行動計画を決定した。この行動計画では・・・障害のある女性が特に暴力を受けやすいことを強調している。
パラレルレポート
(Swedish Disability Federation)
2011年
4月
  • 社会福祉庁の報告によれば、障害者がその性別によって差別を受けているか否かについてほとんど把握されていないことが分かっている。社会福祉庁は最近の障害者の分析についてもジェンダーの視点が欠けていることが多いと主張している。(56)
  • 障害のある人々に対する性別と平等の視点の欠如は、障害のある女性の不可視化を招いている。(58)
事前質問事項 2013年
9月
  • 障害のある女性や女児、特に異なる民族的背景やサーミ人に属する女性や女児が、政策や立法の準備・導入への参加、障害者統計にどのように含まれているかに関する情報を提供してください。(14)
事前質問事項への政府回答 2013年
12月
  • スウェーデンの障害政策の基礎は国の行動計画である「患者から市民へ」に示されている。(54)
  • これらの基本的原理は、障害者の公的生活への参加と男女平等の条件の重要性を強調する。スウェーデンの障害政策や法律は、スウェーデン以外の民族的背景を持つ人々も含め、社会の全員に適用される。(55)
  • 公式統計指令では、個人に関する公的統計は性別によって分けられるべきとしている。(56)
事前質問事項への回答
(Swedish Disability Federation
2014年
2月
  • SDFは、政策やプログラム、立法の開発・実施過程への女性の参加に関する質問の一部に政府が回答していないことに注目する。
最終見解 2014年
4月
  • 女性障害者が性別を理由に差別されているかどうか、障害のある女性・女児が、障害のある男性・男児に比べてどの程度差別されているかに関する情報が乏しいことを懸念している。
  • 障害者に関する統計、政策、行動計画にジェンダーの視点が含まれていないことを懸念している。(13) ・締約国に、ジェンダーと障害の視点を法律、政策、・・・サービスに確実に浸透させるよう勧告する。また、・・・具体的な手段を講じるよう勧告する。

(3) 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 主要レポート及び文書類での障害者権利条約第9条に関する記述のポイントを図表5-5に整理した。

 第9条について、スウェーデン政府は包括的な最初の報告の中で詳細かつ具体的に取組の説明を行った。スウェーデン障害連盟のパラレルレポートでは、アクセシビリティに関する規制などの取組を評価する一方、その規制が守られていないことや取組の強化の必要性を指摘している。これを受けて事前質問事項では、障害者のアクセシビリティ確保の包括的政策や監視システムの有無、関連する政策や行動計画の見直し、公共調達での対応など、政策を強化し実効性を高める取組について質問がなされた。

 事前質問事項への政府回答では、主に包括的な最初の報告以降の法整備や制度整備について説明がなされた。しかし、スウェーデン障害連盟は事前質問事項への独自の回答で、アクセシビリティに関する包括的な戦略の欠如と責任の分散、公共調達規定の未実施、ウェブアクセシビリティ要件の未整備、さらに規則が守られない場合の罰則がないことなどを指摘した。

 これらを受けて国連障害者権利委員会の最終見解では、地方自治体の取組の促進を勧告するとともに、コンプライアンスへの懸念、公共資料のアクセシビリティへの懸念、公共部門の情報・コミュニケーションのアクセシビリティ規制の枠組み整備の奨励などに言及した。これらの指摘は、スウェーデン障害連盟の意見をかなり取り入れたものといえる。

