第2章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第2節 1

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第2節 雇用・就労の促進施策

障害のある人の就労意欲が高まっている中で、障害のある人が、希望や能力、適性を十分に活かし、障害の特性等に応じて活躍できることが普通の社会、障害のある人と共に働くことが当たり前の社会の実現に向けて、障害者雇用対策の一層の充実を図っていく必要がある。

1.障害のある人の雇用の場の拡大

(1)障害者雇用の現状

ア 2019年障害者雇用状況報告

対象障害者を1人以上雇用する義務がある民間企業(常用雇用労働者数45.5人以上)については、毎年6月1日時点の障害者雇用の状況を報告することになっている。2019年の報告結果は次のとおりである。

なお、障害者雇用状況報告では、重度身体障害者又は重度知的障害者については、その1人の雇用をもって、2人の身体障害者又は知的障害者を雇用しているものとしてカウントされる。

また、重度身体障害者又は重度知的障害者である短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者)については、1人分として、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者については、0.5人分としてカウントされる。

ただし、精神障害者である短時間労働者については、雇入れや精神障害者保健福祉手帳を取得してから3年以内の場合、1人分としてカウントされる。

① 民間企業の状況

2019年6月1日現在の障害者雇用状況は、雇用障害者数が16年連続で過去最高を更新し、560,608.5人(前年同日534,769.5人)となるなど、一層進展している。また、障害者である労働者の実数は461,811人(前年同日437,532人)となった。雇用者のうち身体障害者は354,134.0人(前年同日346,208.0人)、知的障害者は128,383.0人(前年同日121,166.5人)、精神障害者は78,091.5人(前年同日67,395.0人)と、いずれも前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が大きかった。

また、民間企業が雇用している障害者の割合(以下「実雇用率」という。)は2.11%(前年同日2.05%)であった。

企業規模別に割合をみると、45.5~100人未満規模で1.71%、100~300人未満規模で1.97%、300~500人未満規模で1.98%、500~1,000人未満規模で2.11%、1,000人以上規模で2.31%となった。

一方、法定雇用率を達成した企業の割合は、48.0%となった。なお、雇用されている障害者数については、全ての企業規模で前年の報告より増加した。

図表2-7 民間企業における障害者の雇用状況
○実雇用率と雇用されている障害者の数の推移 (各年6月1日現在)
注1:雇用義務のある企業(2012年までは56人以上規模、2013年から2017年までは50人以上規模、2018年は45.5人以上規模の企業)についての集計である。
注2:「障害者の数」とは、次に掲げる者の合計数である。
2005年まで
身体障害者(重度身体障害者はダブルカウント)
知的障害者(重度知的障害者はダブルカウント)
重度身体障害者である短時間労働者
重度知的障害者である短時間労働者
2006年以降
2010年まで
身体障害者(重度身体障害者はダブルカウント)
知的障害者(重度知的障害者はダブルカウント)
重度身体障害者である短時間労働者
重度知的障害者である短時間労働者
精神障害者
精神障害者である短時間労働者
(精神障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
2011年以降
身体障害者(重度身体障害者はダブルカウント)
知的障害者(重度知的障害者はダブルカウント)
重度身体障害者である短時間労働者
重度知的障害者である短時間労働者
精神障害者
身体障害者である短時間労働者
(身体障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
知的障害者である短時間労働者
(知的障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
精神障害者である短時間労働者(※)
(精神障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
※ 2018年以降は、精神障害者である短時間労働者であっても、次のいずれかに該当する者については、1人分とカウントしている。
① 通報年の3年前の年に属する6月2日以降に採用された者であること
② 通報年の3年前の年に属する6月2日より前に採用された者であって、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること
注3:法定雇用率は2012年までは1.8%、2013年4月から2017年までは2.0%、2018年4月以降は2.2%となっている。
注4:四捨五入で人数を出しているため、合計が一致しない場合がある。
○企業規模別実雇用率
○企業規模別達成企業割合
資料:厚生労働省「令和元年障害者雇用状況の集計結果」
図表2-8 民間企業における企業規模別障害者の雇用状況
(2019年6月1日現在)
注1:②欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数」とは、常用労働者総数から除外率相当数(対象障害者が就業することが困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種について定められた率を乗じて得た数)を除いた労働者数である。
注2:③A欄の「重度身体障害者及び重度知的障害者」については法律上、1人を2人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たりダブルカウントを行い、D欄の「重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者」については法律上、1人を0.5人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たり0.5カウントとしている。ただし、精神障害者である短時間労働者であっても、以下の注4に該当するものについては、1人とカウントしている。
注3:A、C欄は1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者であり、B、D欄は1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者である。
注4:C欄の精神障害者には、精神障害者である短時間労働者であって、次のいずれかに該当する者を含む。
① 通報年の3年前の年に属する6月2日以降に採用された者であること
② 通報年の3年前の年に属する6月2日より前に採用された者であって、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること
注5:D欄の精神障害者である短時間労働者とは、精神障害者である短時間労働者のうち、注4に該当しない者である。
注6:F欄の「うち新規雇用分」は、2018年6月2日から2019年6月1日までの1年間に新規に雇い入れられた障害者数である。
注7:( )内は2018年6月1日現在の数値である。なお、精神障害者は2006年4月1日から実雇用率に算定されることとなった。
資料:厚生労働省「令和元年障害者雇用状況の集計結果」

