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第2編 障害者支援の充実に向けた動き 第2節 2

第2節 発達障害者支援法の改正

2.改正概要

今般の法改正では、さらに、発達障害者の支援のより一層の充実を図るためには、個々の支援に関する規定を見直すだけでなく、法施行後の約10年の間に発展してきた共生社会の実現に関する理念を本法に明記することが望ましいことから、<1>障害者基本法の基本的な理念にのっとることを規定するとともに、<2>発達障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるようにすることを規定し、併せて、<3>障害に基づく差異を否定的な評価の対象としてではなく人間の多様性の一つとして尊重し、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを規定した。主な法改正の内容は、以下のとおりである。

(1)目的規定

本法の目的に、切れ目なく発達障害者の支援を行うことが特に重要であること及び障害者基本法の基本的な理念にのっとり、発達障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるようにすることが明示された。

また、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することが規定された。

(2)発達障害者の定義

発達障害者は、その障害特性により周囲や社会から発達障害者の抱える困難さについて理解されにくいことがある。そのため、必要な支援や合理的配慮が受けられない等、社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けやすい状況にある。

このような状況に鑑み、「発達障害者」の定義は、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものとされた。

また、この「社会的障壁」の定義は、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものとされた。

(3)基本理念の新設

障害者基本法においては、基本原則として、障害者があらゆる分野の活動に参加する機会が確保されることや地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと等が規定されていることを踏まえ、本法においても基本理念が新設された。

基本理念には、発達障害者の支援は、全ての発達障害者が社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと並びに社会的障壁の除去に資することを旨として行うことが規定された。

また、発達障害者の支援は、個々の発達障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体相互の緊密な連携の下に、意思決定の支援に配慮しつつ、切れ目なく行われなければならないことが規定された。

(4)国及び地方公共団体の責務

国及び地方公共団体の責務に、発達障害者及びその家族その他の関係者からの各種の相談に対し、個々の発達障害者の特性に配慮しつつ総合的に応じることができるようにするため、関係機関等の有機的連携の下に必要な相談体制の整備を行うことが規定された。これは、発達障害者が日常生活等において困難さを抱えていることや、その家族が発達障害児の子育て等に困難さを抱えていることに鑑み、地方公共団体に総合的な相談窓口を設置するなどの工夫をし、必要に応じて専門的な支援機関への橋渡しを行うことができる相談体制を整備することを国及び地方公共団体の責務としたものである。

(5)発達障害者の支援のための施策

発達障害者の支援のための施策について、発達障害者の教育、就労、地域における生活等に関する支援、権利利益の擁護、司法手続における配慮、発達障害者の家族等の支援を強化することが規定された。

主な内容は、以下のとおりである。

ア 教育

可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮するとともに、個別の教育支援計画の作成(教育に関する業務を行う関係機関と医療、保健、福祉、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連携の下に行う個別の長期的な支援に関する計画の作成をいう。)及び個別の指導計画の作成の推進、いじめの防止等の対策の推進を図る。

また、専修学校の高等課程に在学する者を、教育に関する支援の対象である発達障害児に含める。

イ 情報の共有の促進

国及び地方公共団体は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、福祉及び教育に関する業務を行う関係機関及び民間団体が医療、保健、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体と連携を図りつつ行う発達障害者の支援に資する情報の共有を促進するため必要な措置を講じる。

ウ 就労の支援

国及び都道府県は、個々の発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会の確保、就労の定着のための支援その他の必要な支援に努めなければならない。

また、事業主は、発達障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の発達障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。

エ 地域での生活支援に関する支援

性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じた地域での生活支援を進める。

オ 権利利益の擁護

権利利益の擁護のための必要な支援として、差別の解消、いじめの防止等及び虐待の防止等のための対策の推進、成年後見制度が適切に行われ、広く活用されるようにする。

カ 司法手続における配慮

国及び地方公共団体は、発達障害者が、刑事事件若しくは少年の保護事件に関する手続その他これに準ずる手続の対象となった場合又は裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係人になった場合において、発達障害者がその権利を円滑に行使できるようにするため、個々の発達障害者の特性に応じた意思疎通の手段の確保のための配慮その他の適切な配慮を行う。

キ 発達障害者の家族等の支援

都道府県及び市町村は、発達障害者の家族その他の関係者が適切な対応をすることができるようにすること等のため、児童相談所等関係機関と連携を図りつつ、発達障害者の家族その他の関係者に対し、相談、情報の提供及び助言、発達障害者の家族が互いに支え合うための活動の支援その他の支援を適切に行うよう努めなければならない。

(6)発達障害者支援センター

都道府県及び指定都市は、発達障害者支援センター等の業務を行うに当たっては、地域の実情を踏まえつつ、発達障害者等が可能な限りその身近な場所において必要な支援を受けられるよう適切な配慮をする。具体的には、地域の実情を踏まえつつ発達障害者支援センターを複数設置することや、発達障害者支援センターや発達障害者地域支援マネジャーが市町村等が実施する発達障害者への支援のバックアップを行うこと等が想定される。

(7)発達障害者支援地域協議会

発達障害者やその家族をきめ細かく支援するためには、関係機関等が地域における発達障害者の支援体制に関する課題について情報を共有し、関係者等の連携の緊密化を図るとともに、地域の実情に応じた支援体制を構築する必要がある。そこで、都道府県及び指定都市は、地域の実情に応じた発達障害者の支援体制の整備について協議を行う発達障害者支援地域協議会を置くことができる旨の規定が新設された。なお、当該協議会の主な役割は、以下の3つが想定される。1点目は、都道府県内の支援体制の現状を把握し、地域における発達障害者の支援体制に関する課題について情報共有をすることである。2点目は、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係機関等の連携のより一層の緊密化を図ることである。3点目は、支援体制に関する課題解決や関係者間の緊密な連携を図ることを含め、地域の実情に応じた体制整備を進めることである。

(8)国民に対する普及及び啓発

国及び地方公共団体は、個々の発達障害の特性その他発達障害に関する国民の理解を深めるため、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。

(9)その他

個々の発達障害者の特性に応じた支援を適切に行うことができるよう、国民に対する普及啓発、司法や警察関係者も含めた専門的知識を有する人材の確保及び調査研究の推進を行うべき旨が規定された。

これは、今般の法改正の趣旨を踏まえ、ライフステージを通じた切れ目のない支援を実施するとともに、家族などへの支援も含めたきめ細かな支援を推進し、身近な場所で支援が受けられる体制整備を推進していくものである。

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