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第3章 施策推進の経緯と近年の動き

第1節 施策推進の経緯

1 基本法制定前の障害者に係る主な立法

第二次世界大戦後の我が国における障害者施策は、戦争によって被害を受けた多くの子供を救うため、昭和22(1947)年に障害児施策を含む児童福祉の基本施策を定めた「児童福祉法」の制定から始まったといわれている。

また、同年には「学校教育法」が制定され、障害のある児童生徒への教育を含んだ新しい学校教育制度が開始した。

次いで、昭和24(1949)年に「身体障害者福祉法」が制定された。当時この法律は、身体障害者自らの努力によって更生することを前提として、国及び地方公共団体がこれを援助し、必要な保護を行い、国民もこれに協力する責務を定め、もって身体障害者の生活の安定に寄与する等その福祉の増進を目的としたものであった。

また、昭和25(1950)年に精神障害者に対する医療、保護の充実、社会復帰の促進等を目的とした「精神衛生法」が制定された。

さらに、昭和35(1960)年、子供から成人に至るまで一貫した知的障害に関する援護事業の整備を図ることを目的とした「精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)」と身体障害者の雇用を促進し、職業の安定を図るための「身体障害者雇用促進法」が制定された。

これらの法律の成立など、障害者施策は着実に進展していったものの、身体障害、知的障害、精神障害(いわゆる3障害)でそれぞれ別個の枠組みで施策が進められ、また福祉を中心としつつ、雇用、教育、医療といった行政分野別に施策が進められて行く傾向にあった。

(1) 基本法の制定

そのような中、障害当事者及び障害当事者を支援する各方面の関係者により、身体障害者及び知的障害者の総合施策を推進するための基本法制定を求める声が高まり、昭和45(1970)年には「心身障害者対策基本法」が各党派一致の議員立法で成立するに至った。

この法律は、主に身体障害者と知的障害者を対象にするものではあったが、各省庁が所管する障害者に関連する個別法律に共通する、文字通り障害者施策に関する基本的な法律として制定されたものであり、本法の制定により、我が国における総合的な障害者施策推進の基本理念が初めて法的に確立したといえる。平成5年には法律の名称が「障害者基本法」に改められ、精神障害者はこの法律に規定する障害者に含まれることが明確に定められた。また、平成23年の改正により、発達障害者が含まれることが明確に定められるとともに、難病に起因する障害を持つ者も含まれることも解釈上明らかとなっている。

(2) 国際障害者年から初の長期計画(昭和57年度~平成4年度)の策定まで

国際連合(以下「国連」という。)は、1970年代ごろから障害者施策の推進に係る議決等を何度も行い、国際的な影響を与えてきたが、昭和51(1976)年には5年後の昭和56(1981)年を国際障害者年と定め、各国の取組を求めることになった。これを受けて、我が国では、昭和55(1980)年3月に「国際障害者年の推進体制について」を閣議決定し、政府における国際障害者年の関連施策推進のため、「国際障害者年推進本部」を総理府に設置すること等を定めた。そして、当該年である昭和56(1981)年には、関係行事・事業が行われるなど、障害者施策の総合的推進が一層大きく進むこととなった。

国際障害者年は、障害者理解の促進を中心としたものであったが、同時に、それまで比較的障害種別に分かれて活動していた障害者団体・障害者関係団体が国連障害者年推進の事業のため一つにまとまって活動する機会にもなった。

国際障害者年の翌年(昭和57(1982)年)12月、各国において、引き続き障害者に関する問題に取り組んで行く必要があることから、昭和58(1983)年から平成4(1992)年を「国連障害者の十年」と定め、「障害者に関する世界行動計画」が策定された。これを受けて、政府は、昭和56(1981)年3月、国際障害者年推進本部において、国として初めての本格的な長期計画を策定し、障害者施策への取組を進めていくこととした。

なお、同年4月、国際障害者年推進本部は改組され、内閣総理大臣を本部長とする「障害者対策推進本部(平成8(1996)年に障害者施策推進本部と改称。以下「施策本部」という。)」が設置され、障害者施策を総合的かつ効果的に推進することとした。

