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第3編 障害者施策の実施状況 第1章

第1章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり

1.広報・啓発等

「障害者基本計画(第3次)」(平成25年9月閣議決定)の掲げる共生社会の実現を図るため、その理念の普及を図るとともに、障害及び障害のある人に関する国民の理解を促進し、併せて、障害のある人への配慮等について国民の協力を得るため、幅広い国民の参加による広報・啓発活動を推進することとしている。

【主な施策等】

<障害者週間>
  1. (1) 障害及び障害のある人に対する国民の関心、理解を深めるとともに、障害のある人の社会参加意識の高揚を図るため、12月3日から9日までの障害者週間の期間を中心に、全国で、官民にわたって多彩な行事を集中的に実施している。

平成28年度における「障害者週間」行事としては、全国の小・中学生等から、障害のある人とのふれあい体験をつづった「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」を募集し、作文3,746編、ポスター1,468点の応募があった。この中から最優秀作品の内閣総理大臣賞として、作文3編及びポスター2点を選定し、12月2日に東京で開催した「障害者フォーラム2016」の第1部において表彰した。また、同フォーラムの第2部では、記念シンポジウムとして、「真の共生社会とは何か、あらためて問う-全ての命と尊厳の尊重を」をテーマにパネルディスカッション等を実施した。その他同週間行事として、障害のある人に関する様々なテーマについて関係団体等が交替で連続して行う「障害者週間連続セミナー」を実施した。

<その他の週間・月間等>
  1. (2) 障害のある人への理解を深めるための広報・啓発活動として、9月1日から30日までの「障害者雇用支援月間」、 10月10日から10月16日までの「第64回精神保健福祉普及運動」、12月4日から10日までの「人権週間」等を実施した。
  2. (3) 世界自閉症啓発デーを含む4月2日から8日までの「発達障害啓発週間」において、全国の地方公共団体や関係団体等により様々な啓発活動を実施した。
<バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰>
  1. (4) 障害のある人を含む全ての人が安全で快適な社会生活を送ることができるよう、ハード、ソフト両面のバリアフリー・ユニバーサルデザインを効果的かつ総合的に推進する観点から、その推進について顕著な功績又は功労のあった個人・団体に対して、内閣総理大臣等表彰を実施。平成28年度は、6団体を表彰した。
<障害者施策に関する情報提供等>
  1. (5) 「障害者政策委員会」では、会議運営に当たり情報保障の観点から積極的な情報提供を行っており、毎回の会議開始から終了までをインターネットによるオンデマンド配信として、動画、音声、手話及び要約筆記の文字情報により一定期間配信している。
<公共サービス従事者等に対する障害者理解の促進>
  1. (6) 警察では、警察学校や警察署等の職場において、新たに採用された警察職員に対する採用時教育の段階から、障害者施設への訪問実習、有識者による講話等、障害のある人の特性や障害に配慮したコミュニケーション等への理解を深めるための研修を実施している。
  2. (7) 刑務所等矯正施設に勤務する職員に対しては、矯正研修所及び全国8か所の矯正研修所支所において、各種研修を行っており、その中では、人権擁護、精神医学などの科目を設けて適切な対応の仕方について講義しているほか、社会福祉施設における介護等体験実習を実施するなどし、障害のある人に対する理解を促進している。
  3. (8) 法務省の人権擁護機関では、国家公務員、都道府県及び市区町村の人権啓発行政に携わる職員を対象とした研修の中で、障害のある人の人権問題を含む各種人権問題への理解と配慮の必要性を訴えている。このほか、司法機関及び法執行機関の職員の人権問題に関する理解と認識を深めるため、検察職員、矯正施設職員、入国管理関係職員及び裁判官・家庭裁判所調査官に対する研修等への講師派遣を実施している。
  4. (9) 日本司法支援センター(法テラス)では、全国の地方事務所で実施した高齢者・障害者疑似体験実習の成果をいかし、障害のある人への合理的な配慮を共有することで、職員の対応や事務所の環境の改善につなげている。また、法テラス本部において、全国の職員が参加する研修で、障害のある人への支援の方法や、利用者の立場を理解した対応方法等の知識を習得させている。
<ボランティア活動の推進>
  1. (10) 内閣府では、地域における共生社会の実現に向けた課題解決に対応できる人材育成を目的とした「地域課題対応人材育成事業『地域コアリーダープログラム』」を実施。平成28年度は、障害者関連分野において、日本青年9名をフィンランドに派遣するとともに、英国、フィンランド及びドイツの青年リーダー計13名を日本に招へいした。

2.障害を理由とする差別の解消の推進

障害者の権利の実現に向けた措置などを規定した「障害者の権利に関する条約」(以下「障害者権利条約」という。)が、平成18年12月の第61回国連総会において採択され、平成20年5月に発効した。我が国は、平成19年9月に署名し、締結に向けた国内法の整備と国会承認を経て、平成26年1月に批准書を国連に寄託し、同年2月から効力が発生している。

