3-6 合理的配慮の基準と評価

 サービス提供者や雇用者が平等法遵守のための取組を進める際に参考となる実践の基準としては、平等法の施行規則に簡素な実践指針が示されている。しかし、この実践指針は実施内容の大項目を列挙したもので、そのままでは実践の手引きとはなりにくいため、幾つかの自主的な実践ガイドラインが提供されている。中でも、地方政府協会が提供する「地方政府のための平等フレームワーク」と、ビジネス障害フォーラムが提供する「障害基準」が広く利用されている。

1)平等法施行規則における合理的調整の実践指針

 平等法の施行規則第7章の最後に、「Reasonable Adjustment in Practice」と題した実践の指針が示されている。これは、詳細なガイドラインではなく、合理的調整を有効に提供するために役立つ取組を列挙したものだが、公共機関やサービス提供者が平等法への現実の対応を検討する際の基本的な指標となっている。

図表3-14 平等法施行規則第7章における合理的調整の実践指針

  • 障害者からの要求を事前に計画し、実施されている合理的調整を見直すこと
  • 施設に対するアクセス監査を実施すること
  • 障害のある利用者に対して、合理的調整に関する彼らの意見を聞くこと
  • 地方や全国の障害者グループに助言を求めること
  • 関連する合理的調整に対して、障害者の注意を引くことによって、彼らがそのサービスを利用できることを知らせること
  • 補助具を適切に維持し、補助具が上手く使えなかった場合の緊急時対応策を考えておくこと。
  • 合理的調整の要求に対してどのように返答するかを従業員が十分に理解するよう訓練すること
  • 従業員が障害者に対して対応する付加的なスキル(例えば、聴覚障害者とのコミュニケーションなど)を開発することを奨励すること
  • 従業員が合理的調整を行う義務を知り、障害のある利用者とどのようにやりとりをするか理解することで、合理的調整が認識され実施されることを確認すること

2)地方政府のための平等フレームワーク

 地方政府協会は、平等法への地方自治体の対応を支援するため、対応の枠組みを整理した「地方政府のための平等フレームワーク(Equality Framework for Local Government、EFLG)」を策定した。
地方政府のための平等フレームワークは、平等法の要求に地方自治体が応えるために推進すべき取組事項を体系的に整理し、さらに、それらについて3段階の実践レベルを設定し各段階での達成目標を示したものである。3段階の目標のうち、一番下の「Developing(発展途上)」レベルを達成した自治体は、自己評価によってその達成を宣言することができる。一方、上位の「Achieving(達成)」、「Excellent(優秀)」レベルを達成した自治体は、次に述べる平等ピア・チャレンジ(Equality Peer Challenge)に応募し、外部評価による認定を受けることができる。
 地方政府のための平等フレームワークは、平等法全般への対応を対象としたものであり、障害者への合理的配慮提供はその構成要素の1つに過ぎないが、地方自治体における平等法対応の実践について標準的な枠組みを示した点で注目される。(地方政府のための平等フレームワークは、本章の参考資料3-2に添付する。)

図表3-15 「地方政府のための平等フレームワーク」の紹介ウェブページ
地方政府協会ウェブサイト 平等フレームワーク紹介ページの画面

(http://www.local.gov.uk/equality-frameworks)

3)平等ピア・チャレンジ

 地方政府協会はまた、地方政府のための平等フレームワークに沿って平等法への対応を進めた地方自治体を評価・表彰する取組として、「平等ピア・チャレンジ」を実施している。これは、地方政府のための平等フレームワークの実践レベルの認定制度で、認定を受けようとする地方自治体は、地方政府協会に自己評価報告書と関連証拠を提出し認定を申請する。地方政府協会は、申請した地方自治体とは別の地方自治体で構成する評価チームを作り、評価チームが提出された自己評価報告書を検討し、さらに申請した地方自治体を訪問調査して、実践状況を評価する。各達成目標が達成されていると判断した場合、地方政府協会は申請した地方自治体の達成レベルを認定し、詳細な評価報告書を作成・公表する。さらに「Excellent」レベルを達成した自治体は地方政府協会が表彰する。これまでに、18の地方自治体が平等ピア・チャレンジで「Excellent」の認定を受け表彰されている。
 地方政府のための平等フレームワークと平等ピア・チャレンジは、地方自治体に平等法対応の明確な指針を与え、その実践を促す取組として注目されるが、実践の広がりはまだ十分ではなく、一部の自治体が地方政府の平等フレームワークに沿った実践を進めるにとどまっている125