また、「国連障害者の十年」の中間年である昭和62(1987)年には、施策本部において「後期重点施策」を策定し、長期計画の下、後期に重点的に行う、より具体的な計画を定めた。これは、後の長期計画でも、その下に重点施策についての5か年計画を設けることにつながり、「障害者基本計画(第2次)」まで引き継がれていった。これらの計画は政府が設けた、有識者等による当時の中央心身障害者対策協議会(後に「中央障害者施策推進協議会」と改称し、平成11(1999)年にいったん廃止になったものの、平成16(2004)年の基本法改正であらためて内閣府に設置された。以下「協議会」という。)などの提言を踏まえたものとなっていた。

(3)新長期計画(平成5年度~14年度)の策定と平成5年の基本法改正

障害者団体等から「国連障害者の十年」終了後の新たな「国内行動計画」を策定すべきとの意見が出され、また、我が国も共同提案国となっていた「アジア太平洋障害者の十年(1993年~2002年)」の決議が採択されるなどの動きに対応し、協議会は、これまでの取組の成果を踏まえ、長期的な障害者施策の在り方について検討を行い、意見具申を行った。これを受けて、施策本部は、平成5(1993)年度からの10か年を見据えた「障害者対策に関する新長期計画」(以下、「新長期計画」という。)を策定し、障害者施策の一層の推進を図ることとした。

一方、社会の進展等により、心身障害者対策基本法は、法律の名称が「障害者基本法」に改められ、国会において平成5(1993)年11月26日、全会一致で可決され、改正された。主な改正点は次のとおりである。

<1>法律の目的として、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加の促進を規定し、障害者の「完全参加と平等」を目指すこととしたこと、<2>法律の対象となる障害を、身体障害、現在の知的障害又は精神障害としたこと、<3>基本理念として、障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる旨規定したこと、<4>国民の間に広く障害者の福祉についての関心と理解を深めるために12月9日を「障害者の日」と規定したこと、<5>政府は障害者の福祉等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者基本計画を策定しなければならないとし、地方公共団体においてもこれに準じた計画の策定に努めなければならないとしたこと、<6>雇用の促進等、公共的施設の利用及び情報の利用等の分野における国及び地方公共団体の責務の規定を整備するとともに、事業主に対し、これらの分野における所要の努力義務を規定したこと、<7>障害者に関する基本的・総合的な施策の樹立について調査審議する「心身障害者対策協議会」の名称を「障害者施策推進協議会」に改めるとともに、その委員又は専門委員について、障害者又は障害者の福祉に関する事業に従事する者からも任命する旨を規定したこと。

なお、平成5年に策定した「新長期計画」は、この法改正における「障害者基本計画」として取り扱われることとなった。

図表12 障害者施策の動向

(4)基本計画策定と平成16年の基本法改正

ア 障害者基本計画(平成15年度~24年度)の策定

平成14年、「新長期計画」が終期を迎えることから、障害者、障害者福祉関係者、学識経験者等から成る「新しい障害者基本計画に関する懇談会」や各省庁から成る検討チームによる検討を行い、同年12月に「障害者基本計画」(以下「第2次計画」という。)が閣議決定され、「重点施策実施5か年計画」が施策本部決定された。

第2次計画は、計画期間を平成15年度から24年度までの10年間とし、「新長期計画」の理念である「リハビリテーション」及び「ノーマライゼーション」を継承するとともに、「21世紀に我が国が目指すべき社会は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会とする必要がある。」とした。共生社会においては、障害のある人が社会の対等な構成員として人権を尊重され、自己選択と自己決定の下に社会のあらゆる活動に参加、参画するとともに、社会の一員として責任を分担する。他方、障害のある人の社会への参加、参画を実質的なものとするためには、障害のある人の活動を制限し、社会への参加を制約している諸要因を除去するとともに、障害のある人が自らの能力を最大限発揮できるよう支援することが求められる。国民誰もが同等に参加、参画できる共生社会は、行政だけでなく企業・NPO等全ての社会構成員がその価値観を共有し、それぞれの役割と責任を自覚して主体的に取り組むことにより初めて実現できるものであり、国民一人一人の理解と協力を促進し、社会全体としてその具体化を着実に推進していくことが重要である。

以上のような考え方に立って、<1>社会のバリアフリー化の推進、<2>利用者本位の支援、<3>障害の特性を踏まえた施策の展開、<4>総合的かつ効果的な施策の推進、という4つの「横断的視点」をもって基本的方向を定め、「重点的に取り組むべき課題」として、<1>活動し参加する力の向上、<2>活動し参加する基盤の整備、<3>精神障害者施策の総合的な取組、<4>アジア太平洋地域における域内協力の強化、の4つが挙げられている。

