2 国外調査 2.4.1

2.4 調査結果

2.4.1 文献調査の結果

(1) ESG要素を中心とする非財務情報の開示の枠組み

1) 障害者施策に係る内容が明示的に記載されているもの

○ オーストラリア証券取引所コーポレートガバナンス原則と推奨(制定・施行時期 2019年2月)

 「オーストラリア証券取引所コーポレートガバナンス原則と推奨」は、上場企業に対し、多様性に係るポリシー情報を開示することを推奨しており、その指針においては、障害者への配慮についても言及することが求められている。同推奨は、投資家の信頼を促進し、上場企業がガバナンスに関連して利害関係者の期待に沿えるよう支援する目的で整備されているものである1

2) 障害者施策に係る内容が間接的に含まれていると考えられるもの

○ EU非財務情報開示指令(制定・施行時期 2014年10月22日)

 EUの「非財務情報開示指令」においては、責任ある事業の奨励を目的として、大企業が社会等の変化にどのように対応しているかについて情報開示が必要である旨が記載されている。社会(S)の要素としては、「社会的責任性」、「人権尊重」、「取締役会の多様性」等が明記されており、これらの項目において、障害者施策が含まれ得ると考えられる2

○ EU持続可能な金融情報開示規則(制定・施行時期 2019年11月27日)

 EU「持続可能な金融情報開示規則」は、「金融市場への参加者は、意思決定の過程に持続可能性を融合させていかなければならない」という目的の下で整備され、ESGの社会(S)の要素として、「不平等に対する取り組み」、「社会的統合及び労使関係の育成」、「人的資本、社会的に恵まれていないコミュニティへの投資」等が明記されており、これらの中に、障害者施策が含まれ得ると考えられる3

○ フランス企業注意義務法(制定・施行時期 2017年3月27日)

 フランスの「企業注意義務法」は、自社の事業活動に伴う人権リスクを特定し、防止するための計画の公表と子会社や関連会社による環境破壊や人権侵害についての親会社の責任追及が可能なものとなっており4、人権侵害というテーマにおいては、障害者施策が含まれ得ると考えられる。

○ ドイツ グローバル・バリューチェーンにおける人権及び環境に関するデュー・ディリジェンス法(制定・施行時期 2020年7月)

 ドイツの「グローバル・バリューチェーンにおける人権及び環境に関するデュー・ディリジェンス規制法」は、企業のサプライチェーン全体に対する投資や企業取引、合併・買収(M&A)などの際に対象となる企業の価値やリスクを詳しく把握するためのデュー・ディリジェンス(調査・確認)を求めることにより、人権及び環境基準の遵守を促すことを目的としている5。この法律においては、人権というテーマにおいて、障害者施策が含まれ得ると考えられる。

○ スウェーデン ESGレポーティングガイド2.0(制定・施行時期 2015年)

 スウェーデンの「ESGレポーティングガイド2.0」は、上場企業と投資家にESGに関するデータを活用し有益なビジネスを促進させることを目的に整備されたものであり、非財務情報にESGに係る情報を盛り込むように企業に提言している6。具体的には、「社会的および従業員に関する問題」、「人権尊重」、「取締役会の多様性」が盛り込まれており、これらの内容に障害者施策が含まれるものと考えられる。

(2) ESGについての投資枠組み

 障害者施策に係る内容が明示的に記載されているものは、特になかった。障害者施策に係る内容が間接的に含まれていると考えられるものとしては、以下のものが挙げられる。

1) 障害者施策に係る内容が間接的に含まれていると考えられるもの

○ 英国スチュワードシップ・コード2020(制定・施行時期 2020年1月1日)

 「英国スチュワードシップ・コード2020」は、顧客と受益者のための長期の価値創造のための管理を確実に行うために整備されたものであり、従業員の多様性のほか、資金をどのように配分しているか等の詳細説明が原則として定められている7。このうち、障害者施策は、「ダイバーシティ(多様性)」において含まれ得ると考えられる。

○ 欧州ファンド・アセットマネジメント協会スチュワードシップ・コード(制定・施行時期 2011年4月6日)

 「欧州ファンド・アセットマネジメント協会 スチュワードシップ・コード」は、「EU株主権利指令II」の遵守を図る資産運用会社を念頭に整備されており、資産運用者に対して、「環境及び社会への配慮」、「コンプライアンス、文化、倫理の順守」等を求めており8、こうした項目において、障害者施策が含まれているものと考えられる。

○ オーストラリア アセットオーナーシップ・コード(制定・施行時期 2018年5月1日)

 「オーストラリア アセットオーナーシップ・コード」は、スチュワードシップ活動の透明性と説明責任を高め、アセットオーナーが代行する運用作業を受益者がより簡単に確認できるようにすることを目的に整備されており、アセットオーナーに対して、ESGの方針や投資に用いられる基準を開示することを提言している9。障害者施策に係る内容は、「取締役会の多様性」といったテーマにおいて、含まれていると考えられる。

(3) ESGに関する機関投資家の投資方針

 機関投資家の投資方針においては、障害者施策に係る内容が明示的に記載されているもの、及び、明示的な記載はないが含まれていると考えられるもののいずれにおいても、確認されなかった。


1 ASX Corporation Governance Principles and Recommendations
https://www2.asx.com.au/content/asx/search.html?q=cgc-principles-and-recommendations-fourth-edn

2 Non-Financial Reporting Directive Key Summary: https://ec.europa.eu/info/business-economy-euro/company-reporting-andauditing/company-reporting/non-financial-reporting_en

3 Sustainable Finance Disclosure Regulation https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2019/2088/oj

4 Loisur le devoir de vigilance
https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000034290626/

5 Germany's Due Diligence Act
https://www.cliffordchance.com/insights/resources/blogs/business-and-human-rights-insights/germanys-due-dligence-act.html

6 ESG Reporting Guide 2.0 A Support Resource for Companies https://www.nasdaq.com/docs/2019/11/26/2019-ESG-Reporting-Guide.pdf

7 UK Stewardship Code 2020 https://www.frc.org.uk/getattachment/5aae591d-d9d3-4cf4-814a-d14e156a1d87/Stewardship-Code_Dec-19-Final-Corrected.pdf

8 EFAMA Stewardship Code https://ecgi.global/download/file/fid/16510

9 Australian Asset Ownership Code https://acsi.org.au/members/australian-asset-owner-stewardship-code/

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