図表5-5 第9条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スウェーデン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
2月
  • 政府は、社会的機能を障害者が利用可能にする取組を進めている。
  • 公共調達法は、入札での技術使用は、すべての利用者のニーズを視野に入れて策定しなければならないとしている。
  • ハンディサムはeインクルージョンのための行動計画案を作成した。
  • 現在、2010年までの10年間の行動計画に基づいて取組が行われている。ハンディサムは、政府機関のアクセシビリティに関する取組の結果を公表する権限を与えられた。
  • 計画建築法の技術要件の1つとして、障害者のアクセシビリティ及びユーザビリティが含まれる。
  • 地域レベルでの計画建築法遵守の責任は地方自治体にある。
  • 多くの保健所、社会福祉事務所で・・・アクセシビリティに関して重大な欠陥がある。
  • 政府の要請で、ハンディサムは自治体がどのようにアクセシビリティ指針をまとめるべきかについて勧告した。
  • 政府及び議会は、特別な交通政策の目標を決定し、障害者が利用可能な交通システム実現のために資金を提供することを決めた。
  • (IT、インターネットに関しては)政府は障害者のために、新たなサービスのアクセシビリティを改善するための投資をしてきた。
パラレルレポート
(Swedish Disability Federation)
2011年
4月
  • 移動や動作に不自由がある人のための屋内環境へのアクセシビリティに関する規制は基本的には良いものである。問題は規制が守られていない点である。(126)
  • アクセシビリティに関する法律の多くは移動や動作に不自由のある人としか関連していない。(126)
  • 政府による障害者が利用可能な交通設備の指針を策定する必要がある。(139)
  • コミューンは、一般向けの情報を障害者が利用可能かつ理解可能な形にすることを義務付けられねばならない。(149)
  • 障害者が利用可能な電気通信に関する指針は、その対象範囲を広げねばならない。(149)
  • 関連する法令は、障害のあるすべての人々に対するアクセシビリティと利用可能性を管理するよう補強されなければならない。(154)
  • 公共調達法は、公共調達するサービスや物品の情報へのアクセシビリティに関する規定、情報通信に関するサービスとシステムの購入に関する規定が追加され、補強されなければならない。(161)
  • アクセシビリティと利用可能性・・・に関する教育により多くの投資がなされるべきである。(165)
事前質問事項 2013年
9月
  • 障害者のアクセシビリティにおける障壁をどのように取り除くのか・・・すべての障害種別を含める包括的な国家計画があるのかを示してください。
  • どのような監視の仕組みが設立されたか、どのように機能するのかに関する情報を提供してください。
  • 条約の批准以降、アクセシビリティに関する政策や行動計画に何か明確な改革は行われたでしょうか。
  • 高いレベルのアクセシビリティを実現するための道具として、どのように公共調達方法を活用しているのでしょうか。(16)
事前質問事項への政府回答 2013年
12月
  • 差別法は不十分なアクセシビリティによる差別に対して保護を提供する。(65)
  • 建築された環境におけるアクセシビリティに関する詳細規定は、計画・建築法に記されている。(66)
  • 政府は新たな計画・建築令を採択した。地域の行政委員会は新たな法やその規定が・・・どの範囲で導入されているかを監視する。(68)
  • 2012年にスウェーデン公共交通法が施行され・・・公共交通を障害者のニーズに適応させるために具体的な期間を定めた目標や措置を作成するという規定を含んでいる。(70)
  • スウェーデンにはインターネットのアクセシビリティに関する指針がある。(72)
    障害政策実施に向けた政府戦略は、・・・すべての国民の使用可能性やアクセシビリティを守る形で調達や契約取り消しが行われることを保証するよう設計された指針を開発することを義務付ける指令も含んでいる。(73)
事前質問事項への回答
(Swedish Disability Federation
2014年
2月
  • 問題は、条約が提示している様々な条件を満たすための包括的な戦略が政府に欠けていることである。アクセシビリティを達成する責任は、様々な省庁、関係者に分散されている。(17)
  • 公共調達に関するスウェーデンの戦略で公表されている規定はまだ実施されていない。(17)
  • 公共のウェブサイトを障害者が利用可能なものにするための要件はまだ定められていない。(17)
  • コンプライアンス上の欠陥がある。規則が守られなかった場合の制裁措置は完全に欠落している。(17)
最終見解 2014年
4月
  • 建物のアクセシビリティに関する規則が守られていないことを懸念する。また、公共の調達手続が、完全には、アクセシビリティの促進に寄与していないことに注目する。(25)
  • 地方自治体・地方機関に、アクセシビリティ原則にアクセシビリティ原則に配慮するよう保証することを勧告する。・・・障害者が必要とする合理的配慮が、地方自治体の計画に統合されるよう勧告する。(26)
  • 国、地域、州議会、地方自治体が発行した公共の資料が障害者が利用可能なフォーマットで発行されていないことを懸念する。(27)
  • 障害者が利用可能なフォーマットで情報・コミュニケーションを提供するための公共部門の責任について、規制の枠組みを追加するよう奨励する。(28)