第2次計画は、その下により詳しい数値目標を設けた「重点施策実施5か年」を施策本部決定して、施策の推進を図ってきた。内閣府においては、分野別施策として約580にも上る個別施策の推進状況を確認し、ホームページに公表してきた。

イ 平成16年の基本法改正

平成5年の改正から11年を経て、障害のある人の社会への参加、参画を実質的なものとするためには、障害のある人の活動を制限し、社会への参加を制約している諸要因を除去するとともに、障害のある人が自らの能力を最大限発揮し、自己実現できるよう支援することが求められていることから、障害のある人を取り巻く社会経済情勢の変化等に対応し、障害のある人の自立と社会参加の一層の促進を図るために、平成16年に基本法の改正が行われた。

主な改正点は、<1>基本的理念として障害を理由とする差別等の禁止、<2>「障害者の日」(12月9日)から「障害者週間」(12月3~9日)への拡大、<3>都道府県及び市町村の障害者計画の策定義務化、<4>障害のある人の福祉に関する基本的施策として、教育における相互理解の促進、地域の作業活動の場等への助成に関する規定等の追加、<5>障害の予防に関する基本的施策として、難病等の調査研究の推進等に関する規定の追加、<6>国の障害者基本計画の策定に関し内閣総理大臣に意見を述べる「中央障害者施策推進協議会」の内閣府への設置等であった。

(5)第2次計画中、平成23年の基本法改正までに成立した主な法律等

第2次計画中、平成23年の基本法改正までに成立した主な障害者に関係する法律等として、次のようなものがある。

ア 「発達障害者支援法」

従来、身体障害、知的障害、精神障害という三つの枠組みでは的確な支援が難しかった発達障害のある人に対しては、平成16年に制定された「発達障害者支援法」において、その障害の定義を明らかにするとともに、保健、医療、福祉、教育、雇用等の分野を超えて一体的な支援を行う体制が進められている。

イ 「障害者自立支援法」

生活支援の分野においては、就労支援の強化や地域移行の推進を図ることを目指して、平成18年に「障害者自立支援法」が施行され、福祉サービス体系の再編など、障害のある人が地域で安心して暮らせるよう、福祉サービス提供体制の強化等を図ってきた。

同法の施行後、法の定着を図るため、激変緩和のために累次の対策を講じ、利用者負担の軽減や事業者の経営基盤の強化などを行った。

ウ 「バリアフリー法」

生活環境の分野においては、平成18年6月「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)が成立し、同年12月から施行された。これにより、当事者の参画による基本構想の策定や、公共交通機関、道路、建築物のみならず、都市公園、路外駐車場を含め、障害のある人等が日常生活等において利用する施設や経路を一体的にとらえた総合的なバリアフリー化の推進等が図られることとなった。

エ 学校教育法等一部改正等

教育・育成の分野においては、障害のある幼児児童生徒の一人一人の教育的ニーズに柔軟に対応し、適切な指導及び支援を行うため、従来の盲・聾・養護学校の制度を特別支援学校の制度に転換すること等を内容とする「学校教育法等の一部を改正する法律」が平成18年6月に成立し、19年4月から施行された。

また、平成18年12月には、「教育基本法」が全面的に改正・施行され、障害のある幼児児童生徒についても、その障害の状態に応じ十分な教育を受けられるよう、必要な支援を国及び地方公共団体が講じなければならない旨が、「教育の機会均等」に関する規定に新たに明記された。

さらに、この改正教育基本法の理念の実現に向け、おおむね10年先を見通した教育の目指すべき姿と、平成20年度から24年度までの5年間に政府が総合的かつ計画的に取り組むべき施策について示した「教育振興基本計画」が20年7月に閣議決定され、平成25年6月には、第2期計画へと引き継がれた。

オ 「障害者雇用促進法」一部改正

雇用・就業の分野においては、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和62年に「身体障害者雇用促進法」から名称変更)が存在したが、障害のある人の社会参加に伴いその就業に対するニーズが高まっており、障害のある人の就業機会の拡大による職業的自立を図ることが必要なことから、中小企業における障害者雇用の一層の促進、短時間労働に対応した雇用率制度の見直し等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が平成20年12月に成立し、21年4月から順次施行されている。