図表3-16 平等ピア・チャレンジの紹介ページ
地方政府協会ウェブサイト 平等ピアチャレンジ紹介ページの画面

(http://www.local.gov.uk/peer-challenges/-/journal_content/56/10180/3510141/ARTICLE)

図表3-17 地方政府協会によるEquality excellence 認定自治体

自治体名 Equality and diversity 関連URL
Barnsley Metropolitan Borough Council https://www2.barnsley.gov.uk/services/community-and-living/access-for-disabled-people/equalities-and-diversity
Brighton and Hove City Council http://www.brighton-hove.gov.uk/content/council-and-democracy/equality
Bristol City Council https://www.bristol.gov.uk/people-communities/equality-diversity-and-cohesion
Cheshire West and Chester Council http://inside.cheshirewestandchester.gov.uk/find_out_more/publications/strategies_plans_and_policies/equality_and_diversity
City of York Council https://www.york.gov.uk/downloads/20148/equality_and_diversity
Derby City Council http://www.derby.gov.uk/community-and-living/equality-diversity/
Essex County Council http://www.essex.gov.uk/Your-Council/Strategies-Policies/Equality-diversity/Pages/Equality-diversity.aspx
Knowsley Metropolitan Borough Council http://www.knowsley.gov.uk/your-council/policies,-plans-and-strategies/people/equality-diversity
London Borough of Enfield http://www.enfield.gov.uk/info/1000000152/equality_and_diversity
London Borough of Hackney http://www.hackney.gov.uk/ce-pandc-equality-diversity-861.htm#.Vof1uCdfVjo
London Borough of Lambeth http://www.lambeth.gov.uk/elections-and-council/lambeth-equality
Leeds City Council http://www.towerhamlets.gov.uk/lgnl/community_and_living/equality_and_diversity/equality_and_diversity.aspx
London Borough of Tower Hamlets http://www.leeds.gov.uk/council/Pages/Equality-and-diversity.aspx
Leicestershire County Council http://www.leicestershire.gov.uk/about-the-council/equalities/equality-and-diversity/equality-act-2010
Manchester City Council http://www.manchester.gov.uk/info/200041/equality_and_diversity
Newcastle upon Tyne City Council http://www.newcastle.gov.uk/your-council-and-democracy/equality-diversity-and-citizenship
Nottingham City Council http://www.nottinghamcity.gov.uk/article/25570/Equality-and-Diversity-Policy-and-Resources
Rugby Borough Council https://www.rugby.gov.uk/info/20082/performance_and_strategy/180/equality_and_diversity

(出典:地方政府協会ウェブサイトの情報より作成)

4)ビジネス障害フォーラムの「障害基準」

 「障害基準(Disability Standard)」は、ビジネス障害フォーラムが提供する障害者対応のオンライン評価・管理ツールである。障害基準は、10領域の基準で構成され、各社の障害者対応パフォーマンスを組織横断的に測定し、優先課題に対処するための実行計画を提示する。
 障害基準はビジネス障害フォーラム会員向けの非公開サービスであり、その詳細は不明だが、地方政府のための平等フレームワークよりも詳細で実践的な基準となっているため、地方自治体などの公共機関でも平等法遵守のためのアセスメントツールとして広く利用されている126
 ビジネス障害フォーラムはまた、障害基準による各社のパフォーマンス測定を基に毎年、優れたパフォーマンスを示した企業を表彰する「Disability Smart Award」を実施している。2015年の受賞者は次のとおりである。

図表3-18 障害基準の紹介ページ(詳細は会員のみ閲覧可)
ビジネス障害フォーラムウェブサイト 障害基準紹介ページの画面

(https://www.disabilitystandard.com/)

図表3-19 2015年のDisability Smart Award受賞者

総合評価

  • Executive Disability Champion: David Oldfield, Lloyds Banking Group
  • Disability Champion: Neil Milliken, Atos

領域別評価

  • Know-how: HMRC
  • Adjustments: Lloyds Banking Group
  • Recruitment: Sainsbury’s
  • Retention: Barclays
  • Career Development: Civil Service
  • Products and Services, B2B: Nuance
  • Products and Services, B2C: BT
  • Product Development: Sainsbury’s
  • Communication: HSBC
  • Premises: Brent Council
  • ICT: Barclays

(出典:ビジネス障害フォーラムウェブサイトの情報より作成)


125 2016年2月15日、ハックニー区スタッフへのインタビューによる。
126 2016年2月15日ハックニー特別区インタビューによる。

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