② 国・地方公共団体の状況

国の機関(法定雇用率2.5%)に在職している障害者の割合、勤務している障害者数はそれぞれ2.31%、7,577.0人であった。

また、都道府県の機関(法定雇用率2.5%)は2.61%、9,033.0人であり、市町村の機関(法定雇用率2.5%)は2.41%、28,978.0人であった。

さらに、都道府県等の教育委員会(法定雇用率2.4%)は1.89%、13,477.5人であった。

図表2-9 国・地方公共団体における障害者の在籍状況
1 法定雇用率2.5%が適用される国、地方公共団体(2019年6月1日現在)
①法定雇用障害者
数の算定の基礎
となる職員数
②障害者の数 ③実雇用率 ④法定雇用率達成機関
の数/ 機関数
⑤達成割合
国の機関 328,132.5人
( 320,654.0人)
7,577.0人
( 3,902.5人)
2.31%
( 1.22%)
27 / 44
( 8 / 43)
61.4%
( 18.6%)
都道府県の機関 345,606.0人
( 337,872.0人)
9,033.0人
( 8,244.5人)
2.61%
( 2.44%)
122 / 158
( 99 / 161)
77.2%
( 61.5%)
市町村の機関 1,200,580.0人
( 1,140,348.5人)
28,978.0人
( 27,145.5人)
2.41%
( 2.38%)
1,766 /2,441
( 1,718 / 2,470)
72.3%
( 69.6%)
2 法定雇用率2.4%が適用される都道府県等の教育委員会(2019年6月1日現在)
①法定雇用障害者
数の算定の基礎
となる職員数
②障害者の数 ③実雇用率 ④法定雇用率達成機関
の数/ 機関数
⑤達成割合
都道府県等教育
委員会
714,968.5人
( 662,641.5人)
13,477.5人
( 12,607.5人)
1.89%
( 1.90%)
38 / 100
( 39 / 100)
38.0%
( 39.0%)
注1:各表の①欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数」とは、職員総数から除外職員数及び除外率相当職員数(旧除外職員が職員総数に占める割合を元に設定した除外率を乗じて得た数)を除いた職員数である。
注2:各表の②欄の「障害者の数」とは、身体障害者、知的障害者及び精神障害者の計であり、短時間労働者以外の重度身体障害者及び重度知的障害者については法律上、1人を2人に相当するものとしてダブルカウントを行い、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間勤務職員については法律上、1人を0.5人に相当するものとして0.5カウントとしている。
ただし、精神障害者である短時間勤務職員であっても、次のいずれかに該当する者については、1人とカウントしている。
① 通報年の3年前の年に属する6月2日以降に採用された者であること
② 通報年の3年前の年に属する6月2日より前に採用された者であって、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること
注3:法定雇用率2.4%が適用される機関とは、都道府県の教育委員会及び一定の市町村の教育委員会である。
注4:( )内は、2018年6月1日現在の数値である。なお、精神障害者は2006年4月1日から実雇用率に算定されることとなった。
資料:厚生労働省「令和元年障害者雇用状況の集計結果」
図表2-10 国の機関ごとの障害者の在籍状況
(2019年6月1日現在)
注1:①欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数」とは、職員総数から除外職員数及び除外率相当職員数(旧除外職員が職員総数に占める割合を元に設定した除外率を乗じて得た数)を除いた職員数である。
注2:②欄の「障害者の数」とは、身体障害者数、知的障害者数及び精神障害者数の計であり、短時間勤務職員以外の重度身体障害者及び重度知的障害者については、法律上、1人を2人に相当するものとしてダブルカウントとしている。
また、短時間勤務職員である重度身体障害者及び重度知的障害者については1人を1カウントとしている。
さらに、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間勤務職員については、法律上、1人を0.5人に相当するものとして0.5カウントとしている。ただし、短時間勤務職員である精神障害者であって、2016年6月2日以降に採用された者又は2016年6月2日より前に採用され、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者は、1人1カウントとしている。
注3:④欄の「不足数」とは、①欄の職員数に法定雇用率を乗じて得た数(1未満の端数切り捨て)から②欄の障害者の数を減じて得た数であり、これが0.0となることをもって法定雇用率達成となる。
したがって、実雇用率が法定雇用率を下回っていても、不足数が0.0となることがあり、この場合、法定雇用率達成となる。
注4:注4の省庁は、特例承認を受けている。特例承認とは、省庁及び当該省庁におかれる外局の申請に基づき、厚生労働大臣の承認を受けた場合に、当該省庁におかれる外局に勤務する職員を当該省庁に勤務する職員とみなすものである。
【特例承認一覧】
省庁 総務省 文部科学省 経済産業省
外局等 消防庁 文化庁、スポーツ庁 中小企業庁、資源エネルギー庁
注5:出入国在留管理庁は、2019年4月1日付けで発足したため、2019年6月1日現在の任免状況通報書より通報対象となる。
注6:①内閣府においては、2019年12月1日現在において、障害者の数85.0人、実雇用率2.51%、不足数0.0人となっている。
②法務省においては、2019年11月1日現在において、障害者の数852.5人、実雇用率2.59%、不足数0.0人となっている。
③文部科学省においては、2019年12月1日現在において、障害者の数74.5人、実雇用率2.66%、不足数0.0人となっている。
④国土交通省においては、2019年10月1日現在において、障害者の数1160.5人、実雇用率2.76%、不足数0.0人となっている。
⑤防衛省においては、2019年10月1日現在において、障害者の数608.0人、実雇用率2.63%、不足数0.0人となっている。
資料:厚生労働省「令和元年障害者雇用状況の集計結果」