(6)障害者権利条約

国連においては、障害者の権利及び尊厳を保護し、及び促進するための包括的かつ総合的な国際条約である「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)が、平成14(2002)年7月以降、8回にわたる交渉による条約案の検討を経て、平成18(2006)年12月、第61回国連総会本会議において採択され、平成20(2008)年5月に発効した。我が国は平成19(2007)年9月に条約に署名、平成26(2014)年1月に批准し、2月に同条約は我が国について発効した(詳細は第4章2参照)。

第2節 基本法改正(平成23年)等近年の動き

1 制度改革の推進

平成21年12月、内閣に施策本部を引き継ぐものとして「障がい者制度改革推進本部」が設置され、その下で、障害当事者(障害者及びその家族)を中心とする人々から構成された「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という。)が開催され、平成22年6月に「第一次意見」、同年12月「第二次意見」を本部長あて提出した。(推進会議は、障害者政策委員会の発足(後述)に伴い、平成24年7月に廃止された。)

推進会議の第一次意見を受け、平成22年6月に、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向性について」が閣議決定された。基本的考え方として、「障害の有無にかかわらず、相互に個性の差異と多様性を尊重し、人格を認め合う共生社会の実現を図る。」こととし、基礎的な課題における改革の方向性として、<1>地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築と<2>障害のとらえ方と諸定義の明確化の2点を、横断的課題における改革の基本的方向と今後の進め方として、<1>障害者基本法の改正と改革の推進体制、<2>障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等、<3>「障害者総合福祉法」(仮称)の制定の3点を定めた。また、個別分野における基本的方向と今後の進め方について簡潔に表した。

2 平成23年の基本法改正とその概要

平成23年3月、障がい者制度改革推進本部において、障害者基本法の一部を改正する法律案が決定され、同法案は、同年4月に閣議決定、国会に提出された。

同法案は、国会審議の過程で、防災・防犯、消費者としての障害者の保護を加えるなど一部修正され、同年6月に衆議院、同年7月に参議院において、ともに全会一致で可決・成立し、附帯決議も付され、同年8月に施行された(「障害者政策委員会」に関する部分は、平成24年5月21日に施行)。

改正法の目的、定義、基本原則等については、次のとおりとなっている。

目的については、障害者権利条約の趣旨に沿った障害者施策の推進を図るため、同条約に定められる障害者のとらえ方や我が国が目指すべき社会の姿を新たに明記するとともに、施策の目的を明確化する観点から改正を行った。また、障害者を、必要な支援を受けながら、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する主体としてとらえ、障害者があらゆる分野において分け隔てられることなく、他者と共生することができる社会の実現を新たに規定した。

定義においては、障害者権利条約の規定を踏まえ、日常生活又は社会生活において障害者が受ける制限は、社会との在り方との関係によって生ずるといういわゆる社会モデルに基づく障害者の概念が盛り込まれた。

基本原則として、地域における共生等、差別の禁止、国際的協調が定められ、障害を理由とする差別の禁止に関し、障害者権利条約にいう「合理的配慮」の概念が盛り込まれた。

また、我が国の障害者施策について監視し、必要に応じて内閣総理大臣に対して勧告を行う組織として、「中央障害者施策推進協議会」を改組した形で「障害者政策委員会」が内閣府に設置されることとなった。

この法律の概要は、図表14のとおりである。

図表13
図表14 第3次障害者基本計画の概要

内閣府障害者施策ホームページの「障害者基本法の改正について(平成23年8月)」も参照。)

3 近年の主な動き

(1)近年成立した主な関係法

ア 「障害者虐待防止法」

虐待を受けた障害のある人に対する保護、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止等に関する施策を促進するため、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)が、平成23年6月に成立し、24年10月から施行された。

イ 「障害者総合支援法」

障害者基本法の改正や改革本部等における検討を踏まえて、地域社会での共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講じるため、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)が平成24年6月に成立し、25年4月から施行(一部、26年4月施行)された。

