2 国外調査 2.5.5

2.5 参考資料(ヒアリング詳細)

2.5.5 国際的指標の策定事業者

ESGにおける障害者施策の現状

○ S(社会)領域のデータは多くの場合定性的であり、評価が最も難しいため、企業が開示している情報や投資家が評価に用いている枠組みから取り残されてしまう。また、環境(E)領域の気候変動はグローバルな課題であるのに比べて、社会(S)領域での情報開示はテーマや地域、国レベルになりがちである。企業はデータの開示を警戒する傾向があるため、投資家による企業の比較や指標によるランキングが困難である。

○ 社会(S)領域では「インクルージョン」が最も注目を浴びていて、より多くの取り組みが行われているが、障害者のインクルージョンよりも人種の多様性、ジェンダーの多様性、LGBTQのインクルージョンに焦点が当てられていている。インクルージョンを重視している指標や格付け、投資ファンドも人種の多様性やジェンダーの多様性に焦点を当てている。

○ アメリカのDisability:INが作成した障害平等指標(DEI)、障害者のインクルージョンを目的とした自主的な取り組みがいくつか存在する。指標において好成績を収めた企業には、その分野での強力なパフォーマンスが報われることになる。しかし、情報が公開されないことで、投資家がこれらの課題について企業を調査することは難しい。

○ もう一つの取り組みは、障害者のインクルージョンを中心とした自主的な活動、「Valuable 500」である。これは投資家向けの活動ではなく、個人や株主にとって重要な企業の障害者受け入れ活動の改善を促進しようとするものである。

○ 今後の進展は地域や国によって異なるが、米国では、裕福な個人投資家が社会的インパクトのある戦略に投資しようとするボトムアップ型の需要が促進されている。障害者のインクルージョンも講演会やウェビナーで頻繁に取り上げられるようになって、アジェンダに含まれ始めている。しかし、社会問題アジェンダは多く、企業が注目するアジェンダは限られる。企業は、開示できる情報、つまり戦略や目標について悩んでいる。企業は必ずしもすべての課題について一度に情報を開示できるわけではないが、必ずしも開示する意思がないわけではない

○ S(社会)及びG(ガバナンス)領域において「差別的取扱いの禁止」に係る要素が含まれている例として、指標や格付け、ファンドに共通して見られるのは、ヘッドライン・リスクを持つ企業を排除しようとすること。障害者に対する差別的な労働慣行など、問題となる行動や論争に関して信頼性の高い検証済みの申し立てがある企業は、指標、そして結果的に格付けから除外されることがある。

○ 「合理的配慮の提供」に係る要素が含まれている例として、多くのESG評価指標は、300から400の評価項目から構成されている。しかし、障害者のインクルージョンが評価基準として用いられる例はおそらく存在しない。なぜなら、企業が障害者のインクルージョンに関するデータを開示しておらず、格付け会社が企業を評価し、格付けすることができないからである。

ESGにおける障害者施策について

○ ESGにおいて障害者施策を評価しようとした場合に、いくつか大事な点がある。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はいくつかのESGマンデートを発行したが、そのうちの1つは男女平等に関するもので、もう1つは日本のESG企業活動に焦点を当てたものであった。また、FTSE Blossom という指標が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって使用されたが、このような指標が有用な理由は、手法が透明で、ルールに基づいているからである。結果的に、非機関投資家の顧客向けの投資ビークルを作りたいと考えているファンドマネージャーが資金を提供するインセンティブの環境が整い、その分野での実践基準が設定される。しかし、内閣府は障害者のインテグレーションのような特定のテーマに焦点を当てることもできる。そしてもし情報開示が不十分であれば、ランキングを推進し、企業間の競争を生み出すことができる。企業は格付けの上位に入ろうと互いに競争するようになるに違いない。また、FTSE for good 指標の例で見られるように、基本的な基準から始めて、徐々に厳しくすることで基準を向上させるためのインセンティブを作ることもできる。企業は新しい基準に従わないとランキングから除外されてしまう。また、ランキングの対象ではない企業は、参加するために情報開示を改善するインセンティブが働き、透明性の向上に繋がる。しかし、そのためには、大規模な資産家や資本家からの資金提供や、これを促進するための効果的なメディアやコミュニケーション・キャンペーンが必要となる。

○ 当社は、企業の格付けについて長年の経験を持っている。企業の格付けはウェブサイトや年次報告書、サステナビリティレポートのデスクリサーチを基にする。企業の情報は年に一度更新され、アナリストはそのたびに企業を評価する。また、評価をするためには国や地域に応じた語学力が必要である。例えば、日本語で企業と直接コミュニケーションできる有能なアナリストやデータ収集チームが必要となる。ダイバーシティとインクルージョンの実践やポリシー、情報を適用するデータポイントについて、非常に透明性の高い説明とサポートを提供する必要がある。また、情報開示の水準を高める際には企業に警告し、新しい水準に対応するための追加の時間を与える必要がある。企業に協力してもらうためには、新しい水準は野心的であっても、現実的でなければいけない。明確な仕組みとルールが必要で、企業は良い評価を得るために何が求められているかを理解し、実践を改善するために十分な時間が与えられることが重要である。