イ ハローワークの職業紹介状況

2018年度のハローワークを通じた就職件数は、2017年度を上回る102,318件(前年度比4.6%増)であった。このうち、身体に障害のある人は26,841件(前年度比0.3%増)、知的障害のある人は22,234件(前年度比5.9%増)、精神障害のある人は48,040件(前年度比6.6%増)、その他の障害のある人(発達障害、難病、高次脳機能障害などのある人)は5,203件(前年度比3.9%増)となり、全ての種別で就職件数が増加した。

また、新規求職申込件数は211,271件(前年度比4.5%増)となり、このうち、身体に障害のある人は61,218件(前年度比1.1%増)、知的障害のある人は35,830件(前年度比0.2%増)、精神障害のある人は101,333件(前年度比8.1%増)、その他の障害のある人は12,890件(前年度比5.9%増)であり、前年度同様に精神障害のある人やその他の障害のある人の申込件数が特に増加していることがわかる。

図表2-11 ハローワークにおける障害者の職業紹介状況
資料:厚生労働省「障害者の職業紹介状況等」
図表2-12 ハローワークにおける障害者の職業紹介件数(2018年度)
資料:厚生労働省「障害者の職業紹介状況等」

(2)障害のある人の雇用対策について

ア 障害のある人の雇用対策の基本的枠組み

障害者施策の基本理念である、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現のためには、職業を通じた社会参加が重要である。この考え方の下に障害のある人の雇用対策の各施策を推進している。

具体的には、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律第123号。以下「障害者雇用促進法」という。)や同法に基づく「障害者雇用対策基本方針」(平成30年厚生労働省告示第178号)等を踏まえ、障害のある人、一人一人がその能力を最大限発揮して働くことができるよう、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を講じている。

イ 障害者雇用率制度及び法定雇用率の達成に向けた指導

① 障害者雇用率制度

(ア)障害者雇用率制度

「障害者雇用促進法」では、民間企業等に対し、一定の割合(障害者雇用率)以上の障害のある人の雇用を義務づけている。障害者雇用率は、企業の社会連帯の理念に基づき、身体障害者、知的障害者又は精神障害者に一般労働者と同じ水準の雇用の場を、各事業者の平等な負担の下に確保することを目的として設定している。1960年の制度創設時、民間企業の障害者雇用率は努力義務として事務的事業所1.3%、現場的事業所1.1%であった。その後、1976年に障害者雇用率制度を義務化し、1988年、1998年、2013年及び2018年に障害者雇用率を改正している。2018年4月からは、新たに精神障害者が雇用義務の対象となり、これを踏まえて、障害者雇用率が算定されることに伴い、民間企業の障害者雇用率は2.2%となった(2021年3月31日より前に、さらに0.1%引き上げが行われる予定)。なお、国等の公的機関については、率先垂範すべき立場にあることから、民間企業を上回る2.5%(都道府県等の教育委員会は2.4%)としている(民間企業と同様に、2021年3月31日より前に、さらに0.1%引き上げが行われる予定)。