ウ 「障害者優先調達推進法」

障害者就労施設等の受注の機会を確保するために必要な事項等を定めることにより、障害者就労施設等が供給する物品等に対する需要の増進等を図り、もって障害者就労施設で就労する障害者、在宅就業障害者等の自立の促進に資することを目的とした「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」(障害者優先調達推進法)が平成24年6月に成立し、25年4月から施行された。

エ 「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」

「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が平成25年5月、議員立法により制定され、平成25年6月から施行された。

これを受けて、成年後見人が付いた人(被後見人)の選挙権が回復してから初めての国政選挙として、平成25年7月に参議院議員通常選挙が執行された。

オ 「障害者雇用促進法」一部改正

労働政策審議会障害者雇用分科会は、平成25年3月に「今後の障害者雇用施策の充実強化について」の分科会意見書を取りまとめた。

これを踏まえ、同年4月に、雇用の分野における障害者に対する差別を禁止するための措置及び精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出され、同年6月に成立した。また、同法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」が、平成27年3月に策定された。(第5章参照。)

カ 「障害者差別解消法」

全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が平成25年6月に成立した。また、同法に基づく、政府における施策の基本的な方向などを示す「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」については、障害者政策委員会でのヒアリング、議論等を経て平成27年2月に閣議決定された。

(基本方針の詳細は第1章。)

キ 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律」

精神障害者の地域生活への移行を促進するため、精神障害者の医療に関する指針の策定、保護者制度の廃止、医療保護入院における入院手続等の見直し等を行う、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律」が平成25年6月に成立し、26年4月から施行(一部、28年4月施行)された。

ク 「難病の患者に対する医療等に関する法律」

「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」に基づく措置として、難病の患者に対する医療費助成に関して、法定化によりその費用に消費税の収入を充てることができるようにするなど、公平かつ安定的な制度を確立するほか、基本方針の策定、調査及び研究の推進、療養生活環境整備事業の実施等の措置を講ずるため、「難病の患者に対する医療等に関する法律」が平成26年5月に成立し、27年1月から施行された。(第6章参照。)

(2)国際的取組

「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年)の終了を見据え、平成25年以降のアジア太平洋地域の取組について、国連のアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)において関係各国代表による会合が持たれ、次期「十年」について検討が行われた。平成24年11月、韓国・仁川(インチョン)で開催されたESCAP会合において「第3次アジア太平洋障害者の十年」の行動計画である「仁川(インチョン)戦略」が採択され、この戦略に沿った取組が我が国を含めた各国で行われている。

(我が国の障害者権利条約の批准については第4章2参照。)

(3)障害者基本計画(第3次)の策定

第2次計画の期間の満了を迎えるに当たり、障害者政策委員会において、国際社会の動向、これまでの国内における取組の進展等を踏まえ、平成24年7月以降、新たな障害者基本計画に関する調査審議を行い、同年12月に「新『障害者基本計画』に関する障害者政策委員会の意見」を取りまとめて内閣総理大臣に提出した。

これを受け、政府において、障害者政策委員会の意見に示された考え方を踏まえて新たな障害者基本計画の原案を作成し、原案に対する障害者政策委員会の意見の聴取を行った。障害者政策委員会の意見及びパブリックコメントにおいて寄せられた意見を踏まえ、障害者基本計画(第3次)(以下「第3次計画」という。)を策定(平成25年9月27日閣議決定)し、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会の実現に向け、障害者の自立と社会参加の支援等のための施策の一層の推進を図るものとした。

【第3次計画の特徴】
(1)障害者施策の基本原則等の見直し

第3次計画では、平成23年の障害者基本法改正の内容を踏まえ、計画の基本原則として、<1>地域社会における共生等、<2>差別の禁止、<3>国際的協調を盛り込んだ。

(2)計画期間の見直し

昨今の障害者施策を取り巻く経済・社会状況の変化が速いこと等を踏まえ、第2次計画までは10年としていた計画期間を5年(平成25年度~29年度)に見直した。

(3)施策分野の新設及び既存分野の施策の見直し

障害者基本法改正(平成23年)、障害者差別解消法の制定(平成25年)等を踏まえ、以下の三つの分野を新設した。

  • III.7.安全・安心(防災、東日本大震災からの復興、防犯、消費者保護等)
  • III.8.差別の解消及び権利擁護の推進(障害を理由とする差別の解消の推進、障害者虐待の防止等)
  • III.9.行政サービス等における配慮(選挙等及び司法手続等における配慮等)

