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第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 3

第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策

3.社会的及び職業的自立の促進

(1)特別支援学校と関係機関等の連携・協力による就労支援

障害のある人が、生涯にわたって自立し社会参加していくためには、企業等への就労を支援し、職業的な自立を果たすことが重要である。しかしながら、平成29年5月1日現在、特別支援学校高等部卒業者の進路を見ると、福祉施設等入所者の割合が約62%に達する一方で、就職者の割合は約30%となっており、職業自立を図る上で厳しい状況が続いている。

障害のある人の就労を促進するためには、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が一体となった施策を講じる必要がある。

このため、文部科学省では、厚生労働省と連携し、各都道府県教育委員会等に対し、就労支援セミナーや障害者職場実習推進事業等の労働関係機関等における種々の施策を積極的に活用することや、福祉関係機関と連携の下で就労への円滑な移行を図ることなど障害のある生徒の就労を支援するための取組の充実を促している。

また、特別支援学校高等部や高等学校等において、労働等の関係機関と連携し障害のある生徒の就労支援を行う就労支援コーディネーターの配置など福祉や労働等の関係機関と連携しながらキャリア教育・就労支援を充実するための研究に取り組んでいる。

(2)高等教育等への修学の支援

障害のある人が障害を理由に高等教育への進学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要である。このため、文部科学省では、出願資格について、必要に応じて改善することや、合理的配慮を行い、障害のない学生と公平に試験を受けられるように配慮することなど、適切な対応を求めている。

平成28(2016)年度には「障害のある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、障害者差別解消法の施行を踏まえた高等教育段階における障害のある学生の修学支援の在り方について検討を行い、その結果を平成29(2017)年3月に「第二次まとめ」として取りまとめ、関係者の理解促進や取組の充実を促している。

大学入試センター試験や各大学の個別試験において、点字・拡大文字(大学入試センター試験においては、障害のある入学志願者によりきめ細やかに配慮する観点から、拡大文字問題冊子について、14ポイント版に加え、22ポイント版も作成)による出題、筆跡を触って確認できるレーズライター(ビニール製の作図用紙の表面にボールペンで描いた図形や文字がそのままの形で浮き上がるため、描きながら解答者が筆跡を触って確認できる器具)による解答、文字解答・チェック解答(専用の解答用紙に選択肢の数字等を記入・チェックする解答方式)、試験時間の延長、代筆解答等の受験上の配慮を実施している。

学校施設については、障害のある人の円滑な利用に配慮するため、従来よりスロープ、エレベーター、手すり、障害者用トイレ等の整備を進めるとともに、支障なく学生生活を送れるよう、各大学等において授業支援等の教育上の配慮が行われている。

聴覚障害のある人及び視覚障害のある人のための高等教育機関である筑波技術大学は、障害を補償した教育を通じて、①幅広い教養と専門的な職業能力を合わせもつ専門職業人、率先して社会に貢献できる人材の育成、②障害教育カリキュラム及び障害補償システムの開発研究等を行っている。

テレビ・ラジオ放送等のメディアを効果的に活用して、遠隔教育を行っている放送大学では、自宅で授業を受けることができ、障害のある人を含め広く大学教育を受ける機会を国民に提供しており、障害のある学生に対しては、放送授業の字幕放送化の推進や単位認定試験における点字出題や音声出題、試験時間の延長等を行っている。

/文部科学省
第3章第1節 3.社会的及び職業的自立の促進
TOPICS
大学等における障害のある学生の修学支援の充実

〈富山大学における取組事例〉

支援者は、学生と教職員がお互いの理解を深められるようコーディネータ―としての役割を果たします。

富山大学では平成19(2007)年度から発達障害学生の修学支援を開始し、現在では様々な障害のある学生の支援を包括的に行う部署として、教育・学生支援機構学生支援センター・アクセシビリティ・コミュニケーション支援室(以下「支援室」という。)が設置され、専任支援員が配属された。社会的障壁を除去するために合理的配慮を行うという「社会モデル」を採用し、支援の開始は学生の修学上の困りごとを出発点としている。問題解決のために、関係する教職員や学生本人と共に支援会議を行い、困りごとを解消するための方策を検討している。障害のある学生の支援とは、(1)修学を支える支援、(2)障害に関する自己理解及び心理的成熟に基づく自立支援の二つが中心となる。支援の必要性及び支援内容に関する根拠は学生本人の語りから得られるという考えに基づき、支援者は学生との対話を中心にした支援プロセスを重視し、週一回の定期面談を基本としている。

