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第2編 障害者支援の充実に向けた動き

第1節 障害者総合支援法の改正

1.経緯

(1)今回の改正までの経緯

障害保健福祉施策については、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に、身体障害、知的障害及び精神障害それぞれについて、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。

まず、平成15年4月1日から施行された「支援費制度」によって、サービスの在り方をそれまでの「措置」から「契約」に大きく変え、自己決定の尊重や、利用者本位の考え方を明確にした。

続いて、平成18年4月1日から施行された「障害者自立支援法」(平成17年法律第123号)によって、身体障害者及び知的障害者に加え、「支援費制度」の対象となっていなかった精神障害者も含めた一元的な制度を確立するとともに、地域生活への移行や就労支援といった課題に対応し、また、障害のある人が必要な障害福祉サービスや相談支援を受け、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、福祉施設や事業体系の抜本的な見直しを行った。

その後、障がい者制度改革推進会議の下の「総合福祉部会」において、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を図るための検討が、約2年間にわたって行われ、平成23年8月には、当該制度改革に係るいわゆる「骨格提言」が取りまとめられた。

この骨格提言等を踏まえ、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「障害者総合支援法」という。)とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」が成立し、平成25年4月1日から施行(一部、平成26年4月1日施行)された。

また、障害者総合支援法の附則で規定された施行後3年(平成28年4月)を目途とする見直しに向けて、社会保障審議会障害者部会において、平成27年4月から同年12月にかけて計19回の審議を行い、今後の取組について報告書を取りまとめた。報告書に盛り込まれた事項のうち法律改正を要する事項に対応するため、障害福祉サービス及び障害児通所支援の拡充等を内容とする「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律案」が、平成28年5月に成立した(法律の概要については、図表2-1)。

(2)今回の改正の背景

障害者が地域生活に移行する際の受け皿となるグループホームの利用者数については、平成21年3月は約4万8千人であったが、平成28年3月には約10万2千人となっており、倍増している。これを見ても、地域生活への移行を希望する障害者が増加しているのは明らかである。

また、一般就労に移行する障害者数について、平成21年度は約3,300人であったが、平成27年度には約1万2千人となっており、約3.6倍に増加している。就労に伴い、生活面での様々な課題が生じていると考えられ、この対応が必要である。

さらに、障害福祉サービスを利用する65歳以上の高齢者数は、平成22年5月の約5万3千人から、平成27年3月の約11万7千人と倍増しており、障害者の高齢化への対応も迫られている。

医療技術の進歩等を背景として、NICU(新生児集中治療室)等に長期間入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする障害児が増えており、障害児支援のニーズが多様化している。

こうした障害者を取り巻く状況を背景として、今回の障害者総合支援法の改正では、「障害者の望む地域生活への支援」、「障害児支援のニーズのきめ細かな対応」、「サービスの質の確保・向上に向けた環境整備」を主な柱としている。

図表2-1 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(概要)

2.改正の主な概要

(1)障害者の望む地域生活の支援

①地域生活を支援する新たなサービス(自立生活援助)の創設

障害者が安心して地域で生活することができるよう、地域移行の受け皿となるグループホームのニーズが増加している。また、グループホームだけではなく、住み慣れた地域や自由度の高い一人暮らしを希望する障害者も多くいるが、自身の持つ知的障害や精神障害により理解力や生活力が十分でないために、一人暮らしを選択できない場合がある。

こうした者について、本人の意思を尊重した地域生活を支援するため、一定の期間にわたり、定期的な巡回訪問や随時の訪問要請等への対応により、適時のタイミングで適切な支援を行うサービス(自立生活援助)を創設することとした。

自立生活援助は、障害者支援施設やグループホーム等から一人暮らしへの移行を希望する知的障害者や精神障害者等に対し、定期的に居宅を訪問し、食事や洗濯、掃除に課題はないか、公共料金や家賃に滞納はないか、体調に変化はないか、通院しているか、地域住民との関係は良好かなどについて確認を行い、必要な助言や医療機関等との連絡調整を行うものであり、また、定期的な訪問だけではなく、利用者からの相談があった際には、訪問、電話、メール等による随時の対応も行うものである。