また、第2次計画において記載のあった既存分野についても、障害児・者のニーズに応じた福祉サービスの充実(III.1.(2)(3))精神障害者の地域移行の推進(III.2.(2))、新たな就学先決定の仕組みの構築(III.3.(1))、障害者雇用の促進及び就労支援の充実(III.4.(1)(2))、優先調達の推進等による福祉的就労の底上げ(III.4.(3)(4))等、障害者基本法改正や近年行われた障害者施策に関する新規立法等を踏まえた既存施策の充実見直しを行った。

(4)成果目標の設定及び計画の推進体制の強化

計画の実効性を確保するため、合計45の事項について成果目標を設定した。また、障害者基本法に基づく障害者政策委員会による実施状況の評価・監視等を明記するとともに、障害者施策に関する情報・データの充実を推進することとした。

第3節 障害者の状況(基本的統計より)

1 障害者数(3区分の概要)

(1)全体状況

ここでは、身体障害、知的障害、精神障害の3区分による厚生労働省の調査から基本的な統計数値を掲載する。

身体障害、知的障害、精神障害の3区分で障害者数の概数をみると、身体障害者393万7千人、知的障害者74万1千人、精神障害者320万1千人となっている(図表15参照)。

■ 図表15 障害者数(推計)
(単位:万人)
総数 在宅者数 施設入所者数
身体障害児・者 18歳未満 7.8 7.3 0.5
男性 4.2
女性 3.1
18歳以上 383.4 376.6 6.8
男性 189.8
女性 185.9
不詳 0.9
年齢不詳 2.5 2.5
男性 0.7
女性 0.9
不詳 0.9
総計 393.7 386.4 7.3
男性 194.7
女性 189.9
不詳 1.8
知的障害児・者 18歳未満 15.9 15.2 0.7
男性 10.2
女性 5.0
18歳以上 57.8 46.6 11.2
男性 25.1
女性 21.4
不詳 0.1
年齢不詳 0.4 0.4
男性 0.2
女性 0.2
不詳 0.1
総計 74.1 62.2 11.9
男性 35.5
女性 26.6
不詳 0.1
総数 外来患者 入院患者
精神障害者 20歳未満 17.9 17.6 0.3
男性 10.8 10.7 0.1
女性 7.0 6.8 0.2
20歳以上 301.1 269.2 31.9
男性 123.7 108.9 14.8
女性 177.5 160.4 17.1
年齢不詳 1.1 1.0 0.1
男性 0.5 0.5 0.0
女性 0.6 0.6 0.1
総計 320.1 287.8 32.3
男性 135.0 120.0 15.0
女性 185.1 167.8 17.3
注1:平成23年患者調査の結果は、宮城県の一部と福島県を除いた数値である。
注2:精神障害者の数は、ICD-10 の「V 精神及び行動の障害」から知的障害(精神遅滞)を除いた数に、てんかんとアルツハイマーの数を加えた患者数に対応している。
また、年齢別の集計において四捨五入をしているため、合計とその内訳の合計は必ずしも一致しない。
注3:身体障害児・者の施設入所者数には、高齢者関係施設入所者は含まれていない。
注4:四捨五入で人数を出しているため、合計が一致しない場合がある。
資料:
「身体障害者」
在宅者:厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」(平成23年)
施設入所者:厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成21年)等より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成
「知的障害者」
在宅者:厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」(平成23年)
施設入所者:厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成23年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成
「精神障害者」
外来患者:厚生労働省「患者調査」(平成23年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成
入院患者:厚生労働省「患者調査」(平成23年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成

これを人口千人当たりの人数でみると、身体障害者は31人、知的障害者は6人、精神障害者は25人となる。複数の障害を併せ持つ者もいるため、単純な合計にはならないものの、国民のおよそ6%が何らかの障害を有していることになる。

なお、この数値の身体障害者及び知的障害者は、「生活のしづらさなどに関する調査」によるもので、精神障害者については、医療機関を利用した精神疾患患者数を精神障害者数としていることから、一過性の精神疾患のために日常生活や社会生活上の相当な制限を継続的には有しない者も含まれている可能性がある。

(2)年齢階層別の障害者数

在宅の身体障害者では、65歳以上の割合の推移をみると、昭和45年には3割程度だったものが、平成23年には約7割まで上昇している。

図表16 年齢階層別障害者数の推移(身体障害児・者(在宅))

