第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1

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第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策

1.特別支援教育の充実

(1)特別支援教育の概要

障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。現在、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、障害に応じた特別の指導(いわゆる「通級による指導」(※1))においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。近年、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒の障害の重度・重複化が進んでおり、一層きめ細かな支援体制の整備が求められている。特別支援教育は、発達障害も含めて、特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。

平成19(2007)年に特別支援教育が本格的に実施されてから10年が経過し、平成29(2017)年5月1日現在、特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに通級による指導を受けている幼児児童生徒の総数は約49万人となっており、増加傾向にある。このうち義務教育段階の児童生徒については、全体の約4.2%に当たる約41万7千人である。

 平成30(2018)年度から開始した障害者基本計画(第4次)においては、基本的考え方として、共生社会の実現に向け、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けることのできる仕組みの整備を進めるとともに、障害に対する理解を深めるための取組を推進すること等を掲げた。

具体的には、個別の指導計画や個別の教育支援計画の活用を通じた、全ての学校における特別支援教育の充実、障害に対する理解や交流及び共同学習の推進、学校における外部人材の活用、医療的ケアや長期入院に係る教育機会確保、障害者の生涯を通じた多様な学習活動の充実について、記載を充実させている。また、小・中・高等学校等において通級による指導を受けている児童生徒数を毎年増加させていくことや、現状の体制整備状況を踏まえ、校内委員会の設置率や特別支援教育コーディネーターの指名率等の特別支援教育を行うための体制の整備及び必要な取組を全て行っている幼・小・中・高等学校等の割合をおおむね100%にすることなどを数値目標として盛り込んでいる。

※1:通級による指導
小・中学校の通常の学級に在籍し、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)などのある児童生徒を対象として、主として各教科などの指導を通常の学級で行いながら、障害に基づく学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う教育形態である。なお、平成30年度より、高等学校等においても通級による指導が開始された。

図表3-1
特別支援教育の対象の概念図(義務教育段階)
資料:文部科学省

(2)多様な学びの場の整備

ア 特別支援教育に関する指導の充実

① 特別支援学校等における教育

障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導といった多様な学びの場が提供されている。

幼稚園、小・中・高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。平成29(2017)年4月に新特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を公示し、①重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性、②障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、③キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させた。また、新特別支援学校学習指導要領等の円滑な実施のため、学習指導要領の趣旨を踏まえた教育課程の編成や、一人一人の障害の状態等に応じた指導方法の改善・充実について、先導的な実施研究を実施した。

通級による指導については、高等学校段階において、小・中学校等のような通級による指導が制度化されていなかったことから、高等学校における特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議において高等学校における通級による指導の制度化に向けた検討を行い、平成28(2016)年に関係する省令改正等を行った上で、平成30(2018)年度から開始することとした。

障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。平成29年5月1日現在、小学部1,240人、中学部782人、高等部806人の児童生徒が、この訪問教育を受けている。

② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実

特別支援学校の児童生徒にとっては、その障害の状態等によっては、一般に使用されている検定教科書が必ずしも適切ではない場合があり、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版の教科書、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)及び音楽の教科書、知的障害者用の国語、算数(数学)及び音楽の教科書を作成している。

なお、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。

また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※2)の普及を図っている。

具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、平成29(2017)年度に使用された、小・中学校の学習指導要領に基づく検定教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、ほぼ全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。このほか、通常の検定教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げ箇所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材がボランティア団体等により製作されており、文部科学省においても必要な調査研究等を行うなど、その普及推進に努めている。

さらに、障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術(ICT)などの活用を進めることが重要であることから、企業・大学等が学校・教育委員会等と連携して行う、ICTを活用した教材など、児童生徒の障害の状態等に応じた使いやすい支援機器等教材の開発の支援を実施した。

※2:教科用特定図書等
視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定教科書に代えて使用し得るもの。

