第2編 障害者支援の充実に向けた動き 第1節 2
第1節 障害者総合支援法の改正
2.改正の主な概要
(1)障害者の望む地域生活の支援
<1>地域生活を支援する新たなサービス(自立生活援助)の創設
障害者が安心して地域で生活することができるよう、地域移行の受け皿となるグループホームのニーズが増加している。また、グループホームだけではなく、住み慣れた地域や自由度の高い一人暮らしを希望する障害者も多くいるが、自身の持つ知的障害や精神障害により理解力や生活力が十分でないために、一人暮らしを選択できない場合がある。
こうした者について、本人の意思を尊重した地域生活を支援するため、一定の期間にわたり、定期的な巡回訪問や随時の訪問要請等への対応により、適時のタイミングで適切な支援を行うサービス(自立生活援助)を創設することとした。
自立生活援助は、障害者支援施設やグループホーム等から一人暮らしへの移行を希望する知的障害者や精神障害者等に対し、定期的に居宅を訪問し、食事や洗濯、掃除に課題はないか、公共料金や家賃に滞納はないか、体調に変化はないか、通院しているか、地域住民との関係は良好かなどについて確認を行い、必要な助言や医療機関等との連絡調整を行うものであり、また、定期的な訪問だけではなく、利用者からの相談があった際には、訪問、電話、メール等による随時の対応も行うものである。
<2>就労定着に向けた支援を行う新たなサービスの創設
就労系障害福祉サービスを利用して一般就労に移行する者は、平成25年度に1万人を超え、年々増加している。従来、障害者総合支援法における就労系のサービスとしては、就労移行支援及び就労継続支援があり、特に就労移行支援は通常の事業所に雇用される(一般就労する)ことを目的として支援を行ってきたところであるが、一般就労に移行する障害者が増加している中で、一般就労に移行した後の定着が重要な課題となっている。
こうした課題に対応するため、就労移行支援等の利用を経て一般就労へ移行した障害者を対象として、事業所や家族との連絡調整等の支援を一定の期間にわたり行うサービス(就労定着支援)を新たに創設することとした。
就労定着支援は、就労の定着に向けて、障害者との相談を通じて生活面の課題を把握するとともに、就業する事業所や障害福祉サービス事業を行う事業所、医療機関等の関係機関との連絡調整やそれに伴う課題解決に向けて必要となる支援を実施することで、連携して本人の生活を支えるものである。具体的には、企業や自宅等への訪問や障害者の来所により、生活リズム、家計や体調の管理などに関する課題解決に向けて、必要な連絡調整や指導・助言等の支援を実施する。
<3>重度訪問介護の訪問先の拡大
現行の重度訪問介護は、重度の肢体不自由者等に対し、居宅における入浴、排せつ、食事の介護等の便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に提供するものとされており、医療機関に入院している間は、重度訪問介護を利用することはできない。このため、
- 体位交換などについて特殊な介護が必要な者に適切な方法が取られにくくなることにより苦痛が生じる
- 行動上著しい困難を有する者について、本人の障害特性に応じた支援が行われないことにより、強い不安や恐怖等による混乱(パニック)を起こし、自傷行為等に至ってしまう
等の事例があると指摘されている。
このため、重度訪問介護の訪問先を拡大し、医療機関において、利用者の状態などを熟知しているヘルパーにより、利用者ごとに異なる特殊な介護方法(例:体位交換)について、医療従事者に的確に伝達し、適切な対応につなげたり、強い不安や恐怖等による混乱(パニック)を防ぐための本人に合った環境や生活習慣を医療従事者に的確に伝達し、病室等の環境調整や対応の改善につなげたりといった支援を受けられることとした。
<4>高齢障害者の介護保険サービスの円滑な利用
平成18年4月に障害者自立支援法が施行された当時は、障害福祉サービスに係る利用者負担は、介護保険制度と同様に、原則1割負担であったが、その後、累次に渡って軽減措置が行われてきたところであり、結果として、現在は、介護保険制度と比較しても低水準の利用者負担が設定されている。
一方で、障害者総合支援法第7条では、介護保険法(平成9年法律第123号)の介護給付、健康保険による療養給付、労災補償・公務災害補償等のうち、自立支援給付に相当するものを受けることができる場合には、介護給付等を受けることができる限度において、自立支援給付を支給しない、つまり、介護給付等を受けることができない範囲についてのみ支給することとされており、障害者は、65歳に達することにより、一般的に介護保険法の介護給付等を利用し始めることになる。
このような者にとっては、65歳に達することで、所得の増加や生活費の減少等の生活が楽になる要素がないにもかかわらず、介護保険法の介護給付等に係る利用者負担が生じるため、福祉サービスを継続して利用するに当たって、利用者負担が増加してしまうという課題がある。
このような課題に対応するため、介護保険法の介護給付等を利用するようになる前から障害福祉サービスを継続的に利用しており、低所得である等の要件を満たす障害者について、介護保険サービスの利用に係る利用者負担の軽減措置を講ずることとした。
(2)障害児支援のニーズの多様化へのきめ細かな対応
<1>居宅訪問により児童発達支援を提供するサービスの創設