障害者権利条約は、障害に基づくあらゆる形態の差別の禁止について適切な措置を求めており、我が国においては、平成23年の障害者基本法の改正の際、障害者権利条約の趣旨を基本原則として取り込む形で、同法第4条に差別の禁止が規定された。

この規定を具体化するものが障害者差別解消法であり、平成25年6月に成立し、平成28年4月から施行された。

なお、障害者差別解消法では、障害を理由とする差別について、「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の二つに分けて整理している。

(1)対象となる障害者

対象となる障害者は、障害者差別解消法第2条に規定された「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」であり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。なお、高次脳機能障害は、精神障害に含まれる。

(2)対象となる事業者及び分野

障害者差別解消法は、国や地方公共団体などの行政機関等のほか、事業者も対象に含まれる。分野としては、教育、医療、福祉、公共交通、雇用など、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆるものを対象にしているが、雇用分野についての差別の解消の具体的な措置(障害者差別解消法第7条から第12条までに該当する部分)に関しては、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律123号)(以下「障害者雇用促進法」という。)の関係規定に委ねることとされている。

(3)不当な差別的取扱いの禁止

不当な差別的取扱いとは、例えば、正当な理由なく、障害を理由に、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為である。このような行為は、行政機関等であるか事業者であるかの別を問わず禁止される。

正当な理由となるのは、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。

(4)合理的配慮の提供

合理的配慮とは、障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことである。

過重な負担の有無については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、事務・事業への影響の程度、実現可能性の程度、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況といった要素などを考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。

合理的配慮は、一律に義務付けるのではなく、行政機関等には義務を課す一方で、事業者は努力義務とされている。

(5)障害者差別解消法に基づく基本方針等

①基本方針

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)

政府は、障害者差別解消法第6条の規定に基づき、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、基本方針を定めることとされている。基本方針は平成27年2月24日に閣議決定された。

②対応要領

国や地方公共団体などの行政機関等は、基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、その職員が適切に対応するため、必要な「対応要領」を定めることとされている。(※地方公共団体の機関等の策定は努力義務)

③対応指針

事業を所管する主務大臣は、基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するため、必要な「対応指針」を定めることとされている。

(6)障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業

障害者差別解消法第17条において、国及び地方公共団体の機関は、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事案の発生防止などを行うネットワークとして、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」という。)を組織することができるとされている。

地域協議会は、全国一律の内容で組織されるものではなく、各地域の実情に応じた取組を主体的に行うものであることから、その設置を促進するために「障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業」を内閣府で進めている。その中で、地域協議会の設置を検討する地方公共団体に対しては、「アドバイザー」を派遣(平成28年度:全国23か所)し、設置を後押ししている。

(7)地域フォーラム等

内閣府では、障害者差別解消法の理解促進と円滑な施行を目指し、「障害を理由とする差別の解消に向けた地域フォーラム」を平成28年度は全国15か所で開催し、神奈川県でのフォーラムには加藤勝信内閣府特命担当大臣が参加し、地域における取組の促進と気運の醸成を図った。この他、法の趣旨や内容について周知を図るためのリーフレットやポスターを作成。

(8)合理的配慮サーチ

内閣府では、障害者差別解消法に基づく合理的配慮などの具体例を収集・整理し、データ集として「合理的配慮サーチ」を内閣府のホームページで公開している。この合理的配慮サーチでは、利用者の要望に応じた情報提供ができるよう、検索機能のほか、障害種別ごと、生活場面ごとに具体例を一覧できる仕組みを構築している。

3.2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした取組

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を契機として、障害の有無等にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「心のバリアフリー」を推進することや、全国展開を見据えつつ、東京においてユニバーサルデザインの街づくりを進めることで、共生社会を実現し、障害者等の活躍の機会を増やしていくこと等を目的に平成29年2月、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(以下「行動計画」という。)を決定。決定に当たっては、総理及び障害者団体の出席を得て、「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」を開催した。

(1)行動計画で取り組む「心のバリアフリー」

(ポイント)
  • 障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
  • 障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
  • 自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。
(主な施策)
  • 2020年度以降順次実施される次期学習指導要領に基づく指導や教科書等の充実。
  • 平成29年度以降、接遇を行う業界(交通、観光、流通、外食等)における全国共通の接遇マニュアルの策定・普及。
  • 障害に対する理解を持ち、困っている障害者等に自然に声をかけることができる国民文化の醸成に向けた仕組みの創設。

(2)行動計画で取り組む「ユニバーサルデザインの街づくり」

(ポイント)
  • 東京大会に向けた重点的なバリアフリー化。
  • 全国各地における高い水準のユニバーサルデザインの推進。
(主な施策)
  • 平成29年度中に交通バリアフリー基準(省令)・ガイドラインを改正。
  • 平成28年度中にホテル等の建築物に係る設計標準を改正。
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