第2章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり 第2節 2
第2節 障害を理由とする差別の解消の推進
2.障害者差別解消法の概要
(1)対象となる障害者
対象となる障害者は、障害者差別解消法第2条に規定された「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」である。
これは、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、心身の機能の障害(難病に起因する障害を含む。)のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、対象となる障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。なお、高次脳機能障害は、精神障害に含まれる。
(2)対象となる事業者及び分野
障害者差別解消法は、国や地方公共団体などの行政機関等のほか、事業者も対象に含まれる。対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含む。)であり、個人事業者やボランティアなどの対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人なども、同種の行為を反復継続する意思をもって行っている場合は事業者として扱われる。
分野としては、教育、医療、福祉、公共交通、雇用など、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆるものを対象にしているが、雇用分野についての差別の解消の具体的な措置(障害者差別解消法第7条から第12条までに該当する部分)に関しては、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律123号)(以下「障害者雇用促進法」という。)の関係規定に委ねることとされている。
(3)不当な差別的取扱いの禁止
障害者差別解消法では、障害を理由とする差別について、「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の二つに分けて整理している。
不当な差別的取扱いとは、例えば、正当な理由なく、障害を理由に、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為である。このような行為は、行政機関等であるか事業者であるかの別を問わず禁止される。
正当な理由となるのは、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。正当な理由に当たるか否かについては、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止など)及び行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持などの観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。
(4)合理的配慮の提供
合理的配慮としては、障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことが求められる。
この典型的な例としては、車椅子を使う障害者が電車やバスなどに乗り降りするときに手助けをすることや、窓口で障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談や読み上げなど)で対応すること、障害の特性に応じて休憩時間を調整することなどがあげられる。こうした配慮を行わないことによって、障害者の権利利益が侵害される場合には、障害を理由とする差別に当たる。
過重な負担の有無については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況といった要素などを考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。
ただし、合理的配慮に関しては、一律に義務付けるのではなく、行政機関等には率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、事業者に関しては努力義務とされている。これは、障害者差別解消法の対象範囲が幅広く、障害者と事業者との関係は具体的な場面などによって様々であり、それによって求められる配慮の内容や程度も多種多様であることを踏まえたものである。
(5)環境の整備
障害者差別解消法第5条では、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)(以下「バリアフリー法」という。)に基づく公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上など)については、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための「環境の整備」として実施に努めることとしている(これには、ハード面のみならず、職員に対する研修などのソフト面の対応も含まれる。)。
前述した合理的配慮は、こうした環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、その状況に応じて個別に実施される措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。
また、障害者の状態などが変化することもあるため、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合や障害者との関係性が長期にわたる場合などには、その都度の合理的配慮の提供ではなく、環境の整備を考慮することにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。
(6)基本方針並びに対応要領及び対応指針
政府は、障害者差別解消法第6条の規定に基づき、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27(2015)年2月閣議決定)(以下「基本方針」という。)を定めることとされており、障害者政策委員会(障害者基本法第32条に基づき内閣府に置かれている機関。障害者や学識経験者などを委員として構成されている。)における検討やパブリックコメントなどを経て、平成27年2月24日に閣議決定された。
この基本方針に即して、国や地方公共団体などの行政機関等は、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、その職員が適切に対応するために必要な「対応要領」を定めることとされている。このうち地方公共団体の機関等の策定は努力義務であるが、都道府県及び指定都市においては、平成29(2017)年度末までに全て策定済みとなっている。
また、事業を所管する各主務大臣においては、基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するために必要な事項(相談体制の整備、研修・啓発等)や、各事業分野における合理的配慮の具体例等を盛り込んだ「対応指針」を定めている。