障害児支援については、一般的には複数の児童が集まる通所による支援が成長にとって望ましいと考えられるため、これまで通所支援の充実を図ってきたところであり、重度の障害等のために外出が困難な児童については、居宅介護を受けることは可能であるものの、障害児に必要な療育を提供するための支援が設けられていない。そのため、重度の障害等のために外出が困難な児童については、日常の動作等を通じて自然に身につけていくような日常生活への適応能力を養うことが困難となっている。
こうした事情を背景として重度の障害等の状況にあり、障害児通所支援を利用するために外出することが著しく困難な障害児に対し、その障害児の居宅において、日常生活における基本的な動作の指導、知的機能の付与、生活能力の向上のために必要な訓練等の支援を提供するサービス(居宅訪問型児童発達支援)を創設することとした。
<2>保育所等訪問支援の支援対象の拡大
現行の保育所等訪問支援は、保育所等の児童が集団生活を営む施設に通う障害児について、療育の専門家が当該施設を訪問し、当該施設における他の児童との集団生活への適応のため専門的な支援等を行うものであり、障害児の保育所等の安定した利用を促進する役割を果たしている。
現行では、保育所等訪問支援を利用することができるのは、通所系の施設に通う障害児に限られているため、乳児院、児童養護施設といった入所施設に入所する障害児は、利用することができない。現在、これらの入所児童に占める障害児の割合は3割程度となっており、療育の専門家でない施設の職員による支援だけでは、障害児に対する十分な支援を行うことが困難な状況にある。
こうした状況に鑑み、乳児院等の入所施設に入所する児童についても保育所等訪問支援が利用できるように、当該支援の支給対象を拡大することとした。
<3>医療的ケアを要する障害児に対する支援
近年、医学の進歩等に伴い、出生直後からNICUに入院し、退院後も日常生活を営むために人口呼吸器等を使用し、たんの吸引などの医療的ケアを必要とする児童(以下「医療的ケア児」という。)が増加している。このような医療的ケア児が在宅生活を継続していこうとする場合、障害児に関する制度の中で医療的ケア児の位置付けが明確ではないこと等から、必要な福祉サービスが受けにくいほか、医療、福祉、教育等の関係機関との連携が十分ではないとの指摘がある。
こうした状況に鑑み、医療的ケア児が心身の状況に応じた適切な医療、保健、福祉、教育その他の各関連分野の支援を受けられるよう、地方公共団体は、各関連分野の支援を行う機関が連絡調整を行うための体制整備に関して、必要な措置を講ずるよう努めることとした。
<4>障害児のサービス提供体制の計画的な構築
障害者総合支援法においては、同法に基づくサービスの提供体制を計画的に確保することができるよう、都道府県及び市町村は、それぞれ障害福祉計画を策定し、サービスの種類ごとの必要な量の見込みや提供体制の確保に係る目標等を定めることとされている一方で、児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づくサービスの提供体制の確保に係る目標等を定めることが都道府県及び市町村の義務とはされていない。
これらについても、持続的に提供できる環境の整備を進めていくためには、サービスの種類ごとの必要な量の見込みや、提供体制の確保に係る目標等について計画的に定めることが必要不可欠であり、計画の策定を推進するための方策を講じることが必要である。
このため、都道府県及び市町村に対して、児童福祉法に基づく障害児に対するサービスについても、サービスの種類ごとの必要な量の見込みや提供体制の確保に係る目標を定める障害児福祉計画の策定を義務づけることとした。
(3)サービスの質の確保・向上に向けた環境整備
<1>補装具費の支給範囲の拡大(貸与の追加)
現行では、障害者等の障害の状態からみて、補装具の購入又は修理を必要とする者に、これに要した費用として補装具費を支給することとされている。
障害者等の補装具については、オーダーメイドで製作されたものが適当な場合が多いものの、成長に伴って短期間での交換が必要となる障害児の場合や障害の進行により短期間の利用が想定される場合など、「購入」よりも「貸与」の方が利用者の便宜を図ることが可能な場合もある。
このため、購入を基本とする原則は維持した上で、障害者等の利便に照らして貸与が適切と考えられる場合に限り、新たに補装具費の支給の対象とすることとした。
<2>障害福祉サービス等の情報公表制度の創設
障害福祉サービス等を提供する事業所数が大幅に増加する中で、利用者が個々のニーズに応じて良質なサービスを選択できるようにするとともに、事業所によるサービスの質の向上が重要な課題となっている。このため、他制度における情報公表制度の仕組みに倣い、施設や事業者に対して障害福祉サービスの内容等を都道府県知事へ報告するとともに、都道府県知事が報告された内容を公表する仕組みを新たに創設することとした。
<3>自治体による調査事務・審査事務の効率化
障害者自立支援法の施行から10年が経過し、障害福祉サービス等の事業所数や利用者数は大きく増加しており、自治体による調査事務や審査事務の業務量が大幅に増加していることに鑑み、自治体による調査事務や審査事務を効率的に実施できるよう、これらの事務の一部を委託可能とするために必要な規定の整備を行うこととした。
(4)施行期日
今回の改正法の施行期日については(2)<3>の医療的ケアを要する障害児に対する支援の創設(公布日施行)を除いて平成30年4月1日としている。