②就労定着に向けた支援を行う新たなサービスの創設

就労系障害福祉サービスを利用して一般就労に移行する者は、平成25年度に1万人を超え、年々増加している。従来、障害者総合支援法における就労系のサービスとしては、就労移行支援及び就労継続支援があり、特に就労移行支援は通常の事業所に雇用される(一般就労する)ことを目的として支援を行ってきたところであるが、一般就労に移行する障害者が増加している中で、一般就労に移行した後の定着が重要な課題となっている。

こうした課題に対応するため、就労移行支援等の利用を経て一般就労へ移行した障害者を対象として、事業所や家族との連絡調整等の支援を一定の期間にわたり行うサービス(就労定着支援)を新たに創設することとした。

就労定着支援は、就労の定着に向けて、障害者との相談を通じて生活面の課題を把握するとともに、就業する事業所や障害福祉サービス事業を行う事業所、医療機関等の関係機関との連絡調整やそれに伴う課題解決に向けて必要となる支援を実施することで、連携して本人の生活を支えるものである。具体的には、企業や自宅等への訪問や障害者の来所により、生活リズム、家計や体調の管理などに関する課題解決に向けて、必要な連絡調整や指導・助言等の支援を実施する。

③重度訪問介護の訪問先の拡大

現行の重度訪問介護は、重度の肢体不自由者等に対し、居宅における入浴、排せつ、食事の介護等の便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に提供するものとされており、医療機関に入院している間は、重度訪問介護を利用することはできない。このため、

  • 体位交換などについて特殊な介護が必要な者に適切な方法が取られにくくなることにより苦痛が生じる
  • 行動上著しい困難を有する者について、本人の障害特性に応じた支援が行われないことにより、強い不安や恐怖等による混乱(パニック)を起こし、自傷行為等に至ってしまう

等の事例があると指摘されている。

このため、重度訪問介護の訪問先を拡大し、医療機関において、利用者の状態などを熟知しているヘルパーにより、利用者ごとに異なる特殊な介護方法(例:体位交換)について、医療従事者に的確に伝達し、適切な対応につなげたり、強い不安や恐怖等による混乱(パニック)を防ぐための本人に合った環境や生活習慣を医療従事者に的確に伝達し、病室等の環境調整や対応の改善につなげたりといった支援を受けられることとした。

④高齢障害者の介護保険サービスの円滑な利用

平成18年4月に障害者自立支援法が施行された当時は、障害福祉サービスに係る利用者負担は、介護保険制度と同様に、原則1割負担であったが、その後、累次に渡って軽減措置が行われてきたところであり、結果として、現在は、介護保険制度と比較しても低水準の利用者負担が設定されている。

一方で、障害者総合支援法第7条では、介護保険法(平成9年法律第123号)の介護給付、健康保険による療養給付、労災補償・公務災害補償等のうち、自立支援給付に相当するものを受けることができる場合には、介護給付等を受けることができる限度において、自立支援給付を支給しない、つまり、介護給付等を受けることができない範囲についてのみ支給することとされており、障害者は、65歳に達することにより、一般的に介護保険法の介護給付等を利用し始めることになる。

このような者にとっては、65歳に達することで、所得の増加や生活費の減少等の生活が楽になる要素がないにもかかわらず、介護保険法の介護給付等に係る利用者負担が生じるため、福祉サービスを継続して利用するに当たって、利用者負担が増加してしまうという課題がある。

このような課題に対応するため、介護保険法の介護給付等を利用するようになる前から障害福祉サービスを継続的に利用しており、低所得である等の要件を満たす障害者について、介護保険サービスの利用に係る利用者負担の軽減措置を講ずることとした。