(4) 第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 主要レポート及び文書類での障害者権利条約第12条に関する記述のポイントを図表5-6に整理した。

第12条に関しては、代理意思決定の問題が検討プロセスでの主要な論点となった。この問題は、包括的な最初の報告では触れられておらず、スウェーデン障害連盟のパラレルレポートで、管財人制度の問題として指摘された。事前質問事項ではこの指摘を踏まえて、スウェーデンの法律で代理意思決定が認められているのか、また管財人の権限の範囲について質問がなされた。

事前質問事項への政府回答でスウェーデン政府は、管財人について代理意思決定に関係することを認めた上で、その任命の条件や障害者本人の決定権の範囲について説明した。しかし、最終見解で国連障害者権利委員会は、管財人が代理意思決定者であることに懸念を表明し、ただちに支援された意思決定の形態に置き換える措置をとるよう勧告した。

図表5-6 第12条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スウェーデン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
2月
  • 政府は、障害者に対する暴力を防止することができる方法を報告するよう、国家犯罪防止委員会に権限を与えた。
  • 2007年、犯罪防止委員会は報告を提出し、一連の予防手段を提案している。
パラレルレポート
(Swedish Disability Federation)
2011年
4月
  • 今日のスウェーデンでは、無能力者認定は廃止されている。(204)
  • 管財人制度の現在の仕組みには改善されるべき問題点がある。永続化する危険性がある。・・・発達障害の人々は管財人を必要以上に長期間つけられる危険性が生じる。このことは、人々がヨーロッパ人権条約に書かれている形で権利を行使することができないことを意味している。(206)
  • 対象者が管財人を必要としなくなった場合、管財人は・・・さらに権限の縮小された支援に切り替えられるようにしなければならない。(209)
事前質問事項 2013年
9月
  • スウェーデンの法律は、成人の障害者に関する財産、生活、及びその他の分野における代理意思決定を許しているのでしょうか。(17)
  • 障害を理由に管財人が提供された障害者は、どのようにして、自分自身が選んだ人からのより干渉的でない援助(例: 支援された意思決定)を求め、提供を受けられるのか示してください。(18)
事前質問事項への政府回答 2013年
12月
  • スウェーデンの法律では、代理意思決定の種類に関係する2つの制度、管財人と代理人がある。(75)
  • 管財人は・・・より干渉的でない方法、すなわち親戚や権限をもつ法的代理人による支援で十分である場合、任命されない。個人はまた、管財権の管轄内の事情を判断することはできないが、個人の問題について決定する権利は保持することができる。(78)
事前質問事項への回答
(Swedish Disability Federation
2014年
2月
  • 管財人とは、個人が行動を起こす権利の制限を意味する。(18)
最終見解 2014年
4月
  • 管財人の任命が、代行意思決定の形態であることに懸念を抱いている。(33)
  • 締約国が直ちに、代理意思決定者を支援された意思決定に置き換える措置を講じるよう勧告する。(34)
  • スウェーデンの法律が、本人が心理社会的な病気で、自身や他者に危険が及ぶと考えられる場合に、医療施設において、本人の意思に反する監禁を許していることを懸念する。(35)
    いかなる人も、実際の障害又は障害と認識された状態に基づき、医療施設において、本人の意思に反して拘束されないことを保証するため、直ちに必要なすべての立法上、行政上、司法上の手段を講じることを勧告する。(36)