○ ESG評価基準に障害者施策の観点を導入する場合、重要な項目は5つある。1つめは人的資本。次にG(ガバナンス)領域のうち、取締役会の構成と内部通報制度に関するもの。3つめはステークホルダーとの関係やフィランソロピーの取り組みに関連する地域社会との関係。次に、製造物責任。最後が社会的機会。障害者のインテグレーションに向けた取り組みを強化することで、テクノロジーやヘルスケアに特化した企業の一部が恩恵を受けるに違いない。例えば、障害者の生活を向上させる医療機器の販売や、障害のある従業員を支援、昇進させるのに役立つあらゆることが考えられる。

○ ESGの文脈において、障害に関する取組が収益性に影響を及ぼすという報告はポジティブに受け止められている。その上で必要なのは、障害者のインテグレーションに取り組む企業と取り組まない企業を評価するためのデータを理解することである。しかし、指標は何千もの企業について同じデータセットを必要とするが、企業の情報開示基準は統一されていないため、障害者に関する取組の利益への影響を計測することは難しい。

○ ESGにおける障害者施策のポテンシャルを高めるために必要な要素は2つある。まずはあらゆるビジネスにとって最も重要な差別化要因の一つである、企業の人材の採用・維持方法である。人材を採用し、成長させるというポジティブなストーリーを描き、株主に伝えることが重要である。これにより、ジェンダーや民族・人種のダイバーシティに関する他の取り組みと同様に議論を活発化することが可能になる。2つ目は、会社のすべてのレベルにおいてダイバーシティについて開示することである。役員、管理職レベルの情報を開示することには大きなプレッシャーがあり、これが課題となっている。米国であれば、従業員に対して、人種、民族、宗教、LGBTQ等、個人的な属性について質問をすることがあるが、他の国ではそのような質問をすることは難しいだろう。ダイバーシティとインクルージョンについて開示できるようにすること、企業がどのように状況を改善していきたいかの目標を設定することが重要である。

○ 合理的配慮の提供や不当な差別的取扱いの禁止などの障害者に対する取組については、気候変動と同様に、リスクよりも機会として位置づけた方が良い。気候変動はリスクとして捉えられることが多いが、実際は機会も存在する。市場や株主、幅広いステークホルダーにポジティブなストーリーを伝える機会と考えられるため、明確に現状と目標を伝えることが重要である。

隣接・近隣分野

○ 社会(S)及びガバナンス(G)領域において新たに台頭してきたテーマとして、SDGsが挙げられる。SDGsは、活動を分類するための共通言語になってきていて、医療や教育の分野での社会的に有益な製品に関する機会が存在する。

アクションに向けて

○ ESGにおける障害者施策の主流化を図る際に巻き込むべき5主体は以下のとおり。

  • 障害者施策についての専門家組織。専門知識が重要であるため。
  • 政府系投資ファンド。理由は、障害者の受け入れを促進したいと考えている地方自治体が債券発行プログラムを立ち上げて、都市が障害者を擁護しやすくするための資金を提供することができるため。
  • インデックス・プロバイダー。格付け会社の方法論に関連する規則や基準、慣行を最終的に設定するもので、企業パートナーと最も直接的な交流を行うため。
  • 地元の証券取引所。発行者との強い関係が重要である。
  • ファンドマネージャー。

○ パイロット事業を立ち上げることを考える場合、データセットそのものが重要である。パイロット・プロジェクトでは、完璧なデータを見つけることが出来なくても、スケールアップしたデータを収集するための時間を確保する必要がある。現在のESG市場の課題の一つは、わが社のような組織の時間とリソースが様々な顧客から求められていることである。そうなると、最初からデータを構築して収集するよりも、既にあるものを利用しようとする傾向がある。

○ 障害者施策を推進するために具体的な取組が期待できる分野は、期待できる順に挙げると、

(2)ESG投資基準としての評価枠組み

(1)ESG要素に配慮した投資に係る枠組(スチュワードシップコード等)

(3)ESG要素を中心とする非財務情報の開示の枠組み

(4)ESG投資に関する機関投資家の方針投資

である。スチュワードシップ・コードのような投資枠組みや、政府機関からの公式または半公式な支援を受けたある種の統一された取り組みがあれば、ESG経営非財務情報開示枠組の背後に力と支援が得られる。

○ ESG評価枠組みと非財務情報開示枠組みがあるだけでは、企業が公開する理由がない場合は、それに基づいて開示するとは限らない。何らかの形で「これは取り組むべき関連事項だ」とトップダウンで企業に働きかけることで、企業はフレームワークに沿って情報を開示するかもしれない。

○ 機関投資家の投資方針は各機関で個別に行われている。特に障害者のインクルージョンに関して、投資機関の間、そしてESG全般でコンセンサスが得られていない。障害者のインクルージョンに関しても同様である。関心のある問題は投資主体ごとに異なるため、機関投資家において統一された方針を指定することは非常に難しい。

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