(2)障害児支援のニーズの多様化へのきめ細かな対応

①居宅訪問により児童発達支援を提供するサービスの創設

障害児支援については、一般的には複数の児童が集まる通所による支援が成長にとって望ましいと考えられるため、これまで通所支援の充実を図ってきたところであり、重度の障害等のために外出が困難な児童については、居宅介護を受けることは可能であるものの、障害児に必要な療育を提供するための支援が設けられていない。そのため、重度の障害等のために外出が困難な児童については、日常の動作等を通じて自然に身につけていくような日常生活への適応能力を養うことが困難となっている。

こうした事情を背景として重度の障害等の状況にあり、障害児通所支援を利用するために外出することが著しく困難な障害児に対して、その障害児の居宅において、日常生活における基本的な動作の指導、知的機能の付与、生活能力の向上のために必要な訓練等の支援を提供するサービス(居宅訪問型児童発達支援)を創設することとした。

②保育所等訪問支援の支援対象の拡大

現行の保育所等訪問支援は、保育所等の児童が集団生活を営む施設に通う障害児について、療育の専門家が当該施設を訪問し、当該施設における他の児童との集団生活への適応のため専門的な支援等を行うものであり、障害児の保育所等の安定した利用を促進する役割を果たしている。

現行では、保育所等訪問支援を利用することができるのは、通所系の施設に通う障害児に限られているため、乳児院、児童養護施設といった入所施設に入所する障害児は、利用することができない。現在、これらの入所児童に占める障害児の割合は3割程度となっており、療育の専門家でない施設の職員による支援だけでは、障害児に対する十分な支援を行うことが困難な状況にある。

こうした状況に鑑み、乳児院等の入所施設に入所する児童についても保育所等訪問支援が利用できるように、当該支援の支給対象を拡大することとした。

③医療的ケアを要する障害児に対する支援

近年、医学の進歩等に伴い、出生直後からNICUに入院し、退院後も日常生活を営むために人口呼吸器等を使用し、たんの吸引などの医療的ケアを必要とする児童(以下「医療的ケア児」という。)が増加している。このような医療的ケア児が在宅生活を継続していこうとする場合、障害児に関する制度の中で医療的ケア児の位置付けが明確ではないこと等から、必要な福祉サービスが受けにくいほか、医療、福祉、教育等の関係機関との連携が十分ではないとの指摘がある。

こうした状況に鑑み、医療的ケア児が心身の状況に応じた適切な医療、保健、福祉、教育その他の各関連分野の支援を受けられるよう、地方公共団体は、各関連分野の支援を行う機関が連絡調整を行うための体制整備に関して、必要な措置を講ずるよう努めることとした。

④障害児のサービス提供体制の計画的な構築

障害者総合支援法においては、同法に基づくサービスの提供体制を計画的に確保することができるよう、都道府県及び市町村は、それぞれ障害福祉計画を策定し、サービスの種類ごとの必要な量の見込みや提供体制の確保に係る目標等を定めることとされている一方で、児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づくサービスの提供体制の確保に係る目標等を定めることが都道府県及び市町村の義務とはされていない。

これらについても、持続的に提供できる環境の整備を進めていくためには、サービスの種類ごとの必要な量の見込みや、提供体制の確保に係る目標等について計画的に定めることが必要不可欠であり、計画の策定を推進するための方策を講じることが必要である。

このため、都道府県及び市町村に対して、児童福祉法に基づく障害児に対するサービスについても、サービスの種類ごとの必要な量の見込みや提供体制の確保に係る目標を定める障害児福祉計画の策定を義務づけることとした。

(3)サービスの質の確保・向上に向けた環境整備

①補装具費の支給範囲の拡大(貸与の追加)

現行では、障害者等の障害の状態からみて、補装具の購入又は修理を必要とする者に、これに要した費用として補装具費を支給することとされている。

障害者等の補装具については、オーダーメイドで製作されたものが適当な場合が多いものの、成長に伴って短期間での交換が必要となる障害児の場合や障害の進行により短期間の利用が想定される場合など、「購入」よりも「貸与」の方が利用者の便宜を図ることが可能な場合もある。

