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第2章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり

第1節 障害のある人に対する広報・啓発等の推進

平成30(2018)年3月に閣議決定された「障害者基本計画(第4次)」では、「Ⅱ 基本的な考え方」として「理解促進・広報啓発に係る取組等の推進」を掲げている。この中では、障害のある者と障害のない者が、お互いに、障害の有無にとらわれることなく、支え合いながら社会で共に暮らしていくことが日常となるように、国民の理解促進に努めること、また、本基本計画の実施を通じて実現を目指す「共生社会」の理念や、いわゆる「社会モデル」の考え方について、必要な広報啓発を推進することとされている。

1.障害者週間

障害者基本法(昭和45年法律第84号)第9条では、毎年12月3日から9日までの1週間を「障害者週間」と規定している。この障害者週間は、同法の基本原則である「すべての国民が、相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の理念の普及を図り、障害及び障害者に対する国民の関心と理解を一層深めること」を目的として、我が国全体で実施するものである。

内閣府では、平成29(2017)年度における「障害者週間」行事として、全国の小・中学生等から、障害のある人とのふれあい体験をつづった「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」を募集し、応募があった作品の中から最優秀賞作品として、作文3編及びポスター2点を選定した。なお、皇太子同妃両殿下の御臨席の下、12月5日(火)に執り行われた「障害者週間」関係表彰式では、作文及びポスターの最優秀賞受賞者(計5名)及び障害者関係功労者表彰の受賞者(計26名)に対し、安倍内閣総理大臣から内閣総理大臣表彰が授与された。また、その他の関連行事として、12月7日(木)及び12月8日(金)に、一般国民を対象に障害又は障害者をテーマとする障害者週間「連続セミナー」を、障害者関係団体と連携して実施した。

2.各種の広報・啓発活動

(1)各種の週間・月間等の取組

障害のある人への理解を深めるための広報・啓発活動として、9月1日から30日までの「障害者雇用支援月間」、10月16日から22日までの「第65回精神保健福祉普及運動」、12月4日から10日までの「人権週間」等を実施した。また、世界自閉症啓発デーを含む4月2日から8日までの「発達障害啓発週間」においては、全国の地方公共団体や関係団体等により様々な啓発活動が実施された。

(2)バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰

高齢者、障害のある人、妊婦や子供連れの人を含む全ての人が安全で快適な社会生活を送ることができるよう、ハード、ソフト両面のバリアフリー・ユニバーサルデザインを効果的かつ総合的に推進する観点から、顕著な功績又は功労のあった個人・団体に対して、内閣総理大臣表彰等を実施。平成29(2017)年度は、9団体を表彰した。

3.障害者施策に関する情報提供等

内閣府に設置される審議会である「障害者政策委員会」では、会議運営に当たり情報保障の観点から積極的な情報提供に配意しており、具体的には、会議の全状況をインターネットによるオンデマンド配信として、動画、音声、手話及び要約筆記の文字情報により一定期間提供している。

4.障害者白書のマルチメディアデイジー化

障害者基本法第13条に基づき、障害者のために講じた施策の概況について、毎年、政府が国会に提出する年次報告書である「障害者白書」については、平成28年版より、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためのデジタル録音図書である「マルチメディアデイジー」版を作成し、内閣府のホームページにおいて公表している。

5.福祉教育等の推進

(1)学校教育における取組-交流及び共同学習の推進

幼稚園、小・中・高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等において、交流及び共同学習の機会を設ける旨が規定されているとともに、教育委員会が主体となり、学校において、各教科やスポーツ、文化・芸術活動等を通じた交流及び共同学習の機会を設けることにより、障害者理解の一層の推進を図る取組等を行っている。また、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(平成29(2017)年2月20日ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定)に基づき、「心のバリアフリー学習推進会議」を設置し、平成30(2018)年2月に交流及び共同学習の推進方策について提言を取りまとめた。

(2)地域住民への広報・啓発

社会教育施設等における学級・講座等においては、障害のある人に対する理解を深めることを重要な学習課題の一つと位置付け、青少年の学校外活動や成人一般、高齢者の学習活動が展開されている。また、精神保健福祉センターや保健所では、精神障害のある人に対する正しい理解を促すため、住民に対する精神保健福祉に関する知識の普及・啓発を行っている。

