I.本事業の目的 I-2

2.検討すべき対応策

1)障害者を捉える設問の導入

(1)障害者を捉える設問

 「1.障害者統計の充実の必要性」でも整理したように、障害者政策、統計整備のいずれの観点からも、「障害のある者と障害のない者との比較を可能とすること」が重要である。特に、障害者権利条約における障害者統計の要請に鑑みると、他国と統計調査で得られた結果を比較検討できる必要があり、そのためには、各国の統計調査で用いられている障害者を捉える設問を我が国に適した形で取り入れることを検討することが一つの方策である。例えば、インクルーシブ雇用議連の提言で掲げられた「ワシントングループの6つの設問」などが参考になると考えられる。
 本調査研究では、このような観点から、諸外国で用いられている障害の有無に関する設問のうち、代表的なもの、有益と考えられるものを取り上げ、実際にアンケート調査を実施して試行的に回答をしてもらうことを通じて、どのような設問・尋ね方が、適切に障害の有無を捉えることができ、「障害のある者と障害のない者との比較を可能とする」ことができるかを検討した。

(2)設問導入の考え方

 設問の導入に際しては、「1.障害者統計の充実の必要性」でも整理したように、政策への適切な利活用の観点、国際比較の観点のいずれからも、一般人口を対象とした大規模な統計調査での比較が必要となる。
 理論的には、新たに大規模な統計調査を新設することも考えられ、その場合には自由な設問設計、標本の設計が可能となることが利点と考えられる。しかし、新規に大規模な統計調査を実施することは、設問設計や標本設計に相当の時間を要する上、回答者の負担も増えることから、統計委員会等で慎重な協議を行うことが必要になることもあり、実現に多大な時間的・経済的コストを要する等の課題も存在する。
 一方で、既存の基幹統計調査のような大規模統計調査に、新たに障害者を捉える設問を追加する方法も考えられる。この場合には、新設の場合とは逆に、設問設計や標本設計における自由度が乏しくなる等の制約はある反面、時間的・経済的コストが削減できることもある上、既存の調査項目の活用により、「障害のある者」と「障害のない者」の精度の高い比較が可能になるというメリットが存在する。
 この点、本調査研究では、検討チーム会合における議論を行ったうえで、まずは「既存の基幹統計調査等の大規模統計調査の活用」を基本線として調査を実施することとした。
 なお、どのような既存の統計調査に設問を追加するべきかという具体的な提案については、本調査研究の射程を超えるため、本調査研究では検討対象としていない。

2)導入による政策的意義

 既存の基幹統計調査等に、新たに設問を入れる場合には、その設問を新設・挿入することにより、どのような政策的な意義があるのかが問われることとなる。
 その設問はどのような国際的・社会的な状況を背景として求められているのか、また、その設問によって、従来ではわからなかったどのようなことがわかるようになるのか、といったことについて、説明することが求められている。
 既述のように、障害者を捉える設問については、障害者権利条約の要請、障害者に係るデータの国際比較の観点からの要請、SDGs等で定められる指標について我が国の状況を適切に測る観点からの要請などがあり、国際的な状況に鑑みると、障害者を捉えるための新たな設問を入れることが強く求められている。国内の状況を見ても、「統計改革推進会議 最終取りまとめ」(平成29年5月19日統計改革推進会議決定)等を踏まえ、証拠に基づく政策立案(Evidence-based Policy Making, EBPM)の推進が強く求められており、障害者に関するデータを適切に収集することは重要である。
 新たな「障害者を捉える設問」の導入により、公的障害者制度の利用者以外で、障害者と捕捉される者の割合がわかるとともに、その者がどの程度の生活・就労面での問題を抱えているのかを把握でき、支援の必要性や施策の検討に資することになる。本調査研究では、特に、新たな「障害者を捉える設問」の導入によって障害者として捕捉される者について、そうでない者(障害のない者)との比較等を実施することで、従来はわからなかったどのような事実を明らかにできる可能性があるのかを検討する。

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