このため、購入を基本とする原則は維持した上で、障害者等の利便に照らして貸与が適切と考えられる場合に限り、新たに補装具費の支給の対象とすることとした。

②障害福祉サービス等の情報公表制度の創設

障害福祉サービス等を提供する事業所数が大幅に増加する中で、利用者が個々のニーズに応じて良質なサービスを選択できるようにするとともに、事業所によるサービスの質の向上が重要な課題となっている。このため、他制度における情報公表制度の仕組みに倣い、施設や事業者に対して障害福祉サービスの内容等を都道府県知事へ報告するとともに、都道府県知事が報告された内容を公表する仕組みを新たに創設することとした。

③自治体による調査事務・審査事務の効率化

障害者自立支援法の施行から10年が経過し、障害福祉サービス等の事業所数や利用者数は大きく増加しており、自治体による調査事務や審査事務の業務量が大幅に増加していることに鑑み、自治体による調査事務や審査事務を効率的に実施できるよう、これらの事務の一部を委託可能とするために必要な規定の整備を行うこととした。

(4)施行期日

今回の改正法の施行期日については(2)③の医療的ケアを要する障害児に対する支援の創設(公布日施行)を除いて平成30年4月1日としている。

図表2-2 地域生活を支援する新たなサービス(自立生活援助)の創設
図表2-3 就労定着に向けた支援を行う新たなサービス(就労定着支援)の創設
図表2-4 重度訪問介護の訪問先の拡大
図表2-5 高齢障害者の介護保険サービスの円滑な利用
図表2-6 居宅訪問により児童発達支援を提供するサービスの創設
図表2-7 保育所等訪問支援の支援対象の拡大
図表2-8 医療的ケアを要する障害児に対する支援

第2節 発達障害者支援法の改正

1.改正経緯

発達障害については、頻度の高い障害であると考えられていたが、発達障害者支援法成立以前は、①発達障害のある人に対する支援を目的とした法律がなく、障害者法制における制度の谷間に置かれており、従来の施策では十分な対応がなされていないこと、②発達障害は、障害としての認識が必ずしも一般的ではなく、その発見や適切な対応が遅れがちであること、③この分野に関する専門家が少なく、適切な対応がとりにくいこと、といった問題点があったことから、発達障害のある人やその保護者は大きな精神的負担を強いられており、その支援体制の確立は喫緊の課題となっていた。このような状況のなか、議員立法により成立した「発達障害者支援法」が平成17年に施行されてから、発達障害者に対する支援は着実に進展し、医療、保健、福祉、教育、労働等の現場での取組は年々拡充している。例えば、発達障害者支援センターは、全国すべての都道府県、指定都市に設置されており、ペアレント・トレーニングなどの家族支援を実施する市町村も年々増加している。

また、平成19年に国連総会においてカタール国の提出した議題「4月2日を世界自閉症啓発デーに定める」が採択されたことに伴い、平成20年に日本では「4月2日から8日を発達障害啓発週間とする」ことが決定され、国内各地でシンポジウムやブルー・ライトアップ等の啓発活動を行うことにより、発達障害に対する国民の理解も広がってきている。

一方、発達障害者支援法の施行から10年が経過し、例えば、乳幼児期から高齢期まで切れ目のない支援、家族なども含めたきめ細かな支援及び地域の身近な場所で受けられる支援が必要となってきており、時代の変化に対応したよりきめ細かな支援が求められていた。

さらに、我が国においては、障害者基本法の一部を改正する法律(平成23年法律第90号)や障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)の成立といった法整備が行われるなど、共生社会の実現に向けた新たな取組が進められている。

今般の改正は、こうした状況に鑑み、発達障害者の支援の一層の充実を図るため、所要の措置を講じるものであり、「発達障害者支援法の一部を改正する法律」(平成28年法律第64号)(以下「本法」という。)が平成28年5月に成立し、同年8月1日から施行されている。

