2-1 ADA制定の背景及びADAの概要

 アメリカにおいて、障害者差別にかかわる法律としては、ADAに先立ち、1973年にリハビリテーション法504条が施行された。リハビリテーション法504条は、連邦政府、連邦政府の請負業者、連邦政府の財政支援を受けた団体に対して、障害に基づく差別を違法とし、雇用において、障害に基づき差別しないことを保証することも求めている 2
 リハビリテーション504条を踏まえ、1990年にADAが制定された。ADAは、「公民権法以降、公民権法の最も重要な1つ」3とされ、全面的に障害者差別を禁止している。

 ADAは、障害の定義など、リハビリテーション法504条に基づき構築されているが、リハビリテーション法504条とADAでは、規制対象となる主体が異なっており、リハビリテーション504条を拡張する形で策定された。「ADAでは、連邦政府の財政支援を受けないものも含めて、すべての州及び地方政府が対象である。また、ADAでは、ADAにおける「公共施設」の定義を満たす民間企業、商業施設、多くの民間事業者も対象となる」4。このように、連邦政府及びその支援を受けた機関・団体だけでなく、地方政府及び特定の民間事業者に対しても、障害者差別禁止の義務が課せられるようになっている。

 ADAは5部構成となっており、第2部が公共団体及びそれが提供するプログラム、サービス活動を対象としている5。ADAの構成は、以下のとおりである。
 ADAの第1部は「雇用上の差別」の禁止(Title I: Employment)、第2部が公共団体、州、連邦政府など「公的サービスや公共交通機関によるサービスの提供上の差別」の禁止(Title II: Public Services)、第3部が「民間企業によって運営されている公共施設、サービス提供上の差別」を禁止(Title III: Public Accommodations service and service operated by private entities)、第4部が「テレコミュニケーション」などに関する規定(Title IV: Telegraphs, Telephones, and Radiotelegraphs)、第5部が雑則となっている。

 ADA の下には、ADA 施行規則(Regulations)、技術的支援マニュアル(Technical Assistance Manual)、アクセス可能なデザインのためのADA基準(ADA Standards for Accessible Design)などがある。
 2008年にはADA改正法が成立し、2010年にADA施行規則の改定、「2010年アクセス可能なデザインのためのADA基準(the 2010 ADA Standards for Accessible Design)」の策定(1991年版の改定)が行われた。これに伴い、第2部及び第3部の施行規則の一部が修正された6

図表2-1 ADA第2部及び第3部の要点7
第2部 第3部
適用
  • 州及び地方政府(公共団体)
  • 公共団体のプログラム、サービス、活動
  • 上記と契約して公的サービスを提供するその他の団体
  • 公共交通(第2部パートB)
  • 民間団体が運営する公共施設(ホテル、飲食店、展覧会や娯楽の場所、集会所、販売、レンタル店、サービス施設、特定の公共交通のための駅、公共の展示・収集所、レクリエーション施設、教育施設、ソーシャルサービスセンター施設、運動施設など)
  • 商業施設(倉庫、工場、オフィスビルなど)
  • 民間交通サービス
  • 免許、試験場
要件など 自己評価及び移行計画 ×
政策、取組、手続の合理的変更 政策、取組、手続の合理的変更
効果的なコミュニケーション(補助具やサービスの提供) 効果的なコミュニケーション(補助具やサービスの提供)
建築上の障壁の除去 (容易に達成可能な場合の)建築上の障壁の除去
アクセシビリティの確保 アクセシビリティの確保
実施及び救済
  • 司法省又は他の適切な連邦機関に対する行政上の苦情申立て
  • 司法省又は他の適切な連邦機関による調査及びコンプライアンスレビュー
  • 司法省又は他の適切な連邦機関による調停、救済
  • 司法省よる地方裁判所での訴訟
  • 連邦機関の基金の取消
  • 司法省に対する苦情申立て
  • 司法省による調査及びコンプライアンスレビュー
  • 司法長官による地方裁判所での民事訴訟
  • 本人による地方裁判所での民事訴訟(差し止め命令による救済)
実施及び救済

行政上の要件

  • ADAコーディネーターの任命(50人以上の職員を有する州及び地方政府)
  • ADA規定の通知(すべての州及び地方政府)
  • 苦情処理手続(Grievance Procedures)の制定と公表(50人以上の職員を有する州及び地方政府)

(出典:関連資料より作成)


2 ToolKit Chapter 1
3 ToolKit Chapter 1
4 ToolKit Chapter 1
5 ToolKit Chapter 1
6 ADA.gov  http://www.ada.gov/2010_regs.htm
7 第2部及びIIIの施行規則、ツールキット 第1、2章の他、How to File a Title III Complaint (U.S. Department of Justice Civil Rights Division Disability Rights Section)、The Mountain State Centers for Independent Livingサイト(Skills Training Classes)を参照して作成した。

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