6.ボランティア活動の推進

(1)学校におけるボランティア教育

学習指導要領において、道徳、総合的な学習の時間及び特別活動等において、思いやりの心や助け合いに関する指導、ボランティア活動の充実などを図っている。

また、高等学校等においては、生徒が行うボランティア活動などの学校外における学修について、校長が教育上有益と認めるときは合計36単位を上限として単位として認定することが可能となっている。

(2)地域福祉等ボランティア活動の促進

内閣府では、地域における共生社会の実現に向けた課題解決に対応できる人材育成を目的とした「地域課題対応人材育成事業『地域コアリーダープログラム』」を実施した。障害者関連分野については、平成29(2017)年度に、日本青年9名(団長含む)をニュージーランドに派遣し、翌30(2018)年2月にドイツ、ニュージーランド及びオーストリアの青年リーダー計13名を日本に招へいした。

7.公共サービス従事者等に対する障害者理解の促進

警察では、警察学校や警察署等の職場において、新たに採用された警察職員に対する採用時教育の段階から、障害者施設への訪問実習、有識者による講話等、障害のある人の特性や障害に配慮したコミュニケーション等への理解を深めるための研修を行っている。

刑務所等矯正施設に勤務する職員に対しては、矯正研修所及び全国7か所の矯正研修所支所において、人権擁護、精神医学などの適切な対応の仕方について講義しているほか、社会福祉施設における介護等体験実習を実施している。

更生保護官署職員に対しては、各種研修において、障害のある人や障害特性に対する理解を含む人権全般に関する知識等を深めるための講義や精神障害のある人等が入所する施設の見学を実施している。

法務省の人権擁護機関では、中央省庁等の職員を対象として、人権に関する国家公務員等の理解と認識を深めることを目的とした「人権に関する国家公務員等研修会」を、また、都道府県及び市区町村の職員を対象として、その指導者として必要な知識を習得させることを目的とする「人権啓発指導者養成研修会」を実施している。このほか、検察職員、矯正施設職員、入国管理関係職員及び裁判官・家庭裁判所調査官に対する研修等に講師を派遣している。

日本司法支援センター(法テラス)では、本部の担当職員がサービス介助士の資格を取得し、全国の職員が参加する研修で、障害のある人への支援の方法や、利用者の立場を理解した丁寧かつ適切な対応方法等の知識を伝達し、各地の取組につなげている。

第2節 障害を理由とする差別の解消の推進

1.障害者差別解消法の制定経緯

障害者の権利の実現に向けた措置などを規定した「障害者の権利に関する条約」(以下「障害者権利条約」という。)が、平成18(2006)年12月の第61回国連総会において採択され、平成20(2008)年5月に発効した。我が国においては、平成19(2007)年9月に署名し、平成26(2014)年1月に批准書を国連に寄託し、同年2月から効力が発生している。

障害者権利条約は、障害に基づくあらゆる形態の差別の禁止について適切な措置を求めており、我が国においては、平成23(2011)年の障害者基本法の改正の際、障害者権利条約の趣旨を基本原則として取り込む形で、同法第4条に差別の禁止が規定された。

この規定を具体化するものが障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(以下、「障害者差別解消法」という。)であり、平成25(2013)年6月に成立し、平成28(2016)年4月から施行された。

2.障害者差別解消法の概要

(1)対象となる障害者

対象となる障害者は、障害者差別解消法第2条に規定された「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」である。対象となる障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。なお、高次脳機能障害は、精神障害に含まれる。

(2)対象となる事業者及び分野

障害者差別解消法は、国や地方公共団体などの行政機関等のほか、事業者も対象に含まれる。対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者であり、個人事業者やボランティアなどの対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人なども、同種の行為を反復継続する意思をもって行っている場合は事業者として扱われる。

分野としては、教育、医療、福祉、公共交通、雇用など、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆるものを対象にしているが、雇用分野についての差別の解消の具体的な措置(障害者差別解消法第7条から第12条までに該当する部分)に関しては、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律123号)の関係規定に委ねることとされている。

(3)不当な差別的取扱いの禁止

不当な差別的取扱いとは、例えば、正当な理由なく、障害を理由に、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為である。このような行為は、行政機関等であるか事業者であるかの別を問わず禁止される。

正当な理由となるのは、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。

(4)合理的配慮の提供

合理的配慮とは、障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことである。

過重な負担の有無については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況といった要素などを考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。