(イ)特例子会社制度等の特例措置

事業主が障害のある人の雇用に特別の配慮をした子会社(特例子会社)を設立した場合には、一定の要件の下でこの特例子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されている者とみなして、実雇用率を算定できる特例措置(特例子会社制度)を設けている。特例子会社制度は、障害のある人の特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、これにより障害のある人の能力を十分に引き出すことができるなど、事業主及び障害のある人双方にメリットがあると考えられる。2019年6月1日現在で517社を特例子会社として認定している。

また、特例子会社を持つ親会社については、関係する他の子会社も含め、企業グループ全体での実雇用率の算定を可能としている。

さらに、特例子会社がない場合も、一定の要件を満たす企業グループとして認定を受けたものについては、企業グループ全体で実雇用率を通算できる「企業グループ算定特例」を設けている。

② 法定雇用率の達成に向けた指導の一層の促進

障害者雇用率制度の履行を確保するため、ハローワークにおいて、法定雇用率未達成企業に対する指導を行っている。

(ア)民間企業等に対する指導等

実雇用率の著しく低い民間企業に対しては、ハローワークが障害のある人の雇入れに関する2年間(2012年以降。それ以前は3年間)の計画の作成を命じ、当該計画に基づいて障害のある人の雇用を進めるよう継続的な指導を実施している。また、雇入れ計画を作成したものの、障害のある人の雇用が進んでいない企業に対しては、雇入れ計画の適正な実施に関する勧告を行い、計画終期で一定の改善が見られなかった企業に対し企業名公表を前提とした特別指導を行っている。さらに、一連の指導にもかかわらず改善がみられない企業については、企業名を公表している。

(イ)国・地方公共団体に対する指導等

国及び地方公共団体の機関については、民間企業に率先垂範して障害のある人の雇入れを行うべき立場にあり、全ての公的機関における毎年6月1日現在の雇用状況を発表している。また、未達成である機関については、障害のある人の採用に関する計画を作成しなければならず、その計画が適正に実施されていない場合には、厚生労働省は国及び地方公共団体の各機関の任命権者に対し、計画が適正に実施されるよう勧告を行っている。

ウ 障害者雇用納付金制度

「障害者雇用促進法」は、障害者雇用率制度に加え、障害のある人の雇用に伴う事業主の経済的負担を調整するとともに、障害のある人の雇用を容易にし、社会全体として障害のある人の雇用水準を引き上げるため、障害者雇用納付金制度を設けている。この制度では、障害者雇用率未達成の民間企業(常用雇用労働者数100人超)から納付金を徴収するとともに、一定水準を超えて障害のある人を雇用している民間企業に対して、障害者雇用調整金、報奨金を支給している。

このほか、障害のある人を雇い入れるために施設、設備の改善等を行う事業主等に対する助成金の支給や在宅就業障害者に仕事を発注する事業主に対する在宅就業障害者特例調整金等の支給を行っている。

図表2-13
障害者雇用納付金制度について
資料:厚生労働省

エ 職業リハビリテーションの実施

「障害者雇用促進法」において、職業リハビリテーションとは、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ること」(第2条第7号)としている。これに基づき、障害のある人が職業を通じて社会参加できるよう、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの機関を中心に障害のある人が希望や能力、適性に応じた職場に就き、それを継続し、それにおいて向上することができるようにするための就労に関するサービスを実施している。

オ 助成金等による企業支援や普及啓発活動

国では、民間企業が無理なく、かつ積極的に障害のある人を雇用できるよう、障害のある人を雇用した場合などに助成金を支給している。

例えば、身体に障害のある人や知的障害のある人、精神障害のある人を継続して労働者として雇い入れる民間企業に対して助成する「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」や、障害特性に応じた雇用管理や雇用形態の見直し等の措置を実施する企業に対して助成する「障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)」、障害のある人を雇い入れたり、継続して雇用するために必要な職場の環境整備等を行った場合に費用の一部を助成する障害者雇用納付金制度に基づく助成金等を支給している。