③ 学級編制及び教職員定数

公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号)(以下「義務標準法」という。)及び公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(昭和36年法律第188号)(以下「高校標準法」という。)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。

・学級編制

1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。

・教職員定数

公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。

平成23(2011)年4月の義務標準法の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。

また、平成29(2017)年3月の義務標準法の一部改正により、平成29年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしている。この他、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、高等学校における通級による指導の制度化に伴い、平成30(2018)年3月に高校標準法施行令を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。

④ 教職員の専門性の確保

特別支援教育担当教師の養成は、現在、主として大学の特別支援教育関係の課程等において行われている。また、幼稚園、小・中学校及び高等学校の教員養成においても、教職に関する科目において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」について取り扱うこととしているほか、特別支援教育について学ぶ科目を開設している大学もある。また、平成29(2017)年11月に教育職員免許法施行規則の改正を行い、教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」を新たに独立した事項として設け、平成31(2019)年4月以降に入学する者については1単位以上修得することを定めた。

また、教職員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教職員等に対する研修や講義配信を行っているほか、独立行政法人教職員支援機構(平成29年4月に「独立行政法人教員研修センター」から名称変更)においても、各地域の中心的な役割を担う教職員を育成する学校経営研修において、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。さらに、都道府県等教育委員会においては、小学校等の教師等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修においても、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。この他、放送大学において、現職教師を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。

また、教員免許更新制における免許状更新講習においても、必修領域の事項の一つである「子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)」の中で特別支援教育に関する内容を扱うことが規定されている。

⑤ 免許制度の改善

平成19(2007)年度より、従来、盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教諭の免許状が、特別支援学校の教諭の免許状に一本化されている。同時に、特別支援学校教諭免許状の取得のためには、様々な障害についての基礎的な知識・理解と同時に、特定の障害についての専門性を確保することとなっている。また、大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与することとしている。

ただし、特別支援学校教諭免許状については、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼・小・中・高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、専門性確保の観点から保有率を向上させることが必要である。

特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、全体で77.7%(平成29(2017)年5月1日現在)であり、全体として前年度と比べ1.9ポイント増加しているが、特別支援教育に関する教師の専門性の向上が一層求められている中で、専門の免許状等の保有率の向上は喫緊の課題となっている。このため、各都道府県教育委員会等において教師の採用、配置、現職教師の特別支援学校教諭等免許状取得等の措置を総合的に講じていくことが必要であることから、文部科学省において、特別支援学校教諭等免許状の取得に資する取組や特別支援学校教員等に対する専門的な研究を実施した。

イ 学校施設のバリアフリー化

文部科学省では、学校施設の整備について、障害のある幼児児童生徒が支障なく学校生活を送るために障害の種類や程度に応じたきめ細かな配慮を行うよう、学校種ごとの学校施設整備指針において、施設の計画・設計上の留意点を示している。このほか、学校施設のバリアフリー化に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示した「学校施設バリアフリー化推進指針」を策定するとともに、具体的な取組を事例集として取りまとめている。また、報告書「災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~」では、災害時に避難所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性について示している。これらの指針や事例集等は、地方公共団体等に配布するとともに、研修会等を通じて普及啓発に努めている。

さらに、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープなどのバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っている。

また、私立の特別支援学校並びに小・中学校の特別支援学級において、障害に適応した教育を実施する上で必要とする設備の整備を学校法人が行う場合に、国がその一部を補助している。補助対象となる設備には、立体コピー設備、FM等補聴設備、VOCA(音声表出コミュニケーション支援装置)、携帯用防犯ベル、スクールバスなどがある。

学校施設のバリアフリー化の事例(スロープの設置)
/文部科学省
第3章第1節 1.特別支援教育の充実
TOPICS
高等学校における通級による指導の開始
~障害のある子供の多様な学びの場の整備を目指して~

