5.障害者に係る施策の経緯
(1)総合的推進の開始
我が国の障害者施策の総合的推進を図ることは、昭和45年の「心身障害者対策基本法」において示され、その後、56年の「国際障害者年」を契機として、さらに推進が図られることとなった。58年には、「国際障害者年」を受けて「国連障害者の十年」が宣言されたことを踏まえ、我が国における最初の障害者施策に関する長期計画が策定された。
平成5年には、「心身障害者対策基本法」が「障害者基本法」に改められるとともに、障害者施策を総合的かつ計画的に推進すること等が示された。こうした経過を経て、障害者の自立と社会参加に関し10年間の計画を策定し、総合的かつ計画的に施策を推進するという枠組みに沿って、今日まで、取組が進められてきている。
平成23年度は、15年度から24年度までを計画期間とする「障害者基本計画」の9年度目に当たるとともに、19年12月に旧本部において決定された同基本計画の後期5年間における「重点施策実施5か年計画」(以下「後期5か年計画」という。)の4年度目に該当する年であった。これらの計画では、障害の有無にかかわらず国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」とすることを目指すべき社会の姿とし、その実現を図るための施策として、各省庁における障害者に係る施策を記載している。
(2)平成16年度の基本法改正
平成16年6月に、障害者基本法が改正され、目的規定において障害のある人の自立や社会参加の支援等が示され、また、基本的理念として障害を理由とする差別等の禁止が規定されたほか、「障害者週間(12月3日から9日まで)」の設置、都道府県及び市町村における障害者計画の策定義務化、同基本計画の策定等にかかわる「中央障害者施策推進協議会」の内閣府への設置等が規定された。同協議会は、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験のある者から内閣総理大臣が任命していた。(23年の障害者基本法改正により、同協議会の役割は「障害者政策委員会」が担うことになっている。)
これまで各施策分野において同法の趣旨等を踏まえた制度改正等が行われて、現在の我が国における障害者施策体系が構成されている。
(3)生活支援の分野
生活支援の分野においては、就労支援の強化や地域移行の推進を図ることを目指して、平成18年に「障害者自立支援法」が施行され、福祉サービス体系の再編など、障害のある人が地域で安心して暮らせるよう、福祉サービス提供体制の強化等を図ってきたところである。
同法の施行後、法の定着を図るため、激変緩和のために累次の対策を講じ、利用者負担の軽減や事業者の経営基盤の強化などを行ってきたところである。
こうした中、推進会議の議論を踏まえて平成22年6月29日に閣議決定された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」において、障害保健福祉分野については、現行の「障害者自立支援法」を廃止し、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする「障害者総合福祉法」(仮称)を制定することとされた。新法の内容については、多くの障害当事者が参加する「総合福祉部会」で、約2年間にわたって議論され、平成23年8月には、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」が取りまとめられた。
その後、「民主党厚生労働部門障がい者WT(ワーキングチーム)」において、同年7月に成立した改正障害者基本法や同提言等を踏まえて検討がなされ、平成24年3月12日には、本部において、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」が本部決定され、翌13日には閣議決定・国会提出されたところである(法案の概要については、図表1-6)。
(4)発達障害者支援法
従来、身体障害、知的障害、精神障害という3つの枠組みでは的確な支援が難しかった発達障害のある人に対しては、平成16年に制定された発達障害者支援法において、その障害の定義を明らかにするとともに、保健、医療、福祉、教育、雇用等の分野を超えて一体的な支援を行う体制整備が進められている。
(5)障害者虐待防止法
虐待を受けた障害のある人に対する保護、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止等に関する施策を促進するため、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「障害者虐待防止法」という。)が衆議院厚生労働委員長の提出法案として、国会に提出され、平成23年6月に成立し、24年10月から施行される(法律の概要については、図表1-7)。
(6)生活環境の分野
次に、生活環境の分野においては、平成12年3月、ハード面、ソフト面を含めた社会全体のバリアフリー化を効果的かつ総合的に推進するため、閣議口頭了解により、「バリアフリー化に関する関係閣僚会議」が設置され、16年6月、同会議は、政府が一体となってハード・ソフト両面にわたる社会のバリアフリー化に取り組むための指針として「バリアフリー化推進要綱」を決定した。また、18年6月「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)が成立し、同年12月から施行された。これにより、当事者の参画による基本構想の策定や、公共交通機関、道路、建築物のみならず、都市公園、路外駐車場を含め、障害のある人等が日常生活等において利用する施設や経路を一体的にとらえた総合的なバリアフリー化の推進等が図られることとなった。20年3月には、施設や製品等について新しいバリアが生じないよう誰にとっても利用しやすいデザインにするという考え方であるユニバーサルデザインの浸透を踏まえ「バリアフリーに関する関係閣僚会議」において、「バリアフリー化推進要綱」を改定し、バリアフリーとともにユニバーサルデザインを併せて推進することを明確化した「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱」を決定した。また、同様の趣旨から、同じく3月、閣議口頭了解の一部改正によって「バリアフリーに関する関係閣僚会議」を改組し、「バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する関係閣僚会議」を設置した。
(7)教育・育成の分野
教育・育成の分野においては、障害のある幼児児童生徒の一人一人の教育的ニーズに柔軟に対応し、適切な指導及び支援を行うため、従来の盲・聾・養護学校の制度を特別支援学校の制度に転換すること等を内容とする「学校教育法等の一部を改正する法律」が平成18年6月に成立し、19年4月から施行された。
また、平成18年12月には、「教育基本法」が全面的に改正され、同月から施行されたところであり、障害のある幼児児童生徒についても、その障害の状態に応じ十分な教育を受けられるよう、必要な支援を国及び地方公共団体が講じなければならない旨が、「教育の機会均等」に関する規定に新たに明記された。
さらに、この改正教育基本法の理念の実現に向け、今後おおむね10年先を見通した教育の目指すべき姿と、20年度から24年度までの5年間に政府が総合的かつ計画的に取り組むべき施策について示した「教育振興基本計画」が20年7月に閣議決定された。
(8)雇用・就業の分野
雇用・就業の分野においては、障害のある人の社会参加に伴いその就業に対するニーズが高まっており、障害のある人の就業機会の拡大による職業的自立を図ることが必要なことから、中小企業における障害者雇用の一層の促進、短時間労働に対応した雇用率制度の見直し等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が平成20年12月に成立し、21年4月から順次施行されている。
(9)国際的取組
国際的な取組として平成20年5月には、「アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年)の行動計画である「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」に係る後期5年間の行動指針として、「びわこプラスファイブ」が国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)において採択された。
平成23年度においては、「アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年)の終了を見据え、平成25年以降のアジア太平洋地域の取組について、上記ESCAP において関係各国代表による会合が持たれ、次期「十年」について検討が進んでいる。24年10月~11月には、韓国・仁川(インチョン)において、会合が持たれ、次期「十年」について討議と決定が行われる予定である。
(10)本部及び推進会議
前述のとおり、平成21年12月に「障がい者制度改革推進本部」が設置され、その下で障害当事者を中心とする「障がい者制度改革推進会議」が22年1月から開催され、第一次、第二次意見を提出、それを踏まえた障害者基本法改正、総合福祉部会での提言がなされるなど、今後の障害者施策を展望する上で平成21年末から23年にかけては、画期的な時期となった。