図表2-9 発達障害者支援法の全体像
図表2-10 発達障害者支援法の一部を改正する法律 概要

2.改正概要

今般の法改正では、さらに、発達障害者の支援のより一層の充実を図るためには、個々の支援に関する規定を見直すだけでなく、法施行後の約10年の間に発展してきた共生社会の実現に関する理念を本法に明記することが望ましいことから、①障害者基本法の基本的な理念にのっとることを規定するとともに、②発達障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるようにすることを規定し、併せて、③障害に基づく差異を否定的な評価の対象としてではなく人間の多様性の一つとして尊重し、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを規定した。主な法改正の内容は、以下のとおりである。

(1)目的規定

本法の目的に、切れ目なく発達障害者の支援を行うことが特に重要であること及び障害者基本法の基本的な理念にのっとり、発達障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるようにすることが明示された。

また、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することが規定された。

(2)発達障害者の定義

発達障害者は、その障害特性により周囲や社会から発達障害者の抱える困難さについて理解されにくいことがある。そのため、必要な支援や合理的配慮が受けられない等、社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けやすい状況にある。

このような状況に鑑み、「発達障害者」の定義は、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものとされた。

また、この「社会的障壁」の定義は、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものとされた。

(3)基本理念の新設

障害者基本法においては、基本原則として、障害者があらゆる分野の活動に参加する機会が確保されることや地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと等が規定されていることを踏まえ、本法においても基本理念が新設された。

基本理念には、発達障害者の支援は、全ての発達障害者が社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと並びに社会的障壁の除去に資することを旨として行うことが規定された。

また、発達障害者の支援は、個々の発達障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体相互の緊密な連携の下に、意思決定の支援に配慮しつつ、切れ目なく行われなければならないことが規定された。

(4)国及び地方公共団体の責務

国及び地方公共団体の責務に、発達障害者及びその家族その他の関係者からの各種の相談に対し、個々の発達障害者の特性に配慮しつつ総合的に応じることができるようにするため、関係機関等の有機的連携の下に必要な相談体制の整備を行うことが規定された。これは、発達障害者が日常生活等において困難さを抱えていることや、その家族が発達障害児の子育て等に困難さを抱えていることに鑑み、地方公共団体に総合的な相談窓口を設置するなどの工夫をし、必要に応じて専門的な支援機関への橋渡しを行うことができる相談体制を整備することを国及び地方公共団体の責務としたものである。

(5)発達障害者の支援のための施策

発達障害者の支援のための施策について、発達障害者の教育、就労、地域における生活等に関する支援、権利利益の擁護、司法手続における配慮、発達障害者の家族等の支援を強化することが規定された。

主な内容は、以下のとおりである。

ア 教育

可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮するとともに、個別の教育支援計画の作成(教育に関する業務を行う関係機関と医療、保健、福祉、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連携の下に行う個別の長期的な支援に関する計画の作成をいう。)及び個別の指導計画の作成の推進、いじめの防止等の対策の推進を図る。

また、専修学校の高等課程に在学する者を、教育に関する支援の対象である発達障害児に含める。

イ 情報の共有の促進

国及び地方公共団体は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、福祉及び教育に関する業務を行う関係機関及び民間団体が医療、保健、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体と連携を図りつつ行う発達障害者の支援に資する情報の共有を促進するため必要な措置を講じる。

ウ 就労の支援

国及び都道府県は、個々の発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会の確保、就労の定着のための支援その他の必要な支援に努めなければならない。

また、事業主は、発達障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の発達障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。

エ 地域での生活支援に関する支援

性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じた地域での生活支援を進める。

オ 権利利益の擁護

権利利益の擁護のための必要な支援として、差別の解消、いじめの防止等及び虐待の防止等のための対策の推進、成年後見制度が適切に行われ、広く活用されるようにする。

カ 司法手続における配慮

国及び地方公共団体は、発達障害者が、刑事事件若しくは少年の保護事件に関する手続その他これに準ずる手続の対象となった場合又は裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係人になった場合において、発達障害者がその権利を円滑に行使できるようにするため、個々の発達障害者の特性に応じた意思疎通の手段の確保のための配慮その他の適切な配慮を行う。