また、2018年度から、障害のある人の雇用義務の対象であるものの障害のある人を1人も雇用していない民間企業等を対象に、ハローワーク等が中心となって就労支援機関等と連携した「障害者雇用推進チーム」を設置し、民間企業ごとの状況やニーズ等に合わせて採用に向けた準備から職場定着まで一貫した支援を行っている。

このほか、民間企業等が積極的に障害のある人の雇用を進めるためには、障害のある人の雇用管理に関する先進的な事例等を普及啓発する必要がある。そのため、各種マニュアル等を発行し、民間企業等への配布等を通じて障害のある人の雇用の啓発を行っている。2017年度からは、一般労働者を対象とした「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を開催し、職場における精神・発達障害のある人を支援する環境づくりに取り組んでいる。

また、厚生労働省では、毎年9月の「障害者雇用支援月間」に障害のある人を積極的に多数雇用している事業所、障害のある人の雇用の促進と職業の安定に著しく貢献した団体又は個人、職業人として模範的な業績をあげている勤労障害者に対し、厚生労働大臣表彰を行い、障害のある人の職業的自立の意欲を喚起するとともに、障害のある人の雇用に対する国民の関心と理解を一層深めることを目指している。2019年度には17の障害者雇用優良事業所、17名の優秀勤労障害者の表彰を行った。

図表2-14
資料:厚生労働省

カ 税制上の優遇措置

障害のある人を雇用する民間企業に対し、税制上の各種の特例措置を講じている。障害のある人の一層の雇用促進につながるよう、2020年度税制改正では、障害のある人を多数雇用する場合の機械等の割増償却制度(所得税、法人税)について、対象資産から工場用の建物等を除外し、機械装置の割増償却率を12%(現行:24%)に引き下げたうえ、その適用期限の2年延長を行った。

キ 障害者差別禁止と合理的配慮の提供

雇用分野において障害があることを理由とした差別を禁止し、過重な負担とならない限り、合理的配慮の提供を事業主に義務付けている。

このため、障害者差別の禁止及び合理的配慮の提供義務に関するリーフレットや合理的配慮に係る事例集等を作成・配布して周知・啓発に努めている。また、全国の都道府県労働局・ハローワークにおいて事業主・障害のある人からの相談に応じ、必要な場合は事業主に助言・指導等を行っているほか、都道府県労働局長や障害者雇用調停会議による紛争解決の援助を行っている(2018年度実績:相談件数248件、助言件数65件、指導件数2件、勧告件数0件、紛争解決援助申立件数3件、調停申請受理件数5件)。

(3)公務部門における障害者雇用について

ア 公務部門における障害者雇用の不適切計上が明らかになった経緯

国及び地方公共団体の機関(法律の規定としては任命権者)は、毎年、6月1日現在の障害のある職員の任免に関する状況を、厚生労働大臣に対して通報しなければならないものとされている。この通報に基づいて集計された、2017年6月1日現在の障害のある職員の任免に関する状況については、民間企業における障害のある人の雇用の状況と併せ、「平成29年障害者雇用状況の集計結果」として、2017年12月12日に公表していた。

2017年に厚生労働省が各機関から通報を受け、同年12月までに集計し公表した際には、国の行政機関においては、全体で、障害のある職員の数は6,867.5人、実雇用率は2.49%に達し、各機関ごとにみても、33機関中1機関を除いて法定雇用率を達成しているものとされていた。さらに、未達成であった1機関についても2017年度末までに達成に至ったことが報告されていた。

2018年5月以降、各機関からの通報について、障害のある人の範囲の確認が適切に実施されていない疑いが生じたことから、同年6月20日に、厚生労働省から各機関に対し、2017年6月1日現在の状況の通報内容に関して、通報の対象となる障害のある人の範囲について再点検を行うよう依頼し、改めて提出された通報について取りまとめ、同年8月28日に公表した(9月21日及び10月22日当該再点検結果の訂正を公表)。

再点検の結果、2017年12月に公表された数値と比較すると、国の行政機関全体として、障害のある職員の数が3,445.5人減少して3,422.0人、2.49%であった実雇用率が1.18%となった。また、各機関の、法定雇用率を達成するために必要な障害のある職員の不足数の合計は、2.0人から3,478.5人に拡大した。法定雇用率を達成していない機関は、1機関から28機関となった。