(5) 第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 主要レポート及び文書類での障害者権利条約第19条に関する記述のポイントを図表5-7に整理した。

 障害者の生活支援について、包括的な最初の報告では社会サービス法、特定機能障害者援助サービス法(LSS)での支援の規定を説明している。これに対しスウェーデン障害連盟のパラレルレポートは、政府の新たな法解釈により援助が大幅に削減されたことを指摘した。事前質問事項はこの指摘について現状を確認する質問、障害者の地域社会への包容の監視方法に関する質問となっている。

 事前質問事項への政府回答でスウェーデン政府は、障害者の生活援助の考え方を説明するとともに、援助の縮小についてはスウェーデン社会保険調査団の中間報告を引用し縮小の事実があったことを認めたが、その原因については幾つかの可能性を述べるにとどまった。一方、スウェーデン障害連盟は事前質問事項への独自の回答で、生活援助の縮小について政府に反論し、給付中止や削減を受けた人の生活に深刻な影響が出ていると主張した。

 これらを受けて、最終見解で国連障害者権利委員会は、2010年以降の政府の法解釈改訂による障害者への公的援助の縮小に懸念を表明し、十分かつ公平な財政的援助の提供を保証するよう勧告した。これは、事前質問事項への政府回答の内容も踏まえた上で、前述のスウェーデン障害連盟の指摘・主張を取り入れた内容といえる。

図表5-7 第19条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スウェーデン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告
2011年
2月
  • 社会サービス法によれば、自身のニーズを満たせない人は、生活費及び別の方法で、社会福祉庁からの支援を受ける権利を与えられる。
  • 1994年に社会改革が実施された。特定機能障害者に対する援助及びサービス法(LSS)は、障害のある人の良好な生活環境を保証する。
  • LSSに従って取組が認められるには、LSS第1条が定める3つのグループのいずれかに該当しなければならない。
  • LSSは10の定義された取組をカバーしている。
パラレルレポート
(Swedish Disability Federation)
2011年
4月
  • 障害者はその他の人々と同様、居住地域及び生活するにあたって自分が望む場所や相手を選ぶ権利を持つ。ただし、コミューンごとの習慣の違いによって、住居や居住場所を変えられる実質的な可能性が低くなることもある。(305)
  • 社会サービス法(SoL)によると、合理的な生活条件を維持するために手当が施される。(312)
  • 社会保険事務所は2007年に・・・個人援助の基本的必要性判断の新たな法解釈を公表した。結果として大勢の援助手当が減額されるか受給停止となっている。(316)
  • 2009年の最高裁判決で、基本的必要性の概念に対するより狭い解釈が肯定された。(317)
  • 社会保険事務所と最高裁の基本的必要性の新しい解釈はこの法律の意図と正反対であり、第19条と矛盾すると言わざるを得ない。(318)
  • 障害者が他の人々と同じように、住み続けるか引っ越すかを選択する機会を持てるよう、住居改修費に関する法律を見直すこと。(325)
事前質問事項 2013年
9月
  • 障害のある人は、その障害に関係なく、地域社会の中で、どこでどのように暮らすかを自由に選ぶことができ、必要な支援、及び個人援助を受けることができるのでしょうか
  • 2008年以降、生活費の個人援助を受けている人々の数は増えていますか、減っていますか。
  • 締約国は、障害者が地域社会に完全に適応でき、・・・参加できる可能性をどのように監視していますか。(29)
事前質問事項への政府回答 2013年
12月
  • 特定機能障害のある人の援助及びサービスに関する法の下の活動とは、平等な生活環境と地域社会における完全な参加を促進することである。(115)
  • 社会福祉委員会は、日常生活が困難である人々が、地域社会での生活に参加しその他の人々と同じように生活することを可能にすることを保証するよう努める。(116)
  • 援助やサービスの負担金を受ける障害者は、他の自治体に移動することができる。(117)
  • スウェーデン社会保険調査団の中間報告は、公的扶助の傾向が2008年に中断したことを示している。(120)調査調査団は何がこの方向の転換を生んだのか説明ができていない。(121)
  • 健康・社会ケア調査団は、LSSや社会サービス法の下の活動を監督する。・・・平等オンブズマンは差別法の遵守を保証するための監督を行う。(128)
  • ハンディサムは障害政策実施のための戦略目的をフォローアップし、官庁に報告する。ハンディサムは・・・自主的なフォローアップ制度の開発に携わっている。(129)
事前質問事項への回答
(Swedish Disability Federation
2014年
2月
  • 過去6年間で、深刻な障害のある人々が個人援助などのサービスの受給資格認定を受ける機会は著しく減少している。(29)
  • 社会保険庁はある報告書の中で「給付中止が増加しているものの、2011年の時点でそれは2%以下の低い水準にとどまっている」と述べている。しかし2010年に遡って見ると、給付を受けていた人々が取り下げを受けた件数はあまりにも多い。また、介助を受けていた人のほとんどが介助の時間を削減されている。(29)
最終見解 2014年
4月
  • 2010年以来、「基本的なニーズ(basic needs)」、「他の個人的ニーズ(other personal needs)」の解釈改訂のため、国の資金による個人援助を多くの人が廃止されたことについて、懸念する。また、理由不明又はうわべのみ正当な理由によって、すでに援助を受けていた人が急激な削減を経験していることについて、懸念する。(43)
  • 締約国が、障害者が地域社会内で自立した生活ができるように、個人援助プログラムが十分かつ公平な財政援助を提供するよう保証することを勧告する。(44)

