2 国外調査 2.5.2

2.5 参考資料(ヒアリング詳細)

2.5.2 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)

ESGにおける障害者施策の現状

○ 社会(S)領域で言及される「ダイバーシティ&インクルージョン」や「人権尊重」等で部分的に包含されている合理的配慮の提供は、現在余り進んでいない。ヨーロッパの銀行や保険会社の年次報告書等を見ると、障害者のインクルージョンについて言及しているのは半数以下となる。また、合理的配慮の提供について説明している企業はわずかである。

○ 現在、社会(S)領域が軽視されている傾向があるが、S(社会)領域の中心となるのが「人権」で、女性差別や人種差別に加え、障害者の職場での差別をなくす取組も含まれている。マイノリティの人権は今後より重要な課題になってくるだろう。

○ 国際的な動向は、以下のとおり。

  • EFRAGでは、障害者配慮についての議論はされておらず、性差による差別と人種差別に焦点を当てているのが実情である。
  • 欧州委員会のサステナビリティ・プラットフォームでは、ソーシャル・タクソノミーに関するいくつかの提案を行っており、同一賃金のような課題に取り組み、障害者であるかどうかにかかわらず、キャリアアップの機会を平等に与えなければならないことなどが触れられている。現在焦点が当てられているのは主に性別による差別であり、障害者のインクルージョンはあまり注目されていない。
  • 雇用であれば、フランスのCNPという公営の保険会社は障害者が従業員の7%を占め、彼らのインクルージョンを目的とした明確なプログラムが存在する。マネージャー向けにはマネジメントガイドライン、他の従業員には障害者への対応方法や障害者のワークチェーンへの統合方法について書かれたマニュアルが提供されている。

ESGにおける障害者施策について

○ 現在ESGにおいて障害者施策を評価するための主な評価手法は、従業員に占める障害者の割合である障害者雇用率である。その他に考えられる指標は、障害者を受け入れることができる職場がどれだけ存在するか、企業が障害者雇用対策にどれだけ力を入れているか、障害者がインテグレーションに対して満足しているかどうかの満足度指標、従業員が職場を障害者に推薦するかどうか、などがある。しかし、これらの指標はまだ整備されていない。

○ EUで、現在、障害者施策を評価するための評価手法が議論されていない大きな理由は、気候変動が議論の優先事項となっているからである。社会(S)領域の人権といったテーマにはあまり関心が持たれていない。EFRAGとしては、報告において取り組むべき課題の範囲を拡大しようとしているが、障害者施策は今後の課題となっている。

○ ESG評価基準に障害者施策の観点を導入する場合は、ガバナンス(G)領域よりも、ダイバーシティ&インクルージョンや人材育成といった社会(S)領域が重要だろう。

○ 障害者のインクルージョンという課題が主流化するためには、企業の年次報告書等を比較し、障害者の受け入れに取り組んでいる企業にはボーナスポイントを加算するなど、財務的なメリットと結びつける必要がある。ヨーロッパでは、この課題をより公的に扱うために規制が整備されつつある状況だ。

○ ESGの文脈で説得力を持つのは、企業の障害者配慮に関する取組が収益性に影響を及ぼすという報告に関して、この主張を数字で証明することである。これができれば、より多くの企業に対して、障害者を受け入れるように説得することができるだろう。また、財務的に健全な企業は、障害者の従業員を雇うことができるため、製品ラインを障害者のニーズに適応させるのが容易である。このような業界で障害者がどのようにビジネスと関わっているか明らかにすると良いだろう。また、企業が障害者をサプライチェーンに参加させていることを伝えれば、その企業の製品の販売拡大にもつながるだろう。企業が障害者のインクルージョンに取り組んでいることを伝えるためには、サステナビリティレポートやCSR報告書へ記載すること、ウェブページに方針を記載することなどにより、認知を高めることができるだろう。

○ 特にBtoCの分野において、障害者への対応を経済性や収益性に繋げるためには、障害者配慮を進めることによるマテリアル・インパクトを示すことが重要である。例えば、サプライチェーンやバリューチェーンで障害者が製品の開発に貢献することで、製品が一般の消費者だけでなく障害者のためにも考えられているとの認識を高め、他の企業と比べて結果的に事業や商標の価値、好感度、収益性を高める。しかし、この様な取り組みはまだどの企業にも見られない。

○ ESGにおける障害者施策のポテンシャルを高めるためには、障害者のインテグレーションのために行われた施策を明らかにし、どのような価値が生まれたかを説明することが重要である。また、これらの対策がどのように障害者のインクルージョンを改善させ、企業価値を高めたのか、具体的な証拠を示すべきである。ただし、これらは定量的なデータではなく定性的な情報で示される可能性が高いだろう。

○ 企業がESGに障害者施策の観点を導入・主流化するためには、差別を禁止し、インテグレーションを重視していることをサステナビリティレポートでアピールすべきである。年次報告書等に従業員に占める障害者の比率、障害者のインテグレーションに向けた取組を含め、寛容かつ受容性のある企業のイメージを作ることができる。若い世代はこうした企業を歓迎する傾向があり、この様な取り組みを行っている企業を魅力的に感じるだろう。また、中途障害者になった従業員に対して、ある種のセーフティネットが存在することを示すことも重要である。

○ 「合理的配慮の提供」や「不当な差別的取扱いの禁止」などの障害者に対する取組は、リスクではなく、機会である。なぜなら、企業が障害者をサプライチェーンに参加させている事をマーケティングに使うことが企業にポジティブなイメージを与えるからである。

隣接・近隣分野

○ 社会(S)及びガバナンス(G)領域において新たに台頭してきたテーマ・分野としては、例えば、障害者向けの安全衛生対策、つまり社内での火事などの緊急時の障害者への対応、障害者がより利用しやすい公共交通機関の開発等がある。しかし、身体障害が議論の中心で、精神障害についてあまり議論されていなく、彼らのインテグレーションは未だにあまり進んでいない。

アクションに向けて

○ ESGにおいて障害者施策の主流化を図る際に、様々な分野や規模、国のキープレイヤーを巻き込む必要がある。民間企業は例えば金融業1社と、自動車産業などと障害者に適切なタスクを与える事が出来る産業を含めると良いだろう。

○ 障害者の受け入れを積極的に推進している主な公的プレイヤーとしては、フランス郵政公社(La Poste)やドイツ鉄道(De Bahn)などが挙げられる。しかし、コロナウイルス感染症によりリモート作業が増え、障害者が働きやすくなったにも関わらず、障害者のインテグレーションを推進しているIT/デジタル企業はまだ少ない。

○ 障害者施策を推進するために具体的な取組みが期待できるのは、以下のとおり。

(2)ESGについての投資基準・評価枠組み

(4)ESGについての機関投資家の投資方針

(3)ESGについての非財務情報の開示の枠組

(1)ESGについての投資枠組み(スチュワードシップ・コード等)

○ 投資基準としてのESG評価基準に関して、社会的課題に重点的に投資するファンドが存在するかもしれない。また、機関投資家がESGの社会(S)領域を好む場合、そのような取り組みをしている企業を選択するだろう。ESG経営非財務情報開示枠組は必要な条件であり、障害者への取組を実施している企業は投資ファンドが採用している基準に基づいて、投資対象として選択されるだろう。

○ その他のステークホルダーとしては、労働組合の代表者、消費者や金融資本・知的資本を提供する機関が挙げられる。

前のページへ次のページへ