なお、立法機関及び司法機関、地方公共団体、さらには独立行政法人等においても、2017年6月1日現在の障害のある職員の任免に関する状況の通報内容について再点検が行われ、それぞれ結果を公表している。

イ 政府としての対応

① 事案の検証と再発防止に向けた対応

(ア)関係閣僚会議及び関係府省連絡会議の設置

国及び地方公共団体の多くの機関で対象障害者の不適切計上及び法定雇用率の未達成状況が明らかになったことから、政府一体としてこの事態に対応するため、2018年8月28日、「公務部門における障害者雇用に関する関係閣僚会議」(議長:内閣官房長官)を設置するとともに、関係閣僚会議の下に「公務部門における障害者雇用に関する関係府省連絡会議」(議長:厚生労働大臣)を設置し、以下の事項について検討することとした。

・今般の事態の検証とチェック機能の強化

・法定雇用率の速やかな達成に向けた計画的な取組

・国・地方公共団体における障害者の活躍の場の拡大

・公務員の任用面での対応

(イ)検証委員会の設置

事案の実態や原因を明らかにするため、2018年9月7日、関係府省連絡会議の下に、弁護士や行政監察、障害者施策に関する有識者等の第三者によって構成される「国の行政機関における障害者雇用に係る事案に関する検証委員会」(委員長:松井巖氏(弁護士、元福岡高検検事長))を設置し、検証を行った。

同検証委員会は、2017年6月1日現在の障害者任免状況通報において不適切に障害者として計上された3,700人全てについて、国の行政機関を対象として書面(調査票)による調査を行うとともに、33の国の行政機関の人事担当課及び障害者雇用促進制度を所管する厚生労働省(職業安定局)に対してヒアリング調査を行い、2018年10月22日に調査結果を関係府省連絡会議に報告した。

検証委員会の報告書においては、厚生労働省(職業安定局)の問題と各行政機関側の問題とがあいまって、大規模な不適切計上が長年にわたって継続するに至ったものと言わざるを得ないと指摘されている。

厚生労働省(職業安定局)の問題として、国の行政機関における障害者の雇用の実態に対する関心の低さが根本的な問題であり、民間事業主に対する指導に重点が置かれ、国の行政機関で適切に対象となる障害者が雇用されているかの実態把握の努力をしなかったこと、制度改正等を踏まえた障害者の範囲や確認方法等についての周知等に不手際があったことなどが指摘されている。

他方、各行政機関側における今般の事案の基本的な構図として、組織として障害者の雇用に対する意識が低く、ガバナンスが著しく欠如している中で、担当者が法定雇用率を達成させようとするあまり、恣意的に解釈された基準により、例えば既存の職員の中から対象となる障害者を選定する等の不適切な実務慣行を継続させてきたことにあるとの心証を強く形成するに至った旨が明記されている。

(ウ)基本方針等の策定

検証委員会における検証を行う一方で、関係府省連絡会議においては、公務部門における障害者の活躍の場の拡大に向け、障害者団体等からのヒアリングを行い、また、障害者代表や労働者代表・使用者代表も参画する労働政策審議会障害者雇用分科会においても、事態についての審議を行った。それらの議論や検証委員会における検証も踏まえ、関係閣僚会議において、2018年10月23日、「公務部門における障害者雇用に関する基本方針」を策定・公表した。あわせて、基本方針に基づき、法定雇用率を達成していない府省は、2019年1月から同年末までの障害者採用計画を策定し、当該計画に則って行政機関全体として同年末までに4075.5人の採用という目標を掲げ、法定雇用率の速やかな達成に向けた取組を進めることとしている。

さらに、2019年3月19日の関係閣僚会議において、公務部門における障害者雇用の取組が名実ともに民間企業に率先するものとなるよう①障害者の採用・定着支援等、②対象障害者の不適切計上に対する是正のための勧告、③各府省等の障害者雇用に係る責任体制の明確化、④各府省等の法定雇用率未達成の場合の予算面での対応を内容とする政府としての取組をとりまとめた。

これらの取組を行った結果、「国の行政機関の障害者の採用・定着状況等特別調査」において、計画終期である2019年12月31日時点の法定雇用率上の採用者数は5,197.0人となり、法定雇用率2.5%に対して、採用計画を作成した国の行政機関29府省の実雇用率は2.84%となり、全ての行政機関で法定雇用率を達成した。