(6) 第24条 教育

 主要レポート及び文書類での障害者権利条約第24条に関する記述のポイントを図表5-8に整理した。

 第24条について、スウェーデン政府は包括的な最初の報告の中でかなり詳細な制度、取組の説明を行っている。その中で、2010年の教育法改正により、校長の決定を生徒が上訴できるようになったことが紹介されている。これに対しスウェーデン障害連盟のパラレルレポートは、学校が障害のある生徒の入学を拒否できるケースがあること、施設のアクセシビリティ欠如により障害のある生徒の選択肢が狭められていること、教師の知識・経験の不足を指摘した。事前質問事項は、おおむねこれらの指摘事項について現状を確認する質問となっている。

 事前質問事項への政府回答では、2010年以降の制度改正、戦略と目標の設定、調査の実施、各種基準の改正などについて説明した。この中で、特別支援に関する上訴権についても触れている。一方、スウェーデン障害連盟は事前質問事項への独自の回答で、学校のアクセシビリティの問題、教育関係者の知識強化の必要性を指摘した。

 これらを受けて、最終見解で国連障害者権利委員会は、特別支援に関する上訴権の設定などを挙げてスウェーデンの包容教育制度を賞賛した。一方、パラレルレポートが指摘した障害のある生徒の入学拒否の問題には懸念を表明し、すべての子供たちの包容と必要な支援を保証するよう求めた。