ただし、合理的配慮は、一律に義務付けるのではなく、行政機関等には義務を課す一方で、事業者には努力義務とされている。

(5)環境の整備

障害者差別解消法第5条では、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上など)については、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための「環境の整備」として実施に努めることとしている。(これには、ハード面のみならず、職員に対する研修などのソフト面の対応も含まれる。)

(6)基本方針並びに対応要領及び対応指針

政府は、障害者差別解消法第6条に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」を平成27(2015)年2月24日に閣議決定した。

この基本方針に即して、国や地方公共団体などの行政機関等は、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、その職員が適切に対応するために必要な「対応要領」を定めることとされており(地方公共団体の策定は努力義務)、都道府県及び指定都市においては、平成29(2017)年度末までに全て策定済みとなっている。

また、事業を所管する各主務大臣においては、基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するために必要な事項(相談体制の整備、研修・啓発等)や、各事業分野における合理的配慮の具体例等を盛り込んだ「対応指針」を定めている。

3.障害者差別解消法の施行に関する取組等

(1)合理的配慮の提供等事例集

内閣府では、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供や環境の整備に関する事例を関係省庁、地方公共団体、障害者団体などから収集し、障害種別や生活場面別に整理した上で、「合理的配慮の提供等事例集」として取りまとめた。

(2)障害者差別解消支援地域協議会の設置の促進

障害者差別解消法第17条において、国及び地方公共団体の機関は、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事案の発生防止などを行うネットワークとして、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」という。)を組織することができるとされている(平成29(2017)年度末までに全ての都道府県及び指定都市において設置済み)。内閣府では、現在未設置の地方公共団体に対しても取組を後押しするため、有識者等をアドバイザーとして派遣した。

(3)地域フォーラム

内閣府では、地域の障害のある人や関係者の意見を広く聴取し、障害者差別解消法の円滑な施行を目指すとともに、各地域における取組の促進と気運の醸成を図ることを目的とする地域フォーラムを開催した。

(4)主務大臣等による行政措置

事業者における障害者差別解消に向けた取組は、主務大臣の定める対応指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待されるが、適切な履行が確保されず事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣又は地方公共団体の長等は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされている(平成29(2017)年度は主務大臣等による行政措置の実績なし)。

第3節 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした取組

1.経緯

平成27(2015)年11月に閣議決定された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」において、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を契機として、障害の有無等にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「心のバリアフリー」を推進することや、全国展開を見据えつつ、東京においてユニバーサルデザインの街づくりを進めることで、共生社会を実現し、障害者等の活躍の機会を増やしていくことが位置づけられ、平成29(2017)年2月に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(以下「行動計画」という。)が決定された。

2.ユニバーサルデザイン2020行動計画の概要

(1)基本的な考え方

  • 障害のある選手たちが圧倒的なパフォーマンスを見せる2020年東京パラリンピック競技大会は、共生社会の実現に向けて人々の心の在り方を変える絶好の機会である。
  • 「障害」は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」をすべての人が理解し、それを自らの意識に反映していくことが重要。
  • この機を逃さず、国民全体を巻き込んだ「心のバリアフリー」の取組を展開するとともに、世界に誇れるユニバーサルデザインの街づくりを実現すべく取り組む。(本行動計画に記載された内容は、本白書に記載される様々な障害者にかかわる施策に反映されていくものである。) 等

(2)具体的な取組

ア 「心のバリアフリー」

行動計画で取り組む「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことである。そのためには、一人一人が具体的な行動を起こし継続することが必要であり、そのために重要なポイントとして、以下の3点を挙げた。

  • 障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
  • 障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
  • 自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。

イ ユニバーサルデザインの街づくり

街づくりは極めて幅広い分野であり、かかわる施策も多岐にわたる。このため行動計画においては、大きく①東京大会に向けた重点的なバリアフリー化と②全国各地における高い水準のユニバーサルデザインの推進という2つの観点から、幅広い施策をとりまとめた

3.ユニバーサルデザインの加速に向けた取組状況

この行動計画をもとに、関係省庁等が共生社会の実現に向けた諸施策を推進する中、2020年パラリンピック大会まで1000日を切った平成30(2018)年1月に「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議(第2回)」を開催し、レガシーとしての共生社会の実現に向け、「心」と「街」の両分野における積極的な取組を共有し、施策の更なる進展を図り、共生社会の実現に向けた取組の加速化を確認した。

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