② 国の行政機関における雇用率の達成や障害者の活躍の場の拡大を図るための支援策

(ア)支援体制の整備

厚生労働省内に5人の「相談窓口担当者(リエゾン)」を配置し、各府省からの相談にワンストップで対応している。

また、厚生労働省が、障害者雇用に精通した専門家9人を「専門アドバイザー」として選任し、各府省の要請に応じて派遣して障害者雇用に関する専門的・技術的相談に対応している。

(イ)障害者雇用に関する理解の促進

人事院において、一般職国家公務員における合理的配慮の考え方等を定めた「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針(国家公務員の合理的配慮指針)」を2018年12月に策定した。

内閣人事局を中心として厚生労働省、人事院の協力のもと、公務部門において障害者を雇用する際に必要となる基礎知識や支援策等を整理した「公務部門における障害者雇用マニュアル」を2019年3月に作成した。

厚生労働省において、国の機関における障害者雇用に関する理解の促進を図るため、以下の取組を実施している。

・障害者雇用の際に必要となる設備改善・機器導入に関する情報について、国の機関の人事担当者等を対象に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に蓄積されたノウハウ・情報の提供

・国の機関等の人事担当者等を対象に、障害者の働きやすい職場環境づくりや障害特性に応じた雇用管理を内容とする「障害者雇用セミナー」の開催

・国の機関の人事担当者等を対象に、障害者の特性や障害者雇用を進める際に生ずる課題について実践的な知見を取得してもらうため、障害者雇用に積極的に取り組む企業や就労移行支援機関、特別支援学校、障害者職業能力開発校等の見学会の開催

・障害者とともに働く国の機関及び地方自治体等の職員を対象に、精神・発達障害の特性を正しく理解し、職場でこれら障害者を温かく見守り、支援する応援者となるための講座(あわせて同講座のe-ラーニング版を提供)を実施

内閣人事局において、障害特性を理解した上での雇用・配置や業務のコーディネートを行う障害者雇用のキーパーソンとなる職員を養成するための「障害者雇用キーパーソン養成講習会」を実施している。

(ウ)職場実習の実施

厚生労働省において、各府省における障害者の採用に向けた着実な取組を推進するため、各府省等の人事担当者等を対象に、各府省が行う特別支援学校等と連携した職場実習の実施に向けた支援を行う。

また、内閣人事局において、障害者就労支援機関との連携により、障害者(実習生)とその支援者を各府省の職場へ一定期間派遣し、各府省における職場実習を支援する「障害者ワーク・サポート・ステーション事業」を実施している。

(エ)職場定着支援の推進

厚生労働省において、ハローワーク等に各府省からの職場定着に関する相談を受け付ける窓口を設置して、各府省において働く障害者やその上司・同僚からの相談に応じるほか、専門の支援者を配置して各府省からの要請等に応じて職場適応支援を実施している。

また、各府省が自ら職場適応に係る支援を適切に行えるようにするため、職員の中から選任した支援者に必要な支援スキル等を付与する支援者向けセミナーを実施している。

③ 障害者雇用促進法の改正に向けた取組

基本方針において、厚生労働大臣による国の行政機関等における障害者の任免状況に関するチェック機能の強化について、法的整備を視野に入れた検討を行うこととされており、障害者代表も参画する労働政策審議会障害者雇用分科会において、今後の障害者雇用対策の在り方について検討を進め、2019年2月に民間企業における障害者雇用の一層の促進に関する措置も含めた意見書をとりまとめた。

その意見書を踏まえ、2019年3月19日に、国及び地方公共団体における障害者活躍推進計画の作成・公表義務をはじめとした障害者の活躍の場の拡大に関する措置や、障害者雇用率の算定対象となる障害者であるかどうかの確認方法の明確化などの障害者の雇用状況についての的確な把握等に関する措置を講ずることを内容とする「障害者雇用促進法」の改正案を2019年通常国会に提出し、同年6月7日に成立した。

(4)改正障害者雇用促進法について

障害者雇用の促進については、2017年9月から約1年にわたって開催された「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」によって幅広く議論され、その議論の成果が2018年7月に「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会報告書」としてとりまとめられた。

このような中で、国及び地方公共団体の多くの機関で、対象障害者の確認・計上に誤りがあり、法定雇用率が達成されない状態が長年にわたって継続していたことが明らかとなった。このような事態は極めて遺憾であり、制度を所管する立場にある厚生労働省及び国等はこれを重く受け止めた上で、再発防止を徹底するだけでなく、これを契機として、今後は民間事業主に先駆けた取組にも積極的にチャレンジする等、名実ともに民間事業主に率先垂範する姿勢のもとで、障害者の活躍の場の拡大に向けた取組を進めていくことが必要である。

