2 国外調査 2.5.1

2.5 参考資料(ヒアリング詳細)

2.5.1 欧州委員会(European Commission

ESGにおける障害者施策の現状

○ 社会(S)領域で言及される「ダイバーシティ&インクルージョン」や「人権尊重」等において部分的に包含されている合理的配慮の提供は、現在、様々な分野におけるデジタル化によって促進されている。デジタル化の進展により、障害者に対する社会的な認識が変化する可能性がある。同時に、社会的包摂の推進を含めた、より公平な社会の実現に向けた議論が活発化している。

○ 障害者への配慮の議論は、雇用面に限らない。雇用の面では、企業の社会的責任が重視されるようになってきているため、採用プロセスが重視され、障害者専用のプログラムへの投資が行われている。雇用以外の面では、合理的配慮の提供に関して、障害者の社会的孤立感を緩和するための施策や、社会的参加を促すウェビナーなどのデジタル・ツールが検討されている。

○ 「環境の整備」に関しては、市街地などで障害者が市民と一緒に活動できるような物理的な空間が作られている。また、障害者の製品・サービスの消費者としての側面からも、取組が進んでいる事例がある。例えば、障害者はスマートフォンの複雑さを嫌い、使いやすいものを求める傾向があることから、特別なアプリケーション(「ICANHELP」)が開発された。アプリ内では、スマートフォンの機能が分かりやすく表示されており、具体的には緑のボタンで連絡先に電話し、赤いボタンで助けを呼ぶ事が出来る。

ESGにおける障害者施策について

○ ESGにおいて障害者施策を評価しようとした場合に、幾つかの評価手法が考えられる。例えば、アクセンチュア社のレポートやDEI(Disability Equality Index)で見られるように、社会的孤立を評価する指標がある。

○ ESG評価基準に障害者施策の観点を導入する場合、S(社会)領域では、インクルージョンを促進する施策の導入が考えられるだろう。G(ガバナンス)領域であれば、障害者の受け入れに向けたトップダウンなマネジメントが考えられる。

○ ESGの文脈において、障害に関する取組が収益性に影響を及ぼすという報告は、収益源の改善を目的とした保険会社による社会的責任投資を多く引き起こすと思われる。また、近年急速に起こっていることは、雇用分野ではあるが、より多くの障害者が雇用されることによって保険会社が支出を削減でき、他のサービスを提供できるということである。欧州委員会のコヒージョン・ポリシーのレポートにあるデータも、障害に関する取り組みが収益性に正の影響を及ぼすことを明らかにしている。

○ ESGにおける障害者施策のポテンシャルを高めるために必要な要素は、それが重要な社会問題であるという認識を高めるための周知啓発である。人々の認識を高めるにはワークショップや定期的なニュースレターを発行し、毎回一人の障害者についてのストーリーを取り上げる、テレビで障害者についてのショートストーリーを流す、ショッピングモールでのイベントを開催することなどが考えられる。

○ ESGに障害者施策の観点を導入する、又は、主流化するために取り組むべきことは、積極的に「個人」を中心に置くことである。障害者を社会の一員として受け入れさせるためには、人々の意識を変える必要がある。大企業や政府機関は大きな影響力を持っているが、個人の視点から意識を変えていくことは課題となっている。成功すれば、ボトムアップの効果が生まれ、個人意識が政策に反映される。

○ 「合理的配慮の提供」や「不当な差別的取扱いの禁止」などの障害者に対する取組は、企業にとってリスクよりも機会として位置付ける方が良いだろう。合理的配慮の提供に関する取り組みは、今後、企業にとって大きなビジネスチャンスとなる。障害者は、障害の経験から得た独自の視点を持っていることから企業の人材の多様化に貢献し、企業の成長を促す機会となる。また、障害の種類に応じた様々な技術を開発・製造し、既存の技術を適応させるといった巨大な市場が存在する。結果的に、企業の収入源拡大につながるだろう。

隣接・近隣分野

○ S及びG領域において新たに台頭してきたテーマは、人工知能ツールなどを含めたデジタル化であり、これらは障害者の様々な活動への参加を可能にするだろう。また、障害者のインクルージョンという課題に取り組むために、学界や企業、政府機関の間のコラボレーションが行われている。

アクションに向けて

 ESGにおいて障害者施策の主流化を図る際に巻き込むべきキープレイヤーは、欧州委員会の様な政府機関やヘルスケア・障害関連の保険会社のような金融機関、アクセンチュアなどのコンサルティング会社、MicrosoftGoogleの様な大企業、小規模企業、そして大学である。なぜなら、大企業には影響力があり、政府は障害者に関する認知度を高めることによって障害者としての経験を語れるアンバサダーを育成することができるからである。これらの各主要プレイヤーは平等に代表されるべきである。障害者施策を推進するために具体的な取組みが期待できる分野は以下の通り。

(1)ESG要素に配慮した投資に係る枠組(スチュワードシップコード等)

(4)ESG要素に関する投資に関する機関投資家の方針

(2)ESG要素に関する投資基準としての評価枠組み

(3)ESG要素を中心とする非財務情報の開示の枠組

○ 実際に目に見える結果を生み出すのは投資そのものであり、投資家が最も重要である。ESG評価基準とESG経営非財務情報開示枠組も重要であるが、具体的な成果を生み出すものではないだろう。

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