図表5-8 第24条に関する主要レポートなどの記述のポイント(スウェーデン)
文書名 提出・採択時期 記述のポイント
包括的な
最初の報告40
2011年
2月
  • スウェーデンの教育制度は包容の原則に基づいている。したがって、大部分の障害のある児童及び青年が、普通教育の枠組みの中で教育を受ける。
  • 教育法によれば、すべての児童及び青年は、国の学校制度における教育に等しくアクセスできなければならない。教育の中で、児童及び生徒の様々なニーズに配慮しなければならない。
  • すべての生徒は、必要とする特別な支援を受ける権利がある。特別な支援には、個人的な援助だけでなく、特別な技術的援助及びツールも含まれる。
  • 2010年6月、議会は新しい教育法を可決した。この法律は生徒の権利を強化し、例えば行動計画に関して校長の決定を上訴することができる。
  • 自治体の居住者は、自治体の基本的な成人教育に参加する資格がある。これは、障害者を含めたすべての居住者に適用される。
  • 大学教育について、各大学は障害のある学生が教育支援策にアクセスすることを保証しなければならない。ほぼすべての大学に、障害のある学生のための特別な窓口及びコーディネーターがいる。
  • 2010年、スウェーデン議会は新しい教員養成について決定した。今後プログラムは8つの分野で構成され、その1つが特別支援教育となる。
パラレルレポート41
(Swedish Disability Federation)
2011年
4月
  • 新たな学校法では次のように規定している・・・居住しているコミューンが生徒に対し助成金を支払わないと決定した場合、学校の代表者はその生徒を入学させたり教育を継続する必要はない。(411)
  • 学校が障害のある生徒の入学を拒否できないようにするため、学校法の上記の規定は削除されなければならない。(412)
  • 障害のある生徒は学校を選ぶに当たって他の生徒と同等の選択肢を持っていない。主な原因は学校施設のアクセシビリティの欠如にある。(415)
  • 学校監察庁の調査では、教師の多くが障害のある生徒に関する十分な知識や経験を持っていないと実感していることが明らかになっている。(434)
事前質問事項42 2013年
9月
  • 学校におけるアクセシビリティは・・・どのような水準、場所で、様々な障害のあるすべての子供に関し、どのように実現されているのかに関する情報を提供してください。
  • 障害のある子供が自分の地域社会で包容教育を利用可能にするアクセシビリティの保証をするために、具体的行動計画があるのかについて情報を提供してください。
  • 学長、教師、専門家、技術スタッフやその他の教育者の資格や能力はどのように保証されているのでしょうか。子供や障害のある子供、親の間で、包容教育に対する積極的な姿勢はどのように醸成され、維持されるのでしょうか。(30)
事前質問事項への政府回答43 2013年
12月
  • 2011年に新たな教育法が導入されてから、特別支援に関する決定に対して訴える権利も教育上訴委員会に導入された。(131)
  • 2011年には、政府は障害政策の実施に関する戦略を採択した。教育の領域において、教育の領域において9つの中間目標が設定された。(133)
  • 政府は一般的に学校の基準を向上させ、すべての子供や生徒が必要な援助を享受できることを保証するよう幾つかの改正を行った。(134)
  • 障害のある子供を扱う上での専門資格を向上させるために、政府は教師の補習訓練プログラムを再導入した。・・・資格を持つ学校や幼稚園の教師の登録システムを導入した。(136)
事前質問事項への回答44
(Swedish Disability Federation
2014年
2月
  • 政府が学校のアクセシビリティ向上に関する質問に回答していないことに注目する。(30)
  • 現在、学校やその周辺のアクセシビリティを向上させる計画は存在しない。(30)
  • 教育制度の範囲全般での知識の強化が必要である。障害のある生徒に対して教室に席が用意されるだけでは不十分である。(30)
最終見解45 2014年
4月
  • スウェーデンの包容教育制度を賞賛する。・・・教育上訴委員会に特別支援に関する決定を上訴する権利が導入された。(4)
  • 学校が組織的、経済的な困難を理由に、障害のある特定の生徒の入学を拒否できるという報告に懸念を抱いている。(47)
  • 締約国が、普通教育制度において、障害のあるすべての子供たちの包容を保証し、子供たちに必要な支援をすることを保証するよう促す。(48)

40 スウェーデンの包括的な最初の報告(文献9)
41 スウェーデン障害連盟オルタナティブレポート(文献10)
42 スウェーデンの包括的な最初の報告に関する事前質問事項(文献11)
43 事前質問事項へのスウェーデン政府回答(文献12)
44 事前質問事項へのスウェーデン障害連盟回答(文献13)
45 スウェーデンの包括的な最初の報告に関する最終見解(文献14)

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