このような状況を踏まえ、官民問わず、障害者が働きやすい環境を作り、また、全ての労働者にとっても働きやすい場を作ることを目指すことが重要であるという観点から、「障害者雇用促進法」が改正された。

ア 公務部門に対する措置

① 障害者の活躍の場の拡大に関する措置

(ア)障害者活躍推進計画の作成・公表義務

国の機関及び地方公共団体の機関の任命権者による障害者活躍推進計画の作成・公表義務が「改正障害者雇用促進法」(以下「改正法」という。)に規定され、2020年4月1日に施行された。「障害者活躍推進計画」の作成及びこれに基づく取組を通じ、障害者の採用後の職場定着を推進し、障害のある方が希望や能力に応じて生き生きと活躍できる社会の実現を目指すこととしている。

(イ)障害者雇用推進者及び障害者職業生活相談員の選任義務

「改正法」において、国の機関及び地方公共団体の機関の任命権者は、障害者雇用の促進や雇用の継続を図るために必要な業務等を担当する障害者雇用推進者及び勤務する障害者である職員の職業生活に関する相談及び指導を行う障害者職業生活相談員の選任義務が規定され、2019年9月6日に施行された。

(ウ)障害者の任免状況の公表義務

「改正法」において、国の機関及び地方公共団体の機関の任命権者は、厚生労働大臣に通報した障害者の任免状況を公表することが義務として規定され、2019年9月6日に施行された。なお、当該公表義務は2020年6月1日現在以降の障害者任免状況通報について必要となるものであるが、2019年6月1日現在の障害者任免状況通報についても率先して公表することが望ましいこととしている。

(エ)障害者である職員を免職する場合の届出義務

障害者である職員の円滑な再就職支援を実施する観点から、「改正法」において、障害者である職員を免職する場合に、国の機関及び地方公共団体の機関の任命権者は、公共職業安定所長に対してその旨を届け出なければならないことが規定され、2019年9月6日に施行された。

② 公務部門における障害者の雇用状況についての的確な把握等に関する措置

今般の事態の再発防止のため、「改正法」において、国の機関及び地方公共団体の機関に対する報告徴収、障害者雇用率の算定対象となる障害者の確認に関する書類の保存義務、障害者雇用率の算定対象となる障害者であるかどうかの確認方法の明確化及び国の機関及び地方公共団体の機関に対する適正実施勧告について規定され、施行された。

イ 民間の事業主に対する措置

① 短時間労働者のうち週所定労働時間が一定の範囲内にある者の雇用に対する支援

現行の障害者雇用率制度や障害者雇用納付金制度においては、障害者の職業的自立を促進するという法の趣旨から、週所定労働時間20時間以上の労働者を対象としており、週所定労働時間20時間未満での働き方は支援の枠組みの対象とされていない。

一方で、障害の特性から、週所定労働時間20時間未満であれば働ける方が一定程度存在することや、結果として、週所定労働時間20時間以上の勤務に移行していく例や、安定的に長く働き続けられる例等も多いことが、意見書において指摘されていた。

これを踏まえ、「改正法」においては、短時間であれば就業可能な障害者の就業機会の確保を促進するため、短時間労働者のうち週所定労働時間が一定の範囲内にある者(特定短時間労働者)を雇用する事業主に対して、障害者雇用納付金を財源とする特例給付金を支給する仕組みを創設した。

② 障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度の創設

中小企業については、法定雇用義務が課せられているにもかかわらず障害者を全く雇用していない企業(障害者雇用ゼロ企業)も多く残されている等の課題もある。

中小企業における障害者雇用を進めていくためには、従来の制度的枠組みだけでなく、個々の中小企業における障害者雇用の進展に対する社会的な関心を喚起し、経営者の障害者雇用に対する理解を深めていくとともに、こうした取組を進めている事業主が、社会的に様々なメリットを受けられるようにしていくことが必要である。

このため、障害者の雇用の促進等に関する事業主の取組に関し、その実施状況が優良なものであること等の基準に適合するものである旨の認定を行い、認定された事業主について、その商品等に厚生労働大臣の定める表示(認定マーク)を付すことができる中小事業主に対する認定制度を創設した。

この認定を受けることで、中小企業にとっては、自社の商品や広告等への認定マークの使用によるダイバーシティ・働き方改革等の広報効果や、障害のない者も含む採用・人材確保の円滑化といった効果が期待できる。

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