第2章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり 第2節 2
第2節 東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした取組とレガシー
2.ユニバーサルデザイン2020行動計画の概要
(1)基本的な考え方
・障害のある選手たちが圧倒的なパフォーマンスを見せる東京パラリンピック競技大会は、共生社会の実現に向けて人々の心の在り方を変える絶好の機会である。
・「障害」は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」をすべての人が理解し、それを自らの意識に反映していくことが重要である。
・この機を逃さず、国民全体を巻き込んだ「心のバリアフリー」の取組を展開するとともに、世界に誇れるユニバーサルデザインの街づくりを実現すべく取り組む。
・障害のある人に関する施策の検討及び評価に当たっては、障害当事者が委員等に参画し、障害のある人の視点を施策に反映させることとする。
・これら施策が確実に実現されるよう、関係府省等の施策の実施状況を確認・評価し、その結果を踏まえて関係府省等が施策を改善することにより、実行性を担保していくこととする。
(2)具体的な取組
ア 心のバリアフリー
行動計画で取り組む「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことである。そのためには、一人一人が具体的な行動を起こし継続することが必要であり、そのために重要なポイントとして、以下の3点をあげた。
・障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
・障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
・自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、全ての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。
「心のバリアフリー」を実現するための施策は、あらゆる年齢層において継続して取り組まれなければならない課題であるとともに、学校で、職場で、病院などの公共施設で、家庭で、買い物や食事の場で、スポーツ施設や文化施設など地域のあらゆる場において、また、日々の人々の移動においても、切れ目なく実現されなければならない。よって、以下の主な施策を含め、社会全般に渡って施策を展開することとした(図表2-2)。
イ ユニバーサルデザインの街づくり
我が国において、交通分野、建築・施設分野のバリアフリー化(情報にかかわる内容を含む)については、2006年以降、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)の下、交通施設、建築物等の種類毎に目標を定め、個々の施設のバリアフリー化と地域における面的なバリアフリー化に全国的に取り組み、一定の水準まで整備が進んできた。東京2020大会は、こうした取組に加え、世界に誇ることのできるユニバーサルデザインの街づくりを目指して、更なる取組を行う好機であった。
街づくりは極めて幅広い分野であり、かかわる施策も多岐にわたる。このため「ユニバーサルデザイン2020行動計画」においては、大きく①東京2020大会に向けた重点的なバリアフリー化と②全国各地における高い水準のユニバーサルデザインの推進という2つの観点から、幅広い施策をとりまとめた(図表2-3)。
1)学校教育における取組
①すべての子供達に「心のバリアフリー」を指導
新学習指導要領に基づく指導や教科書等の充実、「心のバリアフリーノート(仮)」の作成を含めた取組の検討[文部科学省]等
②すべての教員等が「心のバリアフリー」を理解
教員養成課程、教員研修、免許状更新講習における「心のバリアフリー」の指導法等の充実[文部科学省]等
③障害のある人とともにある「心のバリアフリー」授業の全面展開
「心のバリアフリー学習推進会議(仮称)」を開催し、全国において、団体間のネットワーク形成を促進(従来から特別支援学校と交流している若しくは特別支援学級を設置している学校を軸に、障害のある人との交流及び共同学習を実施し、その後全面展開)[文部科学省、厚生労働省]
④障害のある幼児・児童・生徒を支える取組
社会的障壁を解消するための方法等を相手にわかりやすく伝えるコミュニケーションスキルの獲得等に向けた指導内容改善及び充実[文部科学省]
高等学校においても通級指導を新たに制度化[文部科学省]等
⑤高等教育(大学)での取組
教職員が集まる会議等において取組事例紹介[内閣官房、文部科学省]
各地域において障害のある学生の修学・就労支援のセンターとなる大学を選定[文部科学省]
大学生等を対象としたワークショップを開催[内閣官房、組織委員会]等
2)企業等における「心のバリアフリー」の取組
①企業等における「心のバリアフリー」社員教育の実施
経済界協議会と連携し、幅広い分野の企業が社員教育を行うよう働きかけ[内閣官房、経済産業省その他経済官庁全般、経済界協議会]
国家公務員への「心のバリアフリー」研修[内閣官房等]等
②接遇対応の向上
ⅰ)交通分野におけるサービス水準の確保
交通事業者向け接遇ガイドラインの策定及び普及[国土交通省、厚生労働省]
ⅱ)観光、外食等サービス産業における接遇の向上
観光・流通・外食等関係業界における接遇マニュアル策定及び普及[観光庁、経済産業省、農林水産省、厚生労働省等]
ⅲ)医療分野におけるサービス水準の確保
医療従事者向けのガイドラインの策定及び普及[厚生労働省]
③障害のある人が活躍しやすい企業等を増やす取組
法定雇用率の見直し、障害者就業・生活支援センターによる支援の強化や精神科医療機関とハローワークとの連携強化[厚生労働省]
人材採用評価基準への「心のバリアフリー」の導入や障害者が働きやすい職場環境づくりを行うよう企業へ働きかけ[経済界協議会]等
3)地域における取組
①地域に根差した「心のバリアフリー」を広めるための取組
地方自治体、社会福祉協議会等が連携し、地域の人々に「心のバリアフリー」を浸透させる取組を実施[厚生労働省等]
②災害時における避難行動要支援者に配慮した避難支援のあり方
「避難行動要支援者名簿」について、各自治体におけるその着実な検討・実施を促進するとともに、避難行動要支援者の視点から避難行動支援に関する取組の内容を整理したパンフレットを作成するとともに、名簿に係る事例集を作成し、これらを周知[内閣府(防災)、消防庁]