例えば、自閉症スペクトラム障害のある学生Aさんは、必修科目の授業で板書が写せないとの困りごとを面談で語った。支援室で状況の整理をすると、「言葉の定義に引っかかってしまい、講義に集中できず、そのうちに板書が消されてしまい、このままでは単位を落としてしまいそう」とのことだった。支援室では、授業担当教員を含めての支援会議を開き、有効な支援について意見交換を行った結果、ICレコーダーで講義を録音し、それを聞きながら復習をするという案が暫定的に出された。支援方法が当該学生にとって有益であるかの検証を経て、合理的配慮は、「ICレコーダーでの録音」となった。支援室では許可された配慮が適切に実行されるための本人への個別支援を行い、最終的に授業の理解度が増え、Aさんは無事に単位を修得した。


(3)地域における学習機会の提供

障害のある子供の学校外活動や学校教育終了後における活動等を支援するためには、地域における学習機会の確保・充実を図るとともに、障害のある人が地域の人々と共に、地域における学習活動に参加しやすいように配慮を行う必要がある。

文部科学省では、公民館や図書館、博物館といった社会教育施設について、それぞれの施設に関する望ましい基準を定めるなど、障害の有無にかかわらず、全ての人々にとって利用しやすい施設となるよう促している。

(4)生涯を通じた学びの支援

障害のある人が、生涯にわたり自らの可能性を追求できる環境を整え、地域の一員として豊かな人生を送ることができるようにすることが重要であるとの認識のもと、文部科学省内に「特別支援総合プロジェクト特命チーム」を設置するとともに、平成29(2017)年度から生涯学習政策局に「障害者学習支援推進室」を新設した。平成29年4月には「特別支援教育の生涯学習化に向けて」と題する大臣メッセージを公表した。また、公益社団法人日本青年会議所とタイアップして「みんなのNIPPON共生社会プロジェクト」を全国で展開するとともに、著名な障害のある人や支援者8名を「スペシャルサポート大使」に任命し、障害のある人の生涯学習の推進に関する広報に協力いただいている。さらに、平成29年度より初めて、障害のある人の生涯を通じた多様な学習を支える活動を行う個人又は団体への文部科学大臣表彰を行うこととして、61件の対象者を決定し、平成29年12月には表彰式と事例発表会を開催した。これらの取組により、各方面への周知・機運醸成を進めている。

また、平成30(2018)年度より新規で「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」として、学校から社会への移行期や人生の各ステージにおける効果的な学習プログラムや実施体制、関係機関・団体等との連携等に関する実証的な研究等に取り組むこととしている。実施体制の例としては、公民館等の社会教育施設における障害のある人向けの青年学級等、特別支援学校の同窓会組織等が行う学習支援、大学のオープンカレッジ等、企業・社会福祉法人・特定非営利活動法人等による学習支援などを想定している。

その他、障害のある人が一般の生涯学習活動に参加する際の阻害要因や促進要因を把握・分析する調査研究の実施や、人材育成のための研修会や障害のある人が参加するフォーラムの開催等を予定している。本事業と並行して、「学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議」を設置し、学校卒業後の障害のある人の学びに係る現状と課題を分析し、その推進方策について検討を行っていく。

今後も、教育、スポーツ、文化の施策全体にわたり、障害のある人の生涯を通じた多様な学びを支援するため、横断的・総合的に取組を推進していく。

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