目次]  [戻る]  [次へ

第1章 障害者施策の新たな展開

第1節 「障害者差別解消法」の制定

2.障害者差別解消法の概説

(1)対象分野

この法律は、雇用、教育、医療、公共交通など障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野を対象にしている。なお、雇用分野についての差別の解消の具体的な措置(本法第7条から第12条に該当する部分)に関しては、障害者雇用促進法の関係規定に委ねることとされている。

(2)障害を理由とする差別の禁止

この法律では、障害を理由とする差別を「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」の二つの類型に整理している。

「不当な差別的取扱い」とは、例えば、障害があるということだけで、正当な理由なく、商品やサービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為であり、このような行為は、国の行政機関や地方公共団体、事業者の別を問わず禁止される。

また、障害のある人等から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施が負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)を行うことが求められる。合理的配慮の典型的な例としては、車いすの人が乗り物に乗る時に手助けをすることや、窓口で障害のある人の障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談、読み上げなど)で対応することなどが挙げられる。こうした配慮を行わないことで、障害のある人の権利利益が侵害される場合には、障害を理由とする差別に当たる。

ただし、合理的配慮に関しては、一律に義務付けるのではなく、行政機関等には率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、事業者に関しては努力義務にとどめている。これは、この法律の対象範囲が幅広く、障害のある人と事業者との関係は具体的な場面によって様々であり、それによって求められる配慮も多種多様であることを踏まえたものである。

(3)基本方針の作成

障害を理由とする差別の解消の推進は、雇用、教育、医療、公共交通などの障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し、各府省の施策に横断的にまたがるものであることから、政府における総合的、一体的取組のため、施策の基本的な方向などを示す「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)を閣議決定することとされている。

基本方針においては、本法の理念や施策全般にわたる基本的な考え方のほか、分野別の対応要領や対応指針において共通して盛り込むべき事項、協議会を始めとする支援措置の在り方についての政府としての基本的な方向性などを示すことを想定している。

基本方針の作成に当たっては、あらかじめ、ヒアリングなど、障害者その他の関係者(事業者、経済団体等)の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴くこととされている。

(4)対応要領、対応指針による差別の内容の具体化と実効性の担保

具体的に、どのようなことが「不当な差別的取扱い」に当たるのか、どのようなことが「合理的配慮」として求められるのか、という点については、個々の場面の状況ごとに判断されるものであり、あらかじめ法律で列挙することは困難である。そこで、この法律では、障害を理由とする差別の禁止について適切に対応し、障害を理由とする差別の解消のための自主的な取組を促すために、不当な差別的取扱いの具体例や合理的配慮の好事例等を、今後、対応要領や対応指針において示すことにしている。

ア 行政機関等による取組

国及び地方公共団体などの行政機関等においては、自らの職員が適切に対応できるようにするための「対応要領」をそれぞれ自ら定め、それに基づく取組を行うことにしている。仮に行政機関等の職員において本法に違反する行為があった場合には、例えば行政機関等の内部における服務規律確保のための仕組みや行政相談等の仕組みにより、是正が図られることになる。

イ 事業者による取組

事業者において、障害を理由とする差別を解消するための取組が適切に行われるようにするための仕組みとして、この法律では、各事業分野を所管する大臣(以下「主務大臣」という。)が「対応指針」を作成し、事業者の自主的な取組を促すこととしている。また、特に必要があると認められる場合は、主務大臣が、事業者に対し、報告を求めたり、助言・指導、勧告を行うことができることとされている。

(5)国や地方公共団体による支援措置

ア 相談や紛争解決体制の整備等

障害のある人からの相談や紛争解決に関しては、既に、その内容に応じて、例えば行政相談委員による行政相談やあっせん、法務局・地方法務局・人権擁護委員による人権相談や人権侵犯事件としての調査救済等、様々な制度により対応している。そのため、この法律では、新しい組織を設けることはせず、基本的には、既にある機関などを活用し、その体制の充実を図ることにしている。

イ 障害者差別解消支援地域協議会

また、地域において障害を理由とする差別に関する相談や紛争の防止・解決を推進するためのネットワークを構築する観点から、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野に従事する者は、地方公共団体の区域において障害者差別解消地域支援協議会(以下「協議会」という。)を組織することができることとされている。

協議会には、国及び地方公共団体の機関のほか、NPO法人や学識経験者等、その他必要と認める者を構成員に加えることができる。このように様々な主体が連携し、関係する機関などのネットワークが構成されることによって、いわゆる「制度の谷間」や「たらい回し」が生じることのない体制の構築や、地域全体として相談・紛争解決機能の向上が図られることが期待されている。なお、協議会の事務に従事する者又は事務に従事していた者に対しては、秘密保持義務が課される。

ウ 普及啓発等

このほか、国及び地方公共団体が、差別の解消について必要な啓発活動を行うほか、国は、国内外における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うこととしている。

(6)施行期日

この法律に基づき、差別の解消に向けた取組が円滑に行われるためには、あらかじめ、関係者の意見を十分に踏まえた上で、基本方針や対応要領、対応指針を適切に定めるとともに、国民に対し、本法の趣旨と合わせて、それらの内容を十分に周知しておくことが不可欠であることから、この法律の施行日は、平成28年4月1日とされている。現在、基本方針や対応要領、対応指針の検討を行っているほか、国民に法律の趣旨や内容を広く周知するために、リーフレットやポスターの作成・配布、シンポジウムの開催などの啓発活動を行っている。

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」における啓発活動

障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するためには、国民各層の関心を高め、その理解と協力の下に進めることが重要であることから、国及び地方公共団体において、必要な啓発活動を行うこととされている(第15条)。

法施行に先立ち、平成25年度に実施した啓発活動の例としては、本法の趣旨や内容について広く周知を図るためのリーフレットの作成や共生社会地域フォーラムの開催が挙げられる。今後、本規定を踏まえた啓発活動については、基本方針において基本的な事項を盛り込むとともに、実施に当たっては、関係省庁や地方公共団体とも連携して取り組んでいくこととしている。

リーフレットわかりやすい版(表紙)
共生社会地域フォーラム「障害を理由とする差別の解消に向けて」 北海道(札幌市)

※リーフレット等は内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」参照。

目次]  [戻る]  [次へ