③その他
地域の人権擁護委員等を「心のバリアフリー」の相談窓口として活用[法務省]
4)国民全体に向けた取組
①障害のある人とない人がともに参加できるスポーツ大会等の開催を推進[スポーツ庁]
②特別支援学校を拠点としたスポーツ・文化・教育の祭典を実施[文部科学省]
③国民全体に向けた「心のバリアフリー」の広報活動
障害に対する理解を持ち、困っている障害者等に自然に声をかけることができる国民文化の醸成に向けた仕組みの創設[内閣官房等]等
5)障害のある人による取組
障害のある人自身やその家族が自らの障害を理解し、社会的障壁を取り除く方法を相手に分かりやすく伝えることができるコミュニケーションスキルを身に付けるための取組を進める地方自治体の支援[厚生労働省、内閣官房]等
1)東京2020大会に向けた重点的なバリアフリー化
①競技会場におけるバリアフリー化の推進[内閣官房、スポーツ庁]
②競技会場周辺エリア等におけるバリアフリー化の推進(道路、都市公園、主要建築物におけるトイレのバリアフリー化等)[国土交通省、警察庁]
③主要鉄道駅・ターミナル等におけるバリアフリー化の推進[国土交通省]
ー東京2020大会関連駅へのエレベータ増設やホームドアの整備等へ重点支援
ー都内主要ターミナル等(新宿、渋谷、品川、虎ノ門等)の都市再開発プロジェクトを実施する中で、バリアフリー化を推進
④海外との主玄関口となる成田空港、羽田空港国際線ターミナルを中心とした空港のバリアフリー化の推進[国土交通省]
⑤リフト付バス・UDタクシー等の導入促進[国土交通省]
2)全国各地において、Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン等を踏まえた高い水準のユニバーサルデザインを推進
①バリアフリー基準・ガイドラインの改正[国土交通省]
Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン等を踏まえ、障害のある人の意見も聴きつつ、バリアフリー法に基づく施設整備基準やガイドラインの改正を行い、主要観光地を含めた全国の交通施設・建築施設のバリアフリー水準の底上げを図る
②観光地のバリアフリー化(観光地のバリアフリー情報提供、バリアフリー旅行相談窓口の拠点数の増加等)[国土交通省]
③都市部等における複合施設(大規模駅や地下街等)を中心とした面的なバリアフリーの推進
ⅰ)都市再開発プロジェクト等に伴うバリアフリーの推進[国土交通省]
ⅱ)全国の主要鉄道駅周辺(特定道路を含む)のバリアフリー化の推進[国土交通省]
ⅲ)市町村における面的なバリアフリー化を進めるためのバリアフリー基本構想の策定促進[国土交通省]
ⅳ)ピクトグラムに関する標準化の推進・普及[経済産業省]等
ⅴ)パーキング・パーミット制度の導入促進方策の検討[国土交通省]
④公共交通機関等のバリアフリー化
ⅰ)鉄道に関わるバリアフリー化[国土交通省]
ハンドル形電動車椅子の鉄道乗車要件の見直し、駅ホームの安全性向上等
ⅱ)全国の主要な旅客船ターミナル及び船旅メジャールート等のバリアフリー化の促進[国土交通省]
ⅲ)航空旅客ターミナルにおけるバリアフリー化の推進[国土交通省]
ⅳ)リフト付バス・UDタクシー車両の導入促進[国土交通省](一部再掲)
※観光バス等の貸切バスのバリアフリー化についても検討
⑤ICTを活用したきめ細かい情報発信・行動支援(バリアフリー情報提供機能強化等)[国土交通省、総務省]
⑥トイレの利用環境の改善(ガイドライン等の改正、マナー改善等)[国土交通省]
2013年9月に開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会(アルゼンチン/ブエノスアイレス)において、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催都市が東京都に決定した。これにより、東京都は史上初めて、2度目のパラリンピック夏季競技大会を開催する都市となった。
パラリンピック競技大会は、世界のトップアスリートが参加し、スポーツを通じて、障害のある人の自立や社会参加を促すとともに、様々な障害への理解を深めることにつながるものである。また、アクセシビリティに配慮した会場やインフラの整備により、東京のまち全体を障害のある人を始めとする全ての人々が安全で快適に移動できるよう、ユニバーサルデザイン都市・東京の実現が促進された。
東京パラリンピック競技大会は、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」を3つの基本コンセプトとし、大会組織委員会を中心に、東京都や日本パラリンピック委員会(JPC)、政府が一丸となって大会成功に向けて取り組んできた。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、史上初の大会延期となったが、2021年8月24日から9月5日の日程で開催された東京パラリンピック競技大会は、難民選手団を含む163の国・地域から過去最多となる4,403名の選手が参加した大会となった。
オリンピック・パラリンピック競技大会を始めとする国際競技大会における日本代表選手の活躍は、国民に誇りと喜び、夢と感動を与えるものであり、我が国の国際競技力向上に向けた取組を進めていくことは重要である。このため、スポーツ庁では、パラリンピックの競技特性や環境等に十分配慮しつつ、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。なお、東京2020大会等の結果を踏まえつつ、これまでの競技力向上施策の成果と課題を検証し、新たに「持続可能な国際競技力向上プラン」(2021年12月)を策定し、パラリンピック競技の国際競技力向上とオリンピック競技団体、パラリンピック競技団体間の連携の促進についても取組を進めていくこととしている(第4章第1節5.(1)イを参照)。
また、東京パラリンピック競技大会を契機に、将来のパラリンピアンを始め一人でも多くの障害のある人がスポーツを楽しめる環境を整備することにより、障害者スポーツの裾野を広げていくことが重要である。このため、地方自治体における障害者スポーツ推進体制の整備を推進するとともに、全国の特別支援学校を地域の障害者スポーツの拠点として活用する取組を進めていくこととしている。
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