文部科学省では、障害者の権利に関する条約等を踏まえ、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り同じ場で共に学ぶことができるようにしつつ、一人一人の教育的ニーズに応じた指導を提供できる、多様で柔軟な学びの場の整備を進めてきた。

こうした学びの場の一つに、「通級による指導」という指導形態がある。

「通級による指導」とは、学校教育法施行規則第140条に基づき、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、ほとんどの授業を通常の学級で行いながら、一部の授業について、障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な指導を特別の教育課程を編成して特別の場で行う教育形態であり、対象とする障害の種類は言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱である。

通級による指導の内容は、障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服することを目的とする、特別支援学校の自立活動(※)に相当する活動であり、特に必要があるときは、障害の状態に応じて各教科の内容を取り扱いながら行えることとなっている。具体的には、弱視の児童生徒に対しては、主として視覚認知、目と手の協応、視覚補助具の活用等の指導が、ADHDの児童生徒に対しては、刺激を調整し、注意力を高める指導や、ソーシャルスキルトレーニング等が考えられる。

※個々の児童生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う指導。

特別支援教育の現状~通級による指導の現状(平成29年5月1日現在)~
注:「 注意欠陥多動性障害」及び「学習障害」は、平成18年度から新たに通級指導の対象として学校教育法施行規則に規定(併せて「自閉症」も平成18年度から対象として明示:平成17年度以前は主に「情緒障害」の通級指導教室にて対応)

小・中学校においては、平成5(1993)年に通級による指導が制度化されて以来、平成29(2017)年5月1日現在、全国で約11万人が通級による指導を受けているが、通級による指導を受ける児童生徒数は年々増加しており、平成19(2007)年比で2.4倍となっている。

一方、高等学校では、障害のある生徒に対する指導や支援は、通常の授業の範囲内での配慮や学校設定教科・科目等により実施されており、特別の教育課程を編成して、通級による指導を実施することは可能となっていなかった。

平成21(2009)年8月には、特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議に置かれた高等学校ワーキング・グループが取りまとめた「高等学校における特別支援教育の推進について(報告)」において、高等学校における通級による指導についての将来の制度化を視野に入れた種々の実践を進める必要性などが示された。その後も、平成24(2012)年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」等において、高等学校で自立活動等の指導を可能とするための検討の必要性が指摘された。

また、文部科学省では、平成26(2014)年度以降、教育課程の編成・実施や指導方法の工夫・改善について研究開発を行う「高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育充実事業」を実施し、その研究成果として、高等学校における通級による指導を実施するためには、教育委員会においては特別支援教育課と高校教育課との連携、高等学校においては特別支援教育に対する全職員の理解と指導力向上が重要であることがわかった。

こうした調査研究を実施するとともに、文部科学省において引き続き制度の検討を重ね、平成28(2016)年3月には、高等学校における特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議が取りまとめた「高等学校における通級による指導の制度化及び充実方策について(報告)」において、高等学校における通級による指導の制度化が提言された。

このような状況を踏まえ、平成28年12月に学校教育法施行規則等の改正を行い、平成30(2018)年度より、高等学校において通級による指導が導入されることとなった。

平成29年度は、翌年度からの制度化に向け、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、通級による指導に関わる指導的立場にある教職員を対象とした行政説明や講義、研究協議等を行う研修会など、各都道府県等における準備を促す取組を実施した。

また、各都道府県等の高等学校における通級による指導の実施予定に関する調査を文部科学省において実施したところ、平成30年度には45都道府県と5指定都市の高等学校等において開始されることが明らかとなった。

引き続き、必要な生徒が通級による指導を受けられるよう、文部科学省において、

・公立高等学校における通級による指導のための教員定数の加配措置

・発達障害に関する通級による指導の担当教師に対する研修体制や必要な指導方法に関する調査研究

・独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における各都道府県等の指導的立場にある教職員等を対象とした研修

などの取組を行っていく。

ウ 専門機関の機能の充実と多様化

① 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(http://www.nise.go.jp)