在宅の知的障害者では、身体障害者と比べて18歳未満の割合が高い一方で、65歳以上の割合が低い点に特徴がある。

図表17 年齢階層別障害者数の推移(知的障害児・者(在宅))

外来の精神障害者65歳以上の割合の推移を見ると、平成17年から平成23年までの6年間で、65歳以上の割合は28.6%から33.8%へと上昇している。

図表18 年齢階層別障害者数の推移(精神障害者・外来)

(3)性別の障害者数

「平成23年生活のしづらさなどに関する調査」において、総数を性別にみると、65歳未満では男性が1,146千人(55.5%)、女性が917千人(44.4%)、65歳以上では男性が 1,438千人(47.2%)、女性が1,586千人(52.1%)となっている。

身体障害者数(身体障害者手帳所持者数)を、性別にみると、65歳未満では男性が651千人(55.0%)、女性が530千人(44.8%)、65歳以上では男性が1,296千人(48.3%)、女性が1,368千人(51.0%)となっている。

知的障害者数(療育手帳所持者数)を性別にみると、65歳未満では男性が323千人(57.7%)、女性が237千人(42.3%)、65歳以上では男性が32千人(51.5%)、女性が29千人(46.8%)となっている。

■ 図表19 障害者手帳所持者数等、性・障害種別等別
(単位:人)
(65歳未満)
総数 障害者手帳所持者 障害者手帳の種類(複数回答) 手帳非所持でかつ自立支援給付等を受けている者
身体障害者手帳 療育手帳 精神障害者保健福祉手帳
総数 2,065,100 (100.0%) 1,951,500 (100.0%) 1,183,400 (100.0%) 559,800 (100.0%) 418,700 (100.0%) 113,500 (100.0%)
男性 1,145,600 (55.5%) 1,086,100 (55.7%) 651,200 (55.0%) 322,900 (57.7%) 230,000 (54.9%) 59,500 (52.4%)
女性 917,000 (44.4%) 863,000 (44.2%) 530,300 (44.8%) 236,900 (42.3%) 187,700 (44.8%) 54,100 (47.7%)
不詳 2,500 (0.1%) 2,500 (0.1%) 2,000 (0.2%) (―) 1,000 (0.2%) (―)
(65歳以上及び年齢不詳)
総数 障害者手帳所持者 障害者手帳の種類(複数回答) 手帳非所持でかつ自立支援給付等を受けている者
身体障害者手帳 療育手帳 精神障害者健康福祉手帳
総数 3,046,500 (100.0%) 2,840,100 (100.0%) 2,680,400 (100.0%) 61,900 (100.0%) 148,900 (100.0%) 206,400 (100.0%)
男性 1,437,500 (47.2%) 1,362,800 (48.0%) 1,295,500 (48.3%) 31,900 (51.5%) 71,300 (47.9%) 74,700 (36.2%)
女性 1,585,900 (52.1%) 1,456,700 (51.3%) 1,368,200 (51.0%) 29,000 (46.8%) 74,200 (49.8%) 129,300 (62.6%)
不詳 23,100 (0.8%) 20,600 (0.7%) 16,700 (0.6%) 1,000 (1.6%) 3,400 (2.3%) 2,500 (1.2%)
資料:厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」(平成23年)

精神障害者数を性別にみると、20歳未満では男性が108千人(60.7%)、女性が70千人(39.3%)、20歳以上では男性が1,237千人(41.0%)、女性が1,775千人(59.0%)となっている。65歳未満では男性が978千人(48.0%)、女性が1,062千人(52.0%)、65歳以上では男性が367千人(31.9%)、女性が783千人(68.1%)となっている。

■ 図表20 精神障害者の男女別数
単位:千人(%)
20歳未満 20歳以上
男性 108(60.7%) 1,237(41.0%)
女性 70(39.3%) 1,775(59.0%)
178(100.0%) 3,011(100.0%)
65歳未満 65歳以上
男性 978(48.0%) 367(31.9%)
女性 1,062(52.0%) 783(68.1%)
2,039(100.0%) 1,150(100.0%)
※年齢別の男女数には、不詳の数は含まない。
資料:厚生労働省「患者調査」(平成23年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成
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