5-5 スウェーデンの検討プロセスに関する考察

 現地調査で明らかになった各主体の検討プロセスへの対応や、各主体から提出された主要レポートの内容をまとめると、スウェーデンの包括的な最初の報告の検討プロセスについて、以下のような特徴が指摘できる。

  • 市民社会の取組が活発であり、検討プロセスのステップごとに多くの団体からパラレルレポートなどが提出された。
  • スウェーデン障害連盟など幾つかの団体は、検討プロセスの初期にパラレルレポートを提出した後、検討プロセスの進展に合わせて提案書や意見書を提出した。
  • スウェーデンは独立した仕組みを指定していないため、独立した仕組みからのレポートは存在しなかった。

 事前質問事項の質問内容を見ると、パラレルレポートの指摘内容について、実態や現状、スウェーデン政府の取組の説明を求める項目が多く見られる。スウェーデンの検討プロセスでは、独立した仕組みからの情報がなかったため、国連障害者権利委員会の検討や評価が、必然的に市民社会から提出されたパラレルレポートの主張を起点とし、スウェーデン政府に対してその確認を行う作業を軸として進められたことがうかがえる。

 最終見解には、パラレルレポートなどの主張に沿った懸念や勧告が多く見られるが、パラレルレポートで指摘された事項であっても勧告対象とならなかったものもある。例えば、第5条では障害者差別に関する裁判制度や平等オンブズマンの権限については勧告対象とならなかった。また、第24条に関して最終見解はスウェーデン政府の包容教育の取組を賞賛している。これらは、事前質問事項への政府回答で、近年の取組や現状について相当に詳細かつ具体的な説明がなされた項目である。

 一方、第6条、第12条、第19条では、パラレルレポートなどの主張が最終見解にほぼそのまま取り入れられた。このうち、第6条は事前質問事項への政府回答で具体的な施策の説明や回答が十分になされておらず、スウェーデン政府の取組自体が遅れていた分野だと考えられる。第12条、第19条は、スウェーデン政府の施策の方向性が、国連障害者権利委員会が求める方向性と異なると判断されたものである。同じように、第5条ではスウェーデンの国内法と障害者権利条約との整合についてスウェーデン政府と国連障害者権利委員会の考え方に明確な乖離があり、これらの条項ではスウェーデン政府に対し厳しい内容の最終見解となっている。

 以上のことから推察できることは、国連障害者権利委員会は本来ならば韓国の例にみられるように、各国政府からの報告と市民社会からのパラレルレポートの内容の違いについて、第三者の立場にある独立した仕組みにも意見を求めた上で最終見解の内容を検討するが、スウェーデンのケースでは独立した仕組みがなかったため、やむを得ず市民社会の主張についてスウェーデン政府に確認を求めたということである。スウェーデン政府が自らの取組について十分に説明ができ、かつその内容が国連障害者権利委員会の考える方針に合致する場合は肯定的な内容で、そうでない場合はパラレルレポートの主張に沿った厳しい内容で最終見解がまとめられたと考えられる。結果として、韓国の場合に比べて、パラレルレポートの視点や主張との関連性がより強く感じられる最終見解となっている。

前のページへ次のページへ