2-2 アメリカにおける合理的配慮の概念

 アメリカにおける合理的配慮の概念について、法律上の定義と一般的な概念には、違いがみられる。ここでは、これらの用語・定義を整理することによって、本章で調査対象とする合理的配慮の提供プロセスについて、その射程を検討する。

1)アメリカにおける合理的配慮(reasonable accommodation)の概念

 アメリカにおいて、合理的配慮(reasonable accommodation)とは、障害者の完全な参加を可能にするための機会の調整(adjustments)や変更(modifications)の全体を、広義には「合理的配慮」という8。その一方、法的用語としての合理的配慮は、1973年のリハビリテーション法504条を実施するために、1977年に保健教育福祉省(the U.S. Department of Health, Education, and Welfare)で障害(handicap)の差別に関して使用された9。そのような制度的背景があるため、アメリカでは、法的用語としては、雇用慣行の分野においてのみ、適用されている10
 ADAをみても、障害者の雇用慣行(第1部)において、合理的配慮について、定義・規定している。ADA第1部の101条(Sec. 12111.)における定義は、以下のようになっている。

 「合理的配慮に含まれるもの:
(A)従業員が利用する既存の施設を障害者が容易にアクセス可能、利用可能にする。
(B)職務の再編成、労働時間のパートタイム化や勤務スケジュールの変更、空席の職位への配置転換、機器や装置の購入・変更、試験の適切な調整・変更、訓練の教材や政策、適格な労働者・通訳の提供、障害者個人に対するその他の同じような配慮。」

2)合理的変更(reasonable modifications)の概念

 公共分野、公的サービス分野における合理的配慮については、法的用語としては言及されていない。それに対して、ADA 第2部では、州及び地方政府に対して、合理的変更を求めている。また、ADA第3部でも、民間の施設などに対して、同様の規定がある。
 ADAでは、合理的変更とは、障害者の差別を防止するために公共団体の政策(Policies)・取組(Practices)・手続(Procedures)を合理的な範囲で変更することを指す11、と定義されている。また同様に、ツールキットでは、「公共団体は、障害者に対する差別を防ぐために、規則(rules)、政策(policies)、手続(procedures)を合理的に変更しなければならない。」と規定しており、障害者差別禁止のための制度などの変更を求めている。

 合理的変更についても、合理的配慮と同様に、過度の負担に対する限定規定も存在する。ツールキット(第1章)では、「変更の提供が、根本的にそのプログラム、サービス、活動の性質を変えるであろう場合は、求められない。根本的な改変とは、もともとのプログラム、サービス、活動ともはや同じでない程度の変更のことである。」としている。さらに、小規模団体向けのガイドラインでは、「公共団体のすべての政策、取組、手続に適用される法的要求だが、施策、サービス、活動の根本的な見直しになるような変更や、他者の健康や安全に対する直接的な脅威になるような変更を行う必要はない」12としている。

3)合理的配慮と合理的変更

 前述のとおり、法的用語としては、ADAにおいても、合理的配慮は、雇用に関する規定であり、各組織内で雇用される障害者や求職中の障害者に提供されるものである。そこには、変更や調整が含まれている。ADAでは、その規制対象には、公共機関だけでなく民間企業・団体も広く含まれる一方、適用対象は、適格な障害者(qualified individual)であり、そこには、その職業の本来的な職務を遂行できること(perform the essential functions of the employment position)という条件が含まれる。すなわち、障害を持つ以外は有資格である人(otherwise qualified individual with a disability)のみが適用対象である。
 これに対して、ADA第2部及び第3部では、公的サービスの提供に当たって、公共団体及び民間の施設などに合理的変更を実施することを義務付けている。その一方で、適用対象として、適格な障害者の要件はあるが、公共団体などが提供するプログラム、サービス、活動に必要な資格要件(essential eligibility requirements)を満たしている人、と比較的に緩やかな条件となっている。

 このような違いについて、表面的に捉えるならば、調整は一人ひとりの能力・状態に合わせた個別の対応を、変更は規則・規定の変更など、より組織的な対応を意味すると考えられる。ただし、このような考え方が適切であるかどうか、さらなる検討が必要である。
 このように、合理的配慮と合理的変更について、法的には、区別される概念である。言い換えれば、法的には、定義や適用範囲を明確にしておく必要がある。しかし、一般的に使用される、広義の合理的配慮の概念には、調整及び変更を含んでおり、それらの用語の区別は明確ではない。実際に、公共団体などの現場では、調整や変更の用語を区別することなく、合理的配慮を提供する取組を実施しているようにみえる。
 したがって、本章において、合理的配慮とは、広義の合理的配慮の概念であり、公共団体などにおける合理的変更の取組など、公的サービス分野における雇用の分野以外での調整や変更にかかわる一連の法制度、取組をすべて含めて、調査対象とした。


8 U.S Commission on Civil Rights, "Accommodating the Spectrum of Individual Abilities ",1983,p.102 「プログラム、活動、課題が常に、通例、それらを行う、「正常な」身体的、精神的能力のある人の障害を構築する場合、障害者(handicapped people)に対する差別を解消することはできない。障害者の完全な参加を可能にするための機会の調整や変更を、広く「合理的配慮」という。」
9 U.S Commission on Civil Rights, "Accommodating the Spectrum of Individual Abilities", 1983,p.104
10 U.S Commission on Civil Rights, "Accommodating the Spectrum of Individual Abilities", 1983,p.104
11 28 C.F.R. § 35.130(b)(7)
12 Civil Rights Division of the U.S. Department of Justice ,ADA Guide for Small Towns,2000,p.9

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