キ 発達障害者の家族等の支援

都道府県及び市町村は、発達障害者の家族その他の関係者が適切な対応をすることができるようにすること等のため、児童相談所等関係機関と連携を図りつつ、発達障害者の家族その他の関係者に対し、相談、情報の提供及び助言、発達障害者の家族が互いに支え合うための活動の支援その他の支援を適切に行うよう努めなければならない。

(6)発達障害者支援センター

都道府県及び指定都市は、発達障害者支援センター等の業務を行うに当たっては、地域の実情を踏まえつつ、発達障害者等が可能な限りその身近な場所において必要な支援を受けられるよう適切な配慮をする。具体的には、地域の実情を踏まえつつ発達障害者支援センターを複数設置することや、発達障害者支援センターや発達障害者地域支援マネジャーが市町村等が実施する発達障害者への支援のバックアップを行うこと等が想定される。

(7)発達障害者支援地域協議会

発達障害者やその家族をきめ細かく支援するためには、関係機関等が地域における発達障害者の支援体制に関する課題について情報を共有し、関係者等の連携の緊密化を図るとともに、地域の実情に応じた支援体制を構築する必要がある。そこで、都道府県及び指定都市は、地域の実情に応じた発達障害者の支援体制の整備について協議を行う発達障害者支援地域協議会を置くことができる旨の規定が新設された。なお、当該協議会の主な役割は、以下の3つが想定される。1点目は、都道府県内の支援体制の現状を把握し、地域における発達障害者の支援体制に関する課題について情報共有をすることである。2点目は、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係機関等の連携のより一層の緊密化を図ることである。3点目は、支援体制に関する課題解決や関係者間の緊密な連携を図ることを含め、地域の実情に応じた体制整備を進めることである。

(8)国民に対する普及及び啓発

国及び地方公共団体は、個々の発達障害の特性その他発達障害に関する国民の理解を深めるため、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。

(9)その他

個々の発達障害者の特性に応じた支援を適切に行うことができるよう、国民に対する普及啓発、司法や警察関係者も含めた専門的知識を有する人材の確保及び調査研究の推進を行うべき旨が規定された。

これは、今般の法改正の趣旨を踏まえ、ライフステージを通じた切れ目のない支援を実施するとともに、家族などへの支援も含めたきめ細かな支援を推進し、身近な場所で支援が受けられる体制整備を推進していくものである。

3.改正法の着実な施行に向けた対応

平成28年8月に施行された改正発達障害者支援法の着実な施行のため、厚生労働省において、

  • 地域における発達障害者の課題について、情報提供を図るとともに、地域の実情に応じた体制整備について関係機関が協議・検討を行うための「発達障害者支援地域協議会」を新たに設置する経費
  • 地域支援機能の強化を図るため、市町村・事業所支援、医療機関との連携等を行う発達障害者地域支援マネジャーを発達障害者支援センター等に配置する経費
  • 発達障害における早期発見・早期支援の重要性に鑑み、かかりつけ医等の医療従事者に対し発達障害の診療、対応が可能となるような育成を行う経費

等を平成29年度予算(地域生活支援事業454億円の内数)に計上し、都道府県・指定都市に対して改正法の趣旨に沿ったその運用を促している。

図表2-11 発達障害者支援法の改正内容の概要(1)
図表2-12 発達障害者支援法の改正内容の概要(2)
図表2-13 法制度における発達障害の位置付け
図表2-14 代表的な発達障害
図表2-15 発達障害者の人数等
図表2-16 発達障害者支援センターの概要
図表2-17 発達障害者支援センターの地域支援機能の強化
図表2-18 発達障害者支援地域協議会(イメージ)
図表2-19 発達障害者支援施策の進捗状況
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