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、我が国における特別支援教育のナショナルセンターとして、国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や「インクルーシブ教育システムの充実に関わる指導者研究協議会」を実施しているほか、インターネットを通じて、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義の配信や特別支援学校の教師の免許状保有率の向上に資する免許法認定通信教育を実施している。また、全ての学校を始めとする関係者に必要かつ有益な情報を提供するため、インターネットを活用し、発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センター」、合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及び支援機器等教材活用に関する様々な情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信を行っている。さらに、「研究所セミナー」(東京都)を開催しているほか、「教材・支援機器等展示会」、「発達障害地域理解啓発事業」(全国4地域)を実施するなど理解啓発活動も行っている。

このほか、平成28(2016)年度に「インクルーシブ教育システム推進センター」を設置し、地域や学校が直面する課題を研究テーマとし、その解決を目指す「地域実践研究」、諸外国の最新情報の発信やインクルーシブ教育システムの構築に関する相談支援等を通して、地域や学校における取組を強力にバックアップしている。

② 特別支援教育センター

都道府県の特別支援教育センターにおいて、当該都道府県における特別支援教育関係職員の研修、障害のある子供に係る教育相談、特別支援教育に係る研究・調査等が行われている。

特別支援教育におけるICTの活用事例について
(「障害のある児童生徒のためのICT活用に関する総合的な研究―学習上の支援機器等教材の活用事例の収集と整理―」におけるICT活用に関するアンケート調査より)

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所では、平成26(2014)、27(2015)年度において「障害のある児童生徒のためのICT活用に関する総合的な研究―学習上の支援機器等教材の活用事例の収集と整理―」を実施し、実践事例の整理・検討を行った。

特別支援学校や通常の学級における活用事例(一部抜粋)

〇集中したりじっとしていることが苦手な子供に対する大型ディスプレイを使った視覚情報提示(通常の学級)

通常の学級での学習に集中して参加することが難しい子供や、衝動性のある子供、姿勢が崩れやすい子供、問題を読み取ることが難しい子供に対して、大型ディスプレイを活用して視覚的な情報を提示することで、子供の興味関心を引きつけたり、理解の促進を行ったりする(図1)。

〇聞こえにくい子供に対するタブレットPCのアプリを使った筆談(通級指導教室)

難聴のために正確な文言を聞き取ることが難しい子供に対して、タブレットPCの筆談アプリを使用して、学習に必要な正しい文言を確認する。また、子供の発言が聞き取りにくい場合には、教師が筆談アプリを使用して確認することもできる(図2)。

〇テレビ電話システムを活用して電話での丁寧な受け答えや指示に応じる学習(特別支援学校)

距離の離れた二つの教室間での内線電話を利用して、電話での丁寧な受け答えの学習を行ったり、教師からの指示に従い正しく実行したりする学習を行う際、テレビ会議システムを遠隔モニターとして用いることによってその様子を観察し評価し合った。遠隔モニターでどのような行動をとっているかの情報が共有でき、話合い活動にも生かすことができた(図3)。

  • 図1

  • 図2

  • 図3

○特別支援教育でICTを活用しよう(パンフレット)
 (http://www.nise.go.jp/cms/resources/content/12589/20161205-143141.pdf)
障害のある児童生徒のためのICT活用に関する総合的な研究(研究成果報告書)
 (http://www.nise.go.jp/cms/7,12446,32,142.html)

(3)充実した支援体制の整備

ア 幼稚園から高等学校段階までの校内支援体制整備

文部科学省では、障害のある子供に対する特別支援教育を充実するため、学校における支援体制の整備や留意事項などを示し、学校や教育委員会などの取組を促進しており、障害のある子供への支援体制の整備、巡回相談や専門家チームによる支援、研修体制の整備・実施、関係機関との連携など、支援体制整備の推進に係る経費の一部を補助している。

