第1章 改正障害者差別解消法の施行 第1節 2

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第1節 改正障害者差別解消法等の概要

2.障害者差別解消法等の概要

ここでは、「障害者差別解消法」の概要について、「改正障害者差別解消法」や「改定基本方針」において新たに記載された事項等も踏まえながら説明する。

(1)障害者差別解消法の趣旨

全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除くことが重要である。このため、「障害者差別解消法」では、行政機関等や事業者に対して、障害者への「障害を理由とする不当な差別的取扱い」を禁止するとともに「合理的配慮の提供」を求め、これらの措置等を通じて、障害者が社会で提供されている様々なサービスや機会にアクセスし、社会に参加できるようにすることで、共生社会の実現を目指すこととしている。

(2)対象となる障害者

「障害者差別解消法」において対象となる障害者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)がある者であって、障害及び社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。)により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいい、いわゆる障害の「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、「障害者差別解消法」が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られないものとされている。

障害の「社会モデル」とは

共生社会を実現するために、障害者が直面する社会的障壁を取り除いていくという考え方は、「障害者権利条約」の理念である障害の「社会モデル」の考え方を踏まえたものである。障害の「社会モデル」とは、障害者が日常生活又は社会生活で受ける様々な制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生じるものという考え方である。

全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく活動できる共生社会の実現のためには、このような考え方に基づき、障害者の活動や社会参加を制限している様々な社会的障壁を取り除くことが重要である。

※ 障害の「社会モデル」に対し、障害は個人の心身の機能の障害によるものであるという考えを「医学モデル」という。

【社会モデルの考え方】
資料:内閣府

(3)対象となる事業者及び分野

「障害者差別解消法」では、行政機関等のほか、事業者も障害を理由とする差別を解消するための措置を行うこととされている。対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体が経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含む。)であり、個人事業主やボランティアなどの対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人なども、同種の行為を反復継続する意思をもって行っている場合は事業者として扱われ、また対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問わない。

分野としては、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となるが、雇用分野についての差別を解消するための具体的な措置(「障害者差別解消法」第7条から第12条までに該当する部分)に関しては、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律第123号)の定めるところによるとされている。

(4)「不当な差別的取扱いの禁止」・「合理的配慮の提供」

「障害者差別解消法」では、障害を理由とする差別の解消について、不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供の二つに分けて整理している。ここでは、それぞれの基本的な考え方について説明する。

① 不当な差別的取扱いの禁止

不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限すること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害する行為である。なお、「改定基本方針」においては、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当することが明記された。

正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)及び行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。行政機関等及び事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。その際、行政機関等及び事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められる。

② 合理的配慮の提供

日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等については、障害者でない者には簡単に利用できても、障害者にとっては利用が難しく、結果として障害者の活動等が制限されてしまうことがある。このような場合には、障害者の活動等を制限しているバリアを取り除く必要がある。このため、「障害者差別解消法」では、行政機関等や事業者に対して、障害者に対する合理的配慮の提供を求めている。

障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことが求められる。こうした配慮を行わないことによって、障害者の権利利益が侵害される場合には、障害を理由とする差別に当たる。なお、「障害者差別解消法」においては、合理的配慮の提供について、行政機関等は義務、事業者は努力義務とされていたが、前述のとおり、後者の努力義務を義務へと改めること等を内容とする「改正障害者差別解消法」が2021年6月に公布され、2024年4月1日から施行された。

合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものである。また、合理的配慮は、行政機関等及び事業者の事務・事業の目的・内容・機能に照らし、

① 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること

② 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること

③ 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと

に留意する必要がある。合理的配慮の提供に当たっては、これらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ、「過重な負担」の要素等も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で柔軟に対応がなされる必要がある。

「過重な負担」については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況といった要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。行政機関等及び事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。なお、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応を求められることに留意する。

建設的対話の重要性

合理的配慮の提供に当たっては、社会的障壁を取り除くために必要な対応について、障害者と行政機関等・事業者双方が対話を重ね、共に解決策を検討していくことが重要となる。このような双方のやり取りを「建設的対話」という。

「改定基本方針」では、「建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と行政機関等・事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、行政機関等や事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられる。」とし、建設的対話を行うに当たっての考え方を示している。

(5)環境の整備

「障害者差別解消法」は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている。これには、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規定の整備等の対応も含まれることが重要である。

環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものであるが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。

図表1-4 「環境の整備」と「合理的配慮の提供」の関係
資料:内閣府

障害を理由とする差別の解消のための取組は、「障害者差別解消法」や「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である。

なお、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことや、相談・紛争事案を事前に防止する観点からは合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、行政機関等及び事業者の内部規則やマニュアル等の制度改正等の環境の整備を図ることは有効である。また、環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなる。

(6)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針

「障害者差別解消法」第6条に基づき、政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下本章では「基本方針」という。)を定めることとされている。

図表1-5 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)」の概要
資料:内閣府

(7)主務大臣等による行政措置

事業者における障害を理由とする差別の解消に向けた取組は、主務大臣の定める対応指針を踏まえ、各事業者により自主的に取組が行われることが期待される。

しかしながら、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されないような場合、例えば、事業者が「障害者差別解消法」第8条に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣又は地方公共団体の長等は、事業者に対し、「障害者差別解消法」第12条及び第22条に基づき、報告を求め、又は助言、指導、勧告をすることができるとされている。こうした行政措置に至る事案を未然に防止するため、主務大臣は、事業者に対して、対応指針に係る十分な情報提供を行うとともに、事業者からの照会・相談に丁寧に対応するなどの取組を積極的に行うものとされている(2023年度、主務大臣等による助言、指導及び勧告の行政措置の実績はなし。)。

(8)情報の収集、整理及び提供

事業者による合理的配慮の提供が義務化されることに伴い、事業者や各相談機関が参考にできる事例の重要性が一層高まることが想定される。このため、「改正障害者差別解消法」では、国において事例等の収集等を行うものとする旨を定める「障害者差別解消法」第16条に、直接相談に対応することが多い地方公共団体についても同様の取組を行うよう努めるものとする旨が追加されている。

「改定基本方針」では、内閣府において、引き続き各府省庁や地方公共団体と連携・協力して事例を収集するとともに、参考となる事案の概要等をわかりやすく整理してデータベース化し、ホームページ等を通じて公表・提供することとされている。

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