平成29(2017)年度特別支援教育体制整備状況調査によると、小・中学校においては、「校内委員会」の設置、「特別支援教育コーディネーター」の指名といった基礎的な支援体制はほぼ整備されており、「個別の指導計画」の作成、「個別の教育支援計画」の作成についても着実な取組が進んでいる。また、幼稚園・高等学校における体制整備は進みつつあるものの、小・中学校に比べると課題が見られる(図表3-2)。このため、文部科学省では、幼稚園段階からの支援の強化に向け、障害のある子供に対する早期からの教育相談及び支援体制の構築を推進するため、教育と保育、福祉、保健、医療等の連携推進、情報提供等の取組に対する支援を実施している。

また、発達障害を始め障害のある子供への支援における教育と福祉の連携については、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されていることから、各自治体の教育委員会や福祉部局が主導し、支援が必要な子供やその保護者が、乳幼児期から学齢期、社会参加に至るまで、地域で切れ目なく支援が受けられるよう、文部科学省と厚生労働省の両省による「トライアングル」プロジェクトを平成29年12月に設置し、家庭と教育と福祉のより一層の連携を推進するための方策について検討を行った。

さらに、公立幼稚園、小・中学校及び高等学校に在籍する障害のある子供をサポートする「特別支援教育支援員」の配置に係る経費が各市町村に対して地方財政措置されている。

図表3-2 学校における特別支援教育体制整備状況
注:点線箇所は、作成する必要のある該当者がいない学校数を調査対象校数から引いた場合の作成率を示す。
資料:文部科学省「平成29年度特別支援教育に関する調査」
国公私立計・幼小中高計・項目別実施率―全国集計グラフ(平成19~29年度)
注1:点線箇所は、作成する必要のある該当者がいない学校数を調査対象校数から引いた場合の作成率を示す。
注2:平成28年度の調査項目は、「コーディネーター」「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」のみ調査対象。
資料:文部科学省「平成29年度特別支援教育に関する調査」
図表3-3
切れ目ない支援体制整備充実事業
資料:文部科学省
/厚生労働省
第3章第1節 1.特別支援教育の充実
TOPICS
家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクト報告
~障害のある子と家族をもっと元気に~

発達障害を始め障害のある子供たちへの支援に当たっては、行政分野を超えた切れ目ない連携が不可欠であり、一層の推進が求められているところである。

特に、教育と福祉の連携については、学校と児童発達支援事業所、放課後等デイサービス事業所等との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されている。このような課題を踏まえ、支援が必要な子供やその保護者が、乳幼児期から学齢期、社会参加に至るまで、地域で切れ目なく支援が受けられるよう、家庭と教育と福祉のより一層の連携を推進するための方策を検討するため、平成29(2017)年12月、文部科学省、厚生労働省の両省により家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを発足させた。

本プロジェクトでは、教育と福祉の連携を推進している地方自治体や障害のある子供への支援を行う関係団体から、現状の課題や取組についてヒアリングを実施した。

その中で、学校と放課後等デイサービス事業所において、お互いの活動内容や課題、担当者の連絡先などが共有されていないため、円滑なコミュニケーションが図れていないことや、乳幼児期、学齢期から社会参加に至るまでの各段階で、必要となる相談窓口が分散しており、保護者にとって、どこに、どのような相談機関があるかがわかりにくく、必要な支援を受けられていないことがわかった。

このような議論を踏まえ、平成30(2018)年3月、本プロジェクトの報告書を取りまとめ、今後、教育と福祉の連携の促進に向け、文部科学省、厚生労働省が連携して取り組む事項を掲げた。

具体的には、教育と福祉との連携を推進するための方策として、以下の事項等を盛り込んだ。

・教育委員会と福祉部局、学校と障害児通所支援事業所等との関係構築の「場」の設置

・学校の教職員等への障害のある子供に係る福祉制度の周知

・学校と障害児通所支援事業所等との連携の強化

・個別支援計画の活用の促進

また、保護者支援を推進するための方策として、以下の事項等を盛り込んだ。

・保護者支援のための相談窓口の整理

・保護者支援のための情報提供の推進

・保護者同士の交流の場等の促進

・専門家による保護者への相談支援

これらについて、各地方自治体の教育委員会、福祉部局、さらには学校と福祉の現場まで共有を図り、支援方策を実現していく。

家庭・教育・福祉の連携「トライアングル」プロジェクト報告 ~障害のある子と家庭をもっと元気に~ 概要
家庭・教育・福祉の連携「トライアングル」プロジェクト~障害のある子と家族をもっと元気に~の報告を行う高木厚生労働副大臣(左)と丹羽文部科学副大臣(右)

イ 発達障害のある子供に対する支援

学校教育法(昭和22年法律第26号)の一部改正(平成18(2006)年)により、幼稚園、小・中・高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。

平成28(2016)年6月には発達障害者支援法(平成16年法律第167号)の一部改正が公布され(同年8月施行)、発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、小・中学校、高等学校等における発達障害の可能性のある児童生徒等に対する支援に当たって、①特別支援教育の視点を踏まえた学校経営構築の方法、②学習上のつまずきなどに対する教科指導の方向性の在り方、③通級による指導の担当教師等に対する研修体制の在り方や必要な指導方法、④学校における児童生徒の多様な特性に応じた合理的配慮の在り方、⑤学校と福祉機関との連携支援、支援内容の共有方法に関する研究を実施した。

また、文部科学省と厚生労働省の両省主催で「発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」を開催した。

ウ 医療的ケアが必要な子供に対する支援

特別支援学校等には、日常的に医療的ケアを必要とする幼児児童生徒が在籍しており、学習や生活を行う上で適切に対応することが必要である。

平成23(2011)年6月に公布された介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(平成23年法律第72号)による社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正により、平成24(2012)年4月から一定の研修を受けた介護職員等は一定の条件の下にたんの吸引等の医療的ケアができるようになったことを受け、特別支援学校等の教師等についても、制度上実施することが可能となった。

これに関して、文部科学省としては、特別支援学校等において安全かつ適切な医療的ケアを提供するために必要な検討を行うため、平成23年10月より「特別支援学校等における医療的ケアの実施に関する検討会議」を開催し、特別支援学校等において医療的ケアを必要とする児童生徒等の健康と安全を確保するに当たり留意すべき点等について整理を行い、都道府県・指定都市教育委員会等に通知(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1314510.htm)した。

また、制度の開始から5年を経て、人工呼吸器の管理を始めとした高度な医療的ケアへの対応や訪問看護師の活用など、新たな課題も見られるようになってきていることから、平成29(2017)年10月に「学校における医療的ケア実施に関する検討会議」を設置し、医療的ケアをより安全かつ適切に実施できるよう、更なる検討を行っている。

平成29年5月1日現在、医療的ケアを必要とする幼児児童生徒が特別支援学校に8,218人、小・中学校に858人在籍しており、文部科学省では、特別支援学校や小・中学校における医療的ケアを必要とする児童生徒の教育の充実を図るため、看護師の配置に必要な経費の一部を補助している。また、学校において高度な医療的ケアに対応するため、医師と連携した校内支援体制の構築や、医療的ケア実施マニュアル等の作成など、医療的ケアの実施体制の充実を図るモデル事業を実施した。

エ 私学助成

私立の特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育条件の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。

オ 家庭への支援等

教育の機会均等の趣旨及び特別支援学校等への就学の特殊事情に鑑み、保護者の経済的負担を軽減し、その就学を奨励するため、就学のために必要な諸経費のうち、教科用図書購入費、交通費、寄宿舎居住に伴う経費、修学旅行費等について、保護者の経済的負担能力に応じて、その全部又は一部を助成する特別支援教育就